第876話 「姉妹の愛」
「暗く……なっちゃったね」
「うん」
山の夜を、ポポロとププロは洞窟の中で過ごした。小さな洞窟は風を凌ぐのにちょうどよかった。それでも寒く、二人は暖代わりにお互いの体を寄せた。
「ねぇ、ププロちゃん」
「どしたの? お姉ちゃん」
「お父ちゃんとお母ちゃんの事、嫌いになった?」
「……ううん」
何か話していないとププロは不安になった。これからどうなるんだろうと。
とは言え、いきなり山に捨てられた時よりかは気持ちが楽だった。隣に姉がいるだけで、大丈夫だと思える。
「帰れるのかな、ぼく達」
「……無理なんじゃないかな、多分」
ププロの淡い期待に、ポポロは首を横に振った。
「なんで? 遠いから?」
「それもあるけど、二人で帰れたとしても居場所は無いんだ。お金が無いし……お父ちゃんもお母ちゃんも、きっと居心地が悪いよ。本当は、ププロちゃんを捨てたくなんてなかったんだもん」
ポポロは両親の心情を理解していた。今頃も、両親は泣いているだろう。ププロと捨ててしまった罪悪感と、ポポロまでいなくなってしまった悲しみで。二人が家に帰れば、間違いなく両親は喜ぶだろう。だが同時に、途轍も無い罪の意識に潰されてしまう。娘を捨てておいて、どんな顔して接すればいいのだろうと。
だから、もう無理なのだ。両親はププロと完全に決別した。後悔こそあれど、「やり直そう」なんて口が裂けても言えない。ププロに帰る場所は無い。
「……そっか」
分かっていた事だった。これから一人で生きていかねばならない。……いや、一人ではなかった。
「でもポポロお姉ちゃんは、ぼくと一緒にいてくれるよね?」
「もちろん! ププロちゃんをもう一人になんてしないよ」
二人は抱き合った。ポポロは覚悟を持ってここに来たのだ。たとえ二度と両親と会えなくなったとしても、愛する妹と離れ離れにはなりたくない。これからは二人で生きていくのだと。
「ありがとう。お姉ちゃん……大好き」
ププロも、姉さえいれば寂しさが吹き飛んだ。これまでも一緒だったし、これからも一緒なのだ。
ポポロとププロは仲が良かった。姉妹の絆というよりは、もっと濃密な関係ではあったが。
「ね。ププロちゃん。ちゅーしよっか」
ポポロは妹の顔を見て囁いた。ププロは、ぽかんとした顔で聞き返す。
「ちゅー? お父ちゃんとお母ちゃんがたまにしてるやつ?」
「そーだよ。大好きな人とするんだよ」
「ほっぺた?」
「ううん」
そう言って、ポポロはププロの唇を奪った。
ずっと、ずっと、離さなかった。ププロは姉を受け入れ、この甘美な時間を堪能する。いきなりで少し驚きはしたけども、大好きなお姉ちゃんが目の前にいるのが嬉しくてたまらなかった。
唇を離した時、互いの吐息が触れた。じわじわと照れてきたけど、同時に物足りなさも感じる。
「もっかい」
今度はププロの方からキスをした。お互いを貪るように求める。舌と肢体を絡ませ、姉妹はより濃厚に繋がった。
もうやめられない。不安に苛まれた反動から、二人はいつも以上に愛し合った。もっと安心したい。愛する人が側にいる感動を、さらに深く刻みたい。
だから今夜は、ブレーキが効かなかった。
「ねぇ、ププロちゃん。服、脱いで」
ポポロは妹の上着のボタンに手をかけた。




