第10話「激動(前編)」
時は来たれり、ヴィクトリアとハーヴィー率いるマジックマテリアルと仲間に加わったノーモルダスキーニら第6旅団が今、最終決戦を行うべく戦地に集結しようとしていた。そこにカーサスも合流し、さらに強さを増す彼らだったが、魔法省長官ベネディクトはある計画を実行しようとしていたのだった……。
夜明けまであと僅かの中、ヴィクトリア率いる戦闘機隊はコールスマンウィンドウのすぐ近くまで来ていた。
「あと3分で星都空域に入ります」
「各機、散開して所定の位置に着いて」
「了解」
11機の戦闘機はそれぞれの位置に向かうため隊長のハインケル機から離れる。失敗は許されない。この作戦はスピードが肝心だ。
「如何にやられる前にやるかだ」
「そうですね」
星都空域へ侵入すると一斉に照空燈が点灯し夜空を照らす。サイレンもけたたましく鳴り響き上空に待機していた飛行船が動き出した。
「急げ、奴らに構ってる暇はないぞ」
幸い敵戦闘機の姿は見られなかった。カーサスたちが囮になって引き付けてくれたお陰だ。
「こちらヴィンクルム、星都空域に侵入する」
「了解、気を付けて」
敵の目は戦闘機に集中していたが3分の1はハーヴィーらに向けられた。
「激しい砲撃だ」
「長くは保たないぞ」
無線越しから彼らの弱音が漏れる。ヴィクトリアは今か今かと待ち続ける。
「間もなく配置に着く」
「しっかりな。息を合わせろ」
秒読みが始まった。各戦闘機は所定の位置へ正確に付けるよう速度を調節する。ヴィクトリアが深呼吸をした。
「3……2……1……!」
『無効魔法、発動』
コールスマンウィンドウの夜空に巨大な魔法陣が展開された。それは星座を繋ぎ合わせて見ることができるプラネタリウムのようだった。だがそれと同時に最悪な展開を迎える。
「何だ?」
空気の振動と衝撃波が彼らを襲う。そしてその後に凄まじい爆発音が聞こえた。
「一体、何が……」
「起きたんだ?」
するとヴィクトリアは我が目を疑った。朝日に照らされる中、天に伸びる尖塔が崩壊し始めていたのだ。
「あれは、星廳……だよな」
「これが、狙いか……」
彼女は崩れゆくソレを眺めて呟いた。
そうだ、ベネディクトの狙いは始めから星廳だったのだ。普段は隠蔽魔法が掛けられて見ることが出来ない。しかし一度魔法を消失さえすれば姿を現すことが出来る。
前に1時間だけ魔力を消失させた理由は位置を確認するためだったからである。そして今回、魔力消失の27日を迎え魔法が使えなくなった、この時を狙ったわけである。
「でも分かんないな。なぜこのタイミングなんだ」
ハインケルは疑った。しかしヴィクトリアは違う。このタイミングでなければならなかったのだ。
「これほど大規模な魔法陣を発動したんだ。誰もが星廳を爆破したと思うはずだ」
「そうか。そして長官が俺たちに濡れ衣を着せれば」
「市民、いや世界中から批判が募り」
「お仕舞い。ちゃんちゃんってか」
彼女は頷く。だがそれは二の次だと言う。今は長官を引っ捕らえることが先決だ。
「ハインケルさんは今すぐ部隊を引き戻して戦艦に戻って」
「何故?」
「多分、正規空軍も黙っちゃいないと思うよ」
「げっ、それもそうだな。で、あなたは?」
「ボクは仕事をしに行くよ」
そう言い残して敬礼を贈ると座席から中空へ身を投じる。驚いて振り向く彼はその光景に思わず口笛を吹く。
ヴィクトリアの背中には純白な翼が生えて大空を翔んでいたのだった。
「アンビリーバボーだぜ」
見惚れていると危うく対空砲の餌食になるところだった。彼は直ちに各機へ星都空域から離れて戦艦カエルム・フォーチュナーに帰投するよう命じる。
「検討を祈ります」
ハインケルもその場から離れた。その間にもヴィクトリアは地上へ降り立ち翼を畳む。
「久々に翼を出したな。こりゃ筋肉痛になりそうだ」
翼は消えいつもの彼女の姿に戻る。そして身なりを整えた。
「本気を出すか……」
右目を覆っていた黒の眼帯を取り、ゆっくりと瞼を開く。彼女の左眼は明るく透き通った蒼色なのに対し、右の瞳は少し暗い橙色をしていた。その中にはアークファミリアの10番目の神の紋章が刻まれている。
「ウィンディー、行くよ」
「はい、主人様」
彼もまた聖霊から人間の姿となって現れた。ふたりはただならぬ殺気を立て魔法省へと向かう。
一方、ヴィンクルムに搭乗していたハーヴィーたちは着陸地点を探すのに手一杯で周囲を確認できていなかった。そのため、崩れ落ちてきた星廳の破片と衝突してしまい中破してしまう。
「ダメージリポート!」
「船内に火災3箇所、出力65パーセントダウン、方向舵使用不能」
「下部指揮所との通信が出来ません」
コントロールを失った飛行船は最早空飛ぶ砲丸と化していた。
「針路先は?」
「旧魔法省があります」
「そこに不時着だ!」
幸い水平舵は生きていたために微調整を繰り返し最終アプローチをする。ハーヴィーは各員に防御態勢を取るよう指示、また不時着後は船体から離れるよう命令した。
「衝突します!」
船首が旧魔法省の外壁に衝突すると船尾が持ち上がり、そのまま前のめりになりながら半回転する。そしてひっくり返ったまま船腹を建物に乗せた状態で停止した。
「止まったか……」
幸いにも上部指揮所は無事だったが爆発音があちらこちらでで響き、早急に艦橋内の乗組員の避難誘導を始める。だが次の爆発で上部指揮所の反対側、つまり上を向いている第1、第2砲塔付近が吹き飛んだ。
「タケル!」
残骸が降り注ぐ中で彼は必死に乗員を近くの屋内へ誘導する。黒焦げになった死体の一部が吹き飛んできたり、鉄骨や外壁が散乱した。
「オースチンさんはいる!」
「ここだ……」
右足を引き摺りながらふたりを担いでやってきた。外傷は見当たらないが煙を吸ってしまったという。
「治癒魔法が使えれば」
「トメさん……」
ふたりは首を横に振り動ける者を動員して負傷者の救助を最優先目標に指定した。これでヴィクトリアと合流出来なくなったと思っていた矢先、
「大丈夫ですか!」
彼女が走って駆け付けてくれた。
「わざわざ来てくれたのか」
「墜ちるのが見えたから」
「残念だけど、私は行けなくなった」
オースチンは足の傷を見せる。骨が露出し骨折していたのだ。
「しかしハーヴィーさんは行ける。君たちで行ってくれ」
「でも……」
「けほ、俺もいるで。オースチンとここで死守するさかい、あんさんたちはさっさと行きな」
ふたりの厚き友情に感謝を述べるとヴィクトリア、ハーヴィー、ウィンディーの3人は新魔法省へと向かう。
「そいや、ヴィクトリアの眼見たか?」
「オッドアイだったな」
「俺、オッドアイ娘好みやねん」
「あっそう」
ふたりは煙の中に消える3人を見つめていた。
上空では遂に艦隊戦が始まろうとしている。マジックマテリアルの戦力が5とすれば、魔法省側の戦力は10であった。
「魔法が消えた今、こっちの方が有利だ」
戦艦カエルム・フォーチュナーを先頭に装甲巡洋艦ロリータとワンワン、そして4隻のフリゲートが単縦陣形を組んで突撃を仕掛ける。攻撃は戦艦に集中していたため好都合だった。
「このまま魔法省まで行って陣形を築くぞ、っとと……」
大きな振動が船体を襲う。それと同時にノーモルダスキーニへ報告が入る。
「第28区画にて火災及び破口発生」
「戦艦を貫く砲といえば……」
右舷前方のフリゲート群の奥に異形な飛行船が見られた。それは下部全体が巨大な砲塔になっているのだ。
「テンペスト級砲艦か……」
この砲艦には380ミリ単装砲が搭載されており、1分間に3発もの砲撃が可能なのである。
「同型艦のバラクーダ、タイフーンも見受けられます」
「フリゲートに食らったら一溜まりもないぞ」
「美味しい獲物は後で食らうはずだ」
するとハインケルが出撃命令を請う。無論ノーモルダスキーニはそれを許さない。上空は砲撃や対空砲火でとても航空機が飛べる状態ではないのだ。
「我々があの砲艦を叩きます」
「ダメだ。危険過ぎる」
「ここでやらなければ全滅です」
何か策があるのか問い質すと特殊爆弾を使って撃破すると申し出る。その特殊爆弾とはマズルプラグボムというものだった。
どのような効果があるのかというと砲口の近くで爆弾が炸裂すると内部に収納されていた粘着性の強い特殊な布が砲口に吸着する。そして砲撃した瞬間、その布に砲弾が当たると誘爆するという兵器だ。
布には爆発性の薬品が塗れている。爆弾内部にある内は一定の温度によって管理され、爆発の危険はないが一度外部へ放り出されれば成分が凝固し爆発の起因となる兵器へと完成する。
その姿からマズルプラグ、砲口栓に見えることからそう呼ばれている。
「だが精密に爆弾を投下し吸着させないと効果が得られないじゃないか」
その通りだ。元々は対地上、もしくは対海上兵器用に開発されたものなのである。
「任せて下さい。成功させてみせます」
再び船体が振動し35番区画に破口が発生したとの報せを受けノーモルダスキーニは任務を言い渡した。
「生きて還ることも追加しろ」
「努力します」
彼は敬礼を送り格納庫へ向かう。既にマズルプラグボムが機体に取り付けられた状態だった。
「出撃だ!」
「待ってました!」
「ハッチ開放!」
各機はエンジンを始動させ対空砲が交差する戦場へと飛び込むのであった。
「早くハッチを閉じろ!」
「どわっ!」
敵の砲弾がハッチに命中するとひしゃげてしまい、上手く閉じ切ることが出来なかった。
「ヤバいぞこりゃ」
「退避せよ」
現場の士官により格納庫は閉鎖となった。この報せを受けたノーモルダスキーニは眉を細め、
「短期決戦か。ヴィクトリアさん、頼みますよ」
彼女の成功を祈る。
戦闘機隊はというと凄まじい対空砲火の中を必死に避けながら砲艦との距離を詰める。その前には5隻ものフリゲートが立ちはだかっている。
「邪魔だ、どけどけ!」
機銃を使ってフリゲートのエンジンを狙う。魔法障壁のない敵艦は為す術もなく被弾する。
「フリゲートなら装甲を貫けるぞ」
接近する度に機銃の貫徹力が増す。およそ100メートルに差し掛かった頃、各機は下部指揮所を集中的に狙う。
その内1隻のフリゲートがコントロールを失い墜落するがその間に彼らも被害を受ける。
「7番機と11番機がやれました」
「早くも命令に背いちまったな」
フリゲート群を抜け砲艦へ近付く。対空砲を持っていない砲艦は代わりに煙幕を展開する。
「クソ、何も見えねぇ」
「ぎゃあっ」
味方がまたやられてしまう。背後の敵は友軍に構わず対空砲を撃ち続けている。
「クソッたれめ」
ハインケルは機銃を撃ち込み距離を測りながら砲艦へと近付く。最後に見た光景と予測位置を割り出して、
「この辺りか……」
機体を右に倒し思い切り曲がりながら爆弾を切り離す。遠心力で横方向に飛んだマズルプラグボムは数秒後に炸裂、戦果はどうなったか定かではないが祈る他無かった。
「帰投する」
「こっちも帰投するぞ」
煙幕が晴れた瞬間、1隻の砲艦が砲撃をした直後に爆発して木っ端微塵となった。ハインケルが狙った敵艦だ。
「よっしゃ、やったぞ」
さらに爆発の影響で隣接する砲艦にも被害が出ていた。内1隻はコントロールを失い墜落していく。
「1発で2隻も撃破とは見事だな」
ノーモルダスキーニが彼らを誉め讃える。副官はガッツポーズをして大いに喜んだ。
残りの1隻は炎上していた。暫く放っておくと燃料か弾薬かに誘爆して吹き飛んだ。
「1発で3隻撃破だったようだな」
「すんばらしいです。感動です」
「さぁ、魔法省へ向かうぞ」
ノーモルダスキーニは開けた道を突き進み魔法省上空へと向かう。既にヴィンクルム墜落の一報を受けていたためフリゲートが救助を行う予定である。
「ポーポフが救助に当たります」
1隻のフリゲートが高度を落としヴィンクルム墜落地点に接近する。と、その時だ。
「敵艦接近中!」
「数は不明です」
新たな増援として北方から大群を率いてやってきた。正確な数値は不明だが明らかにノーモルダスキーニ艦隊よりも多い。
「正規空軍でしょうか」
副官が耳打ちするが首を横に振る。
「あれはデモスムントだ」
朝日に輝く魔の騎士団の旗がはたはたと揺らめいている。
「魔法が使えなくても船の性能はそのままですからね。多勢に無勢ってやつですね、これ」
副官は射撃指揮所に増援艦隊の旗艦を狙うよう指示を送る。差し違えてでも彼らを撃破することが出来れば統率力を失墜させられるかもしれないからだ。
「なんだって?」
しかし事は上手く行かないものだ。各砲室から続々と弾薬が底を突きかけていると報告が寄せられていた。射撃指揮所が数値に変換したところ、210ミリ砲は61パーセントで103ミリ砲は81パーセントの消耗が見られるとのことだ。
「各艦からも弾薬の消耗率が50パーセントを超えていると報告が入っています」
「将軍、如何なさいましょう」
流石のノーモルダスキーニも砲弾が無ければどうしようもない。
「出来るだけ弾を無駄なく使え。集中砲火を浴びせるて撃沈するんだ」
「了解、そう伝えます」
だが最終的には弾薬も底を突く。彼らの狙いはそれかもしれない。何か良い手は無いものか、彼は考えるも思い付かなかった。
「しょ、将軍……」
副官が震えた声で彼を呼び指を差す。
「なん……だと」
それは信じられない光景だった。
デモスムントのさらに奥から夥しい数の飛行船が接近していたのだ。しかも、先導する艦には大きな旗だけが搭載されている。
「正規空軍第1艦隊だ」
凡そ100以上もの飛行船が一糸乱れぬ隊形を組んで接近している。
その光景を見た副官は腰を抜かせ尻餅を着く。勝ち目など無かった。
「もう無理ですよ」
弱音を吐くと艦橋内の乗組員の士気が一気に下がる。それは各艦の搭乗員も同じだった。
「投降すれば助けてくれるかも」
「バカ。俺たちは国家反逆罪で一生独房暮らしになるぞ」
「死ぬよりかはマシだ!」
彼らの会話を耳にするノーモルダスキーニも部下のためなら白旗を上げる覚悟が出来ていた。しかしそれはヴィクトリアの気持ちを裏切る結果となる。
彼が真に信じるものはどちらかは彼にしか分からない。
「ポーポフから報告です。救助作業を中断した模様」
「何故だ」
立ち上がれない副官が叫ぶ。通信員は再度通信を試みる。すると悲鳴が聞こえ途絶する。その様子は艦橋中に流された。
「ポーポフよりSOS信号」
「あっ!」
次の瞬間、爆発を起こして地面へ叩きつけられてしまった。
「一体何が起こっているんだ!」
恐怖で怒声が轟く。声の主は副官だ。
「ノーモルダスキーニさん、魔法だ……魔法がっ……」
通信に出て来たのはオースチンだった。魔法がどうかしたか言っているようだが直ぐに途絶してしまう。
「もう一度繋ぎ直せ!」
「やっています!」
「アポロより通信です」
ポーポフの代わりを努めるフリゲートからだ。ノーモルダスキーニは繋ぐよう下令する。
「こちらアポロ、地上の様子を目撃しました。あれは魔法使いです。敵が魔法を使っています」
信じられないことだった。誰もがヴィクトリアのことを思い浮べる。
「無効魔法を使ったんじゃないのかよ」
「役立たずの女ひよっこが」
「結局、反逆者は負けるってのが筋書きなんじゃねぇか」
するとノーモルダスキーニが彼らを叱責する。それは初めて聞く怒号だった。
「神を侮蔑するのは許さん、断じてだ。神は直ぐ傍にいる。戦っているんだ」
しかし所詮は人間が作り出した偶像に過ぎない。彼らが信仰するアークファミリアなど、ただの神話にすぎないのだ。
「その通りだぜ」
突如無線から流れる声。
「誰だ?」
副官はキョロキョロ周囲を見渡す。ノーモルダスキーニは分かっていた。
「神はいる。戦っている。俺たちとともに!」
声の主はカーサスだ。彼は対空弾幕が交差する中、上空を旋回しつつ皆に無線で勇気付ける。
「神ってのは気安く呼べて助けてくれるわけじゃない。だがな、今日は特別さ」
「カーサスさんが突然来て驚きました」
「何年ぶりかしらね、全く」
通信機から聞こえる女声にノーモルダスキーニは目を丸くする。そして身震いを起こして無線機を握る。
「そのお声は、もしかして」
「お久しぶりですノーモルダスキーニさん。アリスです」
「元気にしてた? キャルロットよ。お姉さまの頼みごとじゃ断れないわね」
久方ぶりの登場だ。彼女たちはヴィクトリアと同じくアークファミリアである。
キャルロットは彼女の妹で11番目の神。ツンデレで姉思いの優しい少女だ。因みに外見の年齢は人間で言う15歳。胸もそれほど大きいわけでもない。
アリスは彼女たちの妹だ。12番目の神の座に付き、アークファミリア最後の神でもある。外見の年齢は12歳。心優しい性格でアーク連邦の北東部に位置するワインテッレの頂きにあるヘルヴェチカ皇国の帝である。
「キャルロットさん、アリスさん、感謝します」
カーサスはカエルム・フォーチュナーを脱出した後にコールスマンウィンドウへ向かうはずが、誤って逆の針路を取ってしまった。そしてランカスター連邦まで近付き漸く気が付くが助っ人としてアリスを呼ぼうと単身、過去の記憶を辿ってヘルヴェチカ皇国に向かったのだ。
以前は飛行機が復旧しておらず、ヴィクトリアの力で昇った断崖絶壁も戦闘機で楽々と昇ることが出来た。
ヘルヴェチカへ到着したところアリスがお出迎えと思いきや、キャルロットが現われたらしい。彼女は放浪癖のある少女だったがこの日はアリスの国で世話になっていたようだ。
彼女たちに事情を説明し助けを求めたのだ。ヴィクトリアのお願いであると、嘘を吐いて。
「カーサス、あんたはお姉さまの元に行って助けなさい。あたしたちはノーモルおじさんを手伝うから」
「分かったぜ」
とは言ったものの航空機からどうやって地上に降りれば良いか皆目見当も付かない。
「まっ、なるようになれだ」
そのまま新魔法省の建物に突撃すると一度死んでしまったが再生して彼女の後を追う。不死身の身体とは便利なものですね。
「さぁキャルロット、魔法が使えなくったって、バカな人間にあたしたちの力を見せ付けるのよ」
「それは失礼ですよ、お姉さま」
彼女たちは地面へ降り立つと魔法を使う人物の前に立ちはだかる。魔法使いはひとりではなく複数人いた。
「行くわよ」
アーチェリーを取り出すキャルロット。そしてアリスは聖霊の力で水を呼び寄せるのだった。
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その頃、先に新魔法省へと乗り込んだヴィクトリアとハーヴィーは外の様子が分からないまま最上階の一室の前で立ち止まっていた。その部屋の表札には長官室と書かれている。
「準備は良いね」
「オッケー」
彼女はドアをゆっくりあけると室内へ入る。ハーヴィーも後に続きふたりが完全に入室するとドアが大きな音を立てて閉まる。そして魔法が発動されてドアは消えてしまった。
室内はカーテンが明けられ朝の強い日差しが照らす。ふたりの入ったドアからすぐ目の前には机と椅子があるのだが、
「良く来たな」
高級な椅子に座りふたりを歓迎するその男はジョー・ベネディクト、新魔法省の長官だった。
「お前がベネディクトか」
ヴィクトリアの目の色が変わる。怒りと憎しみで表情も強ばる。
「その通りだよヴィクトリアくん」
「貴様ぁー!」
声を荒げ近付くハーヴィーに彼女が叫ぶ。
「近付いてはダメだ!」
しかし時は遅く、彼の体は漆黒の霧に包まれて跡形もなく消え失せる。
「無効魔法は魔法石でさえ封じる魔法……。まさか魔法が使えるのか?」
「昔から勘が良く働いてね、君が来るのは知っていた」
「だから無効魔法に無効魔法を重ねたのか」
彼は頷いた。と言っても新魔法省内部だけに魔法を展開させたという。
「ハーヴィーさんはどこへやった」
「彼には別のところへ案内させた。私は君と話がしたくてね」
「話……だと?」
彼はどこからともなく椅子を取り出すと浮遊魔法を使って自分の前に置き座るよう促した。しかし拘束魔法の類が仕掛けられていると勘ぐった彼女は断りを入れる。
「そう。ならば立ったままで良いぞ」
ベネディクトは深く椅子に腰掛けると彼女を見つめる。
「君はアークファミリアだね」
「っ……」
「私は勘が良いと言ったろ」
彼には全てを見通せる力でもあるのかと彼女は考える。
「ボクがアークファミリアだとしたらどうする。殺すか?」
首を横に振る。神は神剣ジェノサイドが無ければ殺すことが出来ないと語った上で、その神剣はシルヴィア・ナチョスの手にあると断言した。
「何から何まで知っているのか……お前、何者だ!」
「それは君が良く知っているだろう」
「アーク、兄さん……」
彼は漸く分かってくれたのかと笑顔になる。そして立ち上がって再会を喜ぼうと手を差し出した。
「お前はアーク兄さんなんかじゃない」
「ヴィクトリア、何を言っているんだい。私だよ」
だが彼女は首を横に振り神風を抜刀する。
「アーク兄さんはこんな大それた事をするはずがない」
「失礼だな。427年振りに再会したのに」
「黙れ。お前は誰だ。目的はなんだ!」
心が揺れ動いていた。その刹那、彼女の体に一本の剣が突き刺さる。
剣は背中から心臓を貫き胸から突き出して剣先からは血が滴っていた。
「ぐふっ」
背後にはファーディナントが剣を構えていた。彼がヴィクトリアを襲ったのだ。
「こうまでしないと君はガードが堅いからね」
ベネディクトは椅子に腰掛けると引き出しから瓶を取り出した。大きさは500ミリリットルが入るくらいだろうか。
それを見た彼女は彼らの意図を察した。彼は不老不死になるため、ヴィクトリアの血を欲していたのだ。
「くっ、体が動かない……」
「痺れ薬を剣に塗っておいた。それから貴様の足元には拘束魔法もある」
ファーディナントの用意周到な作戦に彼女は屈した。こんな簡単にやられてしまうなど悔しくてたまらなかったのだ。
「さぁ、血をよこせ」
剣先から滴る彼女の鮮血を瓶に入れていく。弱々しく心臓が脈打つ度にまた新しい血液が注がれる。
「おぉ……」
半分ほど溜まった血液を見てベネディクトは感嘆する。
「これで我が身も不老不死に……」
「そこまでだ!」
突然部屋の端から声がする。ヴィクトリアにとっては聞き覚えのある声だ。
「カ……サス!?」
「やっと会えたぜ」
その後ろには彼女も知る男が立っていた。折角会えたのに彼が襲われると思った彼女は、逃げるよう声を上げたかったが上手く出せない。
「貴様、どうやって……っ!」
ファーディナントが振り向いて彼の奥にいた人物を見て怒りが込み上がる。
「貴様ぁ、裏切ったのか」
「私利私欲のために大罪を犯すとは、私たちは許しませんよ」
「スピリットアロー!」
元、魔の騎士団団長だったのである。そして彼らの後ろからハーヴィーが顔を出した。
「無事……だった」
「スピリットアローくん、君はとんでもないことをしでかしてしまったようだがもう遅い」
瓶に溜まった神の血を片手に持つと口へ運んでいく。
カーサスが拳銃で瓶を狙うもファーディナントが突き刺していた剣を引き抜いて弾丸を弾き返した。
「なんだと!?」
「私はこれでも、剣術は得意なんだ」
その間にもベネディクトは瓶の血液を飲み干してしまった。用済みとなったヴィクトリアはファーディナントに髪を引っ張られると首に剣を当てられる。
「させるか」
すかさずスピリットアローが魔法で剣を弾くとハーヴィーが彼女の腕を引っ張り確保に成功する。
「大丈夫か!」
「なんとか……」
「お前の血を飲んだら、あいつ……不老不死になっちまうんじゃないのか!?」
「試験に合格さえしなければ……」
だがそれは切ない望みだった。彼の腕にはカーサスの腕にある同じ紋章が浮かび上がる。
「これで私も不老不死だ!」




