序章:夢
初投稿なので気になる点などございましたら、ご指摘くださると嬉しいです。
それでは物語をお楽しみください!
2014.6/1 本文一部修正。
2014.8/3 本文大幅改訂。
──────目の前に広がっているのは、どこまでも続く青い空。
言葉では表し尽くせないくらいに綺麗な青空だ……、最後にこんな空を見たのはいつだっただろうか……。
ふと下を見ると、地面が遥か遠くに見えた。……ちょっと待て、何故俺が空を飛んでいるんだ?
自分では全く意識していないのに何事も無く空を飛んでいることに驚く。慌てて辺りを見回すと、何か緑色のものが視界に入った。よく見てみると、どうやら尻尾のようだ。
何かと思ったら、なんだ尻尾だったのか、……はぁっ!?尻尾だと!?
周りには自分しかいないので、この見えている尻尾は自分のものということになる。
……どんどん頭が混乱していく。空を飛んでいて、尻尾があるということは、人間ではないということなのだから……。
しかししばらくの間飛んでいるうちに、そんなことは気にならなくなっていった。何故かは分からないが、気持ちがだんだんと落ち着いて頭の混乱も収まり、今の状態が元からの自然な状態であるかのように思えてきたためだ。
このまま何処までも飛んで行けそうな気がする……、そう考えていると、急に空が明るくなり始め、目の前が真っ白になっていく……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まもなく〜、東宮〜、東宮〜、お出口は右側です」
ある朝、とある列車の車内。座席に座って眠っていた一人の少年が目を覚ました。
目の前には、見慣れた満員電車の人込みがある。なんだ、さっきのは夢か……、ずいぶんと現実離れした夢だったな……。
少年を乗せた列車はスピードを落とし、駅に到着した。
「東宮〜、東宮〜、ご乗車ありがとうございます」
駅では到着を知らせるアナウンスが流れている。
今何駅って言った……?えっ、東宮駅!?ヤバイ、降りなきゃ!!
急いで座席から立ち上がり、扉へ向かう。立っている人達をかき分けながら、なんとか発車までに降りられた。
……それにしても、何故あんな夢を見たのだろうか? 普段は学校の夢や部活の夢のような現実的な夢ばかりで非現実的な夢はほとんど見ない。……それどころか最近は熟睡することが多く、夢すら見ていないのに……。
歩きながらそう考えていると、学校に到着した。教室に入り、友達と挨拶をした後、自分の席につく。
俺は神野龍輝。見てわかる通り学生、正確に言えば高校二年生だ。俺の通っている高校は、公立高校なのだがそこそこ学力レベルが高いとされている。俺は約二時間かけてその高校へ通っている。何故わざわざ遠いここを選んだかって?もちろん魅力があるからだ。公立高校の割に先生の面倒見が良いことで有名なのだ。課題の量がやたらと多いのが難点だが……。
おっと、授業開始五分前の予鈴が鳴った。授業の準備をしなくては。一限は確か、現代文だったはず……。
四限の終わりを知らせるチャイムが鳴った。終わりの礼をして着席する。今から昼休みだ。
……全然授業に集中できなかった。普段は午前中は結構良く集中することができるのだが、今日は授業の全てに全くといって良いほど集中できなかった。
原因は分かっている。あの夢のせいだ。非現実的であるにもかかわらず、あまりにもリアルな夢だったので自分の記憶に強く残ってしまっていた。そのせいで、夢のことについて考えてしまって授業に集中できなかったのだ。
本当にあの夢は何だったのだろうか? 忘れたくても忘れられない不思議な夢だ。ただの夢ではないのだろうか? 何かの前兆を表しているのだろうか?
…………そろそろ考えるのをやめよう。この調子だと午後も考え事で集中できなくなってしまう。こういう時は気持ちの切り替えが大事だ。 ……あっ!水筒落とした!蓋が開いてなくて良かった……。弁当の片付けを終わらせてから考え事をしたほうが良かったな……。
いつの間にか大分時間が過ぎていた。あと七、八分で五限が始まる。
やっと六限の終わりのチャイムが鳴り、礼をした。今日の授業はここまでだ。今は帰りのホームルームが始まる前の休み時間だ。
結局俺はどうなったのかというと、五限は昼食の直後だったということと考え事で頭を使っていたせいでつい寝てしまった……。そして六限はまた夢について考え事を始めてしまい、ずっと考え続けていたため、授業に集中出来なかったという、かなり悲惨な状況になってしまった。 今日は本当に疲れた……。
今は考査前部活中止期間なので、部活なしで早く帰ることができる。俺は帰りのホームルーム終了後、すぐに帰ることにした。
「神野、どうした?今日はなんか様子がおかしかったぞ?」
教室を出ようとしたところ、友達の一人、坂井幸樹が話しかけてきた。
「いや、ちょっと色々とあって……」
「一体何があったんだ?俺で構わなければ話を聞くよ?」
俺はちょっと迷ったが、今朝不思議な夢を見たということを伝えた。さすがに内容については怪しまれるだけだろうから言わなかったが……。
「所詮夢だし、そんなに気にしなくても良いんじゃない?」
「そうなんだけどね、……そういえばテスト前の課題はどのくらい進んだ?」
あまり他人に自分の夢の話をするのはどうかと思ったので話題を変えることにした。
「まだ半分も終わっていないけど?」
「本当に? いつもそう言っておきながら実際は終わらせてるじゃないか、後で解き方教えてくれない?」
「わかったけど、そこまで言わなくてもいいじゃないか、今回はマジで終わってないし……。っていうか成績はお前のほうがいつも上だよな、俺に聞かなくても大丈夫だろ?」
「まあそうなんだけど、…………」
そんな調子でしばらく話していると、坂井がふと外を見て、
「結構時間経ったし、そろそろ帰らない?」
と言った。
腕時計を見ると、すでに話し始めてから五分経っていた。
「そうだ、俺も帰ろうとしてたんだった…、ゴメン長話しちゃって」
「いや、別に大丈夫。じゃあもう帰るか」
それからも二人で話しながら、駐輪場の前まで来た。
「俺チャリ取って来ないとだから、じゃあね」
「また明日」
坂井は自転車で通学しているのでここで別れ、俺は駅へと向かった。
帰りの列車は夕方前の中途半端な時間であることもあってわりと空いていた。座席に座ると、すぐに眠気が襲ってきた……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──────俺は森の中にいた。
……なんだか全身の感覚がおかしい。今までよりもはるかに五感が敏感になっている気がする。また今まではなかったはずの部分に感覚がある。
おまけに四つん這いの状態から立とうとしても、何故か身体がとても重く、立ち上がることができない。どうやら、このまま歩くしかないようだ……。
ふと下を見ると、四つん這いになっているはずなのに手が見えない。ただ手が地面に着いている感覚はある。
手が見えないということは、もしかして首が伸びているのだろうか……? 一体俺の身体はどうなってしまっているんだ……?
ずっと考えていても仕方がないので、自分の状態を確認しようと、ぎこちない動きで四つん這いのまま森の中を歩き始めた。しばらくすると、前方に小さな池が見えてきた。
池があるということは、今自分がどのような状態になっているのか、水面に映った自分を見て確認できるかもしれない。
急いで池に向かったが、思っていたよりも池は遠かった。やっと池に到着すると、すぐさま自分の姿を確認しようと水面を覗きこんだ。
(っ!!)
そこに映っていたのは、見慣れた自分自身の姿ではなく、緑色の鱗に全身を包んだ龍の姿だった。文学作品や絵画で登場することはあっても、現実には存在しないと誰もが思っていたであろう、伝説の生物である龍の姿になっていたのだ。
…………………………。
だんだん視界がぼやけてくる。あまりの衝撃に、気が遠くなっていく……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ガンッ!!
俺が目を覚ますと同時に、大きな音とともに後頭部に痛みが走った。辺りを見回すと、帰りの列車の中だった。どうやら起きた拍子に、後ろの窓ガラスに派手に頭をぶつけたようだ。乗客の何人かがこちらをチラチラと見てくる。正直、物凄く恥ずかしい……。
扉の上の電光掲示板を見ると、次の駅は降車駅の二駅手前だった。寝過ごさなくて良かった……。 それにしても、朝に続いてどうしてこんなに不思議な夢を見るのだろうか……?
夢については朝から考えていることなのでこれ以上考えても仕方がないのだが、そのことがどうしても気になった。
そうこうしているうちに、降車駅に着いた。改札を出て、この駅は北口と南口があるが、家は駅の南側にあるので南口に向かう。
駅から家までは自転車を使っているので、駐輪場に行き、自分の自転車の鍵を開けて駐輪場の出口へ向かった。道路に出て、自転車に跨がり、ペダルに足をかけたその時だった。
『…………し……、御主……』
何処からか声が聞こえてきた。辺りを見回したが、人の姿は何処にも見えない。空耳かと思い、再びペダルを漕ごうとした。しかし、
『……御主、儂の声が聞こえておるか?』
また声が聞こえてきた。
『……聞こえておるなら、龍宮神社まで来てくれぬか。そこで待っておるぞ……』
ここで声は聞こえなくなった。
龍宮神社は駅からすぐそば、歩いて二、三分のところにある。
俺は何故か行かなければいけないような気がして、神社に行くことにした。怪しい感じもするが、もしマズイ状況になったとしたら、見て見ぬフリをしてそのまま逃げれば恐らく大丈夫だろう。
そして俺は自転車を龍宮神社に向かって漕ぎだした……。
「果たして来てくれるかのぅ……」
とある少年が神社に向かって自転車を漕ぎ始めた頃、龍宮神社の境内で、一人の老人がひとりごちていた。
今回登場した人物の名前の由来について。
神野龍輝/かんのたつき……私自身と、友人二人の名前から一文字ずつ取り、龍の字を加えて組み立てました。
坂井幸樹/さかいこうき……なんとなく思い付いた名前。