第27話 「二対五」
俺達の前に立つ、ニトラ教の男達。彼らは全員、鎧で体を包んでいた。黒光りする金属の、分厚そうな鎧だ。昔の王国騎士団が、こんな格好をしていた気がする。鎧というよりも防護服と呼んだ方がしっくりくる、隙間の少ない構造だった。それはもう全身をガチガチに固めていた。目以外が隠れて見えない程に。手は、ゴム手袋で覆われていた。
彼らが所持する剣も、王国騎士団の大剣に似ていた。チェルダード王国が捨てた、お古の武具を拾ったのかもしれない。どれも汚くてボロかった。なまくら刀と言っていい。魚を斬るのにも苦労しそうだが、武器として使えない程ではない。
カインズはスタンガンを右手に持ち、男達の元へ飛び出した。電撃を鎧に当てれば、感電して倒れるはずだ。男達の斬撃を避けつつ、カインズが一人の鎧にスタンガンを当てた。だが、感電する様子は見受けられない。
「あれ?」
カインズは地面を蹴って、後ろに下がった。
「鎧の裏は絶縁体だ! 馬鹿者め!」
鎧男の一人が自慢気に叫んだ。内部に電気が回らないようにしてあるのか。王国騎士団の鎧の裏には、絶縁体は無い。つまり、コイツらは鎧を改造したということか。スタンガン対策か? 俺達がスタンガンを使うと知っていたのか?
俺は、クロミールで鎧男達の攻撃をあしらっていた。いくら切れ味の鋭いクロミールでも、分厚い鎧を切断することは不可能だ。せいぜい、引っ掻いたような小さな傷を付ける程度しか出来ない。
「これでは血の目潰しも出来まい!」
先程叫んだ男が、また大声を出した。
血の目潰しは、『血をはじく』という、クロミールの特性があったからこその妨害手段だ。クロミールの刀身が血で汚れていれば、刀を振るだけで、刀身に付いている血が飛んでいく。まるで、クロミールから離れたがるように。普通の刀なら、血がべっとりと付着するから、上手く飛ばせないはずだ。大量に血が付いていれば、話は別だが。
当然ながら、今のクロミールの刀身には、血なんか付いていない。よって、目潰しは使えない。
「俺の対策か」
不可解だ。
この血の目潰しは、今までに数回しか使っていない。知っている人は数人しかいない。知らないはずの攻撃に、何故対策出来たのか。
「誰から助言を受けた?」
答える者はいなかった。俺の質問が聞こえなかった訳では無いだろう。わざと無視したのだ。
「スパイが、いるんだな?」
これも答えない。図星か。
研究所内に、ニトラ教のスパイがいる。そのスパイは、俺達の戦闘スタイルをこの男達に伝えた。……ということか。
「裏切り者がどいつか……吐いてもらうぞ」
俺は鎧の首元を狙って、麻酔針を軽く投擲した。完璧に隙間が無い鎧は、無い。そんな鎧があっても着れないだろう。頭部の鎧と胴体の鎧の間には、針が一本通るのに十分な隙間があった。そこに命中した麻酔針が、内部の麻酔液を男の体内に注入する。やがて男は倒れた。数時間の眠りを約束する、例の麻酔針である。浅く刺さるように投げたから、死んではいないだろう。
ゴツい鎧で身を守っても、所詮はこんなものだ。
これでコイツは無力化した。あと4人だ。
別の男が俺に襲いかかった。俺はそいつの右手袋に、クロミールを刺す。手袋は鎧ほど固くないので、楽に刺さった。
俺はクロミールの刀身にスタンガンを当てた。するとスタンガンの電撃はクロミールを通して、奴の体内を走り抜けた。男は体を痙攣させ、バタリと地面に倒れた。
感電完了。残るは3人。
カインズに蹴られた鎧男が、「ぐはっ」と言いながら吹っ飛ばされた。そいつは地面に倒れて動かなくなった。
「手加減はしてあげたよ。今回はね」
カインズは冷ややかにそう言った。あと2人。
「死ねえ!」
カインズの背後にいた鎧男が、カインズに剣を振る。剣はカインズの首を襲い、無惨に切断……しなかった。
「なっ……!」
カインズの首は傷一つ付けずに、剣を受け止めていた。鎧のせいで表情は見えないが、剣を振った男が驚いているのは想像できた。
「うわっ、気付かなかった」
カインズは慌ててその男を蹴飛ばす。多少乱暴な動作だった。
「ぐへえっ!」
男は数メートルの低空飛行をさせられた後、地面に落下した。動く気配は無い。残りは1人になった。
「もしなまくら刀じゃなかったら死んでたぞ。油断するな」
「すみません、クロム隊長」
カインズの皮膚は、尋常じゃなく強い。皮膚だけでなく、骨も内臓も筋肉も強い。時速60キロメートルを優に超えるスピードで走るのだから、体が強靭なのは当然だ。並み外れた身体があるからこそ、超人的な動きが可能なのだ。なまくら刀では、カインズの皮膚を切り裂けない。
「おのれ……貴様ら、ドラゴンがどんな存在か分かっているのか!」
最後の鎧男が剣を構えて怒鳴った。
「知らないなら知らないでいい。だが、勘違いするなよ。貴様らの行動は正義では無い! 断じて違う! それだけは肝に命じておけ!」
正義、か。俺は、正義のヒーローになった覚えは無いが。
「別に正義のつもりでやってない。俺の望む道を進んでいるだけだ」
「そうか。我々も、信じる道を進むのみだ」
そう言って男は逃げ出した。
「我が名はボル・レジス! さらばだ!」
「待て!」
ボルと名乗る男は足が遅かった。間違いなく、重い鎧のせいである。俺はボルにすぐさま追い付き、背中を蹴った。ボルが大きな音を出して倒れる。
「大人しくしろ」
「ふっ、俺に構っている場合かな?」
意味深な口調。何か策があるのか。
俺の背後から、高い悲鳴が聞こえた。
「キュオオオオオオオオオン!」
キューの声だ。
「まさか……」
俺は勢いよく振り向いて、劇場に向かって走り出した。
「カインズ! 後は任せた!」
「はい!」
キューの身に何かあったのか。体の奥から溢れ出す焦りを感じながら、俺はキューのいる劇場舞台まで急いだ。
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