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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第五章 世界大戦編
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第907話 「イーヴィル・パーティーのシエル」

「で、このガキをうちに入れたってか」

 イーヴィル・パーティーにシエルを加入させるにあたって、我が輩は他の構成員達にシエルを紹介して回った。大抵の反応は、疑心と不安。「こんな子供を仲間にしていいのか」と、直接は言わずとも顔で訴えていた。サジェッタの場合も同じだった。眉をひそめて、我が輩とシエルを交互に見る。

「まぁ、アタイの邪魔しないなら誰でもいい。ボスが連れて来たってことは、それなりに役に立つんだろ? せいぜい頑張りな」

 サジェッタは一応シエルを受け入れてくれたようだ。しかし、距離を置いた態度だった。サジェッタは見知ったばかりの相手に心を開くようなタイプではないのだ。

「そんな言い方は無いんじゃないか。サジェッタはいちいち怖いんだよ。あ、俺はガンダス・ジルガリオ。よろしく」

 イーヴィル・パーティーの一員であるガンダスは、シエルに一礼して自己紹介した。シエルもぺこりと礼を返し、「シエルです。よろしくお願いします」と挨拶した。

「ちっ。何だよテメエら。いい子ちゃんかよ。虫唾が走るっつーの」

 サジェッタは不機嫌そうに酒を呷る。そんな彼女をガンダスが宥めるという、よく見る光景だった。

「…………」

 やはりと言うべきか、シエルはすぐにはイーヴィル・パーティーに馴染めていないようだった。シエルが寄り添う態度を見せても、イーヴィル・パーティーの特性ゆえに反発してしまう。それも当然だろう。会ったばかりの我が輩が決めつけるのもどうかと思うが、シエルは善人だ。誘拐されても怯えずに、他の被害者を助ける事を第一に考えた。見ず知らずの我が輩を治療するために尽力した。我が輩と共にいる事で、世間から疎まれるかもしれないのに。打算や損益を無視した純粋なる善意。……そんなものを見たのは、いつぶりだろうか。

 シエルのような善人が、イーヴィル・パーティーにいる事自体が不自然なのだ。イーヴィル・パーティーの定義が揺らぎかねない。


 シエルの紹介を終えた頃、空は既に暗くなっていた。我が輩は流浪の悪党であるが故、決まった家など持たない。表社会の宿には泊まれないので、訳ありの人間を専門に泊まらせる『影宿』の世話になったり、野宿する事がほとんどだ。空き家が見つかれば幸運で、勝手に借りて一晩を過ごす。大抵の場合は屋根も無い草原でそのまま眠る。軍事学校に在籍していた頃に野営の技術は学んでいたので、森の中であろうと荒野であろうと夜を明かすのに苦は無かった。

「シエルよ。貴様はどこで泊まる予定なのだ?」

「どこでも問題ありません。ワタシもここまで旅してきましたからね。野宿だろうが平気ですよ」

 シエルも旅慣れしておるようだ。随分と逞しい。今夜は野宿するつもりでいたので、シエルも共に野宿してもらうか。

「…………」

 いや、そういえば。この前富豪の家から宝石を盗んだおかげで、今は懐が潤っているのだったな。少しばかり贅沢をするのも悪くない。

「近くに、贔屓にしている宿屋がある。行くぞ」

 予定変更。今夜は影宿に泊まろう。ちょうど近くにあるからな。

「はい、オーディン様」

 シエルは素直に聞き入れて、我が輩の後をついてきた。その呼び名に、我が輩は違和感を拭えなかった。

「なんだその呼び方は」

「ダメでしたか? 今日から貴方はワタシのボスですから」

 きょとんとした顔で、シエルは言う。確かに我が輩はイーヴィル・パーティーのボスであり、立場的にはシエルの上官のような存在だ。ここがランクトプラス軍であるなら、主従関係は絶対。呼び方一つとっても厳格でなければならない。だが、イーヴィル・パーティーに規範や秩序など無く、サジェッタのように礼儀知らずな態度を取る者も多い。シエルが我が輩をどう呼ぼうが、我が輩が指図するべき事ではないのだ。

「……ふむ。好きに呼ぶが良い」

 それにしても、だ。『悪党』になった我が輩に好意を以て接する者など、初めてかもしれん。何と言えば良いのか、シエルの態度は非常に距離が近かった。我が輩を敬遠する素振りは全く無い。

 不思議な少女だ。有象無象の群衆共とは一線を画している。それ故かどうしても、シエルに興味を向けてしまうのだ。


「部屋の鍵だ。一人旅に慣れておるのなら、個室でも問題無いな?」

 影宿でチェックインを済まし、我が輩はシエルに鍵を渡した。一人部屋を二つ取っても、料金は非常に安かった。影宿は最低限のサービスしか無い宿なので、その分安いのだ。野宿でも平気だというシエルなら、影宿の低質な部屋でも文句は言うまい。

「……ワタシ一人、ですか」

「あぁ。一人は怖いか?」

 やはり子供じみた事を言うのかと思ったが、シエルは首を横に振って笑った。

「いいえ。ですが少し……寂しいかなって」

 鍵を受け取り、シエルは部屋に向かった。その憂いを秘めた背中から、我が輩は目を離せずにいた。

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