第3話 「アイズ」
この世界には11の大陸がある。
大陸といっても、大きさはピンからキリまであって、中には島みたいな大きさのものもある。俺の担当するチェルド大陸もその一つだ。
チェルド大陸の南端に位置するカドマ荒野には、かつてはいくつもの町が栄えていた。だが、あの『はじまりの日』から一週間後に、カドマ荒野の全ての町の人間の死亡が確認された。
ここはもう死の土地。荒れた大地と廃墟のみが存在する寂しい地域だ。
そんなカドマ荒野の廃墟で、俺達は作戦会議を始めていた。俺の前には資料が並べられており、俺とエリックとカインズがそれを凝視している。
これは今回の調査対象の娼館、『蜜の楽園』の情報を集めた資料だ。
この国では娼館の存在は合法であるが、それはあくまで政府に正式に認められた国立の娼館のみ。『蜜の楽園』のような非公認の私立娼館は、法律で認められていない。だが警察組織は、『蜜の楽園』を看過している。
警察が頼りにならないこの時代。俺達『アイズ』の出番だ。
『蜜の楽園』はここから数百メートル離れた場所に建っている。今すぐにでも突入できるが、その前に作戦と情報の確認をしているのだ。
「エリック。調査内容を教えてくれ」
部下であり、同期の仲間でもあるエリック・ドールに、この一週間の間、潜入調査を任せていた。娼館の職員として『蜜の楽園』に入り込み、奴らの犯罪の証拠と内部の情報を探ってもらっていたのだ。
「了解。結論から言うと、『蜜の楽園』はクロだ。私立娼館の経営の他、誘拐や暴行も行っている。証拠も掴んで来たぜ。職員は男が3人。遊女は7人だ」
エリックは自慢気に調査結果を報告した。
「3人か。少ないね。ボクがそいつらを捕まえて、クロム隊長とエリックが女の子を逃がすっていう作戦でいきますか? 隊長」
カインズは俺に視線を向けて賛同を求めてきた。カインズが優秀な男なのはよく知っている。犯人の捕獲は任せてもいいだろう。俺は頷いた。
「3人なのはこっちも同じだけどな。ミミと副隊長が非番だから」
そう言ってエリックは荷物をまとめ、出発の準備を始めた。金属製のよく分からない物体をいくつも鞄に入れている。何に使うんだ、それは。
俺とカインズは護身用の武器が入った小袋を腰に巻き付けた。それ以外は何も持たず、アイズの制服のみを着た状態だ。
うむ、やはり制服はいいものだ。水色のピシッとした制服は、心までピシッと締まる感覚を感じさせる。皆で同じ服を着るというのも斬新だ。俺の故郷には無かった概念だ。
「あれっ、クロム隊長。『クロミール』は持っていかないんですか?」
カインズは俺の格好を見て、疑問に思ったようだ。
「あれは護身用じゃないからな。今回は必要ないだろう」
エリックは「よし、準備OK!」と言って意気揚々と目的地に向かって前進した。
だが急に立ち止まると俺の顔を見て、不快に感じる程爽やかな笑顔を見せた。
「クロム。この仕事が終わったら一緒にデートしようぜ!」
こいつ何を言っているのか。
俺は無言でエリックの腹に蹴りを入れるのであった。
* * *