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#6 独りにするのは駄目ですか?

 校長室から出てあとは、クレアにつれられるがまま、職員室に赴き、書類を一式かくことになった。ノエルとフローラは、待たされるとわかっているのに残っている。その理由は、「何か変なことを起こすかも」というのだか、朝明は変なことを起こす人認定を受けてしまう。

 嘘の戸籍と言ったら言葉が悪いが、ありもしないことを書類に書いていく。すべてクレアが指示して、言われた通りに書く。

 書くのにも一苦労だ。

「なんで、文字が違うんだ」

 どうやら英語のアルファベットには似ているが、英語を多少わかる朝明ですら読むことができなかった。クレアは、文字が書けないことに気付き、わざわざ書いて教えてくれる。

 それを一字一句なんとか写す。まだ英語を書ける朝明は多少綺麗に書くことが出来た。羽衣は朝明の知識を共有しているために、似たり寄ったりだ。

 ただ不思議なことに、名前だけは漢字で書いても大丈夫だったのだ。鉄朝明と漢字で書いた。こうして、なんとか書類を書き終わると、クレアがハンコを押していった。

 有無を言わさず入学手続きが終了した。

「はい、これでおしまい。あとは……」

 別の書類を取り出して、確認しながら職員室を出ていく。それについていく朝明、羽衣、ノエル、フローラ。

「寮の中で君たちの部屋はあいにく空きがないの。そういうわけで、来賓室に泊まってもらうことになった。来年のために、新しく寮を建設しているけど、できるまでは来賓室を使ってもらうことになるわ」

 クレアは職員室の前で言う。

「トモアキと部屋は一緒ですか?」

「えっ!?」

 その発言にノエルがすぐさま抗議の声をあげる。

「兄妹といえども、そんなことはいけません」

「駄目ですか?」

「駄目です」

 羽衣の無垢な表情にも負けることなくノエルは言い切る。

「当然、別々の部屋になるけど……」

 クレアはそこまで言ってから、羽衣のほうをみると何知れぬ不安に襲われる。これだと、羽衣は間違えなく朝明の部屋に入っていくだろうという確信に近い不安だ。

「ノエルちゃん、それなら私たちの部屋に住んでもらったら、新しい寮ができるまでだからね」

 それを同じように感じ取ったノエルが真っ先に反対するのも無理はない。ここで、フローラは一つ提案した。

「それはいい。そうしよう。そいうことだ、羽衣、部屋に案内しよう」

「あっ、えっとえっと……こういう時は、あれ~~~~」

 ノエルに手を引かれて羽衣は、あれよあれよと連れ去れた。最後に羽衣は変なことを言っていたような気もするが、朝明は気のせいだと処理する。

「あらあら、あんなにうれしそうに行っちゃって」

 フローラは嬉しそうに二人を追いかけていく。

「お、おれは?」

 三人に置いて行かれた朝明。

「はい、これが鍵。来賓室は、管理棟の3階がそうだから。私はこれから校長に命じられたことをしないといけないから。また明後日会いましょう」

 クレアは鍵だけを渡すと歩いていなくなってしまった。

 明後日会いましょうというのは、今日と明日は休日なのだ。ここのあたりは朝明のいた世界と同じであろう。

「そんなことより、ここはどこ?」

 ひどい話である。まったく初めて来た人物を放置するとは、それも、この世界に来たのも初めてだということも加えておこう。初めて続きだ。

「管理棟とは聞いたけど、どこにある……」

 とりあえず歩くことにした。廊下が続く。

「やっぱり文字が読めない」

 書類の件からもわかっていることだが、文字は意味不明だった。

「孤立無援?」

 いまさらだが、言葉は通じる。この事実に感謝した。言葉がわからなかったら、ただ孤独に終わるだけだ。

「それにしても、人がいないな」

 休日ということで、人がまったくいない。先生にすら出会わない。

 石で造られた廊下を歩く。自分の足音だけが聞こえる。窓の外には、緑の芝生が広がっている。ところどころに人がいて、スポーツでもしているようだ。これだけを見ると、普通の学校だと思える。

 だけれども、ときどき炎が舞い上がったり竜巻がおこったり光ったりと校庭の一部ではよくわからない光景もあった。

「あれが、魔法かよ」

 遠目で見えないが、人が炎出したり何かしていたりする様子は想像がつく。

「本当に世界が違うんだよな」

 魔法がある世界。これだけでも、そういうことが認識させられる。

 朝明は階段を下りて一階部分を歩いていたら、匂いがする。この香りは覚えがあった。

「これは本か」

 本独特の香りがする。インクや、紙のにおい、ふるぼけたにおい。そんなにおいがした。

「近くにあるのか」

 と、においをたどっていく。少し歩いていく。

 ある程度大きな扉を見つけ、開いているため中をのぞく。

「やっぱり図書館か」

 座って読める長い机といすがある。その奥には本棚が通路の壁と言わんばかりに鎮座している。読んでいる人は数人いたのだが、そんなのにも目もくれず、本棚に近づく。

「やっぱり読めないよな」

 本が多少好きな朝明。というのも、過去、中学生時代はいろいろとあり、図書館が逃げ場であり、隠れ家だった。図書館のにおいは落ち着く。図書館に居たら、本を読みだしてしまうのは当然の流れ。

 読めないとわかっていても、本を開けてしまう。本棚の前に釘付けだった。

 横書きの書物だ。横に文字が書かれている。

「んーしょ、んーしょ……あとちょっと……」

 夢中で本棚を見ていたら、声が聞こえる。

 声がしたほうを見る。栗色の髪の少女がいた。頑張って上のほうにある本を取ろうとしている。

「もう少し、あとちょっと」

 頑張りはわかるが、ほんの少し手が届かない。黙って見ているわけにはいかず、

「これでしょ」

 朝明なら手を伸ばせば取れるので取ってあげた。

「あ、ありがとうございます」

 突然現れた人物に驚いてか、本も受け取らずに飛び退く。取り乱したような表情を浮かべていた。

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