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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
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第1話「激震」

 宇宙と舞台となる惑星アークを創造したアークファミリアのひとり、ヴィクトリアは自らたちが育てた生物や文明、気候などを調査するため地上に降り立った。しかし、真の目的はアークファミリアの敵、ナチョスとそれを信仰する堕落民族の抹殺だった。

 彼女は孤独と戦い、永い旅をするはずだったが星暦133年のとある村で生涯付き合うこととなる、バーン・カーサスと出逢う。その数年後、彼は契約し、寿命のある人間から不老不死となった。

 それから数々の冒険と旅を二人は経験し、今、再び新たなる冒険が始まろうとしているのだった。

 時は星暦427年4月25日、フリーケンス共和国――。

 この国は良質なレンガの材料となるグァレキという土が多く採取出来ることから、レンガの製造が盛んであった。さらに、それらを使用した歴史ある建造物が多く点在している。中でも首都のヒューズから東へ250キロほど行ったエレクトローンは古代の神殿が眠るといわれている。

 その街から程近い山林で真っ昼間にも関わらず木陰で涼しげな顔をして眠るふたりの旅人がいた。

 ひとりは継ぎ接ぎのボロボロな服を身に纏い、腰の辺りまで伸ばしたワイン色の長髪をポニーテールにし、右目に黒色の眼帯を付けた青年だ。胸が平らで一見男のように見えるが、れっきとした女性である。

 この宇宙を創造したアーク神族、通称アークファミリアの10番目の神が彼女、ヴィクトリアなのである。そしてその横で眠っている男は彼女の忠実なる(しもべ)、カーサスである。

 彼は凡そ300年前に契約し、それから長い年月を苦楽を共に旅を続けてきた。これからもずっとそうなるのであろう。

 さて、ふたりがこの街に来た理由は眠っているとされる神殿を調査するためだ。

 アークファミリアはこの街に神殿など築いてはいなかったため、もしかすると堕落民族ないしナチョスの手掛かりが見つかるかもしれないというものだ。なぜふたりがそこまでして堕落民族とナチョスを探してしているのかということを説明しておきたい。


 ヴィクトリアを含むアークファミリアは物語の舞台となっている惑星アークを創造した。知能を持つ人類は一番最後に創るわけだが、それを管理し育成するゲスチオンヌが生まれた人々にアークファミリアを敵であると植付けたのだ。

 この植付けを行ったゲスチオンヌこと後のナチョスである。そして、彼らが生んだ人類は堕落民族と呼ばれアークファミリアから追放されることとなった。

 以後、アークファミリアが人類を生み、知恵や知能を与え、ナチョスから彼らを保護したのだ。それから幾年の時が経ち、人類は皆の代表を作り星暦が始まった。

 それに伴いナチョスはアークファミリアを倒すべくヴィクトリアたちの命を狙っていた。また、彼女たちも彼らを殲滅すべく行方を探しているのだ。

 因みに不老不死でもあり、神でもあるアークファミリアを倒すためにはジェノサイドと呼ばれる神剣が必要だ。これは特別な力を宿らせ、どんな生命の命をも滅することが出来る剣である。

 今、この剣はゲスチオンヌを仕切るシルヴィアの手に在る。この手掛かりもふたりが追っているのだ。


 一行は昨夜の内に街へ繋がるこの山道に到着していた。しかし所持金が少なく街の宿で一泊すること断念、山道から少し離れた場所で野宿に変更して今に至る。既に何百年と何千何万回にも及ぶ野宿でふたりは慣れっこだった。

 夜通し歩き続けたがために眠ってから十数時間、ヴィクトリアは風の精霊であるウィンディーに起こされるまで眠ってしまっていた。彼は彼女の属性に宿る精霊であり、謂わば一心同体のようなものである。

「主人様、起きて下さい」

「あともう少し」

 起床を拒みそのまま夢の中へと飛び込んでいく。しかし彼は諦めずに起こしていた。

 普段、彼の姿は精霊ということもあってか彼女には見えても第三者には見えない。しかし今回ばかりは違った。他人にも見える実体化魔法を使用しているのだ。そして片手には四角形に折り畳まれた新聞が握られている。

「大変なことになってしまいますよ。だから早く起きて下さい!」

 大きな声で叫んでいるにもかかわらずカーサスは(いびき)を掻いて眠っている。だが、漸く彼女は大きな欠伸をして起き上がると彼から新聞を受け取った。

 新聞は今朝発行されたばかりのものだ。この街の新聞は朝刊、昼刊(ちゅうかん)、夕刊、夜刊(やかん)深刊(しんかん)の5つがある。

 惑星アークの自転周期、つまり1日は48時間で地球の約2倍の時間がある。その為、新聞もそれに合わせ多く発行しなければならないのだ。

「何々、先日の魔法省爆破事件により機能を失っていた魔法省が新設されることとなった」

 魔法省とはアーク連邦の中枢機関が集まるコールスマンウィンドウという都市にあり、世界中の魔法に関する管理を行っている機関である。余談だが、魔法省を含むありとあらゆる機関は惑星全体の総合であるため各国々の機関の頂点なのだ。

 ところがつい先日の4月1日に何者かが建物を爆破で吹き飛ばそうとする事件があった。幸い木っ端微塵は未然に防がれたものの建物は会議室を中心に半壊し、会議中だったこともあってか名だたる重鎮が死傷してしまう。さらに事件を起こした犯人は未だに見付かっていないという。

「新設されるって、良いことじゃない」

「その先を読んで下さい」

 確かに機能を失ったままでは何かと支障がある。しかしヴィクトリアはこのことに関して全くの無頓着だったものの、言われた通りに先の文章を読み彼女は言葉を失った。また、手に持っていた新聞を破りそうでもあった。

「こんなの、全世界の魔法使いを敵にするどころか、魔法自体が無くなってしまうじゃないか」

 彼女が怒るのも無理はなかった。読んだ記事にはこう書かれている。


 魔法省は4月27日、新たに魔法制約法を施行することを発表した。この制約法とは、全世界に点在する全ての魔法使いを各等級ごとに管理するというもの。

 管理方法は各等級に当て嵌まる税金を納めることによって使用者は魔力を開放出来る。また、納税に与えられた1週間の期限を越えた場合、生涯魔力を封じられ魔法が使えなくなる。

 魔法省は各等級の調査を施行に先駆け、前日の連合標準時間午後16時から全世界にいる魔法使いの魔力を全て抜き取ると報じた。そして約1時間の間に各魔法使いの魔力が調査され等級が決定する。また、この間に魔法は一切使えなくなるという。

 施行後、納税手続きは魔法省か各市町村の役場にて行うように通達された。


 以上のように魔法制約法が勝手に決められてしまい、ヴィクトリアや全世界の魔法使いが怒りを(あらわ)にしているのは明白だった。そもそも魔力は個人のものであり、生命の源でもある。

 制約法が施行されれば、世界中の魔法使いの存在意義が無くなるわけだ。

「許せない。一体誰がこんなことを……」

「それが……これを」

 新聞の2面には新設した魔法省の重役が紹介されている。その中に彼女が知る人物の名が記されていた。

「“アーク・ギャラクシー”!?」

 彼女の心臓は高鳴り身体は震え出す。アークとはアークファミリアの1番目の神のことであり、彼女の兄でもあった。

「お兄さまがこんなことをする筈がない。きっと、同姓同名に違いない」

 動揺する気持ちを抑えて落ち着こうとする。確かに同姓同名の可能性はあるが、ここまで的を射たものは初めてである。

「主人様。仮にアーク様の御意志ならばそれを尊重しなければ……」

「いや、絶対に違う。私の知ってるお兄さまじゃない……。それにこんな大それたことまでしたら、魔法使いがただの人間に落ちぶれちゃう」

 そうならないようにするため、彼女はおもむろに立ち上がると内ポケットから木製で出来た30センチ位の杖を取り出した。魔法の杖だ。

「行かれるんですね」

「真相をこの目で確かめに行かないと」

 ウィンディーは身体を光らせると小さな光り輝く球体に姿を変えた。これは仮の姿でもあるし、他人から見えなくするためのものでもある。

「ところでカーサスさんはどうします」

 未だに鼾をして夢の中にいる彼を見つめて少し考えると地面に置いてあった彼女の緑色の鞄から茶色く汚れた紙とインクを取り出すとペンを持って書き置きを残すことにした。つまり、彼を置いていくことが決定した瞬間だ。

 カーサスは僅かであるが魔法を使うことが出来る。しかし使えなくても支障はないし、彼女ひとりだけならば動きやすいと考えたようだ。

「行くよ」

 書き置きを彼の隣に置くと荷物一式が入った緑の鞄を肩に提げると杖を持って詠唱し始める。その間にカーサスが寝言で彼女の名前を呟いていた。

「少し留守にするね。突然だけどごめんね」

 そして彼女とウィンディーはまばゆい閃光に包まれ消え去った。そよ風が彼の頬を撫でる。

 彼が目覚めたのは暫く経ってからであった。


 ヴィクトリアとウィンディーはアーク連邦のとある村が見える崖の上にいた。そこはかつて彼女とカーサスが約束を交わした大木のあるところだ。

 昔はカーサスタウンと呼ばれていた村だったが今では廃墟と化している。建造物には木々が生い茂ており、重みで屋根が崩落したり家自体が倒壊したりしていた。

 大木はというと枯れ木になっているようだった。新たな息吹きも見えぬまま彼女たちを迎えている。

「どうしてこの場所を?」

「ここなら長い年月が経っても変わらないからね」

 数多ある魔法の中でも転移魔法は想像力と計算力が必要なものだった。人や物を遠くへ転送するため、術者は転移先を細かく指定しなければならない。もしも逸脱した場合、空中や物体の中に出現してしまったりする恐れがあるからだ。

 ある程度の補整は可能だが万能ではないところも魔法には存在するのだ。魔法はあくまでも術者や第三者を助けるものに過ぎない。

「ここから連邦のコールスマンウィンドウまで歩いて1日以上は掛かりますね」

「うん。だけど今回は移動魔法を使うよ」

 移動魔法とは術者または第三者の移動速度を変化させることが出来る。転移魔法と違い近距離を瞬時に移動させたりすることが出来る魔法のことだ。また、幾つかの言葉を組み合わせることも可能である。

 例えば爆発や炎上の魔法を組み込めば移動先で自動的に実行される。また、移動前に再生を組み込むことによって自身や魔法障壁の回復をしながら移動することが出来るのだ。

「取り敢えず浮遊魔法も掛けておこう」

 そうして彼女は足元に力を入れると人蹴りする。身体は宙に浮かぶと重力の影響を受けて落ちていくが大木の頂上に到達した時、彼女は枝を踏み台にして勢い良く踏み込んだ。

 大木から駆け出すとその下は崖だ。彼女に恐怖心はなく身を風と重力に任せて先へ進んでいく。

「見付かったら厄介だから急ごう」

「飛べば良いのでは?」

 魔法の世界には箒や絨毯で空を飛ぶ方法もある。しかしこの世界では何れも免許が必要なのであった。科学側に飛行機が生まれてから規制が厳しくなったという。

 そんな中で彼女は首を横に振り今のままが一番良いと言った。一度だけ、カーサスの前で背中に純白の翼を生やした姿を見せたことがある。しかし先へ進みながら彼女は並走する光り輝く球体となったウィンディーに呟いた。

「ボクはこの姿が好き……」

「そう……でしたね」

 ふたりは風のようになってコールスマンウィンドウを目指した。


 約250年ぶりにコールスマンウィンドウへ到着したヴィクトリアは驚いていた。文明の発展が桁外れだったのだ。

 既に地上20階の建造物が立ち並び飛行場や港湾設備が充実していた。また、魔法石と呼ばれる魔力が込められた特殊な石を使って明かりや火を(とも)していたものがガスに変わっていた。

 都市部はガス燈が目立ち建物の中にもそれらは存在している。さらに上下水道が整い真水が供給されていた。

「コールスマンの発展は星の成長を表している。後1000年もすれば宇宙に行けるかもしれないね」

「人類の進歩は恐ろしいですね」

 彼の言葉に賛同する中、昔と同じ光景も少なからず残っていた。海に程近い教会は微かに見覚えがあったり色が変わっていながらも当時の物だったりと、変わらぬ光景に彼女は穏やかな気持ちになる。

 暫く街中(まちなか)を歩いていると警察が近付いてきた。何も(やま)しいことはしていなかったが、

「こんな汚い格好じゃまずいかもしれない」

 そう思って彼女は近くにあった服屋に入るとそこで一着を新調する。服を買ったのは数十年ぶりだった。

「おばあちゃん用の服はありましたか?」

「そっちの方が良かった?」

 ウィンディーの冗談に彼女は乗るも年齢は気にしていない様子だ。そもそも不老不死は歳を取らないわけである。

 彼女の肉体年齢は17歳。例え5万年経っても17歳のままなのだ。これは契約者に対しても適用される。即ち、60歳で契約した場合、契約者は17歳の時点の姿になるということだ。

 不老不死とは難解なるものであるということかもしれない。

「魔法省は都市中央部にあるはずだね」

「冒険者や旅人は入れるのでしょうかね」

 ヴィクトリアはミレイたちから貰った神風という刀を武器として携帯している他、様々な道具を服や鞄に入れていた。しかしそれはあくまでも使用しなければ問題ないものであった。

 魔法の杖も武器になってしまうが使わなければ、ただの杖だ。こういう様に“使用しなければ”ある程度の物ならば携帯が許されているのだ。

 刀や剣などのものは鞘にしまうか布で刃先を見せなければ良い。また銃は人に向けなければ良いのである。推奨はしていないが銃口に栓をしていると更に良いらしい。

「でも、魔法が管理化されたらこうもしていられないだろうな」

「ですね」

 ふたりは連邦のみならず星の中枢機関が集まる都市部へと入り込んでいく。そこは科学と魔法の最新技術が取り込まれた世界が広がっていた。

 建物はゆうに50階は越えている他、魔法石か科学力の影響か中空に建物が浮いていたりもした。

「すごい……」

 空には魔法使い専用の箒や絨毯の道路が整備されていたり、科学側用に飛行機の道路が存在していた。また、至るところで魔法使いが箒や絨毯で乗り降りする中、小さなプラットフォームでは少人数が搭乗出来るオートジャイロ機が離着陸している。

「魔法と科学が共存共栄していますね」

「この関係を続かせるべきだ。なのにお兄さまは……いや、まだ決まったわけじゃない」

 彼女の心臓は大きく高鳴り始める。しかし鼓動を抑えながら彼女は歩き始めた。

 ウィンディーが魔法省の建物を見付けるがそれは先日爆破事件のあったものだった。レンガ造りで地上5階建てのものだったが歴史ある建造物で壁面には任命された魔法省長官の手形が残されている。

 建物自体、倒壊は免れていたが会議室があったとされる部屋と外壁は木っ端微塵に吹き飛ばされていた。さらに建物の半分が喪失しており爆破の威力が窺える。

 意外にも建物周辺の封鎖は解かれており、また誰でも庁舎内を見学することが出来るらしい。魔法省は昔から見学会なるものが存在していたとされるが今回の事件を気に、新設された庁舎では見学が出来なくなった。しかしながら、旧魔法省は全ての部屋、即ち建物全体を見学することが出来るためか連日、様々な国の観光客が訪れている。

 ヴィクトリアもその観光客に紛れ込み庁舎内を見学することにした。ただ見学するだけではない。爆破を魔法で行ったのならば痕跡が残っているはずだ。

 どの魔法使いであっても個人によって魔力が違い術式にも違いが生じる。魔法とは、術者の魔力を数ある術式に組み込むことで発動する。同じ魔力を持った人など存在しない。無論似通った魔力はあるが必ずしも一致するわけではない。

 その魔力の痕跡もあれば何かしらの手掛かりになるとヴィクトリアは踏んだのである。無論、警察や調査委員会が徹底的に調べているかもしれないが、彼らの知らない魔力を彼女は知っている。その逆もあり得るが彼女程の比ではない。

「おいくらですか」

「一律250アークドルです」

 見学料は高いわけでもなく安いわけでもない値段だった。250アークドルは仮に円で表示するならば427年4月25日現在で2500円となる。即ちアークドルに10倍すれば価値が分かりやすいだろう。

「本当なら500アークドルは掛かるはずだね」

 ウィンディーを見た。彼は笑っている。その通りであった。

「500アークドルだったら足りないところだったよ」

 彼女の財布には100アークドルの紙幣が2枚しか入っていなかったのだ。元々それほど持ち合わせていなかった上、服屋で出費してしまったのが原因であろう。

 とにかくふたりは庁舎内に入りヴィクトリアは痕跡が残っていないか探し始めた。会議室の入り口を重点的に探すも中々見つからない。

「やはり爆弾だったのでは?」

「いや、魔法障壁が展開されたって新聞に書いてあったから多分、魔力を感知し誰かが障壁を展開して未然に倒壊を防いだんだと思う」

 行ったり来たりしているためか警備員が不審に思い呼び止められてしまう。数分ほど言い訳を言って難を逃れるもこのままでは強制退去されてしまい兼ねない。

「探索魔法……使うか」

 杖を取り出そうとしたが直ぐに引っ込めてしまう。人目を気にする彼女にウィンディーは察しが付いた。どうやら庁舎内で魔法の使用は堅く禁じられているようだ。

「魔法を使ったらバレちゃうよなぁ」

「でしょうね」

 ここは我慢して使わないことにし、ふたりは手分けして探す。球体の姿でも魔力の痕跡を探すことが出来るようだ。

 会議室から離れた位置にある配膳室、化粧室や談話室も隈無く探したものの手かがかりはゼロだった。外部からの可能性も示唆されたが、当時の魔法省は外部の攻撃から守られるように強力な障壁が築いていたということからその可能性はない。

「地下か……」

「でも案内図には在りませんよ」

 ところが地下へと通じる階段がひとつだけ存在した。しかし立ち入り禁止と札が掲げられている。これは万が一倒壊した場合に生き埋めになってしまうことかららしい。

「行くしかない」

「そうですね」

 ふたりは暗い地下へ降りていくとヴィクトリアが鞄から小型のランタンを取り出し、マッチに火を点けて辺りを照らす。魔法が使えなくなったときのためにいつでも携帯しているのだ。

「暗いなぁ」

「普段は松明(たいまつ)で明かりを得ているみたいですね」

 壁には松明を置く燭台(しょくだい)が見受けられる。しかしひとつやふたつだけでは足りないためか、近年ではガス燈で明かりを灯せるように配管が地下通路に張り巡らされていた様子だ。その証拠に通路の天井の住に金属の細い配管が伸びている。現在はガスの供給は停止しているために明かりは点かないのだ。

 一本道の通路を進んでいくと緩やかなカーブを経て堅く閉ざされた鉄製の扉がそこにあった。年季の入ったものだが錆などは見られない。

「機械室……か」

 表札にはそのような文字が書かれている。

 彼女は踏ん張り、力を入れると重い鉄扉を押して室内に入ると生暖かい空気が肌を触る。そして直感でここが魔力を発動した場所だと思った。

「僅かだけと魔力の痕跡がある」

「確かですか?」

 頷く彼女に彼も意識を集中させる。その間にヴィクトリアは誰の魔力かを探り始めた。

「確かにここで魔力を使ったあとがありますが、一体誰が」

 その答えに彼女が答えた。

「誰の物でもない。ボクが知っている中ではね。でも……」

 その後の言葉に耳を傾ける。だがその時、松明を持ち紺色の制服を着た衛兵がやってきてしまい彼女は見付かってしまった。

「そこで何をしている。ここは立ち入り禁止だぞ」

 ヴィクトリアはランタンの明かりを消すと鞄へしまい衛兵に体当たりをした。彼は壁に叩きつけられたが、首から下げていたホイッスルをやっとの思いで口に加えると勢い良く吹いた。

「奴さんが大勢来る前に逃げましょう」

 ウィンディーの言葉に賛同するよう彼女は暗闇の中、降りてきた階段へと向かった。見えなくとも僅かな風を感じることで一応は進むことが出きるのだ。

「不審者は機械室から逃走」

「現在行方を捜索中」

 無事に外部へ逃げたヴィクトリアは()だ正体を見られていない衛兵の脇を堂々と通り過ぎて旧魔法省を後にする。そしてウィンディーは先ほど言い掛けたことを質問した。

「未だ分からないんだけど、あの魔力の感じ……どこか懐かしく思えてならないんだ」

 懐かしいとはどういうことなのか、彼は知りたかった。しかし分からない以上調べようが無い。恐らく、同じ魔力の波動を持つ人物は該当しなかったものの似ているところがあったのだろう。それは即ち、過去に一度合間見えているというわけだ。魔力の持ち主の先祖か何かと。


「新設された魔法省へ行ってみようか」

 すると大勢の民衆が通りを行進している。かなりの人数でプラカードや横断幕を持っている人もいる。

「『打倒、新魔法省。打破、魔法制約法』ですって」

 所謂プロ集団……ではなかった、デモ隊のようだ。彼らが列を成して向かった先にはレンガ造りが立派な城のような建物が見える鉄扉の前だった。

 門柱には“魔法省”と書かれている。デモ隊は大きな声で魔法制約法の撤廃を番兵そっちのけで訴えた。

「やっぱり反対はあるよね」

「仲間に加わります?」

「あんなことしてても意味が無い。所詮デモは上辺でしか効果がない」

「民衆は集まりますけどね」

 ヴィクトリアは城に忍び込みアークを語る人物との対応を試みようと考えていた。それが得策であり、一番早い手段であったからだ。

「どこかに抜け穴があれば」

 鉄壁の外側を舐めるように見回していると小銃を担いだ衛兵たちが束になって門の方へ走っていく。良からぬ気持ちに(おちい)る彼女は急いで門へと向かう。

 だがしかし、予想は的中し近付く前に銃声と悲鳴が聞こえた。周囲は危険を察知した人々でごった返す中、ヴィクトリアは鉄扉の前に到着すると既に3人が血を流して絶命している。

「これは……」

「デモ隊諸君に告げる。直ちに行為を中断せよ。さもなければ裁判抜きで銃殺刑に処す」

 鉄扉の奥では拡声器を手にした男が忠告を促している。

「直ちに行為を中断した方が身の為だぞ」

 拡声器を持つ男の脇には別の男が自分の背丈以上はある杖を持ち笑っていた。目測だが、杖の長さは190センチ程だろう。

 デモ隊は顧みずに抗議を続けると衛兵が銃の引き金に手を掛ける。今にも引きそうな時、

『魔法障壁、発動』

 ヴィクトリアが彼らの間に入り障壁を展開。それと同時に銃声が轟いた。しかし彼女のお陰でデモ隊に被害は出なかった。ところが別の問題が出来てしまう。

 魔法障壁で弾いた銃弾は跳弾し衛兵に怪我をさせてしまったのだ。これに対し男は重罪行為と称し、ヴィクトリアとデモ隊を即刻銃殺するよう命令した。

 多くのデモ隊が逃げ帰る中、数十人の人々は留まっていた。

「早く逃げた方が」

「僕たちは残ります」

 それは死を選ぶということだ。衛兵と外から駆け付けた警察隊が彼女とデモ隊を取り囲むと男は、

「勇気あるプロ市民に3秒だけ神に祈りを捧げる時間をやろう」

 その3秒の間にヴィクトリアは辺りを見回した。警察隊の中には魔法の杖を持った魔導師もおり、例え障壁を張ってもそれを貫通させる魔法を掛け兼ねないと考えた彼女はひとつの結論に辿り着く。脱出だ。

「3秒経ったぞ。全隊、奴らを殺せ」

『転移魔法、発動。行き先は――』

「発砲開始、撃て!」

 銃声が(こだま)する中、閃光が広がる。衛兵らは混乱する中で杖を持った男がただ一点を見つめていた。

「逃がすものか。死ね……」

 杖を翳して何かを呟く。光の中でそれを察知したヴィクトリアは対抗する。そして数秒後には彼女とデモ隊がひとり残らず消えてしまい衛兵や警察隊が狼狽えている時、杖を持った男は嘲笑うのだった。

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