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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
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第9話「祈り」

 星歴427年4月27日、ハーヴィーとヴィクトリア率いるマジックマテリアルはノーモルダスキーニ将軍の支援を元に魔の騎士団、デモスムントの団長スピリットアローとの戦闘に於いて彼の旗艦を撃沈するという戦果を上げた。しかし同時にウズベとカザフを失ってしまう。

 ハーヴィーはふたりの意志を継ぎ、魔法省の新しい長官になることを決意する。そしてヴィクトリアの作戦に基づき全身全霊、総員覚悟を持って任務に着こうとした矢先のことだった。

 スパイ活動を続けていた正体が分かり、混乱と犠牲が増えるのであった……。

 ルールと謎の人影によって刺殺されたヴィクトリアだったが哀しんでいたハーヴィーを尻目に再生し起き上がると自分の正体を明かした。

「ボクは不老不死。だから死んでも生き返るし、歳もこのままなんだ」

 突然の告白に信じられない様子だ。しかし無理もない。人としては当然の反応だからだ。

「ちょっと待って、不老不死って、本当にいるの?」

「うん、目の前に」

「ううむ……」

 先のことを思い出す彼は確かに不死身でなければ切り抜けられない場面があったことに気が付いた。

「黙っていてごめんなさい」

「いや、騙すのなら先ず味方からという言葉があるくらいだ。そこは気にしないけど……」

「けど?」

「正直、知らないで殺されると精神的にキツいです」

 確かにその通りである。現に彼は泣き叫んだくらいショックを受けたのだ。

「ごめん」

「でも、死ななくて良かったよ。もう死んでほしくないから」

 彼女は頷いた。しかしまだ終わったわけではない。逃げたもうひとりを追わなければならないからだ。

「急ごう。ルールは、マジックマテリアルが終わりだと言っていた。何かしらのアクションをするはずだ」

「そうですね」

 ふたりは魔法石を集めてから村へと走っていった。


 彼らが村へ戻る頃、トメのいるヴィンクルムの船医室に来客が訪れた。

「あら、どうしたの……って怪我してるじゃない」

 それは肩に傷を負ったビールであった。彼は痛がる様子もなく椅子に座るとトメが治療に当たる。

「これは弾痕かなにか……誰かに撃たれたの?」

「そうなんですよ」

「スパイね」

 彼女はそう思い込み直ぐに知らせようと伝声管の蓋を取ろうとした時だ、

「あっ……」

 背後からナイフで彼女の胸を貫いた。刃は心臓にまで達し引き抜いた頃には大量の血が吹き出る。そして崩れ落ちると立ちはだかる彼を見つめた。

「ビールさん……なんで?」

「俺たちは最初からお前らを殺すつもりで入団したんだよ」

 そう言い残すと誰にも気付かれないようその場から去っていった。

 ひとり残されたトメは痛みと戦いながら意識を保っていたが立ち上がることは出来ない。

「ハーヴィーさん、タケルさん、トルトニさん、オースチンさん……ヴィクトリアさん……うぅっ」

 気が遠退くも最後の力を振り絞って彼女は震える指で床に血文字を描いていく。

「せ、めてみんなの力に」

 既に彼女の心臓は止まり気力だけで文字を描き終わると力尽きて息絶える。彼女が絶命するほんのわずか、

「ヴィクトリアさん、またどこかで。さようなら」

 そう思いこの世を去った。

 彼女の死体が発見されるのはそのすぐ後だった。ヴィクトリアとハーヴィーがひとりで作業している人々を当たっているときに彼女の名が挙がり駆け付けたのだ。

「遅かった……」

「くっ……」

 ヴィクトリアは怒り狂った。形相を変え拳を握り締めるとある人物の名を呟く。それは血文字で描かれた名前と合致する。

「ビール、貴様を殺す」

 トメは犯人がビールであることとデールも加担していることを記していた。彼女は死してなお、皆を守る存在となったのだ。

「ふふ、また間違えてる」

 ハーヴィーは笑っている。彼女の血文字を見て微笑していたのだ。

「トメさんは良くスペルを間違える。ビールじゃなくて熊になってるよ」

 彼女の血文字はBEERではなくBEARになっていたのだ。ヴィクトリアも思わず微笑んだ。彼女らしいと。

「絶対に許さない」

「うん」

 ふたりは彼女にシーツを掛けると伝声管でビールとデールに要注意するこてを忠告した。そして遺体の回収をお願いする。

「単独行動は危険だ。行こう」

 彼らはヴィンクルムを降りると村へ急ぐ。丁度オースチンが船長らと話しているのを見掛け、彼らに事の顛末を説明する。

「分かりました。直ちに報告してきます」

「行くぞ」

 船長は各船に戻り命令を促した。3人はタケルたちと合流すべくバーへ向かう。

「どないんしたんや」

 べろんべろんに酔っ払った彼が出迎えるとトルトニがいないことに気が付いた。

「彼はどこにいるの?」

「はぁん? なんや?」

「トルトニさんはどこにいるんだ!」

 耳元で怒鳴ると逆ギレしながら彼の居場所を教える。何でも砲弾の数を知りたいらしくヴィンクルムへ戻ったのだとか。

「行き違いか……」

「行くぞ。君も来い!」

 オースチンが強引に引っ張ると彼が持っていたグラスを落として怒声が響く。するとヴィクトリアが、

「酒と仲間、どっちが大事なんだ。つべこべ言わず付いて来やがれ!」

 初めて見せるその表情と怒りに彼は震え上がり黙り込む。そして皆と一緒にヴィンクルムへ向かう。

「なぁ、何があったんや」

 事情を聞かされていないタケルは何に怒られたのか分からず不満気だ。大人しく付いてきたが船内に入ってからハーヴィーに聞いた。

「トメさんが殺された。ヴィクトリアさんも殺され……されそうになった。犯人はルールとビール。もしかしたらデールもからでいるかもしれない」

 これに対して彼は怒りが沸き上がって来た様子だ。

「あいつらふざけやがって、ギッタギタのげっちょんげっちょんにしてやる!」

 彼らの怒りは最高潮に達する中、弾薬装填室に突入し目を疑った。トルトニにビールが迫っている最中だったのだ。

「させるか」

 ヴィクトリアが短剣を投げると彼の脇腹に刺さる。しかしそのまま突進していきナイフを突き刺した。

「トルトニさん!」

 彼はよろけると砲弾を押し倒しながら床に転がった。その間、ハーヴィーとオースチンが身柄を確保し、タケルがロープを持ってきて縛り上げる。

「トルトニさん、しっかり!」

 外見では致命傷を負ってる様子はなかったが、それは彼がジャイアントで丈夫そうに見えるせいだった。彼の体内では内出血が酷く既に手遅れの状態だ。

「オラ、ハーヴィーさんの魔法学校に入りだがっだ」

「入れるよ。そこで勉強しよう!」

「みんなでだのじぐ、過ごしだがったなあ」

 彼は目を閉じる。やがて体温も下がり呼吸も弱まっていく。

「みんな、オラのだめに……ありが……どう」

「トルトニさん!」

 彼らの怒りは爆発寸前だ。しかしそれをも遥かに越える怒りを見せたのはヴィクトリアだった。

「貴様が犯した罪は重いぞ」

「けっ、何が罪だ。お前たちの方が魔法省に楯突いて好き勝手やってるじゃないか」

「だからなんだ。勝手に人の自由を奪っておいて何が好き勝手だ」

 彼女は真剣、神風を抜くと刃先を彼の首に当てる。

「もうお前たちは終わりだ。長官が手を打っているさ」

 高笑いをすると彼女は首を撥ねるのではなくそのまま縦に斬り付ける。

「楽に死ねると思うなよ」

「がぁ……」

 激痛に暴れ回っている間、ハーヴィーは伝声管でデールの所在を聞く。既にノーモルダスキーニの部隊が拘束したらしくオースチンとタケルが赴いた。

 ヴィクトリアはどこからともなく取り出した清めの塩を彼に振り掛ける。傷口にしみて彼は泣き叫ぶ。

「一思いに殺してくれ」

「ご冗談を。死にながら痛み続けるんだよ。そして死んでからも、その痛みを永遠に……」

「嫌だぁぁぁッ!」

 遂に彼の息は止まり死因は出血性ショック死だった。(むご)いことを平気で行う彼女にハーヴィーは少々血の気が引く。

「これがボクの本当の姿だよ」

 彼女はそう呟くと横たわるトルトニに近付いた。

「さぁ帰ろう」

 彼の遺体を担ぐとハーヴィーと共に教会へと向かう。その時、彼女の目は生気が感じられないほどの冷たいものだった。


 教会にはトメの遺体もあり、トルトニの遺体が並べられると同志たちはさらに哀しんだ。ヴィクトリアはハーヴィーに代役を任せ登壇することをお願いする。今の彼女は人の前に立てる状態ではなかったからだ。

「みんな聞いてくれ」

 彼は教会の内外にいる同志や戦闘員たちに呼び掛ける。

「通信は?」

「大丈夫です」

 ハインケルが無線機器で各所に聞こえるよう手配する。

「今日、我々は多くの同志を失った。彼らは魔力を取り戻すために戦い死んでいった勇者だ」

 彼の言葉に誰もが共感する。

「残った我々は彼らの意志を継いで魔法省を倒さなければならない」

「そうや、その通りや!」

 タケルが戻ってくるとサクラのように場を盛り上げる。彼の言葉に皆が賛同する。

「やるぞ!」

「魔力を取り戻して、結婚するんだ!」

 皆の覚悟は決まったようだ。それを見てハーヴィーは深呼吸をした。

「みんな、力を貸してくれ。共に魔法省を倒し、魔力を取り戻そう!」

 歓声がそこら中で沸き起こり拍手が鳴り響く。そして今ここに勝利の宣誓が行われた。

「我々マジックマテリアルは魔法省長官、ベネディクトを拘束し、新魔法省の設立を行う!」

 総員、直ちに飛行船に分乗する。各所でエンジン音が轟き(こだま)する。

「ヴィクトリアさん、ご無事で」

「ありがとう」

 心なしかいつもの彼女に戻っている気がした。ふたりは分かれると彼女はハインケルの戦闘機に乗り込んだ。

「狭いですが我慢して下さい」

「構いません。さぁ行きましょう」

 12機の戦闘機が一斉に飛び立つとコールスマンウィンドウを目指す。早朝へ間に合うよう艦隊も出港する。ヴィンクルムは戦闘機隊の少し離れた後方で追い掛けた。

 失敗は許されない。もし失敗すれば、それは死を意味する。必ずや成功しなければならないのだ。



 その頃のコールスマンウィンドウでは飛行禁止令が敷かれていた。デールの情報を聞き付けた魔法省の護衛部隊とデモスムントが防衛線を展開していたからだ。

 そうとも知らないカーサスたちは20数時間のフライトを終えてコールスマンウィンドウ上空へ差し掛かっていた。

「あと少しで国際空港だぞ」

 数時間前に気が付いたピーターが異変に気が付いた。

「何か……おかしい」

 それは的中すると突然彼らの近くで破裂音が聞こえる。

「マズい、対空砲だ!」

「なんだって!」

 彼ら目がけて飛行船から対空砲をところかまわず撃っていた。

「照空燈も来る」

 少年の言う通りに彼らをサーチライトが追い掛けていた。それを追うように精密射撃を行う対空砲も近付いている。

「早くなんとかしろい!」

「こうなっちゃ無理だ」

「あきらめんのかよ」

「逃げるだけだよ」

 機体を反転させると元来た道を帰る。しかし既に退路はフリゲートが塞いでいた。

「突っ込む」

「ふぁっ!?」

 対空砲を発射するのが間近で見える中を彼らは飛び込んでいった。

「ぶちかませ」

 ピーターは機関銃を撃って威嚇した。対空砲のある砲塔は装甲が弱く攻撃が有効だった。

「良いぞ、やれやれ」

 だがしかし突然光がサンシャインに差し込む。フリゲートからのサーチライトだ。

「眩しい!」

 光を直視してしまったアーサーは思わず操縦桿を真横に押し倒してしまいコントロールを喪失させた。機体がきりもみに入る中でカーサスが代わりに機体を操縦したお陰で復原に成功した。

「危なかったぜ」

「サンキューな」

「運賃を更に半額な」

「もう4分の1だよ」

 ピーターの言葉に彼は溜め息を吐かせ、

「もうタダで良いわ!」

 そう叫び敵から離れていく。しかしながらそう上手くは行かないもので多数の戦闘機と嚮導艦が追尾する。

「敵機が着いてきてるぞ」

「分かってるわい」

 彼は必死に敵を引き離そうと最高速度で立ち向かうも無駄だった。アーク連邦の技術はサンシャインよりも上を行くものだった。

「あっちの方が速いじゃん」

「知らんわ。そんなの初耳だ」

 ピーターは暗闇の中で音だけを聞いて機銃を使って敵機を撃ち落としていた。

「さすが先生!」

「先生……じゃない」

 少し照れながら次の敵に狙いを定める。

「見えないのにお前ら良く飛んでいられるな。おまけに敵機を撃ち落とせるなんて流石飛行士は違うな」

「長年の感覚と勘さ。それに少し明るいしね」

 月の光で多少は見えるという。それでも暗闇の中で獅子奮闘する彼らを見てカーサスは恐れ入る。

「ありゃなんだ?」

 水平線の向こう側から黒い物体が飛んできた。ピーターが目を凝らし耳を澄ませて呟いた。

「敵の増援かも」

 その数は12機だ。流石の少年も前後の敵をどうこうすることは出来なかった。

「どうすんだよ」

「どうしましょう」

「おい!」

 するとどうしたことだろう。12機の戦闘機は彼らを通り過ぎて真っ直ぐコールスマンウィンドウへと向かっていた。

「燃料がないのか?」

「好都合だ、逃げよう」

 だが戦闘機の他に飛行船が近づいてきていることを知り彼らは動揺する。

「マズい、対空砲を撃ってくるかもしれない」

 回避行動を取る。しかしまた、戦闘機と同じで飛行船も通り過ぎる。

「なんなんだ?」


「危うく衝突するところだ」

「危険な逃走車もいるんだな」

 ハーヴィーとオースチンがたった今すれ違ったカーサスたちが乗る飛行機に文句を言っていた。彼らは次第に距離を取っていき、やがて遥か彼方まで遠ざかっていく。

 カーサスはコールスマンウィンドウへ行けないことを知って、代わりに近くの飛行場で下ろして欲しいとお願いする。だが地上は暗くそれらしいものは見えない。

「郊外の飛行場は見えにくいからな。まぁ、先にあいつらを振り切らないとな」

 彼らはそのまま北東へ逃走する。ここでピーターが最悪な報告を伝える。

「弾が無くなった」

 全弾使い切ってしまい機銃を床に置く。しかしここまで良く持たせたことをカーサスは誉め讃えた。

「俺が軍人だったなら勲章を授与しているところだな」

「いらない」

 少し顔を火照らせそう答える。彼は自分に出来ることをしただけだ。そう思っている。

「しっかし、後はこの俺が使うナーワル1丁だけか」

「貸して」

 少年が手を差し出す。これで敵を撃ち倒すらしい。

「お前に任せる」

「やってやる」

 カーサスは愛銃を託し見守った。ところが反動が大きかったのか発砲時、少年の体が吹っ飛び彼の股間に直撃する。無論悲鳴を上げたことは言うまでもない。

「外した……」

「俺のアソコには命中したぞ」

 少年は手が震えていた。おまけに心臓が高鳴っている。初めてこれほど威力の高い銃に触れたからだ。

「機銃よりも反動が大きい……どこのメーカー?」

「確かガバメント社製の銃だったかな」

「いつの?」

「結構前だな」

 製造年と番号そして刻印はすり減っており良く見えない。前にヴィクトリアが耐用年数を上げる魔法で長いこと扱えるようになったらしい。

「ガバメント社は星歴400年を最後に1丁も新しい銃を作っていないらしいな」

 アーサーが補足してきた。因みに彼らの使う機銃はショット社製である。

「ていうか口数が多くなったな」

 ピーターは思わず顔を赤らめて再び敵機を狙い始める。もっと話したかったが今はそれどころではない。

「当たった」

 威力が高かったせいか敵機は爆発し火の玉になって墜落していく。

「良くやったぞ」

「こっちも当たった……」

 アーサーが苦しそうな声で言った。まさかと思いカーサスは彼を確認する。しかし目立った外傷は見られないが必死だ。

「どうしたんだよ」

「右翼のコントロールが効かないんだ」

 ピーターが懐中電灯で右翼を確認すると末端部が欠損していた。さらに言うと燃料漏れを起こしている。

「マズいな」

 左翼とラダーを操り何とか水平を保っているが敵の攻撃でいつ燃料に引火するか分からなかった。

「最悪お前らは飛び降りろ」

「お前は!?」

「俺はサンシャインと運命をともにするさ」

「僕も同じ」

 ピーターも同意見だがカーサスは猛反対する。

「みんなで脱出する。良いな!」

 しかし譲らないふたりに怒りが湧いてくると前方に大きな物体が見えた。

「ありゃなんだ?」

「うわっ!」

 突然の光に皆が目を覆う。そのせいで機体はバランスを失いきりもみに入り高度を失っていく。

 回転する機内では上空を見上げ巨大な飛行船が通過するのを目撃した。

「ありゃ戦艦クラスだぞ」

「酔う」

 ピーターが嘔吐しそうになったところで何とか機体はバランスを整え水平に飛行をし始める。とその時、背後から対空砲が轟く音が聞こえた。

「艦隊と敵機が交戦しているぞ」

 周囲にいた装甲巡洋艦の分厚く張っていた対空砲には流石の敵機も避け切れず被弾する。戦艦の射程圏内に侵入した嚮導艦も大砲の餌食となった。

 瞬く間に全機撃破すると彼らは死を悟る。砲塔がこちらを向いていたからだ。

「これで終わりか……」

 そう思っていると戦艦から発光信号が送られてきた。

『キキノヒガイホウコウヲツタエヨ』

 ピーターが確認すると道具箱から手持ち式の信号燈を取り出すと彼らに向けて発光させる。

『ウヨクハソン、ネンリョウモレアリ』

『キキノウケイレカノウ』

 すると戦艦の下部後方が赤く点灯するとハッチが開く。しかしアーサーは迷っていた。このまま支持にしたがって良いものかと。

「いざとなったら俺がなんとかしてやるよ」

 カーサスのたったひとつの言葉で彼は決意する。

「着艦に備えろ」

 機体を必死にコントロールしながら戦艦に近づいた。サンシャインの失速速度ギリギリで上手くハッチ下部へ接舷するとそのまま機首を上に向け船内へ近付く。

 上方にアームが降りてくるとエンジンのある胴体を掴む。それと同時にアーサーはスロットルを弱めてプロペラを止める。

「幅がギリギリじゃんかよ」

 船内は広かったがサンシャインも大きく翼端が当たりそうだった。暫くしてアームがゆっくりと動き出すと格納庫らしき場所で止まる。そして機体を床にそっと置くと整備員が車止めやワイヤーで機体を固定した。

 ここに来て漸く機外へ降り立つことが出来たカーサスたちだったが、

「手を挙げて待機せよ」

 銃を構えた戦闘員に拘束された上に愛銃を取り上げられてしまった。

「はぁ、これなら死んだ方がマシだったかもなぁ」

 アーサーが呟いていると事情聴取が始まった。

「名前は?」

「アーサー・ファクァー」

「どこから来た」

「フリーケンス共和国ハンダ国際空港です」

「目的は?」

「コールスマンウィンドウに客を運びに来た」

 カーサスを見て説明する。そして敵機に追われていた理由を求められ素直に説明した。

「あいつらアーク連邦正規陸軍だ」

 カーサスがふたりに囁いた。

「本当か? でも何故味方を撃ったんだ?」

「わからん」

「あの敵機は味方じゃなかったのか?」

 もう訳が分からなかった。休みたい気持ちもあり聴取には包み隠さず全て正確に答えた。

「同乗者の名前はピーター・ファークァー。客はバーン・カーサスだな」

「そうだ」

 暫く個室で待機するよう命令され待っていると髭を生やした老人が現れた。ノーモルダスキーニだ。

「君がカーサスくんか」

「そうだが、なんなんだよ」

 彼を見回し腰に手を当て笑う。

「聞いた通りの男だな」

「はぁ?」

「一応訊ねておこう。君はなぜコールスマンに行く?」

「そ、それは友人を探しに」

「それは友人の家族が望んでいるのか。あるいはその友人が望んでいることなのか」

 彼は首を横に振って違うことを叫ぶ。そして老人に詰め寄り戦闘員が銃を構える中で、

「あんたにはわからんだろうが俺は、あいつが心配で探しに来たんだ。あいつが何を言おうが俺は例え海のなかだろう死地だろうが行ってやるさ!」

 指を差して言い切った。戦闘員は今にも彼を撃ち殺そうと引き金に指を掛けている。しかしノーモルダスキーニは手を払い除けて武装を解除させる。

「ふむ、君は彼女のことが好きなんだな」

「ち、ちがわい!」

 顔を真っ赤にして即答するが小声で、

「違わないけど……」

 と呟いた。老人は笑みを浮かべ口を開く。

「良き仲間に出会ったのだな」

「ていうか、なぜ彼女だって分かるんだ。俺はあいつとしか言ってないぞ」

「君が探しているのは九分九厘、ヴィクトリア・ギャラクシーのことではなかろうか」

 彼は驚愕した。何故自分が探しているのは彼女の名を言い当てることが出来たのかと。

「お前は一体何者だ!」

「私はアーク連邦正規陸軍第6旅団司令、ロバート・ノーモルダスキーニ。そしてヴィクトリアさんが所属するマジックマテリアルを支援する老人のひとりである」

 衝撃の真実を聞かされたカーサスは彼に今、彼女がどこへ行ったのか聞き出そうとする。

「コールスマンから来たのならばもう会ったのではないか」

「会った? そんな馬鹿な」

 いつ、どこで会ったか。彼は記憶を辿っていく。

「彼女はケリを付けるため我が同胞と戦闘機で向かったはずだが」

「あの……俺たちをスルーした飛行機のことじゃないか」

 アーサーが助言すると彼も思い出した。しかしどの機体に彼女が乗っていたかなど到底分かるはずもない。

「とにかくあいつは何をしに行ったんだ。教えてくれ!」

 ノーモルダスキーニはこれから起こる作戦の全容を教えた。アーサーとピーターはとんでもない災厄に巻き込まれたと後悔する。しかしカーサスは目の色を変え、疲れは吹っ飛び、

「俺も行くぜ!」

 高らかに声を上げると老人に飛行機を貸すようお願いする。

「残念だがそれは無理だ」

「なんでだよ、もう航空機は残ってないのか?」

「大体の空母には補用として1、2機は置いてあるよな」

 ピーターの補足に航空機が残っているのならば今すぐ貸してほしいと頭を下げる。

「無い」

「さっきあった」

 着艦時に駐機してあった戦闘機を2機、ピーターが確認していた。すかさずカーサスがその機体を貸すように言うが首を横に振るばかり。

「何故貸してくれないんだ」

「君に貸せない。これはヴィクトリアさんの命令でもある」

「あいつの?」

 ノーモルダスキーニは事の顛末を説明した。

 ヴィクトリアはもしも万が一、仮にカーサスがひょっこりやって来たとしても戦場には連れてこないで欲しいとお願いしたのだという。それは彼を巻き込みたくない気持ちと今、彼女がカーサスに会いたくないという気持ちがあるかららしい。

「何で会いたくないんだ」

「それは何も……。ただ、今は有事ですから戦闘に集中したいのだと勝手に解釈しています」

「ばっかじゃねぇの。そんな理由で俺様が引き下がると思うのかよ!」

 彼はそう言うとノーモルダスキーニへ体当たりを食らわせ戦闘員の銃を奪い格納庫へ向かった。去り際にアーサーとピーターへ感謝な言葉と代金はツケておくよう言い残す。

 船内は厳戒態勢が敷かれるも構うことなく駐機していた航空機に近付く。そして近くにいた整備員を人質に取りハッチを開けるよう指示する。

「早くしろ! 死にてぇのか」

 威嚇で何発か銃撃するが一向に開く気配がない。そこにノーモルダスキーニが現れる。

「撃ち殺さないのなら人質を返してもらおうか」

「何を!」

「君は無関係の人を殺すとは思えない」

「ちっ!」

 戦闘員を彼に向かって放り投げるとその隙に戦闘機へ数発の銃弾を撃ち込む。機体が横滑りし彼らに襲い掛かる。

「むぅっ」

 彼らは寸でのところで交わすとカーサスは機体に飛び乗りブレーキを掛ける。そして機首がハッチに振り向く一瞬で数発の機関銃を発射。するとハッチの制御装置が破壊されてゆっくりと開き始める。

「あばよー」

 エンジンを始動させフルスロットルで彼は飛行船から離脱した。

「無茶をやる男だ」

 之字機動を見せ付けながら彼はコールスマンウィンドウへ向かった。

 その頃のヴィクトリアは正に戦禍の火蓋が切られる寸前であったのだった。

「無事でいてくれよ、ヴィクトリア!」

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