第三閑話 「レイティア・ハルバートは兄上の匂いを堪能しながらご奉仕します」
閑話のお時間がやってまいりました。
書いている間ずっと情緒不安定でしたよ。
今回はR17.9要素が豊富です。
兄妹だから恥ずかしくない、いいね?
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クロムとカインズの模擬戦闘が終わり、カインズの昔話が語られた後。
クロム隊のメンバーはそれぞれ、自分の家に帰っていった。
これは、その後のカインズとレイティアのお話である。
アジトの寝室にて。
カインズはベッドから起き上がり、レイティアと共に寝室を出た。
「兄上。今夜は兄上のお家に泊まってもよろしいでしょうか」
「うん。いいよ」
レイティアからの頼みを、カインズは迷う暇無く快諾した。
当然ながら、カインズの家は中央都市の実家に比べれば小さい。月とすっぽんの差だ。
生活に必要最低限な部屋しか無い、安値な一軒家である。ラトニアの住宅街に存在する、ごく普通の家だ。
しかし、風呂場も台所もリビングも寝室もトイレもある。一通りの設備は揃っているので、カインズは不便に感じることは無かった。
カインズはレイティアを連れて帰宅した。
「ここが兄上のお家ですか」
カインズから見れば住みやすい家だが、レイティアから見れば貧相な小屋だ。
こんな狭いところに住んでいるなんて。兄上は苦労なさったんですね。
レイティアはそう思ったが、カインズは今の住居に十分満足している。
カインズがサーカス団に入った後に、分割払いで購入したこの家。
運良く格安物件に出会えたが、もしこの家を見つけなかったら、カインズは野宿生活を営んでいただろう。実際、家出してから数日の間は野宿していたのだ。
カインズにとって、この家は恩人……いや、恩家なのだ。
ちなみに、ローンはもう払い終えている。
「今日は疲れたなぁ。今お風呂沸かすから、ちょっと待っててね」
カインズは家に入るなり、壁に付いている機械のボタンを押した。
機械のパネルに、『30分』と表示される。ボタンを押すだけで30分後にお風呂が沸く、便利な装置だ。
しかし、中央都市の技術なら5分で沸く。中央都市とラトニアの技術格差を目にしたレイティアは、『30分』の文字を哀れむように見るのであった。
お風呂が沸くまでの間、カインズとレイティアはリビングのソファーに座って待った。
「こうして兄上とお話出来る日を、ずっと待ち望んでいました」
『カインズ・ハルバートが都市外に無断外出』という情報を知らされてから5年。
行方不明のカインズを探して、ハルバート家の宗家はてんやわんやの大騒ぎだった。特にレイティアは兄の身を案じて、夜も眠れない日々が続いた。毎日、カインズのことばかり考えていた。
だから、衛生団に入ることが決まった時、レイティアは大きな希望を抱いた。
衛生団の仕事で大陸中を旅すれば、カインズに会えるかもしれない。そう思ったからだ。
しかし、カインズはなかなか見つからなかった。何度も期待を裏切られ、レイティアは失望の底に落ちていった。
そんな頃だ。清掃活動のためにラトニアを訪れた時、懐かしい匂いがレイティアの鼻を掠めた。忘れもしない、カインズの匂い。
レイティアはカインズの匂いを追って、海へ辿り着いた。レイティアの優れた嗅覚が、探してやまない存在に導いたのだ。レイティアはゴミを拾いながら、盛んに鼻を動かした。
海からカインズが現れたのを見た時、レイティアは思わず抱きついていた。
オーディンの登場で感動の再会が邪魔されたが、レイティアの心はカインズでいっぱいだ。
カインズがこんなに近くにいて、話に花を咲かすことが出来る。
幸せだった。5年間失っていた幸せを、レイティアは取り戻したのだ。
「ボクもレイティアと話が出来て嬉しいよ。あれから、ボクも色々あってね……」
カインズが外の世界での武勇伝を語ると、レイティアは真摯に耳を傾けた。
中央都市では得ることの出来ない様々な体験。兄の活躍や成長が聞けて、レイティアは嬉しい限りだ。
でも、カインズがクロムについて語る時は、口調が熱くなる。嬉しそうに楽しそうに語るのだ。なんだか気に食わない。自慢の兄が、上司を称賛しまくっているのが気に障った。誰よりも強いと思っていた兄がクロムに負け、その上クロムを褒めている。受け入れ難い事実だった。
「次はレイティアの話も聞かせてよ」
カインズに言われ、レイティアは慌てて話を始める。カインズがいなくなってからの中央都市について語った。
「皆さん、心配したんですから」
「それについては申し訳ないと思ってるよ」
カインズの捜索に全力を注いだ宗家一同だったが、反カインズ派の貴族達が密かに妨害していた。それ故、カインズは5年間も捜索の手から逃げ切れたのだが、レイティアはそのことを黙っていた。妨害の証拠がまだ見つかってないのに、他の貴族を糾弾するような真似はしづらい。
軽快な音が鳴り、機械が『お風呂が沸きました』と告げた。
「兄上。お背中お流しします」
折角再会出来たのだ。カインズのために何かしてあげたい。
「ありがとう。じゃあ、一緒に入ろうか」
カインズはそう言って、タオルを用意し始めた。
「懐かしいなぁ。昔はよく一緒に体洗いっこしたよね」
カインズが9歳の頃、レイティアが6歳の頃の話だ。
「そうでしたね。懐かしいです」
カインズが先に風呂場に入り、レイティアは後から脱衣場に入った。
アジトの風呂場と違い、カインズ宅の浴槽はドラム缶ではない。湯船とシャワーがある、小さな風呂場だ。トイレが別の部屋にあるタイプの浴室だ。
レイティアは脱衣場から、浴室の様子を見た。カインズは一糸纏わぬ姿で、体を洗っていた。
腰にタオルは巻いていない。
予想外の光景に、レイティアは思わず息を飲む。
全裸だ。兄が全裸で妹を待っている。
勿論カインズに疚しい気持ちは無い。女としてではなく、家族としてレイティアを見ている。だが裸のカインズを見て、レイティアの心に恥ずかしい思いが込み上げてきた。
いや、気にすることはない。兄上の裸くらいどうってことない。
そう思ったレイティアは、ふと自分の格好を見た。
今レイティアはタオルを体に巻いているが、果たしてこれでいいのか。
兄上は裸なのに、私がタオルを巻いたら、何だか私が兄上を異性として見ているみたいじゃないか。そう、兄上と私は兄妹だ。恥ずかしがることはない。生まれたままの姿で行こう。
頭の中でそう唱え、レイティアは全裸で浴室に入った。
カインズの垢や汗の匂いが、レイティアの鼻を刺激する。
「お待たせしました、兄上」
カインズは後ろを振り返り、「うん。じゃあ、お願い」と言って背中を託した。
レイティアの若くて綺麗な裸体を正面から見ても、平然とした様子だ。
「は、はい……」
顔を赤らめながら、レイティアがカインズの背中を洗う。
レイティアの心臓は高鳴っていた。何故だろう。緊張する。
緊張のせいか、レイティアは濡れた床に足を滑らせ、前に体を傾けた。
「わわっ!」
レイティアの声が浴室内に反響した。
カインズの背中が、レイティアの年相応以上に発達した胸を受け止める。
「大丈夫?」
カインズが振り返って、レイティアの様子を窺った。カインズの顔が、レイティアの眼前に近付いた。息が当たる距離だ。
「だ、大丈夫ですっ!」
慌ててレイティアは体勢を立て直した。
「そう。よかった」
カインズはまたしても平然とした様子だ。胸を押し付けられたのに、何事もなかったような顔をしている。
「………………」
あまりにも女扱いされてなくて、レイティアはちょっと不機嫌になった。
レイティアがカインズの背中を洗い終わると、カインズはぐるりと体を半回転させ、レイティアの方へ振り向いた。
「次はボクがレイティアを洗うよ」
「ええっ!?」
レイティアは戸惑い、手を横に振って遠慮を示した。
「じ、自分で洗えますから!」
さっきから心臓の高鳴りが止まらない。鼓動がカインズに聞こえてないか心配だ。
「遠慮しなくていいよ。兄妹なんだからさ」
カインズは素早くレイティアの後ろに回り、タオルで背中を優しく擦った。
「あうう……」
変な声を漏らしながらも、レイティアはカインズを受け入れた。されるがままである。
背中を兄に見せ、擦られていると、何だが被征服感がある。自分を攻められている感覚だ。
体が火照って、熱くなってきた。
「あ、兄上……。逆上せてきたかもしれません……」
「そう? じゃあ、早く上がろうか」
カインズはシャワーを取り出して、レイティアとカインズの体を流した。
二人で脱衣場に出た。一緒に湯船に入ることなく、カラスの行水になってしまった。
レイティアは、何だか勿体なく感じた。
カインズがレイティアの体を拭いていく。身体中、余すとこなく、丁寧に。
レイティアはボーっとしながら突っ立っていたが、急に自分の今の状況に気付き、はっとした。
「兄上……っ! 自分で拭けますから!」
「え? もう拭き終わったけど」
カインズはレイティアからタオルを離し、自身の体を拭き始めた。
レイティアは自分の体を見た。水滴は少しも付いていない。
「あわわわ……」
レイティアの顔が真っ赤に染まっていく。カインズの手の感触を全身で思い出し、パニックになった。
兄妹だから恥ずかしくない……。兄妹だから恥ずかしくない……。兄妹だから恥ずかしくない……。
半ば言い訳のように脳内で唱え、レイティアは寝間着に着替えた。カインズのパジャマである。レイティアの頭は、カインズの匂いで埋め尽くされた。
風呂から上がると、レイティアは台所に立った。
「今晩は私が料理を振る舞います。兄上はリビングで待っていて下さい」
中央都市にいる間、レイティアは料理の修行をしていたのだ。ハルバート家の女として、誇れる人間になるための、家の意向である。
「本当? 楽しみだなぁ」
カインズは嬉しそうにソファーに腰掛けた。
レイティアがキッチンに立つと、様々な料理の匂いを感じ取った。カインズが普段どんな料理をしてきたのか、レイティアには筒抜けだ。
カインズの唾液の匂いが染み付いた、食器や箸やスプーンなどの器具があった。カインズは道具を長く使う男だ。レイティアは、カインズの匂いが濃い器具を選んで使った。5年ぶりのカインズの匂いを、もっと味わいたかったから。
出来上がった料理は、それこそハルバート家の女に相応しいものだった。栄養バランスがよく、見た目が美しく、味もよい。
「美味しい! スゴいね、レイティアは」
カインズはレイティアの料理に舌鼓を打ち、満足そうだ。
「ありがとうございます」
料理の練習してきて良かった。
レイティアは、心からそう思った。
そして夜は深くなり、もう寝る時間だ。
寝室もベッドも一つしか無いので、当然のように一緒に寝る流れになった。
体を寄せあって、並んで寝る二人。
一応言っておくが、二人とも服は着ている。
兄妹だから恥ずかしくない……。兄妹だから恥ずかしくない……。
レイティアは自分に言い聞かせるように、心の中で言った。
レイティアはカインズの手を繋いで寝た。目が覚めたら、いなくなってしまう気がしたから。
もう、離れたくない。
カインズのいない日々は怖かった。ずっと不安と戦ってきた。
今日のこの時間を、どれだけ望んだことか。
「おやすみなさいです、兄上」
カインズの耳元で呟いた。
「おやすみ、レイティア」
カインズも優しく呟く。
今夜はグッスリ眠れそうだ。
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○お知らせ
毎日午後10時頃に更新中の『絶え損ないの人類共』ですが、
9月28日(月)から10月2日(金)までの5日間、連載をお休みします。
理由としては、作者の体調が優れないのと、最近忙しくなったことが挙げられます。
エタる(連載を永久に放棄する)つもりはありませんのでご安心下さい。




