第77話 「ブブリアドVSカインズ」
ブブリアドの猛攻は止まらない。ブブリアドは10メートルくらいの大ジャンプをして、カインズに向かって落ちていった。
カインズは迫り来る巨体をかわし、走って距離を置いた。ブブリアドが地面に衝突した時に、カインズは屋敷の壁を蹴ってブブリアドに突進した。その勢いを殺さないままでの、一撃。カインズの脚はブブリアドの右肩に直撃したが、やはりダメージがあるようには見えない。全身を覆う脂肪が、ダメージを緩衝していた。
「無駄よ!」
ブブリアドがまたしてもカインズの足を掴もうとするが、カインズは素早く足を引っ込めて、後退した。
「ワタクシにそんな蹴りは届かないわ!」
ブブリアドはカインズを威圧するように、大音量で言った。
このままヒットアンドアウェイを続けていても、カインズの体力が削れていくだけだろう。
クロミールのような強力な武器があればいいのだが、生憎カインズは丸腰だ。
カインズの最も強力な攻撃手段である、蹴りが無力化されている。
カインズに勝機は無いように思えた。
「『無駄』かどうかはすぐに分かりますよ」
カインズは床に飛び散る瓦礫を蹴って、ブブリアドに向かって飛ばした。握り拳くらいの大きさの瓦礫が、弾丸のようにブブリアドを襲う。
ブブリアドは弾くでもなく避けるでもなく、その瓦礫を腹で受け止めた。弾力のある腹の肉が瓦礫のスピードを殺し、カインズの方向へ跳ね返った。カインズは体をずらし、返ってきた瓦礫を回避する。
飛び道具を用いても、ブブリアドの皮膚にはかすり傷すら付かなかった。
「痒くも無いわね、こんなもの」
ブブリアドがカインズに向かって突進する。やはり速い。だが……。
ブブリアドの行く先にカインズはいなかった。ブブリアドが突進を始めた瞬間に、既にカインズは横に逃げていたのだ。誰もいない場所に突進したブブリアドは、壁に衝突。その隙を突いて、カインズはブブリアドの頭を蹴った。
脂肪の少ない頭部ならダメージが入る……という訳では無さそうだ。
「痛いわね……少しだけ!」
ブブリアドは体を捻りながらカインズに体当たりした。カインズは後ろに跳んで、回避しようとする。だがブブリアドの体当たりの方が速かったため、カインズは避けきれなかった。
「うぐっ!」
カインズは吹っ飛ばされたが、すぐに地面に立って体勢を立て直した。カインズが後退したおかげで、ブブリアドの相対速度が遅くなったのだろう。ダメージは最小限に抑えられたようだ。
「ちょこまかとウザったいわねぇ……!」
ブブリアドは拳を握り、地面を殴った。地面に亀裂が走り、大地が揺れる。人力の地震によって屋敷の一部が崩れ始めた。
戦いを見物していた人達の数人は、悲鳴をあげて逃げ出した。
「『島砕き』の馬鹿力は今も衰えず、ですか」
カインズは屋敷の屋根の上に飛んで、亀裂に飲み込まれない位置に立っていた。もし亀裂に飲まれていたら、足を挟んでしまって動けなくなっていただろう。
「そうよ! 89歳のお婆ちゃんだからって、侮らないで貰いたいわね!」
ブブリアドはカインズを見上げ、高らかに叫んだ。
「侮ってなんかいませんよ」
「そうみたいだわね。アンタ、心拍数も上がってるし、汗の匂いも濃くなってきてるわ」
一見余裕の表情に見えるカインズだが、やはり消耗が大きかったようだ。積み重なるダメージと激しい動きで、カインズの体力は削れているはずだ。
「ええ。正直疲れました。なので、早く終わらせましょう」
「あらぁ? 敗北宣言? 今謝っても、許してあげないわよ」
「違いますよ」
カインズは地面に降りて、ブブリアドに目線を向けた。
「勝利宣言です。貴方の弱点は、もう見抜きました」
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