第943話 「予期せぬ増援」
お待たせしました。連載再開です。
「え、ピアルタ、何で……」
ファティオがいた場所には、ピアルタが立っている。ファティオは離れた位置にて尻餅をついていた。火傷一つ負っていない。爆発が起きる前に逃げ出せたのか。いや、この光景はむしろピアルタがファティオを助けてくれたようにも見える。
「クロム、と……そこのお兄さんは誰だったです? 見た事ある気がするですが」
ピアルタは俺達を見て首を傾げた。名前も覚えていないファティオを助けてくれたというのか。何というか、意外だった。
「ありがとう、ピアルタ。でも何故だ? 竜人傭兵団が俺達を助けるなんて」
「あちし、もう竜人傭兵団じゃないです。貯金で遊んで暮らす絶賛無職中です」
ピアルタは真顔でピースをした。竜人傭兵団をクビにされたという事だろうか。だとしても、何故ここに来たのか。
「でも不思議です。お金が沢山あって、一生遊んで暮らせるはずなのに、なんか満足しないです。日常が欠けているというか、そんな感じです」
ピアルタは俺の前へ近付き、有無を言わせぬ語気で言った。
「だから、あちしを雇って欲しいです。いやそもそも、さっき助けちゃったから契約成立です。タダ働きは許さないですよ。ほら、料金を払うです」
「ゆ、有料?」
「当たり前です。労働者には賃金を支払うのです」
ピアルタは手を出した。傭兵に戦わせたのだから賃金を払う、というのは正論に思えるが、いきなりやって来ていきなり助けて料金を請求するのは強引な話だ。傭兵の押し売りを、俺は初めて見た。
「お金は多ければ多いほど嬉しいのです。さぁ、さぁ」
ピアルタは手を何度も突き出すが、生憎俺は手持ちの金が無い。つい最近まで身ぐるみ剥がされ監禁されていたんだぞ。
「料金は僕が払いますよ。だからクロム隊長に協力して頂けませんか?」
ファティオが立ち上がり、ピアルタに交渉した。ピアルタは表情を変えないまま親指を立てた。
「いい判断です。言っておきますが、あちしは強いですよ。あの女の子を倒せばいいですね? すぐに終わらせてあげるですよ」
ピアルタはスーニャにハンマーを向けた。当のスーニャは、わなわなと震えて目を見開いていた。
「お、おかしいよっ! 磁場爆弾は必殺の爆弾! 何で、何で無傷なのっ!」
スーニャは現状を受け入れられずにいた。ファティオだけならず、爆風をまともに食らったはずのピアルタにすら傷は無い。爆弾は地面を抉っただけで、誰も殺せなかった。
「別にどうという事は無いです。このお兄さんを蹴っ飛ばして、あちしが爆弾に覆い被されば被害はゼロです。それだけです」
平然とピアルタは言う。俺は知っているが、スーニャは知るまい。ピアルタの皮膚は恐ろしく頑丈だ。俺の斬撃すら通らない。たとえ爆風でも、ピアルタに傷一つ与えられないだろう。彼女の衣服は多少破れてはいるが、言い換えればその程度で済んでいる。衣服も含め、ピアルタは鋼鉄のごとく鉄壁だ。
「あり得ない! あり得ないあり得ない! お前みたいな化け物ぉ!」
「はい、化け物です。竜人は最強の生物兵器ですから」
否定の言葉を並べるスーニャと、それをさらっと流すピアルタ。二人のテンションには天地の差があるように見えた。
「仕事は早く終わらせるが吉です。時給換算でお得に感じるですよ」
ピアルタはハンマーを振り上げ、スーニャの前へ飛び出して行った。ピアルタの一撃を、スーニャは住んでの所で躱す。地面に打ち付けられたハンマーの音は、まるで爆音のようだった。




