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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
37/101

第11話「激動(後編)」

 時が来た。世界最大の都市、コールスマンウィンドウは戦乱の渦に巻き込まれた。

 ヴィクトリアとハーヴィー率いるマジックマテリアルとノーモルダスキーニ率いる艦隊は強大な戦力さに為す術がなかった。しかしカーサスが新たに助っ人を連れてくることで打開しようとした。

 ヴィクトリアの妹、キャルロットとアリスが加わり地上では激しい攻防が繰り広げられる一方、新魔法省では予想だにしない出来事が起こっていた。長官のベネディクトはヴィクトリアの血液、つまり神の血を欲していたのだ。

 神の血を飲むと不老不死になってしまう。そして、それを手に入れた彼は不老不死の力を我が物にしてしまうのだった……。

「ヴィクトリア……お前の血を飲んじまったら奴は、俺と同じ不老不死の下僕になるんじゃねぇのか」

「そうだよ……」

 息を整えながら答える。ファーディナントから貰った傷を再生している最中だからだ。

「でも奴はお前を主人とは思ってないぞ」

「そうだね……」

 完全に再生されても未だ体に痺れが残ってしまっていた。こうなってはヴィクトリア抜きで彼らと戦うしかない。

「俺だって不老不死の端くれ。絶対に勝ってやる」

「それは無理だ。何故ならば君は魔法を使えないじゃないか」

 ベネディクトは無詠唱で尚且つ杖を使わずに拘束魔法を展開し彼を捕縛する。身動きが取れなくなったところでファーディナントはヴィクトリアをやった時のように彼の胸を一突きした。そして今度は彼の首を撥ねる。

「なんてこったい」

 ハーヴィーは驚き目を逸らした。

 彼の頭は転げ落ち、鮮血は天井にまで吹き出した。

「カーサス!」

 いくら再生するからといって殺されて死んで良いわけではない。ヴィクトリアはふたりを睨んだ。

「そんな目をするな。本番はこれからだ」

 そう、ハーヴィーとスピリットアローを殺すことが目的である。不老不死のふたりは後回しにされたのだ。

「やめろ……殺させはしない」

 彼女はゆっくり立ち上がるとふらふらした様子で刀を身構える。しかしファーディナントの一打で右腕を撥ね飛ばされてしまった。

「これしきで」

 左腕のみの力で彼に応戦するが勝ち目が無かった。直ぐに左腕も切り落とされると喉元に剣先が当てられる。

「大人しくそこで寝ていろ」

 そのまま喉に突き刺すと鮮血がスピリットアローやハーヴィーにも飛び散る。

「やめろぉ!」

 護身用に携帯していた拳銃を発砲するが全て交わされる。そして気が付くとハーヴィーの目の前にファーディナントが立っていた。

「終わりだよ」

「まだ終わりではないぞ」

 スピリットアローが杖を構えて呪文を唱える。

『防御魔法、発動』

 ハーヴィーの首を撥ねようと向けられた剣だったが魔法障壁のお陰で彼は守られた。そして彼とヴィクトリアとカーサスに呪文を解く。

『転移魔法、発動』

「ちょっと待って……あなたはっ!」

 彼の返事を聞く前に3人は長官室の外へ転移させられてしまう。丁度、外では彼の部下であり、第IV特殊部隊隊長のベスラが団員と共に部屋を探しているところだった。

「あんたたち、大丈夫?」

「敵か!」

 ハーヴィーが拳銃を構えるも彼女は攻撃魔法で先手を打つ。拳銃を弾き彼らに敵意が無いことを告げる。

「私らもスピリットアローと同じだ。もう魔法省に忠義なんて無い」

 拾い上げた拳銃を彼に渡す。そして横たわるふたりの死体に目を向ける。

「この者たちは?」

「首が無いのはカーサスさんでもうひとりはヴィクトリアさんです」

「こいつがスピリットアローの言っていた女か」

 既に両者とも息が無かった。

「生きている内に手合せしたいものだったな」

「勝手に殺さないでくれ」

 突然目を覚ますヴィクトリアにベスラとその部下は思わず声を上げた。

「なんだい、まだ生きていたのかい。しぶといね」

「休んでただけだよ」

 そう言うと彼女の身体に変化が現れる。白く輝いた破片が彼女の両腕の骨や筋肉、血管を形成していく。

「あんた、何者だい」

 完全に再生し終わると口から少量の血を床に吐き捨ててから答える。

「ボクは不死身だから死なないよ」

「驚いたね。不死身かい」

 その隣でゆっくりと起き上がるカーサスも答えた。

「俺も不死身なんだぜ」

「はっ、こりゃたまげた。不死身さまがふたりもいる。世間は狭いんだねぇ」

 彼女のジョークにヴィクトリアは綻んだ。そしてもうひとり不死身の男がいると彼を紹介した。ベネディクト長官だ。

「奴が不死身? 有り得ないね」

「いや、正確には不死身になったんだ……」

 彼女は自分の胸に手を当てて、

「ボクの血を飲んでね」

 そう説明した。

 俄かには信じられない話だが嘘を吐いているような眼をしていなかった。

「そうかい、長官は人外になっちまったんだね」

「おいおい、それじゃまるで、俺たち不死身が人間じゃねぇみたいじゃねぇか」

「そうさ、人の形をした化け物さね」

 カーサスは反論できない。普通の人間ならば死に至る傷も彼らならば再生され、生き長らえる。しかも彼女には知られていないが、不老でもある。これを化け物以外に何と呼べば良いのだろうか。

「まぁ、(あなが)ち間違いではないよね」

「ヴィクトリア……」

「ボクたちは普通じゃないんだ。化け物呼ばわりされても仕方ないことだよ」

 だがベスラは笑みを浮かべる。

「私も人間じゃない。トライマノイドっていう化け物みたいなもんさ」

 彼女の種族は眼や耳、鼻孔や循環器、乳房などが3つある。また、魔族の部類に入り人間とは犬猿されがちだ。しかしスピリットアローに魔力の強さと自身の能力、威圧系の魔法を買われてデモスムントに入団する経緯を持つ。

「化け物が悪いわけじゃない。それは分かっているつもりだよ」

 わだかまりが出来ないでほっと胸を撫で下ろすハーヴィーだったが重大なことを思い出し彼女に協力を願う。

「スピリットアローさんが長官室でベネディクトとファーディナント相手にひとりで戦っているんです!」

「なんだって!?」

 部下たちは青ざめる。口々に彼はもう手遅れかもしれないと呟いているとベスラは叱責する。

「団長が簡単に死ぬわけは無い。今すぐ応援に……」

 その時だ。長官室のドアがあった壁が崩落すると同時に全身、傷を負ったスピリットアローが吹っ飛ばされて来た。

「大丈夫か!?」

「来るな……」

 彼の静止も虚しく駆け寄った彼女の左胸にファーディナントの剣が突き刺さる。口から多量の血液を吐き、剣が引き抜かれたと同時に床へと倒れこむ。

「ベスラ! 貴様!」

(さえず)るな。裏切り者に罰を与えたまでだ」

「くっ……」

 横たわる彼女を横目に彼はふらふらになりながらもゆっくりと立ち上がる。ヴィクトリアやカーサスも背後で武器を構えた。

「君たちはベスラを安全なところへ。私はここで……ぐっ」

 彼女の比ではないくらいの吐血を出すと床に崩れた。

「大丈夫ですか!」

「時間だ」

「何っ?」

 ベネディクトが両手を合わせファーディナントの背後から近付いて来る。

「スピリットアローくんには私があるおまじないをした」

「まじない……まさか!」

「呪殺魔法だよ」

 この魔法は別名、死の宣告と言い、対象者を期限内または一定の条件で殺害するというものである。禁忌魔法に属され、魔法省の法律で禁止している。破れば死刑が言い渡されるが今の彼は不死身だ。死刑は通用しない。

「あと、保って3分の短い命だ」

「このクソ野郎!」

 スピリットアローの持っていた剣を取り、倒れていたはずのベスラがふたりに突っ込んでいく。しかし適うはずもなくファーディナントに右胸を突き刺され、おまけにベネディクトから呪殺魔法を受けてしまう。

「君も3分の命にしておいた。あの世では仲良くな」

「ぐぅっ……」

 ヴィクトリアが彼女の元へ駆け寄り安否を確かめる。幸い、まだ息は合った。それは隣に横たわるスピリットアローも同じだ。

「化け物の私でさえ、これはもうダメかな」

 前述したが、彼女はトライマノイドという種族で循環器、つまり心臓が3つあり、位置は左胸と右胸、そして中央にある。どれも独立した働きをするが、欠如した時に補う力が働く。しかし、ひとつの心臓だけでは行動が制限されてしまうのだ。

「私ももう保たないな」

 スピリットアローも霞んでいく景色を見て呟いた。

「あなた方は魔法を使えますよね」

 この状況下でふたりに魔法を使うようお願いをする。

「詠唱の時間はカーサスが稼ぎます。だからお願いします、解除魔法を発動させて下さい」

「どういうことだ?」

「説明は後です。あなた方の力が必要なのです」

 ふたりに残された時間はあと2分もない。さらに彼は魔法を使おうにも魔力が殆ど残っていないことを告げる。

「大丈夫です。魔法石を使います。だからベスラさんは魔法石を魔力に変換し、スピリットアローさんへ流す魔法を掛けて下さい」

 ふたりは顔を合わせ、ともに頷いた。ヴィクトリアはカーサスに1分だけ奴らを足止めするよう伝える。

「任せろ!」

「ウィンディー」

「はい、主人様」

 彼女の前に聖霊姿からヒトの姿をした彼が現れ、スピリットアローや敵でさえも驚く。

「周辺の全飛行船を集めてくれ」

「味方のもですか?」

「ありったけの魔法石が要る」

「承知致しました」

 彼は両手を大きく広げる。そして深呼吸をすると、目を閉じた。

「風の皆さん、私たちに力を貸して下さい」

 次第に風が吹き荒れる。魔法省の周辺では風の流れが一方向となっていた。

「お願いします!」

 ふたりが同時に詠唱を始める。声すら擦れ、意識も遠退く中でふたりは必死に努力する。

「何を始める気だ」

 ベネディクトとファーディナントは辺りを見舞わした。すると数十にも及ぶ飛行船が集まってきたのだ。

「スピリットアローさん。ボクの言葉を復唱して下さい」

 突然彼女がそう言うと、彼は指示にしたがった。

『総ての力、封印を解き放て。神、スコーピオンが命じる』

 この言葉にベネディクトは反応すると彼女に向かって無数に生成された氷の尖った破片をぶつける。だがカーサスが彼女らに当たる破片だけを愛銃、ナーワルを使って未然に防ぐ。

「お相手は俺でしょ」

「ファーディナント」

「御意」

「ひとりでふたりを相手するにはちとキツいぜ」

 早くするよう彼女に目配せする。そして遂に解除魔法を発動させる条件が揃った。

『解除魔法、発動!』

 すると巨大な光の柱が皆を包み込んだ。光は天空へと昇って行くと、地面と大空には巨大な魔法陣が現れた。

「一体何が始まるんだ……」

 固唾を飲んで見守るハーヴィーはそう呟いた。そしてふたりの命があと数秒の時だ。

神流奥義(しんりゅうおくぎ)、時空停止魔法、発動!』

 一瞬、皆の視界が真っ白になり、誰もが目を瞑る。再び目を開いた頃にはヴィクトリアが杖を持って片手を上げていた。

 不思議なことにベスラとスピリットアローは生きていた。

「何が起きて……」

「時計を持っているなら見て下さい」

 ベネディクトとハーヴィーが懐中時計を確認した。どういうことだろうか、時間が7時51分32秒で止まっている。

「なん……だと」

「時間を止めた、魔法で」

「馬鹿な……」

 信じられないベネディクトにハーヴィーは彼女の言葉に気付き杖を握る。そして敵に向かって浮遊魔法で瓦礫を当てる。

「こしゃくな」

 全てファーディナントに防御されてしまったが魔法を使えることに驚き歓喜する。

「魔力消失……こんなものはなかった。ただ、封印魔法で封じ込めていただけに過ぎない」

「クソッ、いつ気付いた」

「そもそも魔力を吸い取るなんてお前には出来ない。況してや全世界の人々の魔力を」


 彼は全世界に巨大な封印魔法を使用したのだ。これにより全ての魔法使いは術を使えなくなった。無論、ヴィクトリアたちもだ。

 しかし彼女は機会を待っていた。必ず誰かが魔法を使え、大いなる術を掛けることが出来ると。

「それが私らだったのか」

 スピリットアローとベスラは顔を見合わせる。

「そう。さて、この世界は今、時だけが止まっている。さっさと奴らを倒して元に戻そう」

 そう言って彼女はスピリットアローとベスラに治癒魔法を掛ける。一瞬の内に回復し、ふたりは喜び感謝した。

「序でだからね、死の宣告も解除しておいたよ」

「これで正々堂々と戦えるってことだな」

「見てな、ベネディクト!」

 ふたりは杖を持って詠唱を始める。ハーヴィーも彼らに手を貸した。

 ヴィクトリアはカーサスと組み両脇から奴らに肉弾戦を仕掛ける。

「うおーっ」

 拳銃を発砲し動きを止めようと試みるが魔法障壁によって全て弾かれてしまう。頭に来た彼は後方にいたハーヴィーに銃弾を魔法対抗弾へ変えるよう頼む。

「任せて下さい、えぇと……カーサス、さんでしたね」

「さん付けしなくても良いんだぜ」

『変換魔法、発動!』

 再び発砲すると障壁を突き抜けることに成功したがファーディナントによって阻止された。彼の剣術と動体視力は凄まじい。

「ヴィクトリア殿!」

 スピリットアローが叫ぶ。敬意を表しているようだが彼女は必要ないと言う。

「いや、そう呼ばせて戴きますよ。まぁ、それは置いておいて、ファーディナントは倒せても肝心の長官は倒せませんぞ」

 その通りである。彼女の血液を飲んで不老不死の試験にも合格した奴は何をやっても死ぬことはないのだ。

「何とかするよ」

 しかし良い考えは見付けられない。奴に攻撃を行いながら方法を見付ける。

「私を倒すことは出来まい。神剣ジェノサイドがナチョスの手にある限り」

 不老不死から神までのあらゆる生命体を唯一倒すことの出来る(つるぎ)、ジェノサイドは今、アークファミリアの(かたき)である堕落民族を代表するナチョス家の手にある。彼らから奪い返さなければベネディクトを倒すことは出来ない。


「君にも出来ないことがあるようだな」

 嘲笑し、彼女を挑発する奴に対し怒りをぶつけることしか出来ないヴィクトリアは己の無力さに悔しがる。

「さぁ、そろそろ行こうか」

 有り余る魔力を持つ奴の力はこれほどではなかった。これからが本番だと言うと両手を大きく広げる。

『属性魔法、発動。ゴーレム!』

 突然、地震と思わせるほどの揺れがコールスマンウィンドウを襲う。

「何だ何だ!?」

 轟音が辺り一帯に(ひし)めく。まるでこの世の終わりではないか、そんな感覚が湧いた。

「おい、あれを見ろ」

「ありゃ、何だ!?」

 星廳の立っていた場所から大きな土の塊、ゴーレムが立ち上がっているではないか。

「大きいねぇッ!」

 高さは凡そビル100階にも相当する。どうやら崩落した星廳の素材を使って出来ているようだ。揺れは歩くたびに生まれているらしい。


「どうやってあいつを止めりゃ良いんだよ!」

 空中戦を広げていたムラカミ率いる飛行船団は突如現れたゴーレムに混乱していた。彼らは魔法省を取り囲んでいるため歩いてくるゴーレムの進路上にいる。

「各隊、直ちに待避せよ!」

 だが魔法石を失い、速力の低下が見られる飛行船は中々その場から離れられない。そしてゴーレムの一歩がムラカミの座乗する飛行船を踏み付けた。さらにもう一歩で周囲の飛行船を凪ぎ払いながら前進する。また、ゴーレムが通った辺りは急激な横風が吹き荒れてバランスを崩した飛行船が次々に墜落していった。

「奴ら、味方を……」

「我々も危ないぞ」

 その通りだ。一歩、また一歩とゴーレムは魔法省に近付いていく。

「離れよう!」

 ヴィクトリアはそう言うと転移魔法を発動させるため詠唱を始める。

「彼女を援護して!」

 ベスラが叫び皆が奴らに向かって総攻撃を仕掛ける。だが全ての攻撃をファーディナントが一振りで阻止し、彼の力が増しているように思えた。

『転移魔法、発動!』

 その時だ。彼女に向かって尖った瓦礫の破片が無数に襲い掛かる。

 障壁を展開する暇が無かったために回避行動と神風で防ぐ。しかし一撃が彼女の首付近を霞める。

 転移する直前に首から大量の血が吹き出したものの魔法は発動され、皆は魔法省から近くの広場に転移された。


「ここは、中央広場か」

 魔法省から凡そ800メートルほど離れた広場に転移した彼らは真っ赤に染まるヴィクトリアへ駆け寄る。

「クソッ、出血が酷過ぎる」

「不死身なんですよね?」

 ハーヴィーが確認する。もちろんその通りだが再生には時間が掛かった。彼女は先の戦闘に於いて力を使い果たしていると見られたからだ。

「どのくらいで再生するか分からん」

 そこにキャルロットとアリス、そしてノーモルダスキーニが現れた。

「どうしてここが?」

「お姉さまの魔法陣が見えたので」

 アリスはそう答える。他の皆はどうしたのかハーヴィーが訊ねると安全な空域まで退却したという。

 空中戦は既に行われていなかった。ゴーレムの襲来で敵も統制が取れなかったせいか簡単に後退できたらしい。

「今、コールスマンウィンドウの外にいる」

「なんであなたたちがここに?」

 キャルロットの治癒魔法で回復したヴィクトリアが彼女たちがいることに驚いていた。

「だってお姉さまが助けてほしいってあたしらにお願いしたんじゃない」

「そんなこと言ってないよ」

「カーサスさんが言ってましたよ」

 皆が一斉に彼の方へ振り向く。確かに嘘を吐いて彼女たちを連れてきたことは謝るがそれを信じて着いてきたこと、そして結果オーライだったことを言い訳にする。

「た、確かに彼の言い分も筋が通っています」

 アリスは自分の行いに反省するがキャルロットはそれでも彼が悪い主張を変えなかった。しかしながら結果的に窮地を脱する方法が見つかることにヴィクトリアはカーサス、そしてふたりにお礼の言葉を告げる。

「で、この状況を覆す画期的なその方法とは?」

「先ずはゴーレムを破壊すること」

 これが第一の目標だった。奴を破壊しなければ民衆に多大なる被害が出てしまうからだ。

「あいつを倒したらボクとキャルロットとアリスで封印奥義をベネディクトに掛ける」

「ベネディクトって誰です?」

 この時、まだふたりは長官が彼であると知らなかった。それと同時に彼がヴィクトリアの血を飲み、カーサスと同様に不老不死となっていたことを知らないでいたのだ。

「そんなことが……」

「お、お姉さま……それって」

 アリスは何か言いたげそうだった。しかしヴィクトリアは唇に一本の人差し指を当てる。

「これはまだ言っちゃダメ」

「は……はい」

 彼女は悲しく姉を見つめた。気丈に振る舞う姿に心が痛む。

「何話してんだ?」

「な、なんでもありません」

 動揺するアリスに怪訝な表情を見せるカーサス。

「本当に?」

 顔を近付け嘘を吐いていないか探る。しかしこの行為を見たキャルロットがセクハラだと勘違いし、

「あんた、何キスをしようとしてるのよ!」

 背後から首を締める。ギブアップを連呼しながらジタバタする彼を脇目に置いてヴィクトリアが説明を始めた。


「封印奥義って言うのはアークファミリアが3人以上いることで対象者を恒久的に封じ込められるんだ」

「恒久的に?」

 彼女は頷いた。アリスが足りない点を補足する。

「でも制約があって3年に一度、対象者を封じた場所で封印したアークファミリアがまた同じ魔法を掛けないといけないんです」

「やらなかったらどうなるんんです」

「封印が解けます」

 迷っている暇はない。どんなに大変でもやるしかなった。

「はぁはぁ……」

 漸く解放されたカーサスはひとつ質問をする。

「俺たちはやってほしい気持ちはあるがお前らはどうなんだ。力を使って色々制約があるんなら、別の方法を探さなきゃいけないし」

「これしか今のところ方法が無い。やるしかないんだよ」

 ヴィクトリアの言葉にキャルロットとアリスは頷いた。

 封印奥義の詠唱には時間が掛かる。ゴーレムを倒し、ベネディクトを足止めする大役はアークファミリア三人衆以外のカーサス、ハーヴィー、スピリットアロー、ベスラ、そしてノーモルダスキーニだ。

「良いかい、ハーヴィーさんとスピリットアローさん、ベスラさんは無理をしないで下さい。治癒魔法を掛ける時間はありませんからぬ」

 最初に断りを入れる。奥義の詠唱が始まると彼女たちは他のことが出来ない。魔力が豊富なヴィクトリアが皆に治癒魔法を掛けることが出来なくなるのだ。

「分かっています」

「私たちをなめちゃいけないよ。これでも恐れられた魔の騎士団、デモスムントの特殊部隊長さ」

 ベスラは率いていた部下に退却の命令を出したが聞く耳を持たなかった。彼らは隊長と戦うことを申し出る。

「多いと動きにくいんだ。あんたたちは邪魔なんだよ」

「ですが隊長……」

「我々は死ぬときも一緒ですぞ」

 するとスピリットアローが彼らに号令を掛ける。背筋を伸ばし、直立不動の体勢となった彼らに命令を下した。

「デモスムント団長、スピリットアローが命じる。諸君らは他の団員とともに市民を守れ。そして生き残れ。良いな!」

「イエス、マイロード!」 彼の統率力は現役だった。短時間で団員を纏められることが出来たからだ。

 部下たちが後退する一方、ヴィクトリアたちがゴーレムへの襲撃をするための算段を話し合っている。


「弱点はコアを破壊すること。先ずは動けなくするために足を狙うんだ」

「ゴーレムは水に弱いからアリスが止めを刺すわ」

「任せて下さい」

 彼女の隣で聖霊が姿を現した。彼の名前はクリアという。

「反撃の時間だ。行くよ」

 その言葉と同時にヴィクトリア、キャルロット、アリスの3人は地面を蹴って遥か上空にいた。

「すげぇ……」

 思わず見惚れてしまうカーサスとハーヴィーを尻目にスピリットアローとベスラがともに浮遊魔法を使ってゴーレムの足元へ飛行船の残骸をぶつける。これで転倒させようとしたのだが鉄筋は折れ曲がり役に立たなかった。

「ならば、これでどうだ!」

 彼は自身の属性魔法である氷を武器に地面を凍結させた。しかしこれも不発に終わった。予想以上にゴーレムは重く凍結されていない地中深くまで足を食い込ましていたからだ。

「お、俺だって!」

 長距離用の弾種に変えた拳銃で狙撃するが豆鉄砲以下の能力でしかない。

「やっぱりダメか……ってよく考えたら、俺とノーモルのおっさんだけ不利じゃねぇか!」

 他の皆は魔法が使えるためだ。ところがどっこい、ノーモルダスキーニはどこからともなく魔法道具の一種であるスタッフを取り出すと彼に謝った。

「私も一応魔法は使えるんだ」

「なんだってぇっ!?」

「だが、私の属性は火だから奴には不向きなんだ」

 そう言うとスタッフを敵に翳すと勢い良く炎が吹き出しゴーレムを包み込む。しかし、やはり効果はないようだった。

「俺だけか……魔法を使えないのは」

 彼らの背後で落胆するカーサス。気の毒に思ったハーヴィーが優しく声を掛ける。

「この戦いが終わったら僕の勤めている魔法学校に通うと良いよ」

「それは遠慮しとく」

 即答され悲しくなる彼であった。


 ゴーレムはベネディクトとファーディナントを乗せ、中央広場へと歩み始めていた。一歩前進する度に轟音と震動が彼らを襲う。

 建物は倒壊したり、市民の悲鳴が聞こえたりしていた。デモスムントと生存した第6旅団の隊員、そして連邦正規軍が避難の誘導を開始する。

「団長!」

 そこにデモスムントの特殊部隊隊長が姿を現した。

「無事だったか」

「ケイラは?」

 第VII特殊部隊長の彼は残念なことに殉職したらしい。さらに第II特殊部隊長のフェイクも行方が分からないという。

「そうか。皆、話は後でする。協力してくれ」

「あのゴーレムを破壊するのよ」

「分かりました!」

「団長の命令ならば断る理由がこざいません!」

 彼らは杖を構えると一斉に魔法を放つ。だが攻撃は全く効くことはなかった。

「これほどの魔法使いがいてもダメなのか」

 錚々たる面子が揃っているにもかかわらず無力な彼らは絶望と屈辱を覚えていたのであった。

「君らの力はそんなものか。では、私の力をお見せしよう」

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