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#2 二人っきりは駄目ですか?


「ひとつ聞こう。よくある転生ものは、生まれ変わる系が大半だよな」


 目を覚ますと不思議な状況下におかれていた。


「そうですね」


 近くで声が聞こえる。視界は真っ暗で身動きもとれない。


「何一つ変わっていないように見えるのは気のせいかな」

「真っ暗なのによくわかりますね」

「ということは……転生じゃない?」

「転生です」

「転生は、生まれ変わること。いまごろ、貴族の母親のもとしっかりと教育を受けてだな、優雅な生活がっていう展開が転生もの」

「一応転生です。ただし、生まれ変わってはいません」

「それなら、若返って少年とか……ということでもないよな」


 暗闇の中微かに光が漏れていた。そして気づいたことがある。


 少女の髪の毛が視線の下に見えたのだ。それに加え、体が接触している。暖かいぬくもりを感じるのだ。


「近い近い」

「動けません」


 このことを指摘するが、言うとおり身動き一つとれないのだ。

 そんな密集空間の中、何もできなかった。


「とりあえず、この状況を説明してくれ」

「少々、出てくる場所を間違えたみたいです」

「間違えた以前に、どうやってここに来たんだよ」

「それは……魔法です」

「魔法?」


 ファンタジー染みた単語を耳にする。魔法というのはゲームの中だけに存在する摩訶不思議な力である。そこから水が出たり、火を作り出したりと、いろいろ能力がある。ということは、たいていの人が知っているであろう。

 その魔法である。


「ようするにだ。魔法がある世界に転生はしたのだよな」

「そうです。ここは不思議な不思議な世界です」


 少女の言葉は、純粋無垢過ぎて疑う余地がなかった。

 もう少年は騙されるなら、最後まで騙されようと覚悟する。



 ふと気になることが、

「いまさらだけど、名前は?」

「名前ですか」


 この密着し合った状況で何気に冷静な会話を交わす二人である。

 初めての自己紹介であった。名前が気になった。

 こんな状況でも、頭は正常に動き、当たり前なことが気になるのだ。


「聞いた方が名前を言わないといけないな。くろがね 朝明ともあきだ」

「私は羽衣ういです」

「羽衣か、よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 無事自己紹介を終えることができた。

 そこで、ふと現実に帰るとやはり何一つ変わっていない。名前を紹介し合ったところで、この暗くて身動きが取れない場所にいることには変わりなかった。


「この状況はどうにかならないのか?」

「無理ですね」

「そんな冷静に言われても」

「待つしかないです」


 暗闇の中、羽衣の息をする音が聞こえる。


「いったい何が何やら」


 朝明は状況をまるで呑み込めていない。

 転生とは言ったものの、本来道を走っていて買い物袋がぶつかり、変な場所で羽衣と出会って、今に至る。

 これは理解の範疇はんちゅうをはるかに超えていた。

 こういう時にアニメの経験が役に立つ。


「流されるまま、流されろ」

「何ですか?」

「わけのわからない状況だからな、とりあえず流されるまま、流される」


 わけもわからない自信が付いてきた。


「羽衣を信じるよ」

「信じるのですか?」

「なんで疑問形」

「信じてください。悪いようにはしません」

「悪いようにしない、そこまではっきりと言われたら、余計に怪しく感じる」

「そうですか」

「そうですよ」


 言葉が止まる。この態勢を維持するのは辛い。


 それ以上に、沈黙のほうがつらかった。


 近くにいるだけで、何も話さない。


 そんな空気を嫌う。

 そんな空気を壊してくれたのは、あろうことか羽衣だった。


「トモアキは、何であんなことを言ったのですか?」

「何を?」


 沈黙が打破された。また沈黙になると困るので、話題に食いつく。


「流されるまま、流されるをです」

「それか、それはな、ロボットアニメが好きな姉貴の言葉だよ」


 元ネタは、姉である。ロボットアニメ内使われたわけではない。ただ「アニメを見る上で大切なことは状況に流されることよ!」と豪語している姉の姿を思い浮かべる。

 なんでも「文句を言う前に、とりあえず世界にどっぷりつかって流されるまま流されてから文句を言えばいいのよ。覚えておきなさい! 朝明」と言っていた。


「ロボットアニメですか」

「ロボットアニメわかるか?」


 謎の少女設定があり、出会ったのは、これまた謎の神殿の中だった羽衣に聞く。


「はい、トモアキの知識を共有したので」

「……なに?! 共有?」


 予想を超えた答えが返ってきた。


「はい、トモアキの知識を貰いました。その中に、たくさんロボットアニメについてありました」

「おぉう、そうだよな」


 冷や汗が流れる。ロボットアニメ程度の知識ならまだいい。

 いろいろと知られたくない知識というものは、男ならだれにすら存在する。


「ハーレムものの知識がたくさんありますね。好きなのですか?」


「だめぇーーーー」


 開けてならない禁断の知識に手を触れたらしい。


「勉強になります。これで、トモアキの言ったことが理解できるようになりました」

「理解しなくてもよろしい!」


 赤裸々(せきらら)にすべてを見られてしまった恥ずかしさがこみあげてくる。


「だから、転生という知識もわかっていたのか」

「はい、それと転生という意味には……」


 この言葉が言い終わる前に、

「さっきから人の声がするわ。何かしら」

 別の女性の声がした。


 それと同時に、暗闇の空間に光が照らされる。


 体が軽くなる。外に向かって重心が移動する。とっさに羽衣を抱きかかえた。


 何かの扉が開けられたように、この世界の扉が開いたのだ。


 朝明が想像もできない世界が広がっているのであろう。


「……環境や生活が一変するという意味があります」

 羽衣の言葉が聞こえてきた。


 体が倒れていく中で、最初に視線に入ったものは。


「金髪美少女!?」

「えっ!? えっ!? えっ!? きゃぁぁっっっーーーーーーーー!!!!!」


 ブロンドヘアーの少女の下着姿と、

「へ、へんたい!!!」

 悲鳴と共に放れたビンタだった。


「うそだろ!!」


 この物語は夢物語ではない。

 現実。

 しっかりとビンタの痛みを感じて、頬が赤くなってしまった。



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