第56話 「お墓参り」
園長先生に連れてこられた場所は、養育園から少し歩いた所にある墓地だった。いくつもの墓石が並ぶ中に、一際目立つお墓が一つ。そこには、花束や玩具や折り紙などが供えてあった。地面の上の墓石には、『ユルマ家』と刻まれている。
『ユルマ』……。どこかで聞いた覚えがある名字だ。
「『ユルマ』って……。もしかしてネーミリカさんの名字ですか?」
ユリーナの言葉で思い出した。私立娼館『蜜の楽園』からユリーナ達を救出した時に出会った、娼婦の一人だ。ネーミリカ・ユルマ。縮れた長い茶髪が特徴の、妖艶な美女だ。育児施設に預けた三人の子供を、シアノ熱で失ったと聞いている。
「では、この墓はネーミリカさんの子供の……?」
「はい、その通りです」
俺が聞くと、園長先生は神妙に頷いた。
そうか。その育児施設とは、ラトニア養育園のことだったか。
「あの子達のことは非常に残念です。シアノ熱のワクチンを受けていれば……。彼らのような被害者を出さないためにも、今日の予防接種は大切なのです」
園長先生は空を見上げた。
「この前、ネーミリカさんが養育園を訪れましてね。お墓参りをした後、こう言ったんです。『アイズの隊員に会ったら、お礼を言って欲しい』と。彼女は子供の死を受け入れて、新しい人生を歩むそうです」
「そうだったんですか」
死の悲しみは、まだ俺には理解出来ない。だが、死はいつもそばにある。
俺は心の中で、顔も知らないユルマ家の子供に別れを告げた。
「さて、今日はもう帰ろうか」
閉園時間が過ぎたし、俺達の仕事は十分だろう。
「はい、帰りましょう」
「そうですね。ボク、疲れちゃいました」
ユリーナとカインズが、俺の後ろを付いて歩く。
そして俺達は、墓地を後にした。
養育園の外を歩いていると、たくさんの子供達とすれ違う。親と一緒に歩いていたり、子供達で集まっていたり、一人で歩いていたりと様々だ。
ファティオは息子のグレイブ君と娘のコフィンちゃんを連れて、奥さんのフューネラさんと一緒に歩いていた。これから家族と共に帰宅するらしい。グレイブ君とコフィンちゃんも、ラトニア養育園の園児だったんだな。ファティオの家族の話は、ファティオ本人からしょっちゅう聞いている。それはもう、子煩悩溢れる語り口で。
本当に仲良さげな家族だな。今度紹介して欲しい。
子供達とすれ違いながら気付いたんだが、何やら浮かない顔をした子供達が、数人見受けられた。全員女の子で、年は4歳くらいから12歳くらいまで幅広い。女の子の間で悩みでもあるのだろうか。
「辛そうな顔をした女の子が多いですね」
カインズも気付いたようで、俺に耳打ちしてきた。
カインズには普段から、「相手の視線を見て行動しろ」と教えてある。視線に警戒すれば、相手の次の動きや感情が、ある程度読み取れるからだ。少女の鬱々とした感情に気付くくらい、造作も無い。
「大丈夫でしょうか」
「この養育園には、カウンセリングがあるらしい。辛い悩みがあったら、自分で相談するさ」
完全防音のカウンセリング室で、誰にも言えない悩みを、園長先生が聞いてくれるらしい。信頼の厚い園長先生と一対一で話せるので、安心して悩みを打ち明けられると評判だ。
そもそも悩みなんて、自分で何とかするものだがな。
「今、園内の女子の間ではイケメン論争が繰り広げられているらしいですよ。それが原因じゃないですか?」
ユリーナが俺に提言してきた。
「イケメン論争?」
「はい。養育園で一番のイケメンは誰か、って議論です。甘いマスクのイケメン先生がいて、その人とファティオさんがナンバーワン候補だって聞きました」
「ファティオはそんなに人気なのか」
「ママ友や女子達の間では大人気ですよ。優しいし、面倒見がいいし、知的だって」
確かに、ファティオは紳士的だし、子供思いだ。その上、有名作家だからな。知的という評価も頷ける。しかも眼鏡をかけているから、尚更頭良く見える。美人の奥さんがいるから、美男美女夫婦だと言われている。
「ファティオさんに恋煩いしちゃった女の子もいるかもしれませんね」
うーむ。あの女の子の表情は、そんな風には見えなかったがな。
「何か事件があったのかもしれないな。明日もここに来て、調査してみるか」
何事も無ければいいんだが、もし大きな事件が関係していたら、俺達アイズは放っておけない。
「賛成です!」
「ボクも」
ユリーナとカインズの賛同が得られたので、明日も三人で養育園に行こう。
ファティオも誘ってみるか。




