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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第五章 世界大戦編
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第879話 「お姉ちゃん探し」

「助けて……くれるの? ぼくと、お姉ちゃん、助けてくれるの!?」

 唐突に現れた、ルナロードという救いの手。ププロはすぐさま希望に縋った。

 ルナロードが助けに来たのは間違いではない。だが、その対象はププロ一人だった。

「残念だけどね、君のお姉さんはもう助からない。だって死んでるんだから。死んだ人間を生き返らせるのは、流石の私でも不可能さ」

 ルナロードは首を横に振った。期待とは異なるルナロードの返答に、ププロは言葉を詰まらせる。

「な、なんで……。お姉ちゃん、死んでないよ。だってほら、ここに、ここにいるじゃん! 約束したもん! ずっと一緒にいるって!」

 ププロは、最早顔すら判別出来ない程変形した『姉』を見る。それはあまりにも拙い現実逃避だった。ルナロードはププロの異様な言動を見ても何も驚かない。全て知っていたように自然に接する。

「優しいお姉さんだったんだね。君のために食べ物を集めて、自分より妹に先んじて食べさせるなんてさ。そのせいでお姉さんは飢え死にしちゃった訳だけど、命さえ捨てても妹を守りたい気持ちは、実に美しい姉妹愛だと思うよ」

「……お姉ちゃんが、ぼくのために」

 洞窟に隠してあった木の実は、ププロの想像を上回る量だった。あの食料を食べていれば、ポポロは死なずに済んだだろう。でも、そうしなかった。何故か。決まっている。ポポロは妹が生き延びる事だけを考えて、自分は二の次だったのだ。

 自己犠牲と姉妹愛の精神。だがププロはそれを美談として聞けはしなかった。残酷な真実以外の何物でもない。だってそれは、「自分のせいで姉が死んだ」とも解釈出来るのだから。

 もし、お姉ちゃんが両親と一緒に暮らす選択をしていれば。自分が助かりたいなんて願わなければ。

「あ……あぁあ……」

「そうだよね。認めたくないよね。愛する人を失うのは、誰だって辛いものだ。ましてや君を助けるために死んだのだから、こんなに辛い事はない。だけど、『それ』はいつまでも君の隣にはいてくれないよ? 死体はいつか腐って、土に還る。跡形も無く消えてしまう。それが自然の摂理さ」

「やだ! お姉ちゃんはどこにも行かないもん!」

 ププロは死にかけの体で、精一杯の声をあげる。全身を襲う飢餓の苦しみより、姉がいなくなってしまう恐怖の方が強かった。

 分かっている。ルナロードは全て分かっている。だからププロの求めるものを差し出す事が出来た。

「君も本当は分かってるはずさ。お姉ちゃんはもういない。だけどね。私と共に来れば、君はお姉ちゃんにまた会える」

「……え?」

 ププロは目を見開いた。ルナロードが提示した、思いがけない希望。それはププロが喉から手が出るくらいに求めていたものだった。

「それ……本当?」

「本当だよ。私には未来が見えるのさ。君が『お姉ちゃん』とずっと一緒に暮らしていける、そんな未来がね」

 ルナロードの言葉に嘘は無かった。だかそれは、ポポロに似た『お姉ちゃんの代わり』を見つけようという意味だった。本物のポポロは二度と会えない。

 ププロも本心では、理解していたのだ。姉と笑い合える日は永遠に来ないのだと。だが残酷な現実を受け入れられる程、ププロは大人ではなかった。腐り始めた死体を『姉』と認識していないと、ププロは精神を保っていられなかったのだ。

「……お姉ちゃんは、ププロを一人にしないもん」

「その通り。だから一緒に探そうか。君の『お姉ちゃん』を」

 ルナロードは手を差し出した。ププロはその手に捕まり、立ち上がる。ずっと『お姉ちゃん』を掴んでいた手を、ようやく離した。

「君のお姉ちゃんは、埋葬してあげよう。でも心配無いよ。また会える。君の理想の『お姉ちゃん』が、待っているからね」

 その日からププロは、ルナロードの元に預けられた。ププロが竜人化手術を受け、竜人傭兵団の一員になるのも、自然な成り行きであった。


 それから月日は経ち。時折、若き乙女が行方不明になる事件が噂になった。色々な国、色々な地域で、可憐な少女が姿を消した。警察や自警団も動いたが、結局事件は解決していない。「神隠しだ」と騒ぐ者もいた。

 誰も気付いていないだろう。少女達が消えた地域と、竜人傭兵団の派遣先が一致している事に。


「……君、可愛いね。君はぼくの『お姉ちゃん』になってくれる?」


 ププロは少女を捕獲し、殺害し、保管した。あの日失った『お姉ちゃん』を取り戻すために。心に空いた穴を埋めるために。

 ププロは渇望する。お姉ちゃんと過ごすはずだった、夢のような日々を。この夢を忘れないために、ププロは姉の名前を受け継いだ。

 ポポロ・ププロ・ミルシャーニ。それが彼女の今の名だ。

 そして彼女は自らを「ポポロ」と名乗った。不思議なもので、その名を口にする度にお姉ちゃんが側にいてくれるような気がした。


 そうだ。もっと『お姉ちゃん』候補を集めよう。竜人の能力があれば、死体は腐らない。あの時みたいに、お姉ちゃんは消えて無くなったりしない。同じ形のまま、ずっと一緒だ。お姉ちゃんとの約束は、もうすぐ叶う。


 なのに。なのに。なのに。


 ミミという理想の『お姉ちゃん』を見つけたのに、邪魔が入った。クロム達はあろう事か、ププロに名を尋ねた。


 やめて。お願いだから。


 ぼく達姉妹の在り方に、疑問を持たせないでくれ。


              *  *  *

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