表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
52/1030

第48話 「誘拐犯は誰だった」

 翌朝、クロム隊の5人は聞き込み調査に出掛けるため、屋敷を後にした。今日は犯人の情報を、街の人々から聞く予定だ。だが、犯人の情報が無いと捜査がしづらいな。

 と思っていたら、ソフィーが写真を数枚持ってきて、俺達に手渡した。

「リオンの写真です」

 俺達にいくつかの顔写真が配られた。まだあどけない赤ちゃんの姿が写っている。これがあれば、リオン君の捜索が捗りそうだ。

「それと、犯人の顔写真です。お使い下さい」

 俺達にそれぞれ一枚ずつ、男の顔写真が配られた。写真に写る男の顔は、男らしい好青年に見えた。焦げ茶色の短髪が特徴だ。どの写真も笑顔で、正面を向いていた。

 俺に渡された写真は、四辺に切り取られた形跡があった。

 不可解だ。

「この写真はどこで手に入れたんですか?」

 見知らぬ男のはずの犯人の顔写真を、何故ソフィーが所持しているのか。

 俺が尋ねると、ソフィーは数秒ためらってから答えた。

「写真の整理をしていたら、たまたま犯人の顔写真が見つかったんですよ。あの、これは、街の写真を撮った時に偶然撮影したもので……」

 ソフィーの口調はハッキリとせず、嘘の匂いが濃かった。

 この人は俺達に何かを隠している。そう考えて間違いないだろう。後で探りをいれてみるか。

 そういえば、ソフィーだけでなくエリックの様子も怪しい。今朝から俺をいやらしい目で見てくるし、(あいつは普段からいやらしい目で見てくるが、今日はいつもより露骨だ。)俺を見る度に申し訳なさそうな顔をする。

 今朝、エリックが洗面所を借りて自分のパンツを洗っていたことと、何か関係があるのだろうか。これも後で探ろう。

「そうですか、感謝します」

 ソフィーに軽く礼を言い、捜査に出発だ。


 俺達が屋敷を出る時に、ソフィーが小声で呟いた。

「貴女は愛されてるんですね」

 俺が振り向くと、ソフィーは俺達に背を向けて屋敷へと帰っていった。

 誰に向かって言ったのかは分からない。寂しさと羨望が混じったような声だった。


 捜査場所は、ラトニアの商店街に決めた。ここなら人通りも多いし、(と言っても、100人ぐらいだが。)より多くの情報が得られるだろう。

 商店街には、多種多様な店舗が大通りを挟むように建っていて、商売の戦場になっていた。人口の少ない今の時代では、モノや金の動きが悪い。需要に比べて供給の量が少ないので、景気が悪いのだ。生産者や商売人が少ないのが、原因の一つだろう。苦しい生活から逃れるため、商人達は知恵と努力を発揮して商売に励むのだ。

 俺は露天商の男を捕まえて、犯人の写真を見せた。

「この男について、何か知りませんか」

「………………」

 露天商の男は何も言わず、俺に右手を差し出した。なるほど。ただで話すつもりは無い、と。

 俺はポケットから150ヴァルエ硬貨を取り出して、男に渡した。150ヴァルエなら、野菜ジュース200ミリリットルくらいの価値だ。

 男は硬貨を受け取ると、すぐさま口を開いた。

「この男なら知ってるぜ。テリーだろ」

 犯人の名前はテリーと言うのか。

 男は話を続けた。

「テリーの居場所を知りたいのか? だったら時計塔の公園を探しな。アイツ、赤子を抱えて公園の近くをうろちょろしてたぜ」

 時計塔の公園か。意外と早く居場所が割れたな。

 約100メートルの高さを誇る時計塔は、ラトニアの象徴とも言っていい観光スポットだ。中央都市の最先端技術が駆使された巨大アナログ時計が、正確な時刻を市民に伝えている。近くにはちょっとした公園があるので、デートスポットにも使われている。また、カインズが所属していたサーカス団が、たまにあそこでショーをする。

 ラトニアでは有名な場所だ。

 俺は露天商に礼を言い、その場を去った。


 商店街にある巨大な銅像の付近に、俺達クロム隊が集まった。ちなみにこの銅像は昔のチェルダード国王の像だ。彼は国の商業発展に大きな貢献をもたらしたらしいが、俺はよく知らない。時計塔には劣るが、それなりに高い銅像だ。この上に立てば商店街全体を見渡せる。現在、像の上に立っているエリックが言うんだから、間違いない。

「うーん、見つからねーな」

 エリックは王の銅像の頭上に立ち、双眼鏡を使って公園付近を見ていた。無礼なことだ。王国関係者が見たら激怒するだろうな。落ちる危険があるが、万が一落ちたらカインズがキャッチするから大丈夫だ。

 エリックの手作り双眼鏡は、かなり遠くまで見通せる優れものだ。商店街の奥に位置する公園だって、まるで目の前にあるかのように観察できる。

「おっ! それっぽい奴発見! ベンチに座ってんな」

 エリックが大声で報告する。そして銅像の体の凹凸を足場にしながら、ぴょんぴょんと跳んで地面に降りていった。

「赤ちゃんを抱っこしてたぜ」

「よし、全員行くぞ」

 俺、エリック、ユリーナ、ミミが公園に向かうと、カインズ提案を出した。

「犯人が移動するといけないので、ボクが先に行って足止めしておきますね」

「ああ、頼むぞ」

 カインズは腰を低くして、ダッシュの構えをとった。

「お任せを」

 そして勢いよく走り出したかと思うと、高く跳躍して、空高く跳んだ。見たところ、高さ40メートルぐらいか。カインズの体は弧を描くように前方へ飛んでいった。

「いつの間にあんな高く飛べるようになったんだ」

 カインズが大ジャンプするのはよく見る光景だが、速さも高さも、前より上だ。脚力を鍛えたのか。相変わらず、凄い奴だ。

 カインズは一回のジャンプで時計塔に近付き、時計塔の壁を蹴った。その反動で地面に向かって降下し、俺達の視界から消えた。建物に隠れて見えないが、おそらく公園の地面に着地したのだろう。

 俺達もノロノロしてられない。

「急ぐぞ!」

 俺達は走るスピードを速め、公園へと向かった。


              *   *   *


 カインズは公園の地面に落下し、ベンチを探した。落下時に砂埃が舞ったせいで、視界が悪い。

 そんな中、隕石のように突然現れたカインズに対して、驚きを見せる男が一人。

 クロム達が探している男、テリーである。テリーはリオンを抱え、ベンチの上に座っていた。

 カインズはテリーを見つけ、ゆっくりと歩きだした。

「テリーさんとリオン君……ですね?」

 アイズの制服を着た青年の質問に、戸惑いながらも答えるテリー。

「そう……ですが……。あなたは一体……?」

「アイズ所属の、カインズ・ハルバートと申す者です。リオン君誘拐の容疑で、あなたに尋ねたいことがあります」

 「誘拐」というワードに、テリーの思考が硬直する。テリーは状況を把握し、大声をあげた。


「誘拐!? 何を言ってるんだ! 僕はこの子の父親だぞ!」


              *   *   *

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ