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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第30話 「護衛任務終了、そして」

 激動の戦闘から数時間後。

 熊飼のロープで拘束されたニトラ教の男女が、劇場の外の草原に座らされていた。鎧などの装備は剥がされている。彼らは劇場の外の草むらに一まとめにされ、今から警察署に運ばれるところだ。

 中央都市の学者達がここに来るのに使った、大型の車がある。それでニトラ教団員を運ぶ訳だ。

 避難していた学者達は、エリックとファティオと共に劇場に戻り、ニトラ教団員達を軽蔑と怨恨の目で見ていた。学会が中断させられたのだがら、学会達が怒りを示すのも当然だ。学会は別の日に、中央都市で開かれるそうだ。セキュリティが万全な中央都市なら、暴徒の襲撃も起きないだろう。だったら最初からそっちでやれよ、と思ったが、中央都市で発表なんかしたら、必要予算が半端ないらしい。極度の過密状態の中央都市では、土地や建物を借りるのに大金がいるからだ。人口の少ないこの時代に、過密の街とは。想像できない。

「中央都市で発表とは、わくわくしますね。お金の心配はありますけど」

 デグルヌ室長は笑顔で語った。大都会での晴れの舞台となれば、心踊るだろう。予算が降りて良かったですね。


 ニトラ教団員を車に乗せようとした時、事件は起きた。

「一人いないぞ!」

 高齢の学者が、声を荒らげた。車の荷台に乗せられた教団員は、トーマス含めて9人。確かに、一人足りない。

「ボルさんなら既に去ったぞ。貴様らが目を離した時にな!」

 意識を取り戻したトーマスが、したり顔で言った。ロープで動きを封じられている癖に偉そうだ。

 「ボルさん」というのは、俺と戦って逃げた鎧男か。確か、「ボル・レジス」と名乗っていた。

「ボルさんは俺と同じく、教祖様の右腕。今回の粛清の発案者でもある。必ずや、再びドラゴンを殺しに来るだろう」

 仲間を置いて逃げ出した奴が、教祖の右腕か。今も仲間を放置して逃げ出した訳だが。アイズとしては、奴をみすみす逃がしたくない。

「ボル・レジスを捕まえに行くぞ」

 俺が指示して動こうとすると、マジマジ所長が止めた。

「いや、その必要は無い。お前達の仕事はここまでだ。警護は学会が終わるまで、という話だったからな」

 確かにそういう話だったが、学会は日を改めて行うのでは?

 ……いや、今回は引こう。アイズの基本三方針は、『弱者を助ける』『出来るだけ人は殺さない』『お節介はしない』だ。お節介は、逆に人を不幸にする。クライアントがやめろと言うなら、やめるべきだろう。

「ご苦労だったな」

 マジマジ所長が、俺達クロム隊に優しく声をかけた。最初の人当たりが悪かったため、マジマジ所長の態度に違和感を覚える。まあ、いいか。クライアントのお達しだ。俺達の任務は、ここで終了となる。キューの安全は、中央都市のセキュリティシステムに任せるとしよう。カインズが言うには、中央都市のセキュリティは世界屈指の優秀さを誇るらしい。高価な代物ではあるが。

 キューも中央都市に行ってしまうのか。短い付き合いではあったが、別れるとなると少し寂しいな。


 そう言えば、今回の任務では誰一人殺さずに済んだ。ロマノから殺人許可は降りたし、殺す覚悟も出来ていたが、それでも人を殺さずに済んだのは嬉しい。死の観念に淡白な俺でも、命を奪うのは好きじゃないからな。

「……『アイツ』と違ってな」

 無意識に呟いた。何故今、『アイツ』のことを思い出したのかは分からない。俺は、頭に浮かんだ白髪の少年の映像を、無心で掻き消した。


 俺はクロム隊メンバーに集合をかけ、任務の終わりを告げた。

「皆、お疲れ様だ。これにて任務は終了。俺達はアジトに帰還する」

「キューとはお別れなんですか?」

 ユリーナが寂しそうな目で聞いた。

「そうだ。キューは中央都市に預けられる。あそこなら大丈夫だろう」

「うん。クロム隊長の言う通り。ボクが保証するよ」

 カインズがユリーナに笑顔を向けた。

「ユリーナは初任務だったか。必死によく頑張った」

 俺がユリーナの頭を撫でると、ユリーナは顔を紅潮させて、口に手を当てた。

 ユリーナの甘えた眼差しが、俺の顔に近付く。

「クロムさん……続きはベッドでお願いします……!」

 その『続き』とやらををする予定は無い。

「そこをどけ、ユリーナ! クロムの夜は俺のものだ!」

 エリックが興奮してユリーナを睨んだ。俺の夜はお前のものでも無い。

 今夜はいつも以上に警戒して寝る必要がありそうだな。俺の貞操の危機だ。

「はいはいそこまでですよ」

 ファティオが手をパンパンと叩いて場を静めた。

「皆さん、寄り道せずに帰りますよ。クロム隊長、研究所の皆さんへの挨拶は?」

「もう済ませておいた」

「じゃあここに用は無いですね。では、出発!」

 ファティオの掛け声によってクロム隊メンバーが足を進めた。


「ま、待って下さーい!」

 デグルヌ室長が後ろから走って追いかけて来た。何やら切羽詰まった様子だ。

「何事ですか」

 俺が落ち着いて尋ねると、デグルヌは息を整えてから答えた。異常なまでの狼狽を露にして。


「捕まえたニトラ教団員達が全員……何者かに殺害されました!」

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