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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第94話 「サジェッタとガンダス」

 オーディン達と別行動をとったサジェッタとガンダスは、王宮の宝物庫へ向かっていた。迅速に走り抜けるサジェッタに対して、やや鈍足に走るガンダス。

「早くしやがれ!」

 王国騎士団に見つかる前にさっさと宝物庫に行きたいところだが、ガンダスが遅いのでサジェッタはイライラしていた。

「テメェが捕まっても見捨てるからな!」

「そんな……俺達、仲間じゃないか」

 ガンダスは悲観の声を出すが、サジェッタは舌打ちをするだけだった。

「役立たずの雑魚は仲間じゃねーよ。テメェみたいな小悪党がこの作戦に参加出来ただけでありがたく思いな」

 ガンダスは大した悪行をしない上に、臆病だった。そんなガンダスに、サジェッタは日頃から腹が立っていた。最悪なことに、サジェッタはガンダスと一緒に行動することが多かった。

 「何でアタイがこんな奴と一緒にいなきゃならねーんだよ!」と、ことあるごとに叫んでいた。

「サジェッタ……少々口が悪いぞ」

 ガンダスは恐る恐る言った。

「ハッ、『悪い』のは上等! アタイは『イーヴィル・パーティー』だぜ?」

 もっともな意見である。彼女達は世界的な悪党だった。


 それにしても、だ。さっきから人の気配がしない。王国騎士団の多くは外にいるとはいえ、流石に王宮の騎士団の人数が少なすぎではないか。まるで王宮内が死んだように静かだ。

「不気味なこった」

 まあいい。好都合だ。楽に宝物庫を探せる。

 ……と思っていたのだが。

 いつまで経っても宝物庫が見当たらない。走っても走っても似たような部屋ばかり見つかる。ずっと同じ光景ばかり見ている気がした。

 これは所謂、迷子ではないのか。

「さっきから同じ所を回っている気がするんだが、もしかしてサジェッタ、迷……」

「迷ってねーよ! 黙らねーと半殺しにすんぞ!」

 サジェッタはガンダスの脛を蹴って、先を急いだ。


 しばらく走り回った末、サジェッタは立派な扉のある部屋にたどり着いた。

 やたら装飾の凝った大きな扉だ。ここが宝物庫に違いないと踏んだサジェッタは、勢いよく扉を開け、中に入った。

 だがそこは宝物庫ではなく、謁見の間。レッドカーペットの道の先には、大きな椅子がある。巨大なシャンデリアや、模様だらけの壁が目に映った。

「ってここ宝物庫じゃねーのかよ! ……あぁん?」

 サジェッタが次に目にしたのは、一列に並べられた死体の数々だった。手前側には、鎧を着た死体。奥には、王族の服を着た死体。一目で異常と分かる光景だった。

「ま、待ってくれサジェッタ! 置いて行かないでくれ!」

 背後からついて来るガンダスに、疑問を投げかけた。

「ガンダス。テメェ、この光景はどういう冗談だ? 説明してくれよ」

 答えなどはなっから期待していない。

「全くサジェッタは足が速い……ってうおおおっ!? 何だこれは!」

「アタイが聞いてんだよ! ったく使えねーな」

 サジェッタはガンダスの足を蹴り、近くの死体に触れて観察した。

「死体……だよな。服装からして、コイツらは王国騎士団か? 奥の死体は王族……」

 サジェッタが王の椅子の方を見ると、不審な男がいた。白いスーツと白い靴。長い長髪は、七色のグラデーションで彩られていた。その風貌を一言で表すと、『変な奴』だ。

「誰だテメェ。ムカつく顔しやがって」

 謎の男はお辞儀をして名乗った。

「はじめましてお嬢さん。小生はテマネスク・フラウワ。『執念の手』の『劇的劇』と呼ばれる者です」

 お嬢さんじゃねーよ。

 それよりも気になった単語がある。『執念の手』? どっかで聞いたことがある。確か、オーディンが話していたはずだ。頭のおかしい殺人集団だと。この男が、そうなのか。

「『執念の手』だぁ? 変な名前だな、オイ」

 本当に変な名前だ。名付け親に名前の由来を聞いてみたい。

「そうですか。ところで、小生の芸術を汚さないで欲しいですね。殺意が芽生えてしまいますから」

 テマネスクと名乗った男は、手元のナイフを急に投げてきた。

「うおっ!?」

 サジェッタは瞬時に避け、ナイフは背後の壁に深々と突き刺さった。こんな鋭いナイフが直撃したらタダじゃ済まない。

「何しやがる!」

 サジェッタはテマネスクを睨んだ。

 真顔で人にナイフを投げるとか、どう考えても常識人の行動じゃない。テマネスクがとんでもない殺人狂なのはこれでハッキリした。

「死んで下さい。邪魔なんですよ。小生、深く辟易」

 サジェッタは自前の鞭を手に取った。『イーヴィル・パーティー』としても、この殺人鬼は見逃せない。ここで仕留める。

「ガンダス! アイツを殺すぞ!」

 前方に走るサジェッタ。ガンダスも、「お、おう!」と言ってサジェッタと一緒に前進した。

 テマネスクの投擲ナイフがサジェッタの頭を狙う。

「効くかよ!」

 サジェッタは鞭を振るい、鞭の先端でナイフを弾いた。軌道を大きくずらしたナイフが明後日の方を向き、部屋の柱に刺さる。

「おや」

 この防ぎ方はテマネスクにとっても予想外だった。正確にナイフを叩いて飛ばすとは。

 並の鞭使いには出来ない芸当だが、サジェッタは鞭の名手だった。この程度は造作もない。

「死ねっ!」

 テマネスクに接近したサジェッタ。サジェッタの鞭が蛇のように暴れまわり、テマネスクの心臓を狙う。

「小生、迅速に退避!」

 テマネスクは鞭の一撃をかわし、その場を離れる。

「逃がさねーぞ!」

 サジェッタはテマネスクを追い、一歩を踏み出した。

 その時、足元に強い刺激が走る。

「……っ!」

 咄嗟に足を見ると、テマネスクのナイフがサジェッタの左足を貫通していた。刃先を上に向けたナイフが、サジェッタを睨む。

 退避する時、床に仕込んでやがったのか! くそっ!

 サジェッタが足を上げてナイフを抜こうとした瞬間、決定的な隙が生じた。

 テマネスクのナイフが2……3……5本。5本もの刃物が勢いよく飛来し、サジェッタの五体を狙う。

 足のナイフのせいで動きを制限されたサジェッタは、回避する術を持たなかった。5本のナイフとなると、全て弾くことも不可能だ。

 サジェッタは覚悟を決めた。自身の体が穴まみれになる感覚を想像した。

 だが、いつまで経っても痛みはやって来ない。

 サジェッタの目の前に立っていた男が、ナイフを全身で受け止めたからだ。

 サジェッタの盾となったその巨漢は、血を吹き出しながら床に倒れた。


「ガンダス!」

 サジェッタは足のナイフを抜き、倒れるガンダスに触れた。首や心臓に刺さったナイフが痛々しい。

「ガンダス! テメェ、何でアタイを庇いやがった!」

 サジェッタは部屋に響く怒声を放った。

「サジェ……大丈……夫か……」

 低い呻き声が、途切れ途切れで聞こえる。

「うるさい黙れ! 死ぬから喋んじゃねー!」

「もう……俺は死ぬ……。それより……」

「黙れつってんだろヒゲ!」

 サジェッタの大声とは裏腹にガンダスは消えそうな小声で呟いた。

「お前が無事で、よかった」

 それ以降、ガンダスが口を開くことはなかった。永遠に。


 数秒の沈黙を、テマネスクの拍手が破った。テマネスクは満ち足りた笑顔を浮かべ、サジェッタにゆっくりと近付く。

「いやー、美しい。仲間を庇って死んでいく。劇的で素晴らしい死ではありませんか。こういう光景を、小生は求めていたのですよ。悲しい死に様に、小生、極めて感激」

 サジェッタは立ち上がり、物言わぬガンダスを見つめていた。

「近付くな、変態カス野郎」

 テマネスクはサジェッタの放つ異様な雰囲気を察知し、足を止めた。

「おやおや。お仲間が殺されてご立腹ですか?」

 サジェッタは低い声で答えた。


「そんなんじゃねーよ。このガンダスって男はな、役立たずで馬鹿なガキだった」

 サジェッタの腕は震えていた。

「仲間だなんて思ってねーし、絆なんてもんは当然ねー」

 サジェッタは歯を食い縛っていた。

「ノロマで、弱くて、ビビりで、不器用だった」

 サジェッタの目は見開いていた。

「体ばっかりでかくて、心が小さい奴だった」

 サジェッタの血管は浮き出ていた。

「こんな奴死んでも何とも思わねーし」

 サジェッタの皮膚は赤くなっていった。

「むしろ殺してくれて感謝するぜ」

 サジェッタの頬は濡れていた。


「でもよ! そんな事情とは一切関係無く! アタイはテメェをぶっ殺す!」


 サジェッタはテマネスクの方を向き、鞭を構えた。

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