第3話「魔の騎士団」
星暦427年4月25日、遂にアーク連邦のコールスマンウィンドウにあった魔法省が新しく設立された。しかしそれは最悪の幕開けとなったのだ。
新魔法省は納税することによって魔法を開放することが出来る制約法を2日後に施行することを宣言。突然の施行に各地でデモが起きていた。
アークファミリアでもあるヴィクトリアは事態の真相を確かめるべく連邦に赴き、あるデモ隊と出会い、そして彼らとマジックマテリアルという反魔法省組織を創立する。彼らは魔法省と戦い、魔法使いが安心して暮らせる世界を作らなければならない。しかし、彼らの行動と裏腹に魔の手が忍び寄るのだった……。
アーク連邦ワイン自治区、ここはかつてチンクエテッレ共和国だった場所である。今から約250年前にヴィクトリアとカーサス、そしてミレイがシルヴィア・ナチョスとその仲間のタケカと対峙した。そしてワラジ虫という寄生虫に支配された国民、そうでない国民を国ごと葬り去った張本人でもある。
その日を境にチンクエテッレは崩壊、機能を失いアーク連邦に吸収された。それから年月を経てチンクエテッレの前身であった、ワインという国を復活させるべく幾つもの運動ののち自治区が誕生したのだ。
現在はアーク連邦の伯爵以上の爵位を持つ人物だけが統括を許されている。近年、市民による独立運動が目立ち近く行われる選挙で正式に独立の有無が決定される。
その自治区の最東端に位置するリゾット市の中央公園にヴィクトリアとトメは転移魔法から出現した。周囲には背の高い木々の他に修道士のような服装を身に纏った老人たちがいる。
「この人たちは!?」
驚いてヴィクトリアに寄り添うトメであったが彼らの中からひとりの老人が現れた。如何にも長老のような長い髭と年季の入った杖を持ち、よぼよぼしながらふたりに近付いてくる。
「お主らがマジックマテリアルの使者か?」
「カザフ老師ですね」
「左様。儂ら皆、心はひとつじゃ」
彼らは聖カイワレソウ教会の魔導師だった。ワイン自治区では有名な魔導師たちで伯爵家の護衛も担当するほどらしい。
「加盟して頂き感謝します。ですが二、三確認してもよろしいですか」
「構わんぞい」
「同志として活動するということは政府の方針に矛先を向けることにもなります。即ち伯爵家に反旗を翻すことになりかねませんが……」
するとカザフは大笑いする。咳払いをしてから髭を整え彼女たちに告げた。
「これは伯爵家の頼みでもあるのじゃ。儂らは反旗どころか期待という栄誉を与えられておる。失敗は許されないのじゃよ」
「なるほど。魔法が無くなればこの国も何かと不便になることか」
「その通りじゃ」
次に今すぐに同志としての活動をすることが出来るかの問いにも賛成の意を示した。またマジックマテリアルの本拠地に移動して活動出来ることも承諾したため、ヴィクトリアはトメに転移魔法を発動させるための魔法陣を描くように言う。
「今度は君がやってみて」
「わ、私がですか!?」
「もちろん魔力は提供させてもらうよ。転移先はボクたちが最初にであった崖の上ね」
「は、はい……」
声が震えていた。無理もない。失敗すれば飛散してしまう恐れがある。然程時間が残されていないが彼女は丁寧に且つ迅速に陣を描く。
胸の中では煩いくらいに心臓が脈打つ中で深呼吸をするとヴィクトリアとカザフたちを陣内に招き入れる。成功するか分からない。しかしらなければならないのだ。
「落ち着いて、意識を集中させるんだ。あなたなら出来る」
「はい……」
心臓がはち切れんばかりの鼓動を打ち続ける。もうあとには退けない。
トメはもう一度深呼吸をすると杖を握る。そして転移魔法の呪文を掛け始める。
「むっ、来たぞ」
ひとりの老人が空を指差した。ヴィクトリアが振り向くと息を呑む。
「あれは、一体……」
「流石魔法省……早いな」
ワインの首都がある方向に突如として1隻の巨大な飛行船が現れた。ゴンドラの下には旗が掲げられている。
「あれは何なのですか」
「魔法省直轄の騎士団、デモスムントだ」
「デモスムント……」
騎士団とは各国の正規軍みたく逮捕権や交戦権が与えられているが国の機関ではなく、あくまでも民間の組織である。各機関に所属されると専用の軍隊となる。
デモスムントは魔の騎士団とも呼ばれ、任務の成功率は90パーセント以上にも及ぶ。優秀な魔法使いや魔導師を揃え、神以上の力を持つと噂されている。彼らは任務のためならば犠牲は厭わない。
「神以上の力……面白いな」
ヴィクトリアの言葉にカザフたちは身震いする。感じたことのないほどの悪寒が一瞬現われたからだ。
「こやつ一体、何者なのじゃ」
そうこうしている内にトメは大声で叫ぶ。
『て、転移魔法、発動!』
それと同時に突然、周囲が爆発した。木々は木っ端微塵に吹き飛ばされたり倒木したりしている。
「何だ何だ!?」
老人らが狼狽えている間、ヴィクトリアとカザフはデモスムントの飛行船に目をやる。砲塔がこちらを向いていた。
「きゃつら、あの距離から狙ったのか」
2斉射目が放たれた時にはトメの魔力が最大となり転移魔法が成立していた。着弾と同時にヴィクトリアたちは姿を消す。
その数秒後、箒に乗った5人の魔法使いが魔法陣を調査していた。誰が使ったか、何処へ向かったかを調べているのだ。
「逃がしはしませんよ」
その中でも緑色の眼光を持つ女性が呟いていた。
危うく砲撃で倒されるところだった一行はとある村が見える崖の上に出現した。トメは胸を抑えて息を上げる。
「ごめん、魔力の提供が出来なかった」
「で、でも私にも出来まし……た」
そうして彼女はその場に倒れてしまう。憔悴したトメを担ぎ、一行は崖を下っていくと教会へ向かう。
「ハーヴィーさん、聖カイワレソウ教会の魔導師ご一行とカザフ老師をおつれしました」
彼は老師と握手を交わし共に魔法省を倒すことに同意する。
トメを仮設ベッドの上に寝かせるとウズベがヴィクトリアに地図と紙を渡す。地図は魔法石生成工場の場所が印されていた。
「お前とハーヴィーが行くんだろ」
頷く彼女。彼は腰に手を当てて振り向いて呟いた。
「女を前線に出したくはねぇ。俺が代わりになってやりたい」
「優しいんですね」
「馬鹿言うな。何処の馬の骨か分からんお前とハーヴィーが一緒にいたら心配だからだよ」
素直じゃない彼にお礼を言うと彼女は笑顔で付け加える。
「ハーヴィーさんは一緒じゃありませんから」
その言葉に彼は突っ掛かった。ハーヴィーからはふたりで行くと聞かされていたからだ。
「どういうことだ」
「彼に伝えて。直ぐに戻るから段取りだけ整えておいてって」
そう言い残すと彼女は転移魔法を発動させる。魔法陣無しの展開にウズベは驚いた。
「無詠唱呪文、初めて見たぜ」
「ふふっ」
彼女は笑うと閃光に包まれ消え去った。それから数秒後にハーヴィーがやってくる。しかしウズベが事情を話し彼は持っていた残りの資料を床に叩きつけた。
「一緒に行くって約束したじゃないか!」
「段取りだけ済ませておいてとか言ってたぜ」
「魔法石を奪ったらこの村を本拠地にするため遮蔽隠蔽魔法を掛けるんだ。それから色々武器や食糧も備えないといけない」
「なるほどな。こっちにも指揮官が必要ってことか」
だから彼女はハーヴィーを残したのだ。意図を知った彼も悔しさと感謝が入り交じる。本当は彼女と共に前線で戦いたかったのだ。しかし彼にもやらなければならない使命がある。
「急ごう。デモスムントが動き出したらしい」
「な、なんだと!?」
彼らの反応で如何に魔の騎士団が恐れられているか御覧頂けたことだろう。しかし時は既に遅かった。
デモスムントが罠を仕掛けて待っていたのだ。その場所とは、ヴィクトリアが向かった魔法石生成工場である。
現着した彼女が最初に感じたのは恐怖と畏怖の波動であった。しかし彼女には効果がない。何故ならヴィクトリアは神であるからだ。全ての頂点にいる様なものだからである。
「流石にナチョスとかなら怯えるけどね」
「そうですね」
彼女の横に風の精霊、ウィンディーがヒトの姿で現れた。第三者に見える姿で現れた理由は効率を上げるためである。その効率とは、
「不審者を発見!」
「2人だ、二手に別れたぞ!」
ひとりでも多くの兵力を分散させることだ。彼女たちは二手に別れると工場内へと侵入する。
「チョロいものね」
ウィンディーは一蹴りで壁を登り警備兵を撒く。ヴィクトリアの方も大体同じ手口で移動する。しかしそうは言っていられない事態に陥った。
「近付いてくる!」
咄嗟に屈むと背後から尖った氷塊が迫り地面に突き刺さる。
「危うく風穴が空くところだ」
そして突き刺さった氷塊は木っ端微塵に爆発すると細かい刺に変貌し彼女を襲う。だが事前に防御魔法と魔法障壁を展開し大事には至らなかった。
「何処から攻撃している……」
辺りを見ていると突然暗闇になる。上を見上げ彼女は前転した。そして真上から大きな石の塊が落ちてきたのだ。
もし仮に避けていなけれぱぺしゃんこになっていた。度重なる攻撃に彼女はウィンディーが心配になった。
「あっちは大丈夫かな。まぁ、最悪姿を消して帰ってくるようには言っておいたが」
気持ちを落ち着かせると突然地面に大きな穴が開く。というより地面が崩れていくではないか。
「くっ……」
間一髪のところで瓦礫を踏み台にして脱出し工場の屋根へ着地すると彼女の腹部に鋭利な鉄のナイフが突き刺さる。
「っ……」
滴る真っ赤な血が屋根を伝っていく。彼女はナイフを引き抜くと治癒魔法を展開し傷口を再生する。
「気を抜いていた。これは多勢に無勢……一筋縄じゃ行かないかも」
するとヴィクトリアの足にワイヤーが絡まり身動きを封じる。そのワイヤーは屋根の鉄筋を組み換えて作っていた。
『転移魔法、発動』
近くに立っていた煙突の天辺まで身体を転移させワイヤーから逃れる。だが風を切り裂く音が聞こえ彼女は飛び降りた。その刹那、煙突は跡形もなく吹き飛ぶと白煙が一帯に立ち込める。
「若干本気で行かせてもらうよ」
『属性魔法、発動。風神!』
彼女を包み込む白煙が一瞬にして晴れると周囲には箒に乗った魔法使いが取り囲んでいた。また頭上には飛行船が5隻停泊している。
「長官が仰られた通りだ。反乱者たちは魔法石生成工場を襲撃する。正解だな」
唯一地上に降り立ち彼女の目の前で話す男の正体は、
「私はデモスムント第I特殊部隊の隊長でもあり騎士団長のスピリットアローだ。趣味は氷の彫刻を創ること。このようにな」
彼は頭上を旋回して飛んでいたトビに杖を振り翳すと氷塊になり男の手へ導かれる。そして凍ったトビを手に持つとヴィクトリアにその美しさを語り始めた。
「生きたままの状態で凍らせると躍動感が生まれ、素晴らしい作品が出来上がるんだ。見たまえ、この羽ばたく鳥の姿を」
彼は異常だと感じ一歩退きさがる。周囲の魔法使いはそれを見落とさず杖を彼女に振り翳す。
「待ち給え。こいつは一斉に掛かった方が良い。今までの任務で出会った誰よりも魔力が強く、そして手強い相手だ」
持っていたトビの氷塊を天高く放り投げると閃光と共に鳥は羽ばたいて飛んでいく。
「罪もない生き物を拘束するのは可哀想だ。しかしお前は違う。各員、奴を捉えろ。殺しても構わん!」
一斉に魔力の波動を感じたヴィクトリアは転移魔法を展開しその場から離れた。しかしスピリットアローが察知したのか追跡魔法で跡を追い掛けてきた
「西門に移動」
「了解、足止めします」
上空にいた1隻の飛行船から砲撃が飛んでくる。流石に工場を吹き飛ばせないためか捕縛系の魔法が掛けられ着弾すると粘着性のある地面に変化するものだった。
『解除魔法、発動』
魔法を解除する魔法を駆使して彼女は回避するが直ぐに新手が現われる。絨毯に乗ったふたり組がやってくると並走しながら銃撃してきた。
「絨毯の方が操縦ひとり攻撃ひとりで出来るから便利だな」
銃弾を交わし隙を見て発火系の魔法を絨毯へ掛けると勢い良く燃え上がり乗員は慌てて飛び降り地面に叩きつけられた。しかし新手はまだまだ現れる。箒に乗った幾人もの魔法使いが追い掛けてくるのだ。
「多過ぎだよっと!」
急停止すると背後から箒で追ってきた魔法使いの腹部に一撃食らわせる。そして箒に操作魔法を掛けた。これにより誰でも簡単にこの箒を扱うことが出来る。
「そろそろ魔法石を集めに行かないと」
彼女は近くの扉を吹き飛ばして屋内に侵入した。追っても訓練されているためか狭い通路や障害物をも難なく通過する。
「隊長、奴の魔力は桁違いです」
「我々だけでは手に負えません」
屋内へ逃げ込んだ彼女を見た魔法使いたちはスピリットアローに増援を要請するよう進言する。だが彼は拒否した。
「お前たち、二度と私にその弱音を聞かせるな。だが時間を掛ければ多くの任務を果たせなくなるのもある」
彼は無線機に手を掛けると上空で待機している飛行船に交信を試みる。
「こちらタルボット、如何なさいましたか」
「敵を強力な一手で封じる」
「と、申しますと……」
「タルボット、お前の艦を使う。総員、直ちに僚艦へ退避せよ」
彼らの飛行船の動力は石油で動いている。しかし機関や兵装に直結しているもうひとつの動力がある。魔法石だ。
タルボット艦長の旗艦には直径5メートルもの巨大な魔法石が搭載されている。この力を利用することが出来ればヴィクトリアをいともたやすく生け捕りに出来るだろうと踏んだのだ。
「タルボット艦長以下、65名の船員の移乗が完了しました。現在、シシリー分隊長が操作魔法にて誘導しています」
「飛行船の高度が100メートルを切ったら魔法を発動する」
「シシリー了解。現在545メートル」
その頃ヴィクトリアは外の状況も知らずに追っ手を撒いて魔法石の収拾を急いでいた。
魔法石、通称魔石は一般的に小石ほどの大きさとなって市場に出回る。生成方法は3通りあり、自然エネルギー、人造エネルギー、化学エネルギーだ。
自然エネルギーとは自然の力で造られたもので魔力と使用回数も多いが高価である。また属性魔法を持つ術者は決まった石を使用しなければならない。
現在はこの自然エネルギーによる魔法石が多いだろう。
次に人造エネルギーとは魔法使いが自身の魔力を消費して造られた石のことである。こちらは特注品として扱われ、価格が高価であるが属性に関係なく使用できる。
最後に近年、生まれた生成方法として化学エネルギーを用いたものがある。これは化学の力によって造られた石で、強壮剤や興奮剤のような薬物が含まれている場合がある。最悪、粗悪品の場合は魔法発動に誤った術式や爆発の危険性がある。
しかしながら上記の2通りより使用回数は少ないが安価で入手出来るため貧困魔法使いにとって支えとなっている。
因みに魔法石は原石と呼ばれる石から一定の大きさに分割して生まれる。原石のままでも使えるが斑があり、また重量もあって問題が生じる。
各魔法石は通じて大きさと重量が重ければ重いほど威力が高い。小石ほどの大きさでも10キロの重さならばかなりの魔力を得られる。しかし市場に出回る石は選定された品であることが多く、需要もないため軍事的要素でしかない。デモスムントの飛行船がそうである。
以上のように魔法石は各地の生成工場で造られ世に広まっていくのだ。
彼女のいる位置には人造エネルギーを用いた魔法石が並べられていた。原石ではなく選定中のものだ。
普段、マッチの代わりに使用する程度で実はどの石が高価なものか知らなかった。しかしそこは感覚と知恵で補う。
取り敢えず箱に入れられた魔法石を魔法アイテムである袋に入れていく。これは拡張魔法が掛けられた袋でトースターほどの大きさならば約100キロは収納出来る。
重量は軽いが一杯にまで収納するとトースターと同等の重さになる。また外見上も膨らみが生まれる。
「とにかく手当たり次第のものを……」
転移魔法を使えば簡単だと思うがそうは行かない。前述したかもしれないが、物を転送するためには数と位置を正確に術式へ組み込まなければならない。
紙を複製した時のように魔鋲を使用すれば良いのではなかろうか、と思うが数に限りがある上、それ自体に複製魔法を使用しても効果がない。解除魔法を以てしても制限がかけられているという。
魔法は便利なものでもないのである。
「主人様!」
突然耳元で囁きが聞こえると驚いて身構える。しかし人間の姿ではなく精霊姿のウィンディーだったためほっとした。
「どうしたの」
「大変です。巨大な魔法石を動力にした飛行船がこっちに来てます。それでその石を使って私たちを封じ込めるのだとか」
外の状況を際限なく説明した。その間にも収拾の手を止めることはなかったが、封じ込めると聞いて手が止まる。
「流石にアーク兄さんクラスの魔力で挑まれたら勝ち目がないぞ……」
彼女は既に寝不足と疲労で困憊している。神であっても疲労には勝てないのだ。
「てか、なんでそんなこと知ってるの」
「最近、読唇術を勉強したのです」
彼に驚かされたがその後に冗談だということが分かった。しかし彼は風の精霊である。聞きたい言葉なのは風を伝って聞こえるのだ。
「どうしますか、戦いますか?」
「時間が無いなら逃げるしかない」
どうやって逃げるのか聞くと彼女はいつも使っている手で行くと意気込んだ。そして彼にひとつ頼み事をした。それは、
「封じ込めるというのなら工場全体にボクたち以外の人がいるかどうか調べてくれる」
というものだった。彼女が箒に乗って工場内へ侵入した時は既に生成職人や工員の姿がなく、機械も停止していた。それから踏まえるにあたり、追っ手の魔法使いはいるのだろうかという疑問があったのだ。
「分かりました。直ぐに調べます」
彼が調査に集中すると彼女は天井を突き破って屋根の上に立つ。確かに飛行船が高度を落として近付いていた。
彼女が屋根にいることをシシリー大尉が見付けスピリットアローに報告すると彼は箒に乗って数名の魔法使いと共にヴィクトリアの近くへ向かった。
「流石に気付いたか。だが逃がしはしねぇ」
凍結魔法を使い彼女の足を封じ込めようとするが避けられてしまう。
「構ってる暇はないんだよ」
魔鋲を取出し飛行船へと投げ付ける。スピリットアローはそれが攻撃アイテムだと思い込み迎撃した。
「あっ!」
撃墜された鋲は風に乗って散っていく。彼は嘲笑すると部下に取り囲むよう伝える。
「あと3本しかないや」
再び鋲を飛行船へ投げ付けるがまたしても撃破されてしまった。2本だけ残った魔鋲を見て彼女は呟く。
「っ……時間もないし、これで行くか」
その時、ウィンディーから報告が届いた。調査の結果、工場内には誰もおらず屋根にいるヴィクトリアだけだった。
「じゃあ大丈夫だね」
彼女は鋲のひとつを工場内の敷地に突き刺しもうひとつを飛行船へ投げ付けた。無論、スピリットアローが迎撃し彼は笑みを浮かべるが罠であると彼女は告げる。
「なんだと?」
目を凝らしてみるとヴィクトリアは胸を押さえて息を切らしながら彼を見ていた。初めは何が起こったのか分からなかったがシシリーの報告で理解する。
「た、隊長……ち、血のようなものが付いた白い物体が飛行船に突き刺さりました」
「まさか、そんな!?」
彼女は魔鋲の代わりに自らの肋骨を1本使用したのだ。鋲と気付いた彼は直ちに封印魔法を展開しようと部下に声をかけるもヒトの姿に変化したウィンディーが彼らを撃退していた。
「はぁはぁ、お釣りは自然で良いよね」
苦しそうな表情にも関わらず彼女は冗談を彼に贈ると杖を取り出して呪文を唱え始めた。そうはさせないスピリットアローは封印魔法の術式を読み上げ始める。
「させないよ」
ウィンディーが邪魔をして混乱を招き入れようとするが応援にやってきた魔法使いに阻止された。また、ヴィクトリア自身にも妨害の恐れがあったために彼は彼女の身を守ることに徹した。
『術式終了……転移魔法ならびに転換魔法、発動!』
『封印魔法、発動!』
同時に呪文を唱え終わるとスピリットアローは笑みを浮かべた。しかし何も起こらないことに愕然とする一方、ヴィクトリアと魔法石生成工場、そして飛行船がまばゆい光へ包まれる姿を目の当たりにすると雄叫びを上げる。
「貴様ぁ!」
転移する前にヴィクトリアへ無数の尖った氷片が飛んできた。彼女は防御魔法も障壁も展開しておらず携えていた神風という剣で防ごうと判断する。しかし全ては無理があった。
「ぐっ……」
氷片は彼女の心臓と腹部の大静脈、大腿骨の動脈に突き刺さり、激しい痛みと血飛沫が吹き出す。彼はこの時に手応えを感じていた。土壇場であったが仕留めることに成功したと思っていた。
しかしながら彼女は不老不死。老いることも死ぬこともない。また、転移先のハーヴィーたちに素性がバレてしまわないよう、転移中に治癒魔法を展開した。
意識が途切れそうになる中で魔法を発動するとそのまま気を失ってしまう。そして誰かが呼び掛ける声が聞こえた。
「ヴィクトリア!」
「大丈夫ですか、ヴィクトリアさん」
「あんさん、へーきかいな」
「しっかりするだよ!」
「ヴィクトリアさん」
ハーヴィーたちだ。彼女は草花の上で横たわっていた。
「うっ……はぁはぁ」
「気が付きました」
胸を撫で下ろす彼にまた会えて嬉しい彼女は気丈に振る舞うように努力した。
「心配したで。死んだかとおもたで」
「なんとか……バレてないか」
重傷を負った痕跡がないか起き上がって身体を動してみる。一部に痛みが走ったものの他は異常が無い。
「しまった……無我夢中で肋骨1本、治すのを忘れた」
無くなった肋骨の部分に手を触れて苦笑する彼女にウズベが質問してきた。
「ところでありゃなんだ」
彼が指差す先には転移前に存在していた魔法石生成工場だった。さらにその横で不時着する飛行船の姿も見受けられる。
「痛てて……。あれはボクが盗みに入った工場で、あっちはデモスムントの飛行船だよ」
彼女は魔鋲を用いて工場とこの村の近くにあった森を転換したのだ。さらに飛行船は魔法石を使わずに転送したため、稼働状態にあった。
「これから先、移動手段が必要だと思って」
彼らは歓喜するとともに彼女を讃えた。騒ぎを聞いたトメが近付いてくると嬉しさのあまりに抱き付いてきた。
「あっ……その……」
ハグが苦手なヴィクトリアは赤面しつつハーヴィーに囁いた。
「少し横になる。だからちょっとよろしくね」
そう言い残しトメの補助を借りて教会の奥へと入っていった。そして残された彼らは魔法石の力も借りて同志らをこの村へ招くために各地へ転移魔法を使って向かう。
一方、森に変わってしまった魔法石生成工場跡地の上空に停泊するスピリットアローの旗艦、ロイアルティーでは彼と各艦長並びに分隊長で会議が行われていた。内容はこの失態の責任をどう取るかであり、また反乱者の始末をどうするかのものだった。
「反乱者は必ずや殲滅致します」
「タルボット艦長、その言葉は聞き飽きたよ。結果論で言えば貴公の艦が滷獲されたのだぞ」
「シミズ艦長、それは違う。とも言えぬ。しかし、退艦を指揮したのは……」
次の言葉は発することが無かった。正確には恐れ多くて言えずにいたのだ。
「責任の擦り付けはうんざりだ。私が全責任を負う」
スピリットアローの言葉に皆が感嘆し拍手を贈った。
「だが、次の作戦でお前たちは私の駒となってもらう。拒否権は無いと思え。良いな?」
念を押されてしまい彼らは同意した。彼の駒、即ち死あるのみの戦場でも指示に従わねばならないのだ。
「そ、それで次なる作戦は……」
「既に第III特殊部隊が行動に出ているはずだ。奴らの援護だよ」
それは魔力を失った反乱者の弾圧であったのだった。




