第872話 「ユリーナは立ち上がる」
後悔を思いっきり吐き出して、いつの間にか涙が乾いていたとユリーナは気付いた。無限に続くかのような啼泣も、やはり永遠ではなかった。だったらどうすれば良いのだろう。暗い部屋に一人閉じ込められては、真っ暗な感情が延々と渦巻くだけだ。
光が見たかった。この現実を打ち破ってくれるような希望が。
そんなもの、誰が持ってきてくれるのだろう? 決まっている。ユリーナに救いの手を差し伸べてくれるのは、クロムだ。
扉は開いた。廊下の明かりが差し込み、クロムがユリーナの前に現れる。クロムの顔を見た途端、ユリーナは声をあげた。
「クロムさん!?」
「ユリーナ。ここだったんだな。大丈夫か」
クロムはまっすぐにユリーナの元へ向かい、彼女の身を案じた。その優しさに安堵すると共に、ユリーナの心に罪悪感か宿る。
自分はミミの側にいながら、ミミを助けられなかった。ミミの末路を、クロムに見せたくない。
あぁ、私はどんな顔をしてこの人に助けられればいいんだろう。
「私は……私は、大丈夫です。でも……でも!」
ミミは死んでしまった。その事実を声に出すのが難しい。クロムがどんな表情になるか想像するだけで、恐ろしくて言葉に詰まった。
「……クロム隊長。ミミがいません」
カインズの洞察が、計らずもユリーナの逃げ道を奪った。クロムも周囲を見渡し、ミミがいない事に気付く。
早く言わないと。真実に辿り着くのは時間の問題だ。その前に、自分の口から伝えないと。
「ごめんなさい……ごめんなさい、クロムさん……。私……目の前で……目の前、だったのに……!」
謝罪の言葉が溢れ出た。また、涙が流れる。ユリーナの異変にクロムは気付き、恐る恐るといった口調で尋ねた。
「ユリーナ。ミミがどこにいるか、知っているか」
知っている。だから、隠しては駄目だ。向き合わなくてはならない。逃げ出したくなるような、この現実と。
「……来て、下さい。知ってます、私。だから」
そしてユリーナは立ち上がった。声も体も震えるけれど、この先へ進む。クロムの悲しむ顔なんて見たくない。それでも、目を逸らしてはいけないと知っていた。
きっと、クロムさんに嫌われちゃうんだろうな。
ユリーナは不安に覆われる。それは受け入れがたい苦痛で、来ないで欲しい未来だ。でも、もう恐れるには遅いのだとも分かっていた。
ミミが殺された時点で、安息なんて無かった。ユリーナはとっくに絶望の淵に立たされている。親友を失った後に、愛する人に軽蔑されたとしても……最早、相応しい罰だと言う他ない。
弱かった。だから助けられなかった。これが罰なら、弱さそのものが罪だ。
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