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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
最終章 人類絶滅災害編
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第938話 「帰国手段」

「見たまえクロム嬢! これが僕様達の希望の船さ!」

 アイズの隊員が集合した時、ウォレットは真っ先に飛行機を紹介した。小型ではあったが、真新しくて今にも動き出しそうだ。

「船っていうか飛行機だな」

「細かい事はいいんだよクロム嬢。それより気にすべきは今! 僕様達がランクトプラスを脱出する術を手に入れたという事実じゃないかい?」

 ウォレットは意気揚々と言った。本来帰還の際に使うはずだった飛行機は、竜人ブラディエゴに破壊されて飛べなくなった。だから俺達はここランクトプラスの地に閉じ込められた訳だったが、今になって空の移動手段が手に入ったらしい。今まで飛行機なんて無かったのに、どうして急に用意出来たのか。

「これ、どこで見つけたんだ? まさか軍から買ったとか言わないよな?」

 エリックは俺の代わりに質問してくれた。ウォレットは「まさか」と首を横に振る。

「いくら僕様でも、敵国の軍隊から物は買えないよ。ランクトプラス軍の侵攻は止まったとは言え、今も一応戦時中だからね。これはレジスタンスの方が作って下さったのさ!」

 ウォレットは飛行機のボディを撫でる。レジスタンスが飛行機を作る技術を持っていた事に、俺は感心しつつ驚いていた。

「そんな簡単に作れるものなのか。だったら、もっと早くに作っておけばよかったのに」

 そうすれば俺達も安心出来るし、レジスタンスの活動も有利に進んだだろう。しかしそう甘くは無いと、ウォレットは説明を加えた。

「まぁ事情があってね。ここは……というかランクトプラス内全てのレジスタンス組織は、軍に監視されてたんだよ。むしろ、軍がレジスタンスを結成させたと表現した方が適切だ」

「えっ?」

 ウォレットが内部事情に詳しいのはいつもの事なので驚かないが、しかし内容が内容だった。俺達はずっと監視されていたのか? ヂール達ランクトプラス軍に。

「なんで、わざわざ軍が敵対組織なんかを」

「敵を管理下に置くためさ。軍に刃向かおうとする国民は、レジスタンスの情報を知ってそこに加入するだろう。軍が作った組織だとも知らずにね。そうして、国内反抗勢力を操るのがヂールの目的だったんだよ。レジスタンスが生まれるのも、見つかって処刑されるのも、全部出来レースだったのさ」

 当たり前の事のように、ウォレットは語る。権力者にとっては、そんな恐ろしいやり方が常套手段なのだろうか。レジスタンスの人々は、その事実を知らぬまま嬉々として反抗活動に精を出している。

 俺はレジスタンスの人の顔を見ようとした。だが、周りには俺達以外いなかった。それもそうか。レジスタンスの人が近くにいないから、ウォレットはこんな話をしているのだ。

「先程から過去形でお話しされてますが……現在の事情は変わった、と解釈していいですか?」

 ファティオが話に参加する。彼の着眼点は素晴らしく、ウォレットは満足げに「いい質問だね」と答えた。

「そう、状況は変わったのさ。ヂール・ランクティアスが死亡したと、国内のニュースが報じている。この意味が分かるかい? レジスタンスの監視を命じていた男が死んだのさ。その上ランクトプラス軍はドラゴンとの戦いに大忙し。これはもう、レジスタンスを見張ってる場合じゃないよね」

 これまた、初耳の情報だった。ヂールが死んだ? あの、常に他人を手のひらの上で踊らせてそうな男が? 随分と呆気ない気がする。

「つまり、さ。監視されてた頃に飛行機なんか作ろうものなら、すぐに妨害工作に遭って失敗しただろう。でも今は違う! 飛行機も戦車も作りたい放題! 鬼の居ぬ間に洗濯! レジスタンスの人も喜んでたよ。『何故か今回はスムーズに作れた』ってね!」

「ちょ、ちょっと待ってよウォレット。監視されてたのには前々から気付いてたの? だったら、早く言ってくれたらよかったのに!」

 カインズはウォレットの説明を聞いて抗議した。ウォレットが情報共有してくれなかった件について怒っている。ウォレットは申し訳なさそうな顔をしつつも反論した。

「すまないねカインズ。だけど、君らに教えたら戦おうとするだろう? レジスタンスを守るために」

「そうだよ! ボクは戦う!」

「駄目だ。戦ってもいいけど、それは今じゃない。戦力も作戦も整ってない状態で喧嘩を売るのは単なる無謀さ」

「そんなの、結果を見ないと誰も分からないよ!」

「じゃあ結果論で話そう。例えば今からランクトプラス軍に攻撃しようと思うかい?」

「それはっ……」

 カインズは言葉を詰まらせた。勢いに任せて肯定出来る程、今の状況に余裕が無いのはカインズも理解していた。打倒ランクトプラス軍を掲げて一致団結していたレジスタンスでさえ、今はシアノ熱の治療に追われているのだ。戦える状況では無い。それは共通の認識だった。

「……ごめん、ウォレット。君を責めてしまって。ボクが間違ってたよ」

「謝らなくていい。君の闘志は立派だ。だから少しだけ、その闘志を発揮するのを待って欲しい。事実上の休戦状態が終われば、きっと君の力が必要になる」

 ウォレットは多くを知り、そして多くは語らない。俺達に秘密にしている事はたくさんあるだろう。だけどそれは、欺瞞故の黙秘ではない。ウォレットにはウォレットなりの考えがあるのだ。ウォレットは俺達の事を考え、仲間として共に励んでくれている。ならば俺もウォレットを信じよう。


「……さて。レジスタンスの協力で僕様達は国に帰れる訳だけど。実はこの飛行機4人乗りだ。一度に全員は運べない」

 この場に集まったのは7人。全員が帰国するには、少なくとも二回飛ばねばならない。

「往復して運ぶとして、何人かにはここで待ってもらう事になる。では聞こうか。一刻も早く帰りたいって人はいるかい?」

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