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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第91話 「悪意、参戦」

「貴様ともあろう者が、このような雑魚に後れを取るとは。情けないな、クロム。我が輩が手を貸さなかったら死んでいたぞ」

 オーディンの言葉に、センが眉をひそめた。

「あぁん? オレが雑魚だと? 言ってくれるじゃねぇか。テメェは何者だ」

「我が輩は『イーヴィル・パーティー』のボス。オーディン・グライトだ」

「へぇ。『イーヴィル・パーティー』ね。聞いたことあるぜ。世界中で悪行を働く連中だってな」

「そう言う貴様は何者だ? 全身から漂う殺気といい、その右足といい、ただ者ではなさそうだが」

 オーディンはセンの『ファストグシーガの右足』を見て言った。雑魚なのかただ者じゃないのかどっちなんだ。何だか、悪意のある嘘に包まれた感じがする。

「オレは『執念の手』っつー殺人集団の一員だ。名前はセン。名字は無いぜ。よろしくな、おっさん」

 『執念の手』だと? 初めて聞く単語だが。

「『執念の手』か。情報は入って来ているぞ。この街で起きている騒動も、貴様らの仕業か」

「ご名答。オレ達四人は今日、チェルダード王国を滅ぼしに来たんだ。冗談でも虚言でもねぇ。本気でな」

 四人、か。街で発生している爆発事件も、センの仲間の仕業なのだろう。


 それにしても、今日は不愉快な再会が多い。センに引き続いてオーディンとは。奴は何のためにここに来たんだ。

「オーディン。お前の目的は何だ。また犯罪を起こしに来たのか」

 天下の中央都市にわざわざ潜り込んで来たのなら、軽い犯罪が目的ではないはずだ。初めて会った時のような、食い逃げなどではない。

 何故だろう。オーディンの近くにいるだけで、『とんでもない事件が起きた』気がするのだ。この悪意の塊のような男は、きっと大きな犯罪を起こしたはず。そんな予感がするのだ。

 だがオーディンは首を横に振り、残念そうな顔をした。

「本来は王国の財宝を盗むつもりだったのだがな。王宮の外が騒がしいので、様子を見に来た。そしたらこの有り様だ。人が死に、街が壊れている。そして、貴様を見つけたという訳だ」

 オーディンは俺に視線を向けた。

「……何故、俺を助けた」

 オーディンと俺は敵同士のはずだ。俺が真っ二つにされそうになっても、オーディンが助ける義理は無い。

「単純なことだ。貴様に死んでもらっては困る。貴様を屈服させるのは、悪の象徴である我が輩だけだ」

 オーディンは銃を懐に収めた。

「このセンという男は貴様の敵なのだろう? ならば共闘しようではないか」

「何を言っている! 俺がお前なんかと一緒に戦えるか!」

 アイズの仲間達ならともかく、こんな男に手助けを受けるのは御免だ。いくらオーディンが強いとはいえ。

「どのみち、人殺しは見過ごせないのだ。『イーヴィル・パーティー』としてはな。我が輩がこの男を始末するのは決定事項だ。貴様の意見など知るものか」

 悪党らしい身勝手な言い分だ。

 くそっ。仕方無い。ここでオーディンを追い払うのは一苦労だ。奴の強さは知っている。癪に障るが、今回はオーディンと共闘するとしよう。


「おいおい待てよ! 誰が誰を始末するって? 調子に乗るなよ。殺人すら出来ない偽悪者がよぉ!」

 殺人が出来ない? イーヴィル・パーティーのような悪人集団は、軽々しく殺人に手を染めそうだが。

 センはケラケラと笑って言った。

「知ってるぜ! 『イーヴィル・パーティー』は殺人を好まねぇらしいな! それでよく悪党を名乗っていられるぜ!」

「確かに、『イーヴィル・パーティー』は無駄な殺人はしない。だがそれは、被害者になりうる人間を減らさないためだ。我が輩達が加害者で居続けるためには、被害者が必要なのだ。故に、『イーヴィル・パーティー』は被害者を減らすような真似はしない」

「意味分かんねぇ理屈言ってんじゃねぇぞ!」

 意味不明さで言えばお前の圧勝だぞ。

「クロムよ。我が輩は今から『ジャンバラ』を使う。貴様にも被害が及ぶかもしれん。だが貴様を気遣うつもりはないから覚悟しておけ」

 『ジャンバラ』はオーディンの持つ『加害の一振』だ。刀から発せられる悪臭や不快音で、相手の心身を害する武器。

 ここで使えば、俺にも能力が届くだろう。

 だが、俺はその程度で戦いを放棄したりしない。逃げたくない。

「分かった。俺も俺の自由に戦わせてもらう。連携なんかは考えないからな」

 元より、連携など取れるとは思えないが。

「ああ。……まぁ、貴様にはもうジャンバラの能力は効かないかもしれんがな」

 どういう意味だ? 俺が尋ねる前に、オーディンは腰の鞘から『ジャンバラ』を抜いた。

 武器とは思えない程の歪な形状。溢れ出す悪臭。存在を知覚するだけで心を犯されるような刀だった。

 しかし、何故か前回対峙した時より不快感が薄い。これなら戦いの最中に気絶することも無いだろう。

「『加害の一振 ジャンバラ』だ。キャリア・スカーロの武器を見るのは初めてか?」

 オーディンはセンに向かってそう言ったが、センは興味深そうに『ジャンバラ』を見た。

「へぇ! テメェもキャリア・スカーロの剣を持ってんのかよ! こいつはとんでもない偶然だな!」

 オーディンの目が細くなる。

「まさか、貴様も……?」

「そうだよ! 『刹那の一振 セナージ』だ!」

 センは興奮気味に言った後、不思議そうに聞いた。

「でも剣の名前と持ち主の名前が似てねぇな。誰かから奪ったのか? オーディンさんよぉ!」

 キャリア・スカーロの武器には、持ち主の名前を元にした名前が付けられる。だがオーディンの刀は『ジャンバラ』だ。似てない。

 俺もラトニアの海岸で、同じ疑問を抱いたことがあったな。

「我が輩はいくつもの偽名を持っている。『ジャンバラ』を手に入れた時は、『ジャンバル』と名乗っていたな」

「じゃあオーディンってのも偽名か?」

「その通りだ」

「本名は何だよ」

「教える必要はあるまい。貴様は間も無く死ぬのだからな」

 センはニヤリ笑って、『セナージ』を構えた。

「そうだな。今から死ぬ奴の名前なんか聞いても仕方ねぇよな」


 『刹那の一振 セナージ』を構えるセン。

 『加害の一振 ジャンバラ』を構えるオーディン。

 『純潔の一振 クロミール』を構える俺。

 三つの剣と三人の人間が向かい合っていた。


              *   *   *

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