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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
30/101

第4話「1時間の死闘(前編)」

 星暦427年4月1日、アーク連邦の首都であり星の中心、星都コールスマンウィンドウにある魔法省で爆発事件があった。重鎮は死傷し機能を失った同省だったが25日、新魔法省として復活する。

 しかしながら新任の長官によって魔法使いの魔力を制限化する法律が2日後に施行すると発表され、ヴィクトリアはデモ隊との反乱者とともにマジックマテリアルという組織を設立し対抗した。同志が増える一方でヴィクトリアは風の精霊、ウィンディーとともに先陣を切るため魔法石生成工場を襲撃する。

 重傷を負わされながらも治癒魔法を使って見事魔法石を奪取した。そしてマジックマテリアルの団長、ハーヴィーは新たな作戦を実行すべく準備を進めていたのだった……。

 辺りが暗くなる中、ハーヴィーは皆に休みを取らせつつ村の拡張と防衛のための障壁と自衛兵器の設置に尽力していた。ヴィクトリアが休んでいる中、オースチンやカザフの力で同志たちが次々に集まっている。

「ざっと500人は増えただろう」

「助かります。村の手入れもトメたちがしてくれたので安心ですね」

 彼らは話しているとウズベが時間を気にしている。彼に直接的な影響はないがそれ以外の人たちに影響があった。

 もうじき午後16時を回ろうとしているのだ。因みに惑星アークの自転周期は48時間である。

 午後16時から1時間、全世界の魔法使いの魔力が消失するというのだ。これは神であるヴィクトリアにとっても例外ではない。

「例え1時間経って魔力が戻っても、明日になればまた魔力を失うからな」

「そやで、ホンマ腹が立つわ。長官を(しご)いてやりたいで」

 そんな気持ちを顕にしながら彼らは作業を進めていると休んでいたヴィクトリアがやってきた。

「もう大丈夫なんか?」

「うん、少し寝てたから」

 トメにはもう少し休むように言われたが皆の迷惑を考えると居ても立ってもいられなかった。

「あと1時間くらいで例の時間だね」

「そうだな。本当にやるのか?」

「もちろんだよ」

 ウズベは心配した。彼女は再び大きな作戦に出ようとしているのだ。

 それは魔力の消失時間帯中にコールスマンウィンドウの新魔法省への下見を敢行することである。彼らもまさか魔力を失った時間帯に懐へ飛び込むとは思ってもいないだろう。

 しかしながら、油断は出来ない。消失するといっても魔法省や魔の騎士団、デモスムントの魔力が無くなる保障は何処にも無いのだ。

「10分前にハーヴィーさんとオースチンさん、トメさんとで現地入りするから」

「あいつから聞いたよ。こっちは任せとけ」

「儂たちがおるから此方は安心するが良い」

 カザフ老師も話に加わった。彼が居れば皆をまとめることが出来る。それもあってか、マジックマテリアルの副団長に任命されていた。

 ヴィクトリアは初め、ウズベが適任だと思っていたが彼は同じ魔法使い同士の方が同志らを導くのに適任であると辞退していたのだ。彼らしいといえば彼らしい。しかしハーヴィーの補佐的立場は変わらずに行っている。

「トルトニさんとタケルさんは彼を手伝ってね」

「わがっだ!」

「わーってるで。ワイが居れば百人力や」

 彼の冗談に皆が笑っているとトメたちが手料理を作って持ってきてくれた。材料は飛行船内にあったものと同志らが持ってきた食材で作ったシチューだ。

「そう言えばお腹が空いてきてたな」

「ウマいでコレ!」

「レストランで出るどのシチューよりも美味であるぞ」

 非常に好評でおかわりを求める声が続出する。トメは皆にお礼を言っておかわりを差し出した。

 満腹になった彼らにハーヴィーが声を掛ける。そろそろ出発の時間だ。

 ヴィクトリアが転移魔法を使おうとした時、トメが代わりにやると言って譲って上げた。

「じゃあ今度こそ魔力の提供を」

「皆でやろう」

 そうして彼女は深呼吸をすると呪文を読み上げ、

『転移魔法、発動』

 ヴィクトリアたちはコールスマンウィンドウへと旅立ったのである。


 コールスマンウィンドウは生憎(あいにく)の雨に見舞われたいた。じとじととした小雨が降り注ぎ、街中(まちなか)はしんと静まり返っている。

 普段は数多の人種が昼夜問わず商店や貿易で行き交っているが、今はその面影すらなかった。ただ、オースチンによると私服姿の警備兵が至る所で警戒に当たっているとのことらしい。

 彼らは転移先の街に近い森林地帯から関所の方角へと進んでいくとその場から少し外れたところまで移動する。堂々と関所を通るわけには行かないのだ。今や彼らは立派な犯罪者であり、魔法省から指名手配されている反乱者だった。

「街を取り囲む壁を登るしかないな」

「いや、まだ魔法は使えるから……」

 そうヴィクトリアは壁に魔法陣を描くと小さな扉を作った。そして何かあれば、ここから逃げることを彼らに共有すると街へと入って行く。

「あと3分くらいか」

 懐中時計に目をやるハーヴィーにトメが不安気に(こぼ)す。

「どんな感じで魔力が無くなるんだろう。痛いのかな」

 その言葉に誰もが不安になる。ヴィクトリアも同じだ。しかし死ぬ痛みよりかはずっと楽だと思っていた。

「多分、気持ちがすぅっと軽くなる感じじゃないかな」

 オースチンが答えた。もちろん彼にも本当の答えは分からない。少しでも痛みを和らげる気持ちでいたいのだった。

「カウントするよ。1分前……」

 とうとうその時が来る。懐中時計の針が間もなく午後16時である16の数字へ指される。因みにハーヴィーが持っている時計は24つの数字が刻まれている。

「15秒前……。誤差はあるかも」

 固唾を呑んで彼らは刻を待つ。そして刻一刻と迫り、

「3、2、1……」

 彼が最後の数字を言おうとした時に街中を巨大な鐘の()が響く。新年に一度だけ鳴ると言われている星廳(せいちょう)の鐘だった。

 星廳とは全世界の国を統括する組織であり、謂わば星の代表者がいる庁舎のことである。魔法省と同様に中枢機関が集まる場所に立っているが、普段は隠蔽や妨害魔法にジャミングなど建物が何処に建っているのか分からない。

「あ、あれを見ろ……」

 オースチンの声が震えている。そして指を差した先を見てみると魔法省が立っている場所の後方に巨大な石柱のようなものが建っていた。

「なんだ……」

「すごい高い……」

 開いた口が塞がらない。

 巨大な四角錐型の石柱は凡そ300メートルに届き、頂上付近はうっすらと雲に隠れていた。あれこそが星廳である。

「鐘の音はあそこから聞こえる」

「あれが星廳なのか」

 思わず街中の人たちも窓を開けて眺めたり、外に飛び出しこの珍事を目の当たりにしていた。

 普段はどこからともなく聞こえる鐘の正体は星廳だと知りハーヴィーはその光景を目に焼き付けた。一方のヴィクトリアは心の中で、

「確か……5階建て位の建物で昔は誰でも見られたのに」

 と思っているとウィンディーが彼女に囁いた。

「どうやら二代目の星帝(せいてい)が100年の歳月を懸けて完成させたらしいですよ」

 星帝とは星廳の頂点に君臨する謂わば大統領や首相、天皇や王などと言った国民や貴族感のトップである。それ即ち、アークで一番偉い御方なのである。

「一代目はアーク兄さん自身がやってたけど代わりの奴が見付かったのか」

 星廳の仕事は星を治める。各国省庁の総合職的なもので許可を取るために星帝がいるのだ。通常、式典などにも顔をめったに出すことはないが、アークファミリアが一度に集まるレシンチといわれる儀式の日だけは姿を現すらしい。そのレシンチの儀は777年に一度と云われている。

「そうだ、魔力は? 魔法は使えるの?」

 余りにも皆が気にしていなかったためトメは話題を作ると皆が一斉に使用してみる。

『移動魔法、発動』

『変色魔法、発動』

『属性魔法、発動。火ノ(フィレワール)

『属性魔法、発動。龍ノ(トルナード)

 するとあろうことか全て発動してしまい街中がパニック状態に陥った。警備兵と警察隊が押し掛けてくると慌てて人目の付かないところまで逃げ、

「なんで使えたんだ」

「一体、何がどうなっているんだ」

 など言い合い息を整えているとハーヴィーが大声で叫ぶ。咄嗟に口を押さえてことなきを得たが彼は皆に自分の懐中時計を見せる。

「なんだと……」

「そんな、まさか」

 なんと午後17時を過ぎていたのだ。つまり既に1時間が経ってしまっている状態だ。確かに雨は上がっており、微かだが路面も乾いている。

「いつの間に……」

 皆が思考を停止している傍らでヴィクトリアは唇を咬み、

「やられた。油断してた……」

 そう思い自分を責め立てた。気付くことが出来ていれば対抗魔法で未然に防ぐことが出来たからだ。

「どうする」

「作戦は失敗だから引き上げるしかないのでは」

「仲間たちに何て報告するんです」

 3人は言い争いをしているとヴィクトリアが解決策を提案する。それは時間魔法の存在だ。

「なんですか、それ?」

 誰一人として彼女の言った言葉に理解出来なかった。寧ろ初めて耳にする魔法だったのだ。

「時間魔法は過去に戻ることが出来る魔法なんだよ」

 その言葉を聞いて耳を疑った。信じられなかったからだ。過去に行けるということは未来にも行けるのか、ハーヴィーは気になって仕方がない。

「残念だけど未来には行けないんだ」

 未来は刻々と変化するもので現在に戻ることが出来なくなってしまうからだ。逆に過去ならば二度と訪れることが無いため可能らしい。

「でもどんな風に過去へ戻るんだい」

 オースチンの質問に彼女は皆がわかるよう答える。

 どのようにして過去へ戻るのかというと、魔法陣内にいた対象者を過去の世界に転送し、現在へ戻ってくるためには転送された魔法陣に乗って帰るというシンプルなものだった。無論、いくつか注意事項がある。

 ひとつは現在から過去へ移動する際、前者の世界では過去に行った対象者は存在しないこととなる。そして1時間、過去で滞在したならば現実世界も同等の時間が過ぎることになる。

 ふたつは滞在時間が決まっていることだ。術式に組み込む際、時間を指定してしまうため延長することは出来ない。

 1時間の滞在ならば魔法陣は該当の時間を過ぎてしまうと消えてしまう。もし仮に間に合わなくなってしまうと二度と現実世界へは戻れずに消滅してしまうのだ。

「恐ろしい……」

 消滅することにトメは身震いするとハーヴィーが気になることを訊ねた。

「帰ってこれなくても過去の時間で過ごせば良いのではないだろうか」

「あ、確かに」

 オースチンも賛同する。しかし彼女は首を横に振った。

 そもそも時間魔法は現在の時刻から必要に引いた時間の過去に戻ることが出来るわけである。そして移動後の現実世界には対象者の姿はない。つまり過去の世界から現実世界、即ち過去へ向かった時刻に辿り着いたとしても現実世界ではそこから先の時間に自分たち存在しない。だから消滅してしまうというのだ。

「なんか難しいけど、もし間に合わなかったら死、あるのみってことだね!」

 トメの言葉にふたりは同意した。だが、何故ヴィクトリアは時間魔法の存在を知り、こと細かく知っていたのか不思議でならなかった。

「時間がない。どうする?」

 彼女は時間を気にする。出来れば制限時間を1時間以内にしたいようだ。

「2時間でも3時間でも良いんでしょう」

「可能だけど、皆が止まっていたとされる時間内で動いた方が良いんじゃない」

 皆は納得すると悩んでいられる時間も残されていないと分かり彼女に任せた。それは賛同を意味するため4人は人気のない森の中へと戻っていった。

 そこでヴィクトリアは丁寧且つ迅速に魔法陣を描いていく。通常の魔法陣よりも3倍大きく、描画チョークを丸々1本使うほどであった。

 既に時刻は午後の17時15分を廻り、15分ものロスタイムが生まれてしまっている。

「まだ出来ないのかい」

 悪気はなかったがオースチンは他人事のように訊いてしまいハーヴィーやトメに注意された。それでも彼女は気にすることなく描いていく。

「出来た。取り敢えず制限時間は70分にしておいたよ」

 現在時刻は午後17時17分。4人は魔法陣の中へ入るとヴィクトリアは呪文を唱え始めた。制限時間が開始されるのは魔法が発動されてからだ。

『時間魔法、発動。制限時間、70(セヴンミニウ)

 いよいよ出発の刻だ。4人はどす黒い霧の中に包まれていく。完全に包まれる頃には外の景色が見えなくなっていた。

「ところで気になったんだけど……」

 皆が唖然と口をあけている中でハーヴィーは切り出した。

「過去に戻った時、僕たちは魔法を使えるの?」

 その疑問に皆が頷いた。確かに1時間前は魔力消失の時間だ。仮にその通りだとすれば彼らは仕えないことになる。しかし、

「安心して。未来から来たボクたちには過去の干渉を受けない。少なくとも制限時間内はね」

 何故そうなるのかは説明しなかった。恐らく理解出来なくなること間違いなしだからだろう。

 額に一滴(ひとしずく)の汗を見せるヴィクトリアにハーヴィーが気が付いた。息も多少上がっているようだ。

「やっぱり魔法提供をした方が」

「ダメ、絶対に」

 頑なに拒む彼女は深呼吸をすると再び意識を集中させる。彼は先のことよりも彼女のことだけを心配した。

「こっそり魔力を……」

 杖を握ろうと内ポケットに手を入れると彼女が突然、

「構うなッ!」

 大声で怒鳴り彼はポケットから腕を外に出した。皆が初めて見せる怒声に驚きつつ移動が完了するのを待つ。

「何も怒んなくったって……」

 彼はそう呟くとやがてどす黒い霧が薄くなっていくことに気付いた。それは皆もはっきりと分かる位にまで晴れて()く。

「着きました、70分前の世界に」


 遂に人類は初めて魔法を使って過去の世界に時間旅行、タイムトラベルを果たす。その世界は一切の音が消え去り、ただ無音の時間が過ぎて行く。

「でも風はある……」

「なんか心地が良いね」

 風だけが吹く世界に見惚れているとハーヴィーが首を横に振り時間が限られていることを皆に告げる。そして行動を開始する。

「その前にちょっと良いかな」

「なんだよ」

 (あいだ)に入って来たヴィクトリアへ彼はぶっきらぼうに答える。先ほどの怒号を根に持っているのだ。

「何度も言うようだけど、制限時間が迫ってきたら必ずこの魔法陣内に入ってね」

「分かってるよ。何弁も聞いた。行くよ」

 いつもと態度が違うことに彼女は気付いていた。しかし我慢する。これは彼らのタメでもあるのだ。

「ここから魔法省まで歩いて10分も掛かる。往復20分となると悠長にしていられない」

「任せて」

 トメが杖を取り出して皆に移動魔法を振り掛ける。これで移動速度が増し、1分で到着することが出来た。その道中、彼らのいた道をほんの数コマを通り過ぎたのだが彼女は妙なことに気が付いた。

「あれ……、ひとり足りなかったような」

 時間は止まっている。街にいた動物は死後硬直のように停止し、それは人間も同様だ。彼女たちもその時間帯には同じ現象に遭っていた訳だがひとり足りないとはどういう訳か。

「ううん。今はやるべきことに集中しよう」

 トメはそう言い聞かし。仲間とともに魔法省へ向かう。彼女の後ろではヴィクトリアが鋭い眼光で見つめていた。

「良かったですね、気が付かなくて」

 隣では彼女にしか見えないウィンディーが囁いた。

「神はどんな時間にも干渉されない唯一無二の存在……例え過去の世界で時間が止まっていようがボクはひとりだけしか存在しないからね」

 時間が止まっている過去の世界にはハーヴィー、オースチン、トメだけが共に不動している。その中に彼女の姿はなかった。

「気付いてたらどうしました?」

「その時はその時だよ。別に神であることを言ってはいけないルールなんてないからね」

 ただ単に面倒な事を起こしたくないのだ。彼女は面倒臭がり屋なのだった。


「この階段を昇れば魔法省だ」

 1秒も掛からずに4人は昇ると中枢機関の集まる地区へ辿り着いた。そこには少数の市民たちが刻を止めて佇んでいる。

「本当に止まっているんだな」

 オースチンがひとりの老人の肩を叩いて驚いた。それからハーヴィーはあることに気が付く。それは星廳が見えているということだ。

「僕たちがコールスマンに着いた時は見えなかったよね」

「うん、何も無かった」

 どういう訳なのか。彼は疑問に思いつつ魔法省へと近付いた。すると魔法省のある一角だけ、何か違うことに気付く。

「人の気配がするね」

「声も聞こえる」

 さらに近付いてみると敷地内から声が聞こえてくる。それは衛兵たちの声だった。

「この敷地から外は停止時空間らしいな」

「よくわからんが、まぁ簡単に言えば外に出たら体が動かなくなって刻が止まっちゃうよってことか」

 笑いながら話をしていることに4人は落胆した。魔法が消失している間の1時間、魔法省は機能をしていないと思っていたがそれは大外れだということ。そして首謀者でもあった、ということだ。

「まぁ、予想は少なからずしてたけど」

 ハーヴィーは作戦を変更しこの状態のままで魔法省を調べることにした。二手に分け詳しく調査を望んだがヴィクトリアはそれを許さなかった。彼女は4人全員で同じ行動を取ることを進める。これが確実であり、何より彼女自身が皆を守れるからだ。

「君には感謝している。けれど、まだ僕はアレを許したわけじゃないよ」

 ハーヴィーは珍しく捨て文句を言うと側壁に回る。トメとオースチンは彼女に優しく声を掛けた。

「大丈夫です。私たちは気にしてませんから」

「彼は少しでも力になりたいと思っているからね。だけど君にも何かしら理由はあるのだろう。それが分からない、理解しがたい人もいるってことさ」

 その言葉にお礼を言い3人も側壁へ向かう。

 オースチンが皆に透過魔法を掛けると彼らは側壁を()じ登る。そして衛兵に見付からないよう敷地内に降り立つ。

 彼らの直ぐ近くでは小銃や剣を携帯していた衛兵が談笑している。例え透過していても声や音は聞こえてしまう。また、身に付けている物以外の物体を手に持つと透過はされず他者からは浮いているように見えてしまうのだ。

「迅速且つ慎重に降りよう」

 だがそう簡単に上手く行くわけではない。トメが内ポケットに入れていた杖を落としてしまった。

 落ちた拍子に透過魔法の効力が消え、杖は丸見えとなってしまった他に落ちた先が運悪く側壁の段差で音が鳴る。急いで4人は地面に降り、その場から離れると気付いた衛兵が近付いてきた。

「誰の杖だ?」

「何処から落ちて来たんだ」

 不思議に思っていたものの敷地外は刻が止まっている。つまり外部からの侵入者が落とすことは出来ない、という先入観があったためか衛兵らは、

「きっと魔導部隊の連中が訓練中に投げ翳した時に飛んでいったものが運悪く側壁に引っ掛かって風で落ちてきたんだろう」

 そう思い込みもうひとりの男にも気にする必要はないと言ってことなきを得る。しかし一応上官に杖を渡すことを決めふたりは屋内へと行ってしまった。

「あわわ……杖が無いと魔法が発動しないです」

 描画チョークは携帯していたが、近々購入を考えていたようで1本しか手元になかった。前述しているが、杖やチョークなどの魔法を発動させための道具は術者自身の髪や骨が素材として入ったものでしか使用してはならない。他人の物でも可能だが何が起こっても文句は言えないのだ。

「無詠唱呪文なら杖なんかいらないじゃないか」

「そんな高等な術式、私には出来ないです」

 言い張るオースチンやハーヴィーでさえ無詠唱呪文は難儀且つ高等な術式であったがため彼らにも出来なかった。ただひとりだけ、この中に出来る者がいる。

「君は出来るのかい」

 ヴィクトリアだ。彼女は無詠唱呪文をウズベに見られたもののそれ以外の人物には見られてはいないため知る由も無かった。だが隠す必要も無いため、

「一応出来るよ。下手だけど」

 謙虚に見せるよう自白するとハーヴィーがトメに彼女の近くにいるよう促した。ヴィクトリアと一緒にいれば安全だからだ。しかしそれは彼女が一般人だと思っての発言だ。もしも仮に神であることが敵に気付かれてしまえば安全でなくなってしまう。

 それでもヴィクトリアはトメだけでなく彼らも守ることを心の中で誓う。だって、大事な仲間だもんね。


 4人が庁舎に入ると幾人もの衛兵や官僚が行き交っている。初めて入ったにも関わらずヴィクトリアは彼らを誘導していたことにハーヴィーは驚いた。理由を聞くとなんとなく旧魔法省庁舎に似ているとのことだ。

 外観は違えどやはり、旧魔法省を模倣して建設したようだ。これが短時間でも建設を可能にした理由に合点が行く。

「計算された建設と魔法制約法か……」

 オースチンが気付く。ヴィクトリアは頷いて歩きながら静かに話し始める。

「今の魔法だと強い者が何れ世界を滅ぼし兼ねない。そこで首謀者が制約法を作って逆に支配しようと考えているんだと思う」

 その首謀者に新魔法省長官のジョー・ベネディクトの名が挙がる。彼の線が濃厚だが背後に重要な組織が隠されていることも視野に入れた。彼がただの駒に過ぎないかもしれないのだ。

「魔法制約法は確実に施行される。でも違法であったことを突き付ければ世界は黙っちゃいないよ」

「その違法性を探すことだね」

 彼女は頷いた。しかしそう簡単には見付かる筈もない。そう分かっていても後には退けないのだ。

 4人は地下の間取りを調べることから始めた。地下はガス燈の原動力であるガスを貯めておくタンクや機械室の他に石炭や水などの貯蔵庫がいくつも存在した。しかし中へ入ることは出来ず詳細なデータは得られなかった。

 次に2階を調査することにした。因みに1階部分は出入口の他に会議室や大広間が点在している。

 2階は食堂や休憩室が目立った。他にも集中してトイレが整備されていたり、シャワー室やリネン室もあった。

 3階は魔法を取り扱った部署が幾つもあり、出入口にあった見取り図をトメが書き起こすと4人は4階へと移動する。3階と同じような間取りで部署だけが違うようだった。5階も似たり寄ったりなもので彼らは6階部分へ足を踏み入れる。

 そこは今までの階とは打って変わり魔法省直属の衛兵やデモスムントの指揮官が在中する派出所があった。ここで 各部隊に指揮を出すのだろうか。流石に室内には入る言葉出来なかったが間取りだけは正確に得ることが出来た。

「7階部分は何があるんだろうな」

 この階まではひとつの階段で行くことが出来たがこれ以上の階へ行くには別の階段で向かう必要があった。4人はその階段へ通じる廊下を歩いているとある部屋の前で足を止めた。

 その一室からは聞き覚えのある声が聞こえる。先ほどの衛兵だ。また、それ以上に立腹さえ覚えるほどの声が聞こえた。

 デモを起こしていたハーヴィーたちに対して拡声器を用い射殺の命令を出した張本人の声だ。彼は衛兵に何かを言っていた。4人は耳を澄ます。

「この杖は何処に落ちていたと言うんだね」

「はい、ムラカミ護衛隊長。これは側壁の段差に落ちていました」

 拡声器の男は衛兵を指揮する護衛隊長のムラカミという。そしてあの時に190センチほどあったとされる長身の男の声も聞こえた。

「ファーディナント魔導隊長はどう思う」

 彼の名はファーディナントというそうだ。暫く唸りながら考えていると咳払いしてから答えた。

「これは外部の者であると我が輩は思う」

「外部の人間のものか……。つまり既に侵入していると」

「そうかもしれません。この杖は我々の使うどのものにも当て嵌まりません」

 賢い回答に4人の脈が早くなる。トメに至っては自分の犯したミスで皆に迷惑を掛けたことにより震えていた。

「ごめんなさい、私……」

「大丈夫、まだ見付かっていない」

「急ごう。見付かるのも時間の問題だ」

 ヴィクトリアがそう告げた直後だった。ドアの向こうでファーディナントが大声で呪文を唱えた。

『解除魔法、発動』

「遅かったか……」

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