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The ARK  作者: にゃらふぃ
第1章 伝説の英雄
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第21話「覚醒(前編)」

 カーサスがひとりで乗り込んでから数時間が過ぎた頃、ヴィクトリアの呼吸は今にも止まりそうであった。そして未だに彼の名を呼んでいる。

「流石に彼ひとりではまずかったのだろうか。主人様と違い、カーサス様は人間上がりの不老不死。それに……」

 彼女を見つめて何かを思うウィンディー。

「――彼は特質したものがあまりない。あるのは主人様を護る思いだけ。立派だが儚いものだ」

 すると咳き込む彼女に水を持ってくるようジュリエッテに頼む。グラス一杯の水を持ってくる間、彼女は息を途切れ途切れにしながらウィンディーを呼ぶ。

「な、何でしょうか」

「カーサスを追え。やっぱり彼だけじゃ無理だ。ボクとジュリエッテは大丈夫だから」

 とは言ったものの今の状態ではとても自分はもちろん少女を守ることは出来ない。彼は猛反対するもヴィクトリアは今にも死ぬかもしれない体を起き上がらせ、

「これは私の命令だ。背けば契約を破棄するぞ!」

 血走る眼光を彼に浴びせ震え上がらせる。ここで言う契約とは精霊との間で交わしたもので仮に破棄した場合ウィンディーは消滅してしまう。また風の精霊である彼が消滅するとなると、この世に風が無くなってしまうのだ。

「わ、分かりました。カーサス様を追い掛けます。ですが、これだけは言っておきます」

 彼女は本をそっと閉じるかのようにベッドへと横たわると彼の話に耳を傾けた。

「今の命令、決して命乞いなどではありません。彼を身勝手にも、また無責任に送り出した事を思っての承知です。無事に責務を果たした後、再度処罰を進言して下さるよう……」

「良いから早く行け!」

 あまりの怒号に水を持って来たジュリエッテは硬直した。そしてウィンディーが飛び出していくのを見送るとヴィクトリアに水を差し出した。

「ありがと……うっ」

 胸に激痛が走り彼女はベッドの上で激しく悶え、そして息耐えてしまった。その光景にジュリエッテは泣き喚き外へ飛び出してしまう。

 暫らくしてから彼女が宿主とともに部屋へ戻ってくるとそこにはヴィクトリアの姿は無かった。が、代わりに少女の姿があった。ネクロスだ。

「おやまぁ、何処から入ってきたんだい」

 宿主の老人は外へと追い払った。彼女は老人がよそ見をしたその隙にジュリエッテの手を引いて共に宿から離れる。

「あなた、誰?」

「後で話すから、今は一緒に来て」

 宿から遠く離れた山林へ逃げ込むと流石に少女は息を上げていた。ネクロスは平然としている。

「ごめん、無理させちゃって。私はネクロスで、信じないかもしれないけどヴィクトリアだよ」

 少し戸惑った感じではあったが少女は笑顔を作り、

「信じる。だってお姉ちゃんはお姉ちゃんだもん」

 手を繋いで喜んだ。ネクロスも微笑んでいるとジュリエッテが心配した顔で訊ねてきた。

「手、冷たい。大丈夫?」

 彼女は少女を抱き寄せた。

「私は……というかこの体は死後の世界の物なんだ。だから死体みたいなもので手も足も冷たく、心臓も止まって、息だってしてないんだよ」

 少女には難しいことかもしれないがありのままを話した。意外にもそれを受け入れ思いもよらない言葉を掛けてくれた。

「体は冷たいけど、心は暖かい。だから自分を冷酷だとは思わないで。ねっ」

 難しい言葉もよく知っているものだと感心していた。

「ところでヴィクトリアお姉ちゃんとはどう違うの?」

 突飛な質問にどこから説明したものかと考えていると山林の奥から何やらひそひそ話が聞えてきた。誰かがこちらへ近づいてきているようだ。

「誰か来るよ」

「説明してあげる。私は死後の世界の役人で謂わば死神。幽霊みたいなものだからこうしてこうやって……」

 懐から何かを出してその場で作り上げるとジュリエッテに見せる。それは碧く光沢のある石が繋がれたネックレスだった。

「良い? これを肌身放さず首から提げているんだ」

「分かった。でもこれは何?」

 すると近くをふたりの大男が通り過ぎた。彼女たちには全く気付いていない様子だ。

「これを身につけている間、あなたは誰からも見えなくなるんだ」

 死人のネクロスや精霊のウィンディーからは見えるが不老不死やカーサス、ただの人間であるリブラたちからは見えない。逆にネックレスを付けた状態だと普段見えない幽霊などが見えてしまう。

「もし幽霊が見えても気軽に声かけちゃダメだよ」

「う、うん」

 そうしてふたりは山林を登りどこかに入り口が無いか探し回ったが見付からなかった。

「おかしいな。この山林だと思ったんだけどなぁ」

 結局先ほどの男ふたり組もただの登山客だったのだろうか、そう考えて切り株の上に座り溜め息を吐くネクロス。ジュリエッテが元気を出すよう声を掛ける。

「ありがとう」

 すると彼女は胸を擦るようにしていることに気が付く少女が訊ねた。

「痛むの?」

「えっ!?」

「心臓、痛むの?」

 見抜かれてしまったのかと思い彼女は頷いた。

「ははは、ヴィクトリアの時ほど痛みは軽減されてるけどね。でも体は変わっても私は私……だからハートフルは私に掛けられた呪いみたいなものだと思っている」

 胸で手を堅く握り締める彼女を見て少女はどうしたら良いか分からないでいた。こんな時、どうした良いのか考えていると再び先ほどの男ふたり組がやってきた。

「ちょ、ちょうど良い。彼らに案内してもらおう」

 後を追い掛けて見ると大きな木のトンネルが目の前に現れた。

「大きい」

「一見したら見過ごす位の立地と初見だ」

 彼らはトンネルの中を進んでいき螺旋状の道を降りていく。ふたりも後を追い掛けると大きな鉄扉(てっぴ)が聳え立っていた。

「よぅし開けろ」

「ほいさ」

 扉の中心部に付いてあるハンドルを回していく大男。凡そ100回転させると鍵が解除される音が聞こえた。そして厚さ500ミリの鉄扉が開かれたのだった。

「す、凄い」

 ふたりの目の前に広がる光景は想像を絶するものだった。カーサスが思った時のように。

「山の中に街があるなんて」

「凄いや。でも明るいね」

 ネクロスはぼんやり輝く光を指差し、

「あれが多分、この世界を照らしている魔法石みたいなものだよ」

 魔法の力で作り出していることを教えてあげた。そうしていると今度は3人組の男たちが外の世界へと出発した。

「彼らは一体何者なんだろうか」

 そう考えながら不思議な世界へと足を踏み込んでいく。少なくとも外の世界の住人ではないのだろうと思っているとふたりの前に彼が現れた。

「カーサス!?」

 偶然にも彼は鉄扉から出てきたふたりの前を通り過ぎるところだった。

「後を付けようよ」

「そうだね」

 少女の言葉に賛同して後を追うと大きなパイプのようなものが見えた。

「あれは一体……」

「上に伸びてるね」

 この街が山の中だとするとあのパイプは頂上に向かって伸びていることになる。

「何を考えているんだ」

 そう思い立ち止まったカーサスに気が付かず突進してしまう。

「マズい……」

「どうするの?」

 幸い近くに大男が歩いていたためかカーサスは彼に謝っていた。当然男は何のことかと思っていたがふたりにとっては好都合だ。

「バカで良かった。もしかしコイツ、リブラよりバカかも」

 不思議な顔を浮かべる彼は再び歩きだし、暫らく歩くと天へ聳えるパイプラインの根元までやってきた。

「凄く太くて頑丈なパイプだ」

「何の為?」

「これは空気を地上から取り出すためだね」

 突然彼女たちに話し掛けてきたのはウィンディーだった。ふたりを見つけて後を追ってきたらしい。

「それにしても主人様……ジュリエッテ様まで連れ込んで何かあったらどうするおつもりなんですか」

「うぐっ……ま、まぁ、ひとりにするよりかは良いと思……」

「そんなことを言ってるんじゃないです!」

 ジュリエッテに止められるまで言い争いは続いていた。

「こんなところで喧嘩は止してこれからどうするか考えないと」

 幼い少女にここまで言われてふたりは恥ずかしい気持ちだった。

「そうだね、取り敢えずあのバカに知らせなきゃ」

 恐る恐る近付いていくと突然に彼は身構えた。気付かれたかと思いきや周りには黒いローブを頭まですっぽり覆った魔導士たちが取り囲んでいた。

「こいつらは……リブラと一緒にいた魔導士だ」

 彼らの背丈よりも高い杖をカーサスに向けると稲妻のような閃光とともにカーサスの元へ電気が走る。華麗に交わすも多勢に無勢で一撃を食らってしまい、その場に(うずくま)った。

「カーサス!」

 すると彼は立ち上がり挑発した。魔導士たちは再び杖を振り(かざ)して呪文を唱えると今度は鉄の杭のようなものが彼を襲う。

「加勢します」

 ウィンディーが払い除けるように手を振ると風が生まれて杭が魔導士たちへと襲い掛かる。その状況にカーサスは過度な挑発を繰り返していた。

「ジュリエッテは絶対にネックレスを取っちゃダメだよ!」

「う、うん」

 少女を信じて彼女は彼らの前に出現魔法を解いた。するとカーサスも含めて突然現れたネクロスに言葉が出ない様子だ。

「お前、あんな体で良く……」

「そんなことは良いから行くよ!」

「おう!」

 戦闘へ入る前に彼女はウィンディーへアイコンタクトを送っていた。それは彼自身姿を現さず援護をするようにのことを意味する。最悪、ジュリエッテを連れてふたりだけでも逃げることを視野に入れたものだ。

「無鉄砲さは変わらないね」

「お前が言うな」

「私は対応出来るから」

 狼狽える魔導士に向かって石畳から錬成した杭を手に襲い掛かる。次々に彼らは悲鳴と血飛沫を上げて倒れていく傍らでジュリエッテが小さく応援していた。

「出来ればあの子には見せたくなかったが。仕方ない」

「ジュリエッテも来てるのか。俺にはどこで見てるのか検討もつかないがなっ!」

 拳銃で敵の脳天を撃ち抜くと装填のためにネクロスと背を合わせた。カーサスの方が大きく不釣り合いに見えたがウィンディーはその光景に満足する。

「あぁ、映えますな。主人様、ご立派です」

 見惚れているわけにも行かないため適所に支援をすると敵の増援が建物を伝ってやってきた。今までの敵とは違い、上位の魔導士だと感じたネクロスはカーサスに忠告する。

「気をつけて、多分マックスの側近クラスの(やっこ)さんだよ」

「分かってるよ。でもこいつらを倒さないと奴にまでは辿り着けない」

 それもそうである。彼は装填の終わった拳銃を構えひとりずつ確実に打ち殺せるように急所を狙った。

 ネクロスは石の杭を地面に置くと今度は自分の身長の倍以上ある大きな鎌を錬成する。これは死神の道具のひとつでもあった。

「鎌持ってる死神なんて絵本の世界だけかと思ってたぜ」

「実際その通りのようなものだけどね。私たち死神は普段、魔導士みたいな杖を持ってるから」

 鎌を大きく振り回すとその力で彼女は敵の頭と胴体を真っ二つに切り刻んで行く。

「――死神が鎌を持っているのは下界の人たちに恐怖を表すためのただのパフォーマンスなんだ」

「実際効いてるよな。物理的に」

 半数近くの敵を切り刻んだネクロスは返り血を浴びて装束が赤く染まっていた。

「後で洗うの大変なんだよな」

 爪の間から血を拭いながら次なる目標を探す目付きに魔導士たちは畏怖した。しかし逃亡する者は現れなかった。それほどリブラとマックスの方が恐れているのだろうか。

「兎に角、さっさと殺しちまおう」

「同感」

 そうしてふたりはすべての敵を借り尽くすと溜め息を吐いてその場に座った。

「疲れた」

「増援はもう来ないかも?」

 と安心しているところに水を差すウィンディー。突然現れた彼にカーサスは驚いて心臓が止まるところだった。

「お前もいたのか」

「ずっといたよ。それに支援してくれてたじゃない」

「あの風ってお前だったのか。てっきり奴らの誰かがポカやったのかとばかり」

 そうしていると彼らの前にマックスが堂々と仲間を連れてやってきた。

「お前……」

「死んでいなかったとは悪運の強い。だがここで死んでもらうよ。秘密を知ったお前ら全員」

※次話投稿したつもりがされていませんでした。また、半ページ分しか書いておりませんので第21話後編は次週に投稿予定です。この度はご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。

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