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The ARK  作者: にゃらふぃ
第1章 伝説の英雄
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第21話「覚醒(後編)」

「秘密か。じゃあ殺される前に俺の質問に答えろ。ここでは何をやっている」

 マックスは懐に手を入れたためカーサスは拳銃を構えた。しかし出てきたのは茶色の袋だ。

「重を構えるのは良したまえ。私に銃は効かん」

「なんだと?」

「それよりこれを見たまえ」

 茶色の袋からは白い粉のようなものが入っていた。さらさらとしておりただの塩かと思ったが似通ったものだと知る。

「これは食用麻薬だ」

 名前の通り調味料として使う。一見塩に見えるため他人から分からない。だが過激な作用のある麻薬のため、腹痛や頭痛、吐き気とともに幻覚や幻聴が襲い掛かる。しかしながらその苦痛が快楽へと通じ、中毒になる者が後を絶たない。

 尚致死量は10gほどの危険な薬物だ。無臭だが塩辛さはあるらしい。

「吸引しても危ないから気を付けろ!」

 マックスはそう叫ぶと袋をふたりの足元に投げ付けた。粉は中空を舞い白く靄が掛かる。

「クソったれが」

 ウィンディーはジュリエッテを建物の上まで退避させた。残りふたりは薬物の靄の中で動けないでいる。

 そこにマックスの部下が小銃を使って一網打尽にしようと企てた。弾丸の嵐が靄の中へと襲い掛かるが不思議なことに反響音が聞こえるだけで手応えが無い。

「靄が晴れるぞ」

 そこには鎌を構えたネクロスの姿があった。足下には弾頭が落ちている。

「なんだと……」

「何者だ、あいつぁ」

 部下たちが口々に言い合っているとマックスは笑い声を上げる。

「そうでなくてはな。面白みがない」

 次に彼らは投擲兵器を手に持つとピンを抜いてふたりに投げ込んだ。約3秒後に爆発を起こすと地面は抉られたように黒ずんでいた。

 ふたりの姿はなく消し飛んだと部下たちは考えていたがマックスは違った。神経を研ぎ澄ませ意識を集中すると護身用のナイフを手に背後を振り向き身構える。

「ボス!」

 背後には鎌を振り回そうとするネクロスがいた。寸でのところで鎌の先端部をナイフで防ぐマックスが、

「これは一筋縄で行かないのかね」

 質問を投げ掛けるよう言い放つと鎌を弾き飛ばし間合いを取った。部下らは驚愕している。何故なら、

「私の間合いに入ったのは君が初めてだ。これは、私が直々に手を下さなければなるまいな」

 なんとネクロスが初めてだというのだ。どうやって彼女は近付いたのかというと、投擲兵器の爆発1秒前にカーサスを吹き飛ばしてから自身を魔法で姿を見えなくさせてから彼の間合いに侵入した。

 因みにカーサスは受け身を取ることもなく近くの建物の外壁に突っ込んで気を失っていた。

「君の名を教えてもらう」

「名乗るほどでもない」

 言葉を言い終わる前にマックスは袖の中から杖を取り出すと無詠唱呪文で地面からゴーレムを10体召喚した。その内の1体の肩に乗ると、

「名乗っておけば君の栄誉ある死体は標本に出来たのにな」

 自身が勝つことを前提としていた。確かにこれだけの戦闘やゴーレムの召喚で彼の体力や魔力の消耗が全く減っていないとなるとやりにくい相手ではある。

「っ……」

 胸に手を当て痛みと戦うネクロスは次第に視界がぼやけていった。彼女の精神的な体力の方が遥かに消耗が激しかったのだ。

「さぁ楽しもうじゃないか」

 ゴーレムに攻撃を命じると大挙して襲い掛かる。必死に避けつつ鎌で斬ろうとするが弾かれてしまった。

「物理攻撃は弾くよう魔法を掛けてある。さぁ鎌はもう使えんぞ」

 だが彼女は笑っていた。この鎌は普通の鎌とは違うのだから。

「なにも物理的に攻撃しなくてもこれは使えます」

 大きく構えると一体のゴーレムに向かって一降りすると刃は体を擦り抜けて行った。部下やマックスは何をしたのか皆目検討も付かなかったがそれはすぐに起こった。

 どういうわけかゴーレムの体がバラバラとなり土に還ってしまったのだ。

「この鎌は特別でね、魔法などを解除することも出来るんだよ。そして操られている物や心の核を斬り、自由にさせてあげられることも出来る」

 彼女の言葉にマックスは再び大声で笑った。

「それじゃあ君の鎌はまるで死神か何かの物じゃないか。滑稽だね」

「そうだね。それが嘘なら滑稽だね」

 するとネクロスの体が半透明になっていくのを目の当たりにすると部下たちが口々に幽霊だと言い合う。しかしマックスは信じなかった。透明になる魔法はいくらでも存在するからだ。

「私は幽霊や死神は信じない太刀でしてね、君のようなやり方は気に食わないのだよ」

「じゃあ神も信じないのかな」

「そうだ。なぜ人間は目に見えぬ作り物を崇めようとするのか理解できん。それならば神ではなく、この私自身を崇めれば良い」

 そうして自分が神のようになるため国の中に国を作り、裏社会の住人を呼び寄せたり奴隷を住まわせ彼に服従させていたのだ。即ち、マックスという人間は神になりたい人物であったということだ。

「神……か、そんなに良いものとは思えないけどね」

「何を言うか。この世の全てを自分の物に出来る快感と言ったら言葉で表せるものじゃなかろう」

 彼には決してネクロス、もといヴィクトリアの気持ちなど到底理解出来ないのだろうと感じた。

「お喋りはこれくらいにしよう。君は神に唯一立ち向かったただひとりの傲慢な人間として語り継がれるだろう」

 ゴーレムの上で両手を大きく広げ嘲笑する彼にひとりの男が言い放った。

「神が神に立ち向かう。それこそ滑稽だよ」

 何者だとマックスたちが周囲を見回すが姿が見えない。ネクロスも初めはカーサスが格好良い捨て台詞を吐き捨てたのかと思っていたが、それは勘違いであった。

「どこを見ている。私はここにいるぞ」

 高所のパイプラインの影からひとりの青年が飛び降りる。地面に着地すると背丈が高く好青年だとわかった。

「何者だ、貴様は」

「ふははは、正義の味方『リブラーマン』」

 すとんと地べたにL字に座り、リブラの頭文字を表した。ギャグに踊らされるマックスではなかったため聞く耳持たず交戦を仕掛けようとする。

「ネクロス、ここは僕が引き受けるから君は奴隷の解放を」

 そう言うと一滴の泪を流して感謝の言葉を贈った。

「ウィンディー、カーサス。着いてきて!」

 ゴーレムを踏み台にしてその場から退散する彼女とウィンディーたちはパイプラインのある屋内へと入っていった。

「貴様、私の獲物を」

「まぁまぁ、僕が相手になるよ。あの子より少し弱いかもしれないけどね」

「かかれ!」

 腹が立ったマックスは部下たちに総攻撃を下す。そして彼の運命は如何に。

 一方、ネクロスは屋内にいた敵を蹴散らしながら一息吐ける場所を探していた。するとジュリエッテがあることに気が付いた。

「カーサスお兄ちゃんが着いてきてないよ」

 急停止し振り返るネクロスとウィンディーは顔を合わせ溜め息を吐く。先程の場所へ戻ろうにも追っ手が次々に現れ仕方なく前に進んだ。

「あのバカ、まさか気絶したままなんじゃ……」

 その通りだった。彼は今、謎の男を囲む魔導士たちの後ろにある壁面に埋もれていたのだ。

「ところでさっきの男の人って誰なの」

 少女は必死に走りながら手を引くウィンディーに訊ねる。彼は一瞬言い掛けるも口を塞いだ。

「言っても良いよ」

「主人様……」

 そうは言っても躊躇って中々口を開こうとしない彼の代わりにネクロスが答えた。

「彼は私の兄、リブラだよ」

 その頃、当の本人は魔導士に対して降伏を促していた。彼もネクロスもとい、ヴィクトリアと同様にアーク神族であるからして敵である彼らにもチャンスを与えようとしているのだ。

「降伏か。貴様、立場を分かっていないようだな」

「それはお前さんの方だろ」

 お互い睨み合いが続く中で漸く気絶していたカーサスが起きると今起きている状況が理解出来なかった。彼には仲間割れをしているようにしか見えなかったのだ。

「これはチャンスかもしれない」

 そう思った彼は隠し持っていたダイナマイトの導火線にマッチで火を点けると彼らに向かって投げ付けた。

 初めに気が付いたのはリブラだった。彼は右側にいた魔導士を拳ひとつで片付けると退避する。そこへダイナマイトが落ちると彼らは急いで退却しようと駆け出したが何人か巻き添えになってしまった。

「あいつのことを忘れていた」

 粉塵が舞う中、マックスが頭を抱えてカーサスの方に気を取られているとリブラが近付いてくるも側近の大男ふたりがそれを拒む。しかし彼はふたりに下がるように命じ、

「お前らはあいつをやれ」

 銃を構えて魔導士を撃ち殺すカーサスを指差して言う。そして彼自身はリブラを倒すことを宣言したのだった。

「舐めるなよ」

「そっちこそ」

 ふたり見合って間合いを詰めていくと格闘戦に持ち込んでいった。

 カーサスの方は大男が近付くまで残党狩りを行っていたがふたりが加勢しに来たことで状況が一変した。

「あいつら銃が効かねぇ」

 彼らは人間ではなく亜人だった。像のように硬い皮膚と虎のように素早く動くことが出来る彼らはファイティングジャイアントと呼ばれている。早い話で、ジャイアントの中でも戦闘に特化した種族だ。おまけに彼らは魔法を扱うことも出来る。

「俺たちを倒せるかな」

 口から炎を吹き出しながら近付くためにカーサスは至近距離には近付けない。即ちナイフや拳を使っての格闘戦が出来ないのだ。

「あっちの方が良いな」

 隙を見計らってマックスとリブラの戦闘に割って入った。特にリブラ目がけて銃弾を発砲していたため、

「おい、私を撃つな。味方だ!」

 などを言って撃つのを止めようとしていたが彼には無駄だった。

「味方? 俺はお前のことを知らねぇもん」

「かーっ!!!」

 腹立った様子で彼は一度マックスから間合いを取ると一気にカーサスの元まで後退する。一瞬で彼のところへやってきたリブラに驚いて弾の装填が間に合わず大男の突進を食らいそうになるも彼が魔法を使って弾き飛ばしてくれた。

「お前、本当に味方なのか」

「私はヴィクトリアの兄、リブラだ。カーサス君」

「へっ!?」

 それを知って開いた口が塞がらなかった。

「良いかい、ヴィクトリアに奴隷の居場所と解放をお願いしたから、私たちはこいつらを足止めしないといけない」

「足止めじゃなくて殺しても良いんだよな」

「もちろんだが、君は魔法を使えないだろ」

 返す言葉がなかった。

「魔法すら使えない君は足止め位しか出来ないと思うが」

 現にファイティングジャイアントを倒せずに苦労している。彼の言う通りだ。しかし使えないもの仕方がない、そう考えるカーサスは、

「なら足止めでも……」

 迷いが出ていた。これで良いのかと。そこにリブラは振り向き彼に優しく言った。

「この先、必ず苦難が強いられる。その中でお前は私たちの妹を護らなければならない。それが契約であり務めでもある」

「契約……務め…」

「そうだ。今ここでもう一度問う、お前はヴィクトリアを護るか、ここで死ぬか」

 死ぬ、つまり契約を解除するというわけだ。彼はもちろん生きることを選ぶ。これは死にたくないという思いではなく大切な人を護りたい、そう思ったからだ。

「ならば見せてみよ。お前の力を」

「俺の力……」

 大男のふたりがカーサスに向かって突進を仕掛けようとしている。彼は冷静に装弾すると拳銃を敵に向ける。

「貴様の銃は効かんぞ」

 嘲笑するファイティングジャイアントは彼の間合いに入った瞬間、ひとりの男の背から血飛沫が中空を舞った。そして力を失い前転すると隣を走るもうひとりの男を巻き込んで地面を転がる。

 カーサスの目の前で止まった彼は絶命している同胞を何度か呼び掛け彼に何をしたか詰問する。リブラもその様子に耳を傾けた。

「意識をこのナーワルに集中させたらお前のお仲間を殺せたんだ」

「それは念写系の魔術だ。恐らく魔力で拳銃の弾の威力を向上させたんだ。やれば出来るじゃないか。これも立派な魔法のひとつだぞ!」

「俺にも魔法が使えたのか……」

 彼は喜びと自信が一気に沸騰すると再び意識を集中させ、残る大男の額に銃口を向けて引き金を引いたのだった。

※更新が遅れて申し訳ありませんでした。

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