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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
最終章 人類絶滅災害編
1013/1030

第983話 「復讐ではなく」

 ここに来るまで、懐かしさとかは感じなかった。見慣れた木々の風景も、ボロボロの家屋も、どこか余所余所しく思える。この集落を集合場所に指定して、俺が戸惑っているとでも思っているのだろうか。ワクワクした顔で俺を待っていたルナロードは、俺に勝てる気でいるのだろうか。そう驕ってくれた方が都合がいい。お前の予想を裏切るために、俺は来たのだから。

「救う? 救うだって?」

 ルナロードは目を丸くして立ち竦んでいた。やがて訝しむような目付きで俺を睨め付ける。

「君が私を救いたがる理由なんて無いんじゃない? 私を殺したがる理由はあってもさ。もしかして、私が何をしてきたか知らない? そんな事無いと思うけど」

「知っている。お前がイカれた危険人物だってな」

「だったら! 君は私を許さないでしょ? ロマノの仇を取るため、これ以上の被害を生まないため、私を殺す! 君はそういう覚悟を抱ける子のはず!」

「分かってないな。何でも知ってるような顔して、結局お前は俺を見ていない。俺はアイズの隊員としてここに来た。その意味は言わなくてもいいな?」

「あはは……本気? それとも狂気? 憎しみに囚われないなんて……アイズの使命を優先するなんて……そんな事」

 ルナロードは眉をヒクつかせて小刻みに笑った。その笑みは段々と加速し、大きくなる。

「ふふふふふふははははははっ! 最高だよぉ! クロムちゃん! やっぱり君じゃなきゃ駄目だ! 私の未来を打ち砕いてくれるのは! ねぇ。ロマノの意思を継ごうとしてるのかい? あの人の願いまで殺させないために! そんなの考えもしなかったよ! 嘘みたい!」

 そんなに面白いか。俺が想定外の言動をしたのが。

 だったら思う存分歓喜すれば良い。お前の未来予測とやらは、これから完膚無きまでに叩き潰される。

「言っておくがな。俺はロマノに気を遣って言ってるんじゃない。使命だとか責任だとか、そんな堅苦しい事も考えてない。ただ、俺の心が示すままに進みたいだけだ。俺は、誰かを助けられる人間になりたかった。強い人間になりたかった。お前が相手だろうと、俺の渇望は変わらない」

 助けたいから助ける。それ以外の理由なんて無かったんだ。他の理由があったとしても、後付けの偽物だ。

 憎しみの為でもなく、世界の為でもなく、栄光の為でもなく、正義の為でもない。俺はお前を救う為にお前と戦う。


「その前に一つ確かめておきたいんだが。お前、俺を殺せる気でいるか?」

「……何だって?」

「俺が欲しいとか言ってたな。それは、生きたまま監禁するとかの意味か? だとしても迷惑だから、全力で抵抗させて貰うが」

「生け捕りで観察するのも悪くないねぇ。でも君が他人に奪われるなんて嫌だからさ。君の人生の最後の瞬間まで、私のものにしてあげるよ」

「言い方が回りくどいな。要するに俺を殺して蒐集するって事だろ? ヴィルカートスも、そう言って殺したのか?」

「あはっ。気付いてた?」

「誤魔化しもしないんだな。随分、狂人が板に付いたじゃないか」

「もう人間じゃなくなったからねぇ。君も竜人になれば分かるよ。溢れ出す狂気を止めるには、相当の拠り所が必要だ。私にとってそれは、予想を覆してくれる人だけだよ。君みたいなね」

「そうか。だったら朗報だ。殺されるのはお前の方だ。最高の『予想外』を見せて、そのままあの世に送ってやる。二度とお前が苦しまないようにな」

 もしルナロードが「自分が負ける」と予想していたら、俺の計画は破綻していた。ルナロードが勝利を確信しているからこそ、その予測を裏切る事に価値が生まれる。

「ふふふっ。あはははは! 結構君もイカれてるよね! 実力差を忘れちゃったのかな? 或いは恐怖が麻痺してる? 君じゃ私に勝てないよ。オーディン・グライトにも手も足も出なかった君じゃあねぇ」

 当たり前だろうと言いたげに、ルナロードは言い放つ。深く観察してみたが、嘘を言っている様子は無かった。俺には負けないと、心の底から信じている。

 俺が戦う理由は確固たるものになった。これなら全力で戦っても、ルナロードの期待は裏切らずに済む。

「確かめてみるか? お前の好きな実験の時間だ」

「いいね。奇跡は起きないって理解させてあげよう」

 ルナロードは白衣の袖を捲った。彼女の細く白い腕が、空気を裂く。

「私と一緒に失望するかい?」

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