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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第15話 「ロマノ団長がやって来る」

 新しい朝が来た。

 昨日と同じように、ユリーナと二人で朝食を摂る。

 重要なことを言い忘れていたことに気づき、質問を繰り出した。

「ユリーナ。お前、今の職業は何だ」

「えっ?」

 ユリーナは不思議そうに首を傾げた。そして、当然とばかりに答える。

「アイズの隊員に決まってるじゃないですか」

 ああ、やっぱり勘違いしている。

「アイズの仕事に給料は出ない。ボランティアだからな。つまり、収入源となる本職が必要な訳だが……」

 ユリーナは表情を固めた。ユリーナの手からフォークが落ちる。

「ええええ!? お給料出ないんですか!? じゃあ私、無職!?」

 ユリーナは驚きの顔を見せて、わなわなと震えた。

「エリックは工場長。カインズはピエロ。ミミは農家。俺はこのアジトの管理人。それぞれ生計を立てている。お前は会ったことないが、副隊長のファティオは作家だ。お前も何か職を探した方がいい」

 ついこの間まで、ユリーナは私立娼館の娼婦だったが、(結局、仕事をする前に俺たちが救出したが。)今は無職か。仕事を斡旋してやるべきだろうか。

 ユリーナは狼狽えて「あわわわ……」とか言っている。

「ユリーナ。お前、蜜の楽園に拉致される前の仕事は?」

「山菜採りですね。薬草とかキノコとかも採ってました」

 ユリーナの故郷は、チェルド大陸の西にある小さな村だ。あの辺りでは山菜がよく採れるが、この街の近くではほとんど採れない。ラトニアの街で山菜採りとして生きていくのは不可能だ。薬草やキノコも然り。

 うーん。ユリーナに向いた職業は無いものか。

「とりあえず、しばらくは俺の手伝いをしてくれ」

「は、はい!」

 団長に頼んで、ユリーナの分の給料も出してもらおう。

 いつか、ユリーナの天職が見つかるまで。


 朝食を終え、俺とユリーナは訓練場に赴いた。戦闘訓練の時間だ。

「ユリーナ。お前は昨日、俺にパンチ一つ当てられなかった。就寝中を襲ったにも関わらずだ。何故だと思う?」

 ユリーナは数秒唸って、返答した。

「クロムさんが強いからです!」

「不正解。俺はそんなに強くない。力は弱いし、カインズ並のスピードは無いし、かと言って色仕掛けが出来る訳でもない」

 俺は男子用アイズ制服に覆われた、自分の平たい胸を触った。

「でも一つだけ、俺は他より優れた強さを持っている。それは言うなれば、警戒力だ」

「警戒力……」

 ユリーナが、納得したようなしてないような微妙な表情を浮かべた。

「今は、少しでも多くの人口増加が望まれる時代だ。生殖能力のある女は、色んな奴から狙われる。だからアイズの団長は、非力な女性でも使える護身術を編み出した。だがその護身術は、常日頃から周りを警戒することが前提になっている」

「つまり、もっと警戒しろってことですか? 私にもできるでしょうか?」

「出来る。訓練次第で、寝込みを襲う変態に反撃も可能だ」

 人のベッドの匂いを嗅ぎながら悶える変態とかな。

「音に警戒すれば背後からの攻撃にも対処できるし、相手の動きや姿勢を警戒して観察すれば、隙を突くことも容易だ。逆に、自分には隙が無くなる」

 ユリーナは今度こそ納得した様子で頷いた。

「今日は俺がお前に襲いかかる。手加減するが、テキトーにはやらない。本気で軽い攻撃を当てるから、警戒して身構えろ」

「一日中、ですか」

「一日中、だ」

 そう言いながら俺はユリーナに足払いを仕掛けた。

 ユリーナは見事にすっ転んだ。


 今日の結果発表をしよう。

 ユリーナは、俺の24回の足払いと19回のチョップと22回のデコピンを全て食らった。昔、カインズにも同じ訓練をしたが、奴は半分以上の攻撃を防いだというのに。いや、カインズと比べるのは酷か。

 ともかく、特訓が必要だな。何度転ばされても弱音を吐かないあたり、精神は強いようだ。感情の起伏が激しいと聞いたから、すぐ泣き出すかと思ったが、案外やるじゃないか。

 デコピンを食らう度に恥ずかしそうに喜んでたのは不思議だが。


 リリリリン、と音が鳴った。アジトの電話の音だ。ちなみに、エリックの手作りの電話だ。俺は受話器を取った。

「もしもし」

『あ。クロムちゃんですね。入団希望者の情報、届きましたよー。いい子そうですね。合格です。入団を認めまーす』

 聞き覚えのある軽い声。私的国際自警団アイズの団長……ロマノ・アイズ・フィミリスの声だ。

「ロマノか。用件はそれだけか?」

『敬称を付けなさーい。……じゃなくて、実は大事な話があってね。直接会って話したいから、君の所に向かってるんだ』

「いや、いい。帰れ」

「じゃじゃーん! もう来てましたー!」

 それは電話越しの声ではなかった。ドアを思いっきり開ける音と共に、生の声が、数メートル後ろから聞こえた。

 振り返ると、玄関にその女がいた。携帯用電話機と、継ぎ接ぎだらけの豚の縫いぐるみを抱きしめた、ワンピース姿の女。

「はいはーい。ロマノ団長が来ましたよー。早くお出迎えして下さーい」

 ロマノは、にこやかに立っていた。

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