第47話 「クロム一筋」
ソフィーさんから聞かされた過去。それは予想以上に衝撃的で、まるで劇のシナリオのようだった。
若くして父を失って。母に捨てられ。多くの男と交わって。たくさんの子供を生んで。
そして、今のソフィーさんが形成された。
「だからわたしは、優秀な遺伝子を求めたんです」
ソフィーさんの口調は、なんだが寂しそうだった。
ソフィーさんの気持ちは少し分かった気がする。でも、ソフィーさんとヤる訳にはいかないぜ。俺にはクロムという、心に決めた女がいるからな。
「エリックさん。わたしを抱くのは、やっぱり嫌ですか?」
「嫌です。俺はクロムが好きなんです。だから、すいません」
なんで謝ってんだ俺。
「クロムさんって、あの黒髪の方ですよね? でもあの人って男性では……?」
ソフィーさんの目線が訝しむものに変わる。ヤベッ、またホモ疑惑が浮上してしまう。
「違いますよ。クロムは女です。あんな格好でも」
「えっ、そうだったんですか」
ソフィーさんは手を口に当てて驚きを表した。ま、当然の反応か。男子用制服を着た奴を女だとは思わねーよな、普通。
「そうでしたか……。じゃあ仕方ないですね……」
ソフィーさんは残念そうに呟いた。
俺はクロムに何度も好意をぶつけてきたが、あいつが俺の愛に答えてくれたことは一度も無かった。多分嫌われてはないと思うが、好きでも無いんだろう。クロムの気持ちが分からない。でも、ずっとずっと好きだった。あいつが答えてくれるまで、俺は何度でも「好きだ」と言ってやる。
たとえクロムが俺のことを嫌いでも、俺はクロムのことが好きだ。この気持ちをねじ曲げたくない。
カインズもクロムのことが好きだった。思えば、随分強大な恋のライバルが現れたもんだぜ。ハルバート家のエリートで金持ちのイケメンか。一方俺は平民の貧乏人。イケメンでもねぇ。ふっ、これが格差社会かよ。
クロムもああいう金持ちイケメンに惹かれるのか? いや、プロポーズを断ったし、そんな訳でも無いのか。でも最近、カインズに対してクロムが優しくなった気がする。うーん、どうなんだ? クロムの本心が知りたいぜ。
「今夜は失礼をおかけしました」
ソフィーさんはベッドから立ち上がり、ドアへと歩いた。
「すみませんでした」
ソフィーさんはペコリと頭を下げ、寝室を出た。
今までの人生で一番インパクトの強い夜だった。何だか惜しいことした気も……。
いや、無い! 無いったら無い! 通常サイズに戻った俺のドライバーに誓おう!
この件は忘れよう。ソフィーさんを責めるつもりは無いし。
そんなことより、クロムの裸体でも想像しよう。
俺はクロムに押し倒される妄想をしながら、ベッドに潜るのであった。
次の日、目が覚めるとパンツにネットリとした感触があった。
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