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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第81話 「殺意、襲来」

 時は遡り、戴冠式の日の午前9時。王子と国王の頭が消し飛ぶ数時間前。中央都市を囲む壁の東側にあるゲートの前に、彼ら4人はいた。

「バカみてぇに分厚い壁だな。これでお偉いさん方の生活を守ってやがるのか?」

 壁を見上げ、妖しく笑うローブ姿の青年。彼の髪は右半分だけ白く、左側は黒だ。左右不揃いの大きさのブーツを履いており、腰には剣を装備していた。

「そうデスぞ。何でも、ミサイルに耐える程の強度を誇っているとか」

 四角い眼鏡をかけた老人は、スーツケースを引き摺りながら答えた。

「あたしの爆弾でも壊せなさそー。どうするのん?」

 明るく笑うこの少女は、赤とオレンジのロングヘアーを掻き乱して、ボサボサにしている。

「だからこそ、センさんの『セナージ』の出番という訳ですね」

 白一色のスーツを着た青年が、少女の疑問に対応した。彼は七色の長髪をいじりながら、「小生、少し期待」と呟いた。

「分かってるよ。ぶった切ればいいんだろ?」

 センと呼ばれた青年は、腰に差した剣の鞘に手をかけ、金属製の留め具を外した。そして鞘から剣を抜き取り、壁を前にして構えた。

 その刀身は極めて薄かった。人の皮や避妊用ゴムよりも、ずっと厚みが無かった。

 半透明で真っ直ぐな刃をギラリと光らせ、センは剣を振り上げた。

「おらよっ!」

 センが素早く剣を振ると、中央都市を守る防壁は豆腐のように容易く刻まれた。

 分厚い壁はバラバラの瓦礫となり、センの足元に崩れていく。

 センの斬撃が終わる頃には、壁にぽっかりと穴が空いた形となった。

「ほら、これで通れるぜ」

 センは剣を鞘に収め、留め具で鍔を固定した。

「流石はセンさん。小生、深く尊敬」

 白スーツの青年は、センに向かって頭を下げた。

「テマネスク……テメェ気持ちわりぃぞ。殺したくなるじゃねーか」

 センは白スーツの青年……テマネスクを殺意の眼差しで睨んだ。

「早く行きますぞ、皆様。拙者達はパスポートを持たぬ不審者。見つかれば、作戦の遂行が面倒になります故」

 老人はさっさと穴を通って中央都市に侵入していく。

「おい、ベシムの爺さんよぉ。見つかったならぶっ殺せばいいんじゃねぇか? オレ達はそのために来たんだからよ」

 不満そうなセンに、ベシムが首を横に振った。

「『イマジンハート』に辿り着くまでに敵に遭遇すると厄介デスぞ。皆様も、イマジンハートに着くまでは勝手な行動をしないように」

 センは舌打ちをしながら、ベシムに続いて中央都市に入った。

「センは殺人狂だもんね。我慢出来るかなぁ? クスクス」

 笑う少女に、センは威嚇の目を向けた。

「テメェも殺人狂じゃねーか、スーニャ。ガキのテメェこそ、我慢できねーんじゃねぇの?」

「失礼しちゃーう。センなんかきらーい」

 テマネスクは二人の間に入った。

「落ち着いて下さい。二人共。仲間同士で喧嘩するなんて、小生、大いに悲観」

 センとスーニャは不機嫌になりつつも、街中に足を踏み入れた。

「そうでした。『観察者』から聞いた話なんデスがね。今、クロムという名の女性が中央都市にいるそうデスぞ」

 ベシムの言葉を聞いて、センの眉が動いた。

「へぇ……クロムちゃんがねぇ……そうかそうか」

 そして、愉快そうに笑う。

「楽しい一日になりそうだなぁ!」

 センは、中央都市の街並みを見据えていた。


 セン達が侵入してから数十分後。彼らの目の前には、巨大なビルが建っていた。

 これこそが中央都市の頭脳、『イマジンハート』だ。

 スーニャはセン達から離れ、王宮に向かっていた。彼女は王子達を殺すために、別行動だ。

「到着デスぞ」

 ベシムはビルの入り口に立って、扉付近の機械をいじっている。その後、怪訝そうな顔で「おや?」と口にした。

「不思議デスな。警備システムが解除されている」

 本来ならば、イマジンハートを収容するこのビルには最強の防犯システムが完備されている。それなのに、警報の一つも鳴らず、ビルの入り口が開かれていた。

 これでは誰でもイマジンハートに近付けてしまう。

「何故……」

 ベシムは一瞬、罠の可能性を考えた。だが、すぐさま考えを排除する。罠にしてはリスクが高すぎるし、ベシム達が不法侵入したことはまだバレていないはずだ。

 では何故。イマジンハートのセキュリティを解除するなんて、一端のハッカーでは出来ない。それこそ、イマジンハートがハッキングしてこない限り。

 想定外の事態だが、ベシム達にとって好都合なのは事実だ。わざわざ世界最高級のセキュリティシステムと戦わずに済んだのだから。

「どうしましたか?」

 テマネスクが様子を窺うが、ベシムは「問題無いデスぞ」と言ってビルの中に侵入した。

 そして、セン達はイマジンハートを搭載した巨大な機械の前に立っていた。

 無数の文字が画面に映り、絶え間無く電子音が鳴り響いている。

「これがイマジンハートか」

 センはイマジンハートを眺めて、ニヤリと笑った。

「じゃあ、この機械はオレがぶっ殺すぜ」

 センは腰から剣を取り出し、イマジンハートの本体をバラバラに切断した。

 電子音が途絶え、哀れな残骸が床に散らばった。

「これで第一段階は終了デスぞ。それでは皆様。打ち合わせ通りに、街の住人を殺して下され。今頃、スーニャ殿も仕事を始めているでしょう」

 ベシムの号令で、センとテマネスクはイマジンハートから離れた。

 イマジンハートの破壊により、中央都市では現在、マインドが使えないなどの不具合が起こっている。

 だがそれは惨劇の始まりに過ぎなかった。


 死は段々と近付いて来る。明日の自分は生きているのだろうか。

 誰もが気付かなかった。誰もが想像しなかった。

 自分の生が確かなものだと、信じて疑わなかった。

 『彼ら』の刃は、もう首元を撫でているというのに。


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