リリー
リリー。
私たちはあの子をそう呼んでいた。
リリー。
今となっては本名なんて思い出せない。
最初からリリーはリリーだったような気さえする。
リリー。彼女はごく普通の少女だった。
格段に美人でも、見るに耐えない顔でもない。少し癖のある黒髪に、色白の肌。誰かに似ているようで、誰とも似ていなかった。どこにでもいそうで、でも、どこにもリリーのような子はいなかった。
リリー。彼女は謎そのものだった。
彼女は決して自分の話をしなかったし、私もあえて聞こうとはしなかった。彼女は彼女だったし、私も私だった。私たちは、私たち以外の何者にもなれなかったのだから。
私は、彼女のころころと変わる表情から、彼女を少しずつ彼女を知ろうとした。そうして私たちは色々なことを共有した。
私は彼女を知らなかった。
いや、私だけでなく、他の誰もリリーのことを知らなかった。あの頃共に遊んでいた友人たちに尋ねても、誰もリリーのことを覚えていなかった。私自身リリーがいつから私と一緒にいたのか、そしていつ私のそばからいなくなったのか、思い出そうとしてもなぜか思い出せないのだ。
私はときどき無性に彼女に会いたくなった。
会ってどうしたいのか、なぜ会いたいのか、そもそも本当に会いたいのか。自分でもそれはよくわからなかったけれど、もう1度彼女に会いたい、ただその感情だけが私の身体を支配するのだった。
私はよく同じ夢を見た。
夢の中で、私は砂浜に立っていた。リリーとよく砂浜に来たことを思い出した。太陽の光を浴びているにも関わらず、いつも白かったリリーの冷たい手に引かれて、私はよく砂浜に来た。砂浜で私たちは2人並んで座り、何をするでもなくただぼんやりと地平線を眺めていた。
夢に出てくる思い出の地は、昔と少しも変わらず目の前にあった。それがかえって私に切なさを募らせる。色あせない風景は、私にリリーが隣にいないこと、そして私がもう少女ではないことを嫌でも思い出させた。
私はもう少女ではなくなっていた。
リリーはいつまでも少女だった。
あの頃の飄々としたリリーが少女だった私の憧れだったならば、あの頃の凛としたリリーは今の私にとって過ぎてしまった過去そのものだった。
夢か。幻想か。手を伸ばせば、リリーはいつでも届くところにいた。
私が、伸ばし方を忘れてしまっていただけで。
リリーは過去の自分だった…みたいなかんじですかね。
自分で書いてても、何が何だかよくわからない話になっちゃいましたね。
突然思いついて、突然書きました。