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#8 地味な土魔法では駄目ですか?


「ここは本部棟です。ここでは、高等部や中等部関係なく共有施設となっています」

 エルルと一緒に歩く。歩幅は小さいので、朝明はいつもよりゆっくりとした速度だ。

 このゆったりとした感じが良かった。小春日和のような、暖かい空気を肌で感じる。

「他に今から行く管理棟と、中等部と高等部にわかれた教室棟があります」

「広いんだな」

「そうですね。魔法使いを集めている場所ですから。魔法を使うとなると、どうしても広くなります」

「ということは、魔法使いしか入れないのか?」

「そうです。ここの入学試験は、簡単な筆記と、なにより大切にされているのが、魔法使いの素質です。身分関係なく魔法さえ使えれば入学することが出来ます」

 この口ぶりから判断するに、この世界では魔法を使える人と使えない人に分かれているのであろう。

「エルルは何の魔法が使えるんだ?」

「エルルは……その、土属性です」

「土か」

「……そうです」

 今にも聞こえなくなる声で言う。

「ん? 土属性だと何か悪いか?」

「いえ、土属性って、なんだか地味と言われるイメージがあって、その」

「土属性か、たしかに地味だな」

 イメージしてみると、地味だ。土を使うという行為すら地味だと思う。

「そうですよね。だから、そのあんまり」

「でも、まぁ土属性でも格好良いと思うけどな」

「そうですか?」

 朝明は言ってみたものの、土属性がどんなものかまったく想像ができない。それもこれも、RPGゲームをしなかったことに問題がある。朝明は姉のせいで、ロボットアニメとロボットゲームのみで少年時代を送ってきた。普通の少年が送るであろうRPGゲームでファンタジー世界を楽しむことなど皆無であった。

 そんな朝明がファンタジーな世界にいることはなんだかおかしいことだ。

「そんなこと言ったら、俺なんて金属だからな」

「金属ですか? 聞いたことありません」

「珍しいみたい、金属なんて言ったら地味だろ」

「いえいえ、金属のほうが格好良いじゃないですか。それにくらべて土なんて……」

 二人して落ち込む。なんだか、自分たちで傷口に塩を塗った気分だった。

「よし、この話はなしだ。もっとほかのこと。ほかのこと」

「そうですね。えっと……」

 エルルと世間話をする。エルルにしてみれば、どれも他愛たわいのないことだ。しかし、世界が違えば、世間話の中身も違ってくる。水の魔法を使ったら水浸みずびたしになった。火の魔法を使ったら危うく建物が全焼しかけた。などなど、エルルが、おもしろおかしく語ってくれるが、どれでも想像がついても到底信じることもできないことばかり。

「すいません。つまらないことばかり話していて」

 エルルはちょうど階段を下りているときに我に返る。どうにも、語ることが大好きで、自分を忘れることが多いみたいだ。

「どれも面白おもしろかったよ。それに、エルルが語ってくれると、心地が良くて聞き入ってしまう」

 暖かい声質で聞こえてくるお話は、どれも音楽のように耳の中に入ってくる。声で聴く物語はどれも話し手次第なのだ。

「そうですか。そんなこと言われたのは2回目です」

「ほかにもいった人がいるんだ」

「はい、ノカゼと言ってですね……あっ! ノカゼちゃんのこと忘れてた」

 懐かしそうに語っていたところ、あわてて思い出す。

「あのエルル、そういえばノカゼちゃんに用事が済んだら、来てくれって言われてたの忘れていました。すいません」

「いいよ。いいよ」

「それで、少しばかり寄り道してもいいですか?」

「いいのか?」

「何がです?」

「ノカゼちゃんっていう子と約束してたんじゃないの?」

「呼びに来てくれと言われてただけなので、そのあと管理棟まで案内します。すいません」

 さすがにここまで好意を受けてしまうと、場所だけ教えてくれれば大丈夫というのにも、エルルの笑顔を見ると忍びない。

「ノカゼちゃんは音楽室にいます。この本部棟の3階部分が音楽室です」

 二人は階段をのぼる。二段飛ばしで階段をのぼるエルルはスカートがひらひらして見えそうになっているが、朝明は目をそらす。

「どうしました?」

 そんな無垢な笑みをする子に、こんなことを考えていたなど知られたくもなかった。

「いや、それより待ってるかもしれないだろ」

「はい、急ぎましょう」

 エルルの二段飛ばしは続く。危ない橋を何度も渡った朝明であった。

「ここです」

 目の前にはこぢんまりとした扉がある。ここら辺の一角は防音設備を強化しているのか、壁が分厚く、床も普通の材質と違っていた。


 扉を開けると、中からピアノの音が聞こえる。間違えようがないピアノだ。

 朝明も中に入ると、グランドピアノが部屋の中心に置いてある小さな部屋。グランドピアノが大きいせいか、あんまり人数が入ることができない。


 音が流れていく。旋律が心地よい。この部屋の中だけ別世界にいるようだった。


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