第86話 「観察者と血竜」
クロム達が屋敷を出てから数分後。
残されたアイズのメンバーは、クロムの指示通りに屋敷で待機していた。
「やっぱ俺達も行こうぜ」
エリックが発言を呈した。
「このまま待ってても仕方ねーよ」
屋敷の外では、段々と爆発音が大きくなっていた。常人の耳でも聞き取れる程に。
「そうですね。僕もじっとしていられません」
ファティオが賛同した。すぐ傍でテロが起きているかもしれないというのに、じっと待っているなんて苦痛だった。
「じゃあ俺は例の『イマジンハート』とやらを見に行く。システムに異常があるってんなら、俺の知識が役立つかもしれねぇ」
エリックが言うと、ユリーナは「私も同行します!」と挙手した。
「僕は街の様子を見に行きます。怪しい人物がいたら捕まえましょう。ミミさんはどうします?」
「わたしもファティオ副隊長と同じく街を回ります。でも、二手に別れた方がいいでしょう」
「了解です。終わったらここに集合しましょう。では、お気を付けて」
副隊長の号令により、エリックとユリーナは『イマジンハート』へ、ファティオとミミは別行動でそれぞれ街へ向かった。
アイズのメンバーが屋敷から離れた後、ハルバート家の屋敷に近付く男がいた。
彼は研究者であり、センの仲間であり、『観察者』であった。
屋敷の門の前に立ち、『観察者』は不敵に笑っていた。
「超人の一族……ハルバートか。儂の実験に相応しい人材だ。その最期、観察させてもらうぞ」
『観察者』の真上には、大きな翼で飛ぶ生き物が一匹。
赤い鱗。黄色い角。太い尻尾。鋭い牙。
それは誰もが畏怖する存在。かつての世界を支配していた種族の一つ。
名を、ブラッドドラゴンと言う。
「ギュオオオオオオオオオオオオオオン!」
けたたましい咆哮が上空のガラス天井を震わせ、人々の耳に恐怖を刻んだ。
街の空を飛んでいたブラッドドラゴンは、ゆっくりと下降し、やがて屋敷の地面に降り立った。体長100メートル以上の巨大な竜が、四本の足で大地を踏み締め、蹂躙する。
傍にいた貴族達は、本能的な恐怖に支配された。
ブラッドドラゴンの瞳には、純粋な殺意が宿っていた。
「ギュウウウウウウウウウウウン!」
ブラッドドラゴンは牙を剥いて、大きく口を開いた。そして前方に立つ貴族を食らう。腰から上を噛み千切られた貴族の男は、重力に従って倒れた。足だけの死体と、そこから流れる血……。
「うわああああああああああああああああ!」
ブラッドドラゴンの捕食を目の当たりにした貴族達は、一目散に逃げ出した。瓦礫に躓きながら、必死に。
だが眼前の巨大なドラゴンを見ても、逃げ出そうとせず、豪然と君臨する男がいた。
「何だ貴様は……。ハルバート家に仇なすつもりか……?」
ヴィルカートス・ハルバートはブラッドドラゴンの顔面に近付き、勢いよく殴った。車のような大きさの頭部が揺れ、強制的に右を向かされる形となった。
「ギュオオオ!?」
ブラッドドラゴンの瞳がギョロリと動き、ヴィルカートスの姿を捉えた。
「ほう、面白い」
『観察者』は、ブラッドドラゴンの様子を離れて観察していた。
「ドラゴンの顔を殴るとは。臆さぬ心と高い身体能力。やはり、蛙の親は蛙ということだな」
『観察者』は白衣のポケットから書類を取り出し、データの確認を取った。
そこには、『カインズ・ハルバート』の名前が記されていた。
「だが人間との戦闘データは取得してある。ハルバート家と言えども勝てまい。なぁ、キューよ」
○休載のお知らせ
私生活が忙しくなったので、11月20日(金)から11月30日(月)までの間は連載をお休みします。




