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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第17話 「この世界の支配者」

 ドラゴンのことは、俺でも少しは知っている。

 この世界に人類が誕生するよりずっと昔。今から約10万年前。

 ドラゴンと呼ばれる生物が世界を支配していた。当時には、哺乳類や鳥類や昆虫などの生物も当然いたが、『世界を支配していた』と形容できるのはドラゴンのみだ。食物連鎖の頂点に君臨していた種族、それがドラゴン。ドラゴンの種類は約100種もあった。


 ドラゴンの多くはとてつもなく巨大な体を有していた。最大級のドラゴン、『ヒュージアトラント』は体長700メートルもあると言われている。最小のドラゴン、『タイニーキュール』でさえ、体長は4メートルだ。

 ドラゴンの平均的な大きさは300メートル。人間の身長など比べ物にならない大きさだ。


 ドラゴンは、トカゲのような手足と、鹿のような角と、コウモリのような羽と、蛇のような鱗と、獅子のような牙を持つ。様々な生き物の特徴があるのだ。故に、現在の多種多様な生き物の先祖だと言われている。


 空を支配するドラゴン達は、筋肉質で巨大な翼で、力強く大空を飛び、世界中を見下ろす。

 陸を支配するドラゴン達は、太々とした足で大地を揺らし、足跡を刻み、大陸を堂々と闊歩する。

 海を支配するドラゴン達は、細く鋭い肉体で海洋を泳ぎ、荒れ狂う大波を引き起こす。


 生きているだけで他の生物を怯えさせ、動くだけで地形をド派手に変える。

 まさに自然界の暴君。絶対的な王者だ。


 特に、最強のドラゴンの名を欲しいままにする、『キングクウォンテス』は生物の王に相応しい。体長500メートルのその竜は、鋭い爪で山を砕き、過大な翼で竜巻を起こし、口から吐く炎で湖を蒸発させる。

 炎を吐くドラゴンは何種類かいるが、その威力はキングクウォンテスには遠く及ばない。炎の量も、吐ける時間も、桁違いだ。


 ドラゴンは強いだけでなく、知能も高い。手先の形状上、器用に物を作ったりは出来ないため、文明は発達しなかったが、ドラゴンは独自の言語で会話をしたという説がある。

 危険を察知する能力も高く、生命力はずば抜けている。


 そんな強く賢く恐ろしいドラゴン達は、今はいない。約4万年前に絶滅したのだ。

 理由はハッキリとは分かっていない。学者の間では度重なる議論が交わされ、いくつかの説が提唱された。


 環境変化? 火山の噴火? 新種の病原菌? ドラゴン同士の争い? 食物の減少? 酸素の不足? 遺伝子異常?


 どの説も決定的な証拠が無い。何故ドラゴンが滅んだのかは不明のままだ。


 現在、生きているドラゴンはいないが、化石なら存在する。ドラゴンの化石や、ドラゴンの糞の化石を調べることで、ドラゴンの生態を明らかにしているのだ。

 ドラゴンの化石は、博物館で観賞が可能だ。


 現代におけるドラゴンは、恐怖の象徴であり、強さの象徴であり、偉大さの象徴である。ドラゴンの伝説を語った絵本や、ドラゴンの銅像や、ドラゴンを神と崇める宗教も存在する。


 だが、いくら人々の心に強い印象が刻まれていようと、ドラゴンは過去の生き物だ。ロマノから言い渡されたのは、そんなドラゴンを護衛する任務。冗談としか思えない。

 だがロマノは真面目な顔で、ハッキリと言った。ロマノはふざけた奴だが、これでもアイズの団長だ。俺達の目を真っ直ぐ見つめて冗談を言うような女じゃない。いざというときはしっかりしているのだ。つまり、ロマノは本気だ。

 本気で『生きているドラゴンがいる。それを護衛して欲しい』と言っているのだ。


 ロマノの言葉を聞いた時、皆が少なからず驚愕したのは見てとれた。

 2秒間の沈黙。もっと長く静寂が続いていた気がしたが、実際は2秒だろう。

「ルクトシンの街は、研究機関が多数存在する都市だ。ラトニアよりずっと都会だよ。そこのバイオ研究所で、ドラゴンを復活させる研究が行われていたらしい。遺伝子何とか技術を応用して復活させたって、クライアントが説明してた。見事復活したドラゴン第一号を、今度の学会で発表する。大事な大事なドラゴンに、万が一のことがないように、君達に守って欲しいそうだ」

 ロマノの口調からは、いつものような軽さは抜けていた。声のトーンが低い。

 本来、アイズの活動は自主的に行われる。アイズが動くべき事件を調査し、その後、実働部隊が任務を実行する、という流れだ。この前のユリーナの事件だってそうだった。娼婦から救助要請を受けることなく、救助を行った。アイズの外部の人間から活動依頼を受けるのは珍しい。

「クライアント……つまり研究所の所長から頂いた情報なんだけどね。どうやらドラゴンの命を狙う連中がいるらしい。君達にも危険が及ぶ可能性もある」

 ドラゴンを殺そうとする連中がいるということは、ドラゴンが復活したという情報は外部に漏れているのか。何か裏がありそうだな。

「研究所には警備員達が配備されているはずだ。ドラゴンを警護するには、彼らじゃ力不足なのか?」

 俺は質問を投じた。ロマノは即答する。

「うん。だからこそアイズに協力を要請したんだろうね」

 今回の任務では、戦闘は必至だろう。ドラゴンを狙う奴らが何人いるのかは分からないが、そいつらとの衝突は避けられない。

「クロムちゃんは『クロミール』を持っていきなさい。今回の任務において、必要であれば敵の抹殺を許可します。必要であれば、ね」

「了解した」

 殺人は犯罪。それは世界の常識であり、万国共通のルールである。

 もちろん、正当防衛は法律的に認められている。これもまた、世界の常識だ。

 「必要であれば」、俺は人を斬る。覚悟はとっくにできている。

 アイズの理念としては、人殺しは忌むべきことではあるが。

「任務の説明は以上だ。質問はある?」

 誰も何も言わなかった。ロマノはそれを確認し、口を開く。

「重要な任務だ。気を引き締めていこう」

 ロマノの一言で、会合はお開きとなった。


 ロマノは俺達の任務が終わるまでアジトに滞在するという。

 俺達は準備を整え、ラトニアを発った。ルクトシンを目指して、北西へ歩く。特にトラブルが起こることも無く、無事にルクトシンの街にたどり着いた。

「私、都会に来るのは初めてです。緊張しますね」

 ユリーナが、意外にも真面目な顔をしている。もっと楽観的な表情だと思ったが。ロマノの口調から、任務の重さを感じ取ったのかもしれない。ユリーナは今回が初任務だ。俺との特訓も足りていない。緊張するのは当然か。

 ユリーナの戦闘スキルは素人以下だ。いざという時には、俺がユリーナを守ってやらないと。

「中央都市の方がもっと都会だよ。肩の力抜いて行こう」

 カインズは対照的に、リラックスした雰囲気だ。まあ、こいつは気を抜いたぐらいがちょうどいい。緊張しすぎて全力を出せないのは良くないからな。

「未知のマシンに出会えるかもな。楽しみだぜ」

 エリックはいつも通りの機械バカだ。マシンもいいが、任務を忘れるなよ。

「わたしが来る必要あったのでしょうか……。カインズ先輩とクロム隊長だけで十分では?」

「そんなこと無いですよ。僕はミミさんのお力に期待してます」

「……ありがとうございます」

 ミミとファティオは俺の背後で会話をしていた。あの二人の心配も必要なさそうだ。結構ベテランだからな。


 俺、ファティオ、エリック、カインズ、ミミ、ユリーナの6人が、ルクトシンの地に足を踏み入れる。


 任務開始だ。

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