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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第55話 「アイズのお仕事」

 カインズがお手玉を右手に持つと、一人の男の子が叫んだ。

「あ! ピエロのお兄さんだ!」

 その言葉に釣られるように、他の子供たちも次々に言葉を漏らす。

「確かに。よく見れば、ラトニアサーカス団のカインズさんじゃないか」

「仕事はやめたって聞いたけど?」

「カインズさんの芸が見れるの?」

「やったぁ!」

 やはり、カインズは子供たちに知られているようだ。人気ピエロの登場に、子供たちは期待いっぱいの様子だった。

「サーカス団にはお別れを告げてきたから、今日のパフォーマンスが最後になるかもね。精一杯頑張るよ」

 もうすぐ、カインズは中央都市に帰ってしまう。ハルバート家の当主になったら、もうラトニアでパフォーマンスをすることも無いだろう。

「よい子のお客様に、最高の一瞬を」

 カインズがお辞儀をすると、小さな拍手が起こった。


 圧巻のステージだった。超人的バランスによる玉乗りも、足を使ったお手玉も、大ジャンプからの空中回転も、チェルダードカードを用いた手品も、場を大いに沸かせた。カインズでなければ出来ないような、ハイレベルなパフォーマンスばかりだ。

 いつの間にか園内の人が集まって来て、カインズの周りには人だかりが出来た。大人も子供も、カインズに釘付けだ。

 歓声と拍手が止まない中で、カインズはパフォーマンスを終了した。

「これにて終演です。ありがとうございました」

 今日一番の拍手が、大合唱を奏でる。

 汗を流しながらお辞儀をするカインズは、一際輝いて見えた。


「すごいですよカインズさん!」

 ユリーナが子供たちに紛れて拍手を送る。

「良いものを見せて頂きました。養育園を代表して、お礼を申し上げます」

 園長先生も、カインズを称賛して礼をした。

「楽しんで頂けたのなら、嬉しいです」

 最後かもしれない舞台が成功に終わり、カインズも満足そうだ。


 園内に鐘の音が鳴り、大人の女性が声を張り上げた。

「みなさーん、閉園の時間ですよー。お片付けをして、帰りの準備をしましょうねー」

 あの人は養育園の先生だろうか。先生の指示に従って、子供たちが移動していく。カインズに挨拶して、室内に入る子供もいた。

「ボク、ちょっとトイレ行って来ますね」

 カインズが室内のトイレに向かうと、園長先生が声をかけた。

「クロムさんにカインズさんにユリーナさん。この後お時間があれば、来て頂きたい場所があるのですが」

 俺たちに来て欲しい場所? どこだろうか。

「構いませんよ」

 俺が答えると、園長先生は「ありがとうございます」と、にこやかに笑った。


「うええええええええん! ぼくのボールがあぁぁぁ!」

 男の子の咽び泣く声が聞こえた。その方向を振り向くと、大木の下で、小さな男の子がべそをかいていた。

 大木の枝に、赤いゴムボールが引っ掛かっている。あのボールが木の上まで飛んでいってしまって、取れなくなったのだろう。ボールの高さは、約30メートルといったところか。

「だれか取ってえぇぇぇ!」

 カインズがいればすぐに取れるが、生憎あいつはトイレに行っている。

 だから、少年には少し待ってもらって……。

「私が行くよ」

 ユリーナが木に掴まり、スルスルと登っていった。驚く程にスムーズに、ユリーナはボールの元までたどり着く。ユリーナの手が、ボールを捕らえた。

「ゲット! 投げるよ!」

 ユリーナはボールを落とし、男の子がそれをキャッチした。

 ユリーナは滑らかな動きで下に降りて、素早く地面に立った。

 普段のユリーナからは想像出来ない、巧みな動きだった。

「ありがとうお姉ちゃん!」

「ふふっ。どういたしまして」

 男の子はユリーナにお礼を言って、嬉しそうに走っていった。

「驚いたぞ、ユリーナ。お前、木登りが得意だったんだな」

「はい。少し前まで、山の幸を採って生活してましたから。あれぐらい、木の実の収穫みたいなものですよ」

 ユリーナは自慢気に語った。そうか。そう言えば、ユリーナは山育ちだったな。

「見直したぞ」

「人を助けるのが私たちアイズのお仕事ですから! クロムさんの部下として、当然です」

 ユリーナは大声を出して胸を張った。


「ただいま戻りました」

 カインズがトイレから帰ってきた。三人集まったな。

「よし、じゃあ園長先生の所へ行くぞ」

 俺たちは養育園の室内へとお邪魔した。

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