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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
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第8話「盟友の死」

 星暦427年4月27日、マジックマテリアルはヴィクトリアが奪取した飛行船を魔改造し、名をヴィンクルムに変えデモスムントの旗艦を撃沈すべく出港した。しかし裏切り者による工作であっという間に窮地へ立たされる。肝心のヴィクトリアもやられ謎の男がハーヴィーたちに迫る。

 そこにアーク連邦正規軍第6旅団のロバート・ノーモルダスキーニが現われた。彼はヴィクトリアの知り合いらしくウィンディーからの支援要請を聞いて彼らを助けに来たのだ。

 そして正規軍の圧倒的な火力によりデモスムント第I特殊部隊隊長のスピリットアローが座乗する旗艦を撃沈し勝利を納めた。だが謎の男によってガザフ老師が命を落としてしまう。

 彼の遺言により、ハーヴィーは魔法省の新たな長官になることを決意する。

 一行は帰路に着き無事、本拠地へ到着。休息を取る一方で彼の友人であるウズベが何ものかに刺されたのであった……。

「嘘だろ……目を開けてくれ」

「ハーヴィーさん……」

 トメが呼び掛けるが彼は必死になってウズベを起こそうと体を揺さ振る。

「朝じゃないけど起きろっての」

「ハーヴィーさん」

「ウズベ、いい加減に起きろ!」

「ハーヴィーさん!」

 教会中に彼女の声が響く。外にいた人々も割れた窓ガラス越しに中の様子を窺っている。

「ウズベさんは死んでいます。そっとしてあげてください」

 彼はナイフで刺殺されてから12時間も放置されていた。ナイフには毒薬が塗りたくられており、また人気の無い道を選び犯行に及んだことから計画的且つ執念深いものだと結論付けられた。

「そんな結論良いから早く犯人を探せ!」

 しかし犯人像すら分からない中で探し様が無かった。ふと彼はヴィクトリアの方を見ると彼女に迫る。

「な、何かな?」

「そうだよ、君の力があれば良いんだ!」

「?」

 彼は少し前のことを思い出した。ルールたちを助けだしたときのことだ。

「時間魔法だよ。あれがあれはこいつを助けだせるし犯人も捕まえられる」

「無理だよ。魔法使えないし」

「魔法石があるじゃないか!」

 しかし首を横に振る。石の力だけでは過去へ戻ることが出来ないのだ。それに過去の人物を救うことは禁じられている。

「なんでだよ、いつも偉そうなこと言っているのに今日は……」

 彼女の胸ぐらを掴んで泣き崩れる。必死に頼み込むが彼女の眼は冷たく素っ気ない態度を取る。

「これも彼のため」

 ヴィクトリアは心の中でそう繰り返すと彼の肩に手を置いた。

「全てを受け入れなさい」

 その言葉にハーヴィーは拳を握り締めると彼女の手を振り払って教会の外へと飛び出した。心配してトメが追い掛けようとするも代わりにオースチンが追い掛ける。命を狙われる危険性があるからだ。それに彼女は杖を持っていない。

「ふぅ、カーサスみたいなことを言うなぁ」

「誰やねん」

「ボクのげ……友達だよ。家族みたいな友達」

「ほー」

 トメは早速遺体の手入れを始める。皆は邪魔になるだろうと教会を後にしたがヴィクトリアだけは残った。

「ひとりでもやれますよ」

「うん。でも狙われるかもしれないから」

 その言葉に少し怯える表情を見せた。無理もない。現にウズベが死んだのだ。次は自分かもしれない。

「私、死ぬときはみんなを守って死にたいかな」

「何を言ってるの!」

 慌てるヴィクトリア。冗談でも口にしてほしくはなかった。

「ごめんね。でも誰かを守って死ぬことは素晴らしいと思うの」

 血で(よご)れたウズベの体をタオルで拭う。あっという間に血で染まるタオルを水の張ったバケツで洗う。水も赤く染まり絞った水滴が床へと落ちる。

「ウズベ……さん」

 彼女の目頭から大粒の涙が零れる。悔しくて哀しくて、自分が非力だと痛感していた。

 ヴィクトリアは彼の遺体に近付くと懐から描画チョークを取り出した。そして彼が眠るベッドの下に不思議な文字と陣を描く。

「何をしているんですか。魔法は使えませんよ」

 黙々と描いていく彼女にトメは動揺する。そしてチョークをしまうと両手を合わせる。

「これは死者の魂を現世にほんの少しだけ留まらせることが出来る妖術の一種なんだ」

「妖……術」

『前略。魂よ、姿を現わせ』

 するとふたりの目の前に白く光り輝くウズベが現われた。トメが口を押さえて信じられない様子で見つめている。

「ウズベさん、申し訳ないんだけどハーヴィーさんを慰めてくれない」

「良いぜ。俺も言いたいこと、あったしな」

 彼はそう言って浮かび上がるとハーヴィーの元へ向かった。

「あっさりとしていましたね」

「あっさりとしているからこそ成仏出来るんだ。あれが黒く光っていたら未練があって悪霊となるんだよ」

 まるで坊主か修道士のように思えた彼女はヴィクトリアにお願いした。

「もしも私が同じことになっても呼び出さなくていいですからね」

「な、なんでだい?」

「私なら、もう一度会ったら別れが辛いもの」

 ヴィクトリアは何も言わなかった。そして起きないことを祈るのだった。


 村から離れた崖の上にハーヴィーの姿があった。大木の下で村を見つめている。

「ウズベ、なんで先に逝くんだよ。お前がいなきゃ僕は……」

「淋しいのか?」

「淋しいよ……おっ!?」

 木の枝にぶら下がり彼を眺める死んだはずのウズベの姿があった。

「お、お、お前、死んだはずじゃ……ないのか!?」

「驚くんだな。ってことは、俺が死んだことを理解しているってことだよな」

「うっ……」

 図星だ。彼がもうこの世にいないことは頭の中で分かっている。だが信じたくはないのだ。

「気持ちは分からんでもない」

「分かるもんか。死んだお前に」

「分かるさ。お前にもう会えないことを」

 ハーヴィーが彼の顔を見つめる。泣いていた。

「お前だけが苦しがってると思うな。みんな苦しがってんだ。けどよハーヴィー、お前が笑って前を進ンでりゃみんなも笑顔になるんだよ!」

 この言葉に彼はカザフを思い出した。魔法省の長官になって皆の元へ魔力を返し、明るい世界を作っていこうと決意したあの想いを。

「ウズベ、俺は戦うよ。そしてみんなを笑顔にする。だから見守っていてくれよな」

 彼もまた涙を流している。互いに泣いていることをからかうとウズベが区切りを付ける。

「じゃ、俺は逝くよ」

「僕も何れ行くから」

「待ってる……けど、遅く来い」

「分かった」

 彼の体が閃光に包まれる。まばゆい光に思わず腕で目を隠す。

「じゃあな。オースチンも達者でな」

 木陰で様子を窺っていた彼にも挨拶を送ると最後にヴィクトリアとトメへ感謝の言葉を呟くと煌めく小さな光の結晶となって空に昇っていく。

「オースチンさん、いたんですね」

「申し訳ない。盗み聞きしてしまい」

「良いですよ。さぁ、次の作戦でも練りましょうよ。酒を引っ掛けながらね」

 彼らはその場を去る。

 教会ではヴィクトリアとトメがウズベを棺桶の中に入れようとしていたところ一瞬だけ彼の匂いがした。彼女たちは顔を見合わせ、彼を見つめると微笑んでいるような表情をしているように見えた。

「来世でまた会えますように」

 トメは祈りを込めながら棺桶の蓋を閉じる。埋葬は明日だ。カザフと犠牲となった搭乗員の葬式が執り行われる予定である。



 ここは魔法省大会議室。そこに魔法省長官はもちろんのこと、ムラカミやファーディナントの姿もあり、そして魔の騎士団団長のスピリットアローまでもがいた。

 彼はマジックマテリアルを取り逃がしたことで尋問にかけられていた。初めはノーモルダスキーニの反旗によって彼を同情する声も上がっていたがそれは長官の言葉で変わる。

「我々には魔法がある。そして君たちは世界最強な騎士団だと思っていたが思い違いだったかな」

「確かにそうだ。ノーモルダスキーニの艦艇だって戦艦1隻、装甲巡洋艦2隻、フリゲート4隻の小規模だったんだ」

其方(そなた)らの魔法なら問題なく奴らを一網打尽に出来ただろうに」

 ムラカミ、ファーディナントも掌を反した。参事官の男は彼らが勢いに乗ったマジックマテリアルに恐怖して縮こまったと非難するとスピリットアローは猛抗議する。

「断じてそれはない。だが予想外の展開があったことは事実だ」

「弁解は良い。結果的に君は旗艦を失った。そして騎士団の士気も下げてしまった」

 その通りだ。しかし中には彼だけに責任を押し付けることを反対するものもいた。

「そもそも、ノーモルダスキーニの行動に気が付けなかったアーク連邦正規軍にも責任があるのでは」

 それに対して魔法省に出航していた連邦正規空軍中将はこう答える。

「確かにそうかもしれん。だが彼の行動は意外にも思えるが我々の答えを出してくれているのかもしれないのぅ」

「おい! それはつまり、奴らに正義があるということか!」

 ムラカミが怒号を上げる。正義という言葉にスピリットアローが反応する。激戦のさなか、ノーモルダスキーニにから聞かされた言葉だ。

「我々はアークを守っています。あなた方を守っているわけじゃありません。あなた方が非行に走れば排除しなければなりません」

「何を!」

 立ち上がり今にも飛び掛かりそうなところをファーディナントが宥める。そして長官は立ち上がると咳払いをし口を開いた。

「其方らもノーモルダスキーニの一件に手を焼いていることは良く分かった。それはそちらに任せよう。それよりも、今は君の責任をどう取るべきかだよ。スピリットアローくん」


 尋問が終わり、続々と会議室から高官が現れる中、廊下では第IV特殊部隊隊長のベスラが彼を待っていた。暫くして彼が引きつった表情で出て来ると彼女は何があったのかを訊ねる。

「直ぐに皆を集めろ」

「第VI部隊隊長だけは哨戒任務で不在ですが」

「いる連中だけで良い」

 彼女は頷いて7つある特殊部隊の隊長だけを召集させた。スピリットアローの統率力は素晴らしくものの5分で集合する。

「集まったか。と言ってもジョーズはいないか。まぁ良い」

 第VI特殊部隊の隊長のことだ。彼抜きで話を進める。

「先ほど、私の処分が決まった」

 この言葉に皆が騒ぎだす。ベスラが黙るよう言い聞かし彼の次の言葉を待つ。

「第I特殊部隊は解散し、代わりに第I直轄部隊が出来た」

「直轄……部隊?」

「そうだ、指揮官はベネディクト長官だ」

 一同騒然となった。長官直々に部隊を動かすことは信じられなかったからだ。

「ということは第I特殊部隊だけ魔法省直轄の部隊になるのか?」

 その通りだ。ムラカミやファーディナントのように魔法省が全権限を委ねられる状態となるのだ。つまり魔の騎士団、第I特殊部隊は魔法省に吸収されてしまったのである。

「そ、それでこれから私たちは誰の指揮で……」

「ベスラ、お前がやるんだ。だが、最高指揮権は長官のものになった」

 ということは、彼女が現場で指揮を執っていても遠く離れた状況すら分かっていない長官が指示を出せさえすれば、その命令に従わなければならなくなるということだ。これには他の隊長が怒り狂った。

「俺たちはスピリットアローに着いてきたんだ」

「お前が降りるなら、俺も降りる」

「ていうか、騎士団を解散にすれば良いじゃんかよ」

 満場一致だった。彼の人望は厚く統率力もピカイチだ。彼以外の人間に指揮を任されるようならば退団すると言い張る。これはベスラも同意見だった。

「私は指揮を執るつもりはない。スピリットアロー、この際解散してはどうだ?」

「残念ながらそれは出来ない。私の再配属先を言っていなかったな」

「どこなんです?」

「ジャガイモの皮剥きじゃないですよね」

 彼は苦笑を浮かべると重い口を開く。

「お前たちの監視だ。退団すれば反逆罪で逮捕。見逃せば連帯責任で全員銃殺刑だそうだ」

 これには開いた口が塞がらなかった。長官は既に魔の騎士団、デモスムントを手中に納め、(のが)れられないよう囲んでいたのだ。そして自由に行動出来ぬよう団員には同士という敵を作り足枷を履かせているのだった。

「彼は一体、何をしようとしているのだ」



 同じ頃、ヴィクトリアを探しに旅立ったカーサスを乗せた高速輸送機サンシャインは今、イーストライン上空を飛行していた。

「コールスマンまであとどのくらいだ」

「約10時間くらいかな……っと」

 機体が振動し始めた。ピーターが中翼側に付いているボタンやレバーを引くと振動も治まる。

「あのー、さっきからこの揺れって何?」

「さぁね」

「それどういう意味だ」

「さぁね。俺にもわからん」

 アーサーが使い物にならないため機械を調整した少年に訊ねるも無口だったがためにどうしようもなかった。

「ここ最近オーバーホールをしなかったからかもな」

「何だって?」

「1年に1回オーバーホールをしないといけないんだ」

「3年やってない」

 ピーターの言葉に凍り付いた。

「つまり、おんぼろ飛行機ってことかよ」

「おんぼろゆーな。高速で飛べるんだぞ」

「機体が揺れるってことは空中分解寸前なんじゃねーのか」

 その通りだった。幾つものビスやネジが緩み振動していたのだ。

「運賃半額だからな!」

「なんだと!」

 言い争っている間に、また振動する。今度は長い時間振るえていた。

「ピーター、コールスマンまで保ちそうか?」

「なんとかやってみる」

 なんとかやって出来るものなのかとカーサスは後ろで拝見していると少年は両手を翳して何かをし始める。

「見てろ、ピーターはこれでも魔法使いの卵なんだから」

「魔力は失われているはずじゃ」

「魔法石がある」

 少年は無言で意識を集中させると機体の振動が弱まっていくのを感じた。魔法の力でビスやネジを締め修復しているのだ。

「無詠唱の上、杖も使わずに発動するのって凄いことなんじゃねぇのか?」

「そうなのか? 俺は魔法を使えないし、こいつ以外が使ってるところを見たことが無いからな」

 無詠唱且つ魔法道具の無使用は上級者でも難しい。言葉と道具の波長を合わせた上で自身の魔力、または魔法石の力を使って発動させるからだ。集中力や精神力、知力そして内に秘めた魔法力などが必要なのである。

「これで少しは、保つ……」

 白目を剥きながら気を失いカーサスは心配した。少年がいなければ敵が来ても追い払うことが出来ないし、機体をメンテナンスすることも出来ない。

「大丈夫、俺がなんとかする」

「それが一番、信じられん」

「おい……。まぁ、ピーターが久々に魔法を使ってくれたからコールスマンまでは保つぜ。着いたらオーバーホールしないとなぁ」

 魔法で全て解決すれば良いと思ったカーサスくんだが、ビスやネジはもちろん様々な機器は耐用年数が決まっており、期限内または数十の飛行回数以内に交換が義務付けられている。これは客の安全はもちろんのこと、自身の保障にも繋がる。最も、遵守する真面目な人間は少ないが。

「俺にはサンシャインしかいないからな。大事に使ってやらないと」

「その割りにはほっといているよな」

「オーバーホールには金や金と物と広いスペースが無いと出来ないんだ」

「気のせいかな、金というワードが2回聞こえたぞ」

 新品を使うためオーバーホールには場所と金が必要だった。さらにこのサンシャインは特注品の部品のもありかなりの値が張るらしい。

「オーバーホールはしてなかったが小さな修理でやってきたのさ」

「壊れたら直すっていうやつか。死んだら法が変わるみたいな奴だな」

 何も言えない彼を見てカーサスは笑った。ふたりはからかいながらコールスマンウィンドウを目指す。


 その頃、マジックマテリアルのある本拠地ではウズベやカザフの葬儀が終わり哀しみの中、ハーヴィーが次の任務を提案していた。

「もう、短期決戦に移行すべきだと思うんだ」

「そうだね。ノーモルダスキーニ将軍も来てくれたし」

 このまま戦い続けると犠牲も多くなりかねない。戦力が十分にある今こそ魔法省に乗り込み長官を拘束すべきだと意見を発信した。

「そうだ、今ならやれる!」

「無敗の俺たちが負けるはずが無い!」

「やってやろうじゃんかよ!」

 多くの者が賛同し反対派は殆どいなかった。

 早速、ハーヴィーとヴィクトリア、ノーモルダスキーニは奇襲戦法と搭乗員の割り振りをすべく各船の船長や同志の長と会議を開く。その間に待機していたタケルやトルトニは必要な物資を各飛行船へ運び入れるよう同志に伝える。


「我が方の戦力は戦艦カエルム・フォーチュナーの1隻、ロリータとワンワンの装甲巡洋艦2隻、ヴィンクルムを含むフリゲート5隻だけだ」

 ノーモルダスキーニが飛行船を型取った模型をアーク連邦の地図の上に置く。そして小さく飛行機を型取った模型を12個並べながら戦闘機隊長のハインケルが言う。

「俺たちも戦力になりますぜ」

「そうだったな」

「しかし、戦闘機が12機だけだと心許ないな」

 相手は無限とも言える数の航空機を持っているからしてまともに戦えば勝ち目はない。

「事前に飛行場を叩けば問題ならんだろうが」

「無理だな」

 戦力を分散するわけにも行かない。それに分散させるほどの戦力も十分に確保できてはいなかった。

「因みにアーク連邦正規軍の1個旅団の本当の戦力はどのくらいなんです?」

 ハーヴィーが訊ねた。すると意外にもノーモルダスキーニが編成した艦船と同等の数が該当するのだという。その代わり必要数以上の戦闘員は確保されており欠員がいない状態だ。

「数は正規の1個旅団の方が上か」

「問題は俺が出て来たことで本腰入れられたら手も足も出ないってところだ」

 どういうことか説明が求められた。

「俺たちは陸軍なんだ。だから上陸も出来る戦闘艦の構成になっているが空軍はまるで違う。空母の数も半端じゃない」

 正に空を防衛するがごとく、ガチガチの防空構成となっているらしい。

「空軍元帥の直轄部隊が出て来たらお仕舞いだ」

「彼らの艦艇と航空隊は数で物を言い、おまけに力もありますからね」

 口々に船長らが言う。

「それほど強大な力を持っているのか」

「あくまでも(やっこ)さんが現れたらの話だ。アーク連邦正規軍は基本的に魔法省の一件とは関わりが無いからな」

「要請があるまで手出しは出来ませんからね」

 それを聞いて安心したが予断は一切禁物だ。するとヴィクトリアがある提案をした。

「戦闘機隊をボクに預けてくれれば何とかできるかも」

「どういう意味だい?」

「これは非常に危険な作戦であり、賭けなんだけど……」

 彼女作戦はこうだ。魔法石を持った戦闘機をコールスマンウィンドウ上空の各地点に配置し、ヴィクトリアが中心部で魔法を発動させる。これにより全て魔法を無効することで敵の戦力を欠くというものだ。

「リスクが高すぎる。1機でも戦闘機を失えば作戦遂行が出来なくなる」

 ハーヴィーの意見はごもっともだ。そこで機動力の高いヴィンクルムが囮として敵の目を引き付ける。その役を彼にお願いしようとした。

「なるほど。でも魔法を無効にするくらいなら範囲内の機械を停止すれば良いんじゃないだろうか」

 この発言にノーモルダスキーニが口を開く。

「俺たち一般人にとって魔法が一番の厄介物だ。どちらか一方にあるとすれば押し切られちまう。前回の戦いは上手く行ったが今回は敵の総本山。前のようには行かねぇってことさ」

 彼の言い分に賛同する自身でも魔力を失い、如何に魔法が恐ろしいか知ったからだ。

「その後はどうするんです」

 ハインケルの問いに誰もが耳を傾ける。

「ボクが中心部から魔法省に向かう。ハーヴィーさんたちもヴィンクルムから近くの地上に揚陸して合流する。ノーモルダスキーニ将軍は上空で支援する」

 模型を魔法省のある地区の周りに配置させながら説明した。戦闘機隊は魔法陣発動後、各飛行場の駐機している航空機を叩くことを任務とした。

「これがボクの提案する作戦なんだけど」

「これってヴィクトリアさんが一番危険だよね」

「言い出しっぺだからね。それにこんなこと、ボク以外にはさせられないよ」

 彼女の決死の覚悟に反対する者はいなかった。皆、覚悟を決めこの提案に賛同する。

「早朝には実行させたい。11機の戦闘機隊員の方は自分がどこの地点に配置するか地図で確かめておいて」

「了解です」

「ハインケルさんはボクを中心部まで運んで」

「了解、大将」

 直ちに出発の準備が実行された。情報が漏れることを心配した彼女は部下に一切伝えることを禁じた。代わりに重要さを強調して任務に当たるよう命令させる。

「タケルとトルトニさんは?」

 ふたりを探すハーヴィーに同志たちが一杯引っ掛けるためにバーへ向かったことを聞かされて激怒する。

「またタケルが彼を強引に連れて飲みに行ったな」

 怒りながらバーへ行く彼を見送りヴィクトリアはトメのところへ向かう。重要な任務を彼女だけには伝えたかったからだ。


 トメはヴィンクルムの医務室で薬品の補充をしていた。

「話したいことがあるんだ」

 ヴィクトリアは作戦内容を伝えると彼女は驚いた。自身に伝えても良かったのかと。

「君は信じられるし、分かっていた方が動けると思って。それから……」

「これは!?」

 彼女に魔法の杖の元をプレゼントした。この杖に使用者の髪や骨を埋め込むことで個人の杖となる。

「ノーモルダスキーニ将軍に頼んで買ってきてもらったんだ」

「ありがとう。でもまだ使えないね」

「もう少しの辛抱だよ」

 その言葉にトメは心配した。彼女が死んでしまうのではないかと思ったからだ。

「危険な作戦なんでしょう」

「ボクにしか出来ないことだからね」

「無事でいて下さいね」

「もちろんだよ」

 彼女はそう言って準備があると医務室を後にする。トメは魔法の杖を胸に抱きしめ、

「ありがとう」

 と口にする。


 日はすっかり落ち、よるの帳が降りる頃、ヴィクトリアはひとり、生成工場で魔法石の回収に当たっていた。そこに足音が聞こえる。

「何者だ」

 彼女が身構えると同時に背後から羽交い締めに合う。そして目の前の暗闇から突如人影が現れるやいなや、ナイフが自身の心臓に刺さる。

「うぐっ!」

 激痛が走り体が自然に暴れだすが拘束されているため身動きが取れない。さらに人影はナイフを抜き取ると彼女の腹部の大動脈付近に切り込みを入れた。

「グハッ!」

 鮮血が飛末し、人影にも降り掛かる。するとそこにハーヴィーがやってきた。

「危ない、逃げて……」

「ヴィクトリアさん!?」

 擦れ声だったが彼女に気が付き人影が彼に近付く。しかし銃を携帯していた彼は接近する敵に対し発砲する。

「っ……」

 命中はしたが致命打にはならなかった。しかし逃走し、羽交い締めをしていた敵も逃げようとしたがヴィクトリアの必死な拘束により正体がバレてしまった。

「る……ルール!?」

 スパイの正体がはっきりした瞬間だった。

「なぜ……。ウズベもやったのか」

「俺じゃない。だが、マジックマテリアルはもう終わりだ」

 彼の言葉の後に銃声がもう一度鳴り響く。ハーヴィーが始末したのだ。情報を聞きだすことも出来たがそれよりもヴィクトリアを救うことが先決だと判断した。

「血が……止まらない」

 彼は必死に今までの知識を使い止血しようとしたがウズベの時と同じく、ナイフに毒が塗られていたようで出血が止まらなかった。

「止血なんてしなくていいよ。どうせ死ぬから」

「何言ってんだ!」

 だが何も出来ない彼は彼女の心臓が止まるまでただただ見守ることだけしか出来なかった。

「大丈夫、ボクは死なないから」

「何言ってるんだよ。分からないよ!」

 やがて出血が治まると彼女は言葉を発しなくなった。つまりそれは死んだということだった。

「うわぁーっ!!!」

 彼は泣き叫ぶ。自分にとって大切な人が今日だけでふたりも死んだからだ。

「何故なんだ。何故こんな……僕は、ただ魔力を取り戻したいだけなのに、こんな……うわぁーん!」

「はぁ、痛かった」

「うぎゃーん!?」

 突然起き上がるヴィクトリアに彼の心臓は止まりそうになる。

「生きてるの?」

「うん」

「死んでないの?」

「うん」

「なんで?」

「ボクは不老不死だから」

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