表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶え損ないの人類共  作者: くまけん
最終章 人類絶滅災害編
988/1030

第958話 「一人一人が繋げる希望」

 シアノ熱の治療にはルトゥギア国だけでなく他国の協力も不可欠だ。チェルダード王国のティアナ女王には、互いに情報提供するよう契約を結んでおいた。中央都市の研究結果はウォレット傘下の企業に共有される。その見返りに、ウォレット達の研究成果も中央都市に渡される。

 ティアナ女王は快く協力を受け入れてくれた。彼女の対応は素早く、おかげで多くのチェルダード国民は救われるだろう。民の事を第一に考える彼女は、実に優しい為政者だとウォレットは感じた。権力者が嫌いなウォレットだが、ティアナ女王の手助けするのに僅かな躊躇も無い。それだけの器がティアナ女王にはあった。

 ウォレットは経営者として、ティアナは君主として、国家全域に届く規模でシアノ熱対策を進めていた。チェルダードとルトゥギアが手を組めば、史上最悪の感染症にも勝てるはずだ。ウォレットは敗北する気などさらさら無い。勝利を盤石にするため、ウォレットはバースグロウス王国にも声をかけるつもりでいた。


 バースグロウスと言えば、あの子供達の功績も忘れられない。

 ヴォルテッシアノ大陸の『人間工場』で生産された子供達だ。バースグロウス王国が人口増加政策の一環として始めた、効率的に人間を産み育てるための施設が、ヴォルテッシアノ大陸には存在した。そこで時折産まれた生殖能力の無い子供達を、ウォレットは引き取った。バースグロウス王国にとっては『不要な廃棄物』で、ウォレットにとっては『貴重な人材』である子供達は、現状において想定外の活躍を残した。

 ヴォルテッシアノで生まれ、生活を続けてきた子供達の体には、シアノ熱のウィルスが存在していた。普通ならシアノ熱の症状を発症し、死に至るだろう。しかし、廃棄された子供達の中でシアノ熱を発症したのは、報告によると『ルゥミィ』という少女のみ。他の子供達はウィルスを宿しつつも健康だった。旧型のシアノ熱ウィルスに感染しつつ、健康を維持した実例がそこにあった。

 50年前の『はじまりの日』を知る者からすれば、ありえない事態。「シアノ熱に侵されたら死ぬ」という常識を覆す例外。これは人類の希望だった。

 子供達から採取した血液には、シアノ熱に関する無数の情報が詰まっている。これさえあれば、新型シアノ熱のワクチン開発は凄まじい速度で進むだろう。「不要」と切り捨てられた子達の献血が世界を救うなど、誰が予想しただろうか。


 全て無意味ではなかったのだ。クロム達と出会い、逃走劇に協力した結果得られた、ティアナ女王とのパイプ。ヴォルテッシアノ大陸から預かった、行き場の無い捨て子達。子供達を引き取るにあたって交渉した、バースグロウス王国との繋がり。全ての出会い、全ての助け合い、全ての交渉が、巡り巡って現状を打破するための切り札になっている。

 これが投資の醍醐味なのだ。目先の利益に執着せず、広い視野で物事を捉え財産や労力を費やす。その結果、より大きな利益が生まれる。

 ウォレットは人助けが嫌いではなかった。人助けは投資に似ているから。


 これが経営者の戦いだ。ウォレットは戦闘のプロではない。戦場に立って敵を倒すのには向いていない。せいぜい自分の身を守るので精一杯だ。軍隊やドラゴンを倒す役割は、別の人に頼む他無かった。だからせめて、シアノ熱との戦いはウォレット達が背負う。武力ではどうしようも無い病魔との戦いを、財力や知力で制するのだ。

 ルナロードが人類に与えた『試練』は、シアノ熱だけではあるまい。他の『試練』をいくつも用意しているはずだ。中には金や知性では解決出来ないものもあるだろう。ウォレットの才能でも届かない相手はいる。

 だからウォレットは、任せた。頼れる部下に、そして見知らぬ誰かに。自分の力ではなく他人や運に任せる『祈る』という行為をウォレットは避けていたが、今回ばかりは特別だ。何故ならこれはウォレット一人の戦いではなく、人類全ての戦いなのだから。


              *  *  *

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ