第5話 「用心棒とエース」
俺、エリック、カインズが出発してから数分後。
静かな荒野に、ぽつんと建つ悲しい屋敷。蜜の楽園は目視で存在を確認できる程に近づいていた。
娼館の入り口付近に、見知らぬ人影が見える。2メートルはあろうかという巨漢だ。
「お前ら、止まれ!」
俺が2人に命令すると、エリックとカインズは足を止めた。
「誰だあいつ。娼館のスタッフか?」
俺の質問に、エリックが答える。
「いや、あの男は職員じゃない。知らない奴だ。潜入調査した俺が言うんだから間違いない」
巨漢は、俺達を睨みながら低い声で自己紹介を始めた。
「お前達3人がアイズのメンバーか? 俺の名はガンダス。ここのオーナーに雇われて用心棒をしている。つまり、だ。お前達をこの先に行かせる訳にはいかん」
用心棒だと? 少し厄介だな……。
ガンダスは腕を組みながら仁王立ちをして、俺達の道を邪魔していた。
「エリック。カインズ。この男を倒してさっさと突入するぞ。戦闘は極力避けたかったがな……」
俺が臨戦態勢をとると、エリックは俺の肩に手を当てて止めた。
「待て、クロム。職員共はここにはいない。既に逃げているようだ」
「何だと?」
エリックは娼館の入り口付近の地面を指さした。三角や丸の形をした幾何学的な小さな穴が2列程、真っ直ぐ並んでいる。その列は北東に向かっていて、遠くまで続いていた。
「あれを見てみろ。車のタイヤ痕だ。それも、大勢の人間を運べるような大型トラックのやつ。遊女達を連れて、職員が逃げ出した可能性が高い」
「エリック。『クルマ』とは何だ」
「知らないのか? 中央都市発祥の鉄の乗り物だ。とにかく速い。今頃、遠くまで離れてるかもな」
俺とエリックのやり取りを聞いていたガンダスは、「バレたか」と言わんばかりの焦った表情をしている。嘘を吐けないタイプなのだろう。
「なるほど。この男はボクたちを足止めする役割という訳だね。どうします、クロム隊長。予定外のアクシデントですけど」
カインズは能天気な声で俺の判断を仰いだ。
「逃げたと見せかけて、まだ中にいる可能性もある。俺とエリックはこの場に残り、娼館内を調べる。カインズは車とかいう乗り物を追え」
カインズは俺の指示が終わるやいなや、姿勢を低くして走る構えをとった。
「名采配です、隊長。ボクなら追い付けますから」
カインズが思いっきり地面を蹴ったかと思うと、次の瞬間、カインズの姿はそこにはなかった。辺りに残ったのは、激しく巻き起こる砂埃のみ。
「何だ……っ! 何が起こった!」
ガンダスは両手で砂埃から顔を守り、驚きを露にした声を漏らした。
「あれがウチのエース、カインズ・ハルバートだ。ああ、自己紹介が遅れたな。俺はアイズ実働部隊・チェルド大陸責任者、及びクロム隊隊長。名はクロムという」
「そして俺がエリック・ドール。好きなものは機械の部品。好きな人はクロムだ」
俺はすぐさまエリックの左足を強く踏みつけた。エリックは「痛ぁっ!」と叫んでその場に倒れた。
「黙れ。気持ち悪い。仕事中にくだらんことを喋るな」
左足を押さえてのたうち回るエリック。小声で「痛いっ……でもそれがいい!」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。エリックはこういう男である。
ガンダスは俺達を見て、困惑しながらも戦闘態勢をとった。
「変な連中だが……任務は変わらない。倒す! あの小僧はサジェッタの奴に任せるとしよう」
ガンダスの拳が、勢い良く俺に襲いかかってきた。
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