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壱章‐四話:仲間

第四話です。

 ────翌日。俺はテストの不安からも、テスト返しの緊張からも解放され、成績の心配は無理やり頭の外に追いやり、久々に明るい気分で登校した。

 今日は学年集会と大掃除だけで放課になる。今までと比べると遥かに楽な日程だ。恐らくお昼になる前には放課になり、家に帰れるだろう。

 

 

 学校に着くと、友達の中でも、俺のようにテンションが上がっている人や、夏休みについて話している人もいれば、成績を気にして考えこんでいる人や、真面目に勉強している人もいた。

 坂井は他の友達と話している。どうやら夏休みの話で盛り上がっているようだ。

 そんな中でも、真面目に勉強している人の一人、和泉龍之介いずみりゅうのすけに俺は話しかけた。

 

「相変わらず真面目だなぁ、テストが終わったのに勉強するなんて」

 

「テストが終わったからこそ勉強するんだよ。宿題以外の勉強が出来るだろ?」

 

「ホントに真面目過ぎるよ、少しは休んだら?」

 

「まぁな……」

 

 和泉は高校一年生の時に同じクラスになり、初めて知り合ったが、話しているうちに意気投合し、今はこの学校の友達の中では一番仲が良いと言っても過言ではないほどに仲良くなった。二年生になった時に同じクラスだとわかった時は素直に嬉しかった。

 この学年は四百人近くいるが、和泉は学校のテストでいつも順位が良い。最高順位は八位らしい。俺にとっては百位すら高嶺の花なのだが……。

 そんな和泉だが、彼はドラゴンが大好きで、将来はその研究をしたいと言っている。このことを明かしているのは俺だけらしく、他の人には笑われるのが嫌で研究者になりたいとだけ言っているらしい。……真面目だがかなり変わり者なのだ。ドラゴンなんて非現実的だと思っていたが、実際にいると知ってしまったので和泉の趣味を認めざるを得ない。もし俺の龍の姿を見せたらさぞ興奮することだろう。

 ちなみに部活は俺と同じ剣道部だ。何かトラブルに巻き込まれた時に戦えるようにだそうだ。実際俺よりも強く、俺は和泉にたまにしか勝てない。

 

 

 和泉と話しているうちに、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴ったので、俺は席に着いた。

 ホームルームで今日の日程の説明といくつかの連絡があり、その後体育館で学年集会が始まった。内容は夏休みの生活の仕方や学習について、事故に遭わないように、などのありきたりなものだったのでかなり退屈だったが、体育館には冷房がなく暑かったので居眠りは出来なかった。周りにはうつらうつらしている人もいたが……。

 集会終了後は大掃除になった。俺は冷房が使える教室掃除の担当になったので嬉しかったが、大掃除中は冷房禁止だったらしく、がっかりした。外掃除の人達のように炎天下にずっといるよりは大分ましだとは思うが。

 そして大掃除も終わり、帰りのホームルームになった。明日の説明があり、放課になった。予想通り、お昼になる前の十一時に終わった。

 

 

 今日は和泉と一緒に帰ることになった。和泉とは利用している路線が同じなのだ。とはいえ和泉のほうが俺よりも学校から家までの距離が近い。そのため、俺より三十分近く早く列車を降りるのだが……。

 列車の中では和泉と勉強のことや部活のことなどについて話した。部活は夏休みに入ると再開になる。知っている人はわかると思うが夏の時期は本当に厳しい。あの格好で激しい運動をするのだからサウナ状態になる。そんなわけで部活について話している間は二人とも愚痴が多かった。

 途中から話が何かの弾みでドラゴンについての話に変わってしまい、それからは和泉が話し続け、それに俺が応じるという一方的な流れになった。和泉はドラゴンの話題になると話が止まらなくなる。

 俺は実際にドラゴンはいる、と話そうと思ったが、そうすると和泉が有頂天になって他の乗客に迷惑をかけかねないのでやめておいた。

 話しているうちに和泉の降車駅に着いた。和泉と別れた後、俺はため息をついた。確かに和泉はいいやつだと思うが、長い話をずっと聞いているとさすがに疲れる。俺は一人になったので気楽になった。

 

 

 家に着いた後、俺は昼食を済ませ、その後は本を読んだりテレビを見たりして暇を潰し、夕方になるのを待った。

 神社には十八時半に来るようにとのことだったので、狩衣をカバンに詰め込み、親には友達の家に行くとごまかして、十八時過ぎに家を出た。

 

 

 約束の十分前に神社に着くと、社殿の前で、宮本さんの他に一人の少年が待っていた。誰だろうと思いながら近づくと、宮本さんが、

 

「待っておったぞ。」

 

と迎えてくれた。

 

「儂の隣の子が気になるじゃろう? この子は風見颯斗かざみはやと君じゃ。風見君、この子が神野龍輝君じゃ。二人とも今年の『龍の子』じゃからの、仲良くするのじゃ。それと、風見君のほうが龍の力を授かったのが一ヶ月ほど早いのでな、神野君はわからないことがあったら風見君に聞くと良い」

 

「神野龍輝です」

 

「風見颯斗です」

 

「……二人とも、堅苦しくせんで良い。同い年じゃし、同じ深山市に住んでおるんじゃからの。……そうじゃ、龍の名も紹介するんじゃぞ」

 

「……ええと、龍の名は滝津瀬。まだ一週間しか経ってないから、迷惑かけるかもしれないけど、これからよろしくな」

 

「龍の名は青嵐あおあらし。こちらこそよろしく」

 

 自己紹介を終えた後、宮本さんは、

 

「そろそろ出発するぞ。まずは着替えじゃな。別殿で着替えておくれ」

 

と言い、三人で別殿へ行った。

 別殿で狩衣に着替え、私服はカバンの中に入れた。その後、宮本さんが、

 

「二人は先に駐車場で待っていておくれ」

 

と言って、社殿の方へ行った。

 

 

 二人で駐車場の脇で待っていると、一台の白の高級車が近づいてきた。車は宮本さんが運転していた。

 

「これに乗って行くぞ」

 

と宮本さんが言った。

 風見も宮本さんが車を持っていることは知らなかったらしく、驚いていた。

 

「車持ってるんですね、知りませんでした」

 

「携帯と同じじゃ、便利な物は使わんと」

 

 車に乗り込んだ後、風見と宮本さんがそんな会話を交わしていた。

 

「さて、出発じゃ」

 

と宮本さんが言うと同時に、車を発進させた。

 車の中で風見と色々なことを話し、打ち解けた。風見は近所の高校に通っているらしい。

 

 

 二十分くらい乗った後、車は目的地に着いた。着いた場所は、隣の龍谷市にある、わりと有名な龍谷神社だった。

 神社に入ると、すでに十人近い人が集まっていた。この人達が皆龍なのだろう。俺達が最後だったらしく、列に並ぶと、一番年寄りに見える人が龍の姿になった。周りも龍になったので、俺も慌てて龍の姿になった。

 

『……参加ご苦労、これから集会を始める』

 

一番初めに姿を変えた赤龍が言った。

 

『今日の目的は、新しい龍の子の紹介と、それに伴う地域分担の見直しだ。……二人の龍の子達よ、それぞれ人の名と龍の名を名乗ってくれ』

 

『私は青嵐です。人の名は風見颯斗です。これからよろしくお願いします』

 

『滝津瀬です。人の名は神野龍輝です。まだ知らないことが多いので、色々と教えて頂けると助かります。よろしくお願いします』

 

『……我はこの地域の長、紅葉葉守もみじばのかみ、見ての通り炎龍だ。人の名は特に名乗っていない。龍の子達よ、よろしく頼む。……他の者も自己紹介するが良い』

 

 紅葉葉守に言われ、他の龍も挨拶した。中には元龍の子で、今も人の仕事をしながら龍の手伝いをしている龍もいた。

 

『……一通り終わったな……。次は地域分担だ。普段見回りを頼んでいる地域のことだが、今回は二人とも五月雨守が面倒を見ているため、五月雨守のところに龍の子二人を入れることにする。意見はあるか?』

 

 あちこちから賛成の声が聞こえてきた。

 

『賛成多数と見なす。これで決定だ。……以上で今日の予定は終了だ。……連絡のある者はいるか?  …………いないようだな。集会を終わる。解散して良い』

 

 紅葉葉守がそう言うと、龍達は皆人の姿に戻り、帰り支度を始めた。自分も人の姿に戻った。

 

「……さて、帰るとするかの」

 

「……挨拶はいいのですか?」

 

「先程ので十分じゃ。そこまで堅苦しくはないからの」

 

 風見も同じことを考えていたらしい。俺が聞いた時に頷いていた。

 

「儂等はこれで帰る。二人の面倒見は任せておくれ」

 

「「ありがとうございました」」

 

そう言って神社を後にした。

 

 

 帰りの車の中でも風見と話していると、宮本さんが龍の区別について教えてくれた。

 

「すっかり仲良くなったようじゃな、良い事じゃ。……先程長が炎龍と言っておったが、龍は扱うのが得意な神通力の種類によっていくつかに分けられるのじゃ。赤龍は炎、青龍は水、黄龍は地、空色の龍は風がそれぞれ得意じゃ。ただし得意なもの以外もある程度は扱うことが出来る。……儂は見ての通り水龍じゃ。また全ての扱いが得意な黒龍と白龍がいるが、その数は非常に少ない。それからそなたらのような緑龍はまだ幼い龍じゃ。力が付けば先程教えた龍のいずれかに成長出来る。どの龍になるかは生まれつき決まっているらしいが、明らかになるのは成長してからじゃな」

 

 知らないことばかりだったので、色々と知ることが出来て良かった。

 

「さて、もうすぐ到着じゃ」

 

車は龍宮神社に到着した。

 

 

 車から降りた後、宮本さんが分担について説明してくれた。

 

「地域分担のことじゃが、儂は深山市全域を担当しておる。そなたらには、これから儂の代わりに三日に一回夕方に地域を見回りに行ってもらうぞ。最近は平和じゃから特に事件はないじゃろうが、たまに物の怪が悪さすることがあるからの、そんな時は物の怪を注意するのじゃ。もし反省しない場合は成敗するしかない。二人の手に負えないことがあったら遠慮なく儂を呼んでくれ。見回りが終わったら儂に報告に来て欲しい。わかったかな?」

 

「見回りは龍の状態で行って良いですか?」

 

「当たり前じゃ。人の姿で行ったら一日かかるわい。派手なことはするでないぞ。必ず隠形術を使うのじゃ」

 

「「わかりました」」

 

「良い返事じゃ。これで解散じゃ。明日から頼むぞ」

 

 宮本さんは神社に戻っていったので、俺も帰ることにした。

 

 

 今日はそこまで遅くなかったので、怪しまれることはなかった。明日から忙しくなるな、と思いつつ、明日が楽しみで仕方なかった。

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