幕の漆 『開始早々の徒合』 北信の雄の槍衾
新章最初のいくさはあの有名な謀将が若い姿で登場!
ブレイク知識―将兵たちの階級制
戦国大名たちは、自国の将たちの所領やら、民たちを統率するために、その将が自家においての身分、地位を保障させるために様々な部隊(当世風に言えば『備衆』)の階級(序列)を作り、配置しました。
例:織田信長の軍隊制度
実質上のトップ:当主『織田 信長』
名目上のトップ:世継『織田 信忠』
その下に一門衆、吏僚衆(内政官)、旗本(近衛部隊)、方面軍団長、遊撃軍団長が並ぶ。
一門衆代表:『神戸(織田) 信孝』…信長の三男
吏僚衆代表:『村井 貞勝』…京都守護職
旗本代表:『森 成利』…信長小姓、通称:蘭丸
方面軍団長代表:『羽柴 秀吉』…中国攻略方面軍団長
遊撃軍団長代表:『丹羽 長秀』
ほかにも赤母衣衆やら黒母衣衆などがあります。
備の名称では有名なのはやはり武田の赤備衆、北条の五色備衆などが有名でしょうか。関ヶ原の井伊の赤備、大阪の真田の朱備は武田から由来するそうです。
1533年 信濃国 小県郡 真田郷
戦国乱世、始まりの号砲ともいえる『応仁の乱』からすでに50年以上経つ。しかし、都から離れた片田舎、この信濃国でさえ天下の情勢には逆らえず多くの地侍達が各々の領地に城塞を構えて小競り合いを繰り返す世の中となってしまった。
私がこの真田郷の領地を継いだ時ですら、郷内の豪族たちは独立、合弁を繰り返し、ようやく真田郷を一つにまとめたほどだ。
だが私は天の時、というものに恵まれていないらしい。
郷を統一して間もなく、近年北信濃に急速に勢力拡大の兆しを見せる豪傑『村上義清』が自ら、2000もの軍勢を率いて小県郡を統一し始めたのだ。
この村上義清は、十年ちょっと前に家督を相続すると、北信地方である埴科、更級、水内、高井の四郡を統一し、東信の佐久群すらも瞬く間に勢力圏においている。
当時の信濃国は一国に統一こそされていないものの一国自体が広く、中信地方の『小笠原家』、南信地方の『諏訪家』、そして北信地方の『村上家』の三家が、互いに牽制しあうという中華三国志ならぬ、信州三国志的な状況だった。
その中で村上家領土こそ一番持っているが守護職を持ってない。いわば『魏』だ。小笠原氏は守護家なので『蜀』あたりだろう。諏訪家は『呉』というわけだ。
そして、我らが住む東信地方は魏帝国に狙われた遼東地方といったところだろう。
村上家は2000、対して我ら真田の兵は400。しかしおそらく離反する一族も出るだろうから、戦う兵は300にも満たないだろう。
「我らみたいな小身の領主は名も知られず滅びるが定めというのか…」
そこに一つの報告が入る。
「殿、火急の知らせのようです。」
ドン、ドン、ドン、ドン…
誰かが走ってくる音が聞こえる。
襖の先に来るや、廊下にて片膝をつき大声で報告をする。
「申し上げます!小県郡、海野郷の、海野棟綱殿、村上軍の急襲にて敗北!海野勢は散り散りになって敗走し、棟綱殿はじめ御歴々の方々も行方知れず。勢いに乗った村上軍は一直線に真田郷に向かっているとのこと!」
それを聞いていた、重臣たちは愕然。
当主である『真田幸隆』も呆然とする。
報告された海野家は、いわば真田家にとっては一族に近い存在である。
「…やむを得んか。」
幸隆は沈黙した一同を前に呟く。
「皆、今日まで我が真田家に忠を尽くしてもらい感謝する。この中には私に従属して否応なく仕えてくれた者も多い。去りたくば去ってよい。私を見限り、村上に従えば所領は安堵されよう。」
幸隆の言葉に諸将の沈黙が再び生まれる。
「もし私と共に最期を迎えたいものは残って構わん。せめて一太刀、私はあの義清目掛けて浴びせてくれよう。」
幸隆の言葉を聞いた将はだれ一人去ろうとしなかった。
「出陣する!」
真田郷の境目近くに布陣する真田勢、その数わずか300。
そして、小川の対岸には既に村上家の家紋である『丸に上の文字』の旗が多く打ち立てられていた。
また両軍は気づいてないようだが、実はもう一つの軍勢がこの戦場に居合わせていたのだった。
その正体は無論、本作の主人公である山口信濃守率いる部隊であった。
まばゆい光に包まれた主人公の山口信濃守と18000の大所帯は、実は襲撃された後の海野郷の近くに到着したのだった。
人肉の焼け焦げた跡の悪臭が漂う中、信濃守は長い年月によって蓄積された知識をフル動員して、すぐさま現状の把握に至ったのだった。
18000の大軍の内、ほとんどを戦後の集落跡にとどめ、死体の焼却、焼け残った残骸の撤去などを、文官たちに命じた。
そして、自身は精強衆500と縣衆の侍大将たちを引き連れ、北信の雄、村上義清と後の武田信玄の懐刀、真田幸隆の戦を見聞しに行ったのだった。
信濃守が戦場に到着すると、向かって右に村上軍の旗、左に真田軍の旗『六文銭』が並んでいた。
数はおおよそ十倍近く違うだろう。
「殿、この戦どう思いますか?」
声をかけてくるのは今回は本職である軍師に任命予定の鉄平である。信濃守は愛用している遠眼鏡から目を離して少々沈黙、そして答える。
「おそらく今回は村上軍の…勝利だろうな。」
一回、呼吸し話を続ける。
・・・・・・・
「幸隆が率いていると言っても今の幸隆はかつてのおまえが知っているような老獪な謀略を練れるほどの策士にはなってねえ。家督を継いだとはいってもまだ血気盛んな年齢だろうな。」
信濃守は幸隆が策士に目覚めるのは当分先とみていた。
「拙者と同じ意見でしたな。」
鉄平は笑うたびに微妙にズレテいる眼帯を直しながら戦場を見る。
「しかし、村上軍もあまり兵を失いたくないのか、総攻撃を掛けませんね。自慢の槍衾を見れると思ったのですが。」
いつの間にやら信濃守の手から取ったのか、太郎丸が村上勢の方を遠眼鏡で見ながら残念そうに話す。
村上義清は、戦国草創期の中では、梟雄『斉藤道三』と並び称される、長柄槍戦術の創始者のひとりである。
義清は槍衾という戦術を用いて、足軽たちを巧みに駆使した。
斉藤道三が槍を長くしてより遠距離からの打撃を重視した攻撃的戦術だったのに対して、村上義清が考えたのは、槍を上下にして、騎兵の突撃してくる範囲に自分たちを入れないことを重視させた、防御的戦術だった。
それはともかく、勝手に遠眼鏡を拝借した太郎丸に拳骨をくれてやる。
「痛っつぅ!痛いじゃないですか、殿!」
太郎丸は、たんこぶができたらしき場所を頭で撫でながら、信濃守に文句を言う。
「自業自得だ。」
そう言って信濃守は再び、戦を見始める。
「それで、我らは如何するので?」
未だ、痛みが引かない太郎丸が涙目になりながら聞く。
「もう少し待ってからだ。壊滅的被害を受けた方に介入し恩を売っておく。しばらくはあの海野郷跡地に軍勢の大半を置くからな。」
信濃守は涙目の太郎丸を尻目に戦場から目を離さず答える。
「じゃあ真田に加担か…」
鉄平の言葉に信濃守は頷いた。
その最中、戦場では決着がつこうとしていた。
その頃真田はやはりというべきか、ますます劣勢に追いやられていく。
初手がまずかった。私は自分の失策によって多くの兵士を死なせてしまった。
村上家自慢の槍衾による持久戦の構えを見せたので、弓による遠距離からの迎撃を行ったのだが、突如、槍衾が左右に分かれ、騎馬兵による突撃が弓兵部隊に炸裂した。
騎馬の数こそ少ないものの、陣形が乱れて態勢が崩れてしまった。やむを得ずこちらも槍衾を作って応戦するも、やはり兵の練度の違いが如実に表れる。
敵の弓隊による一斉射により微塵もなく崩れた。
そして、自分の身辺をを守る兵士も、『死』を覚悟し、槍を構えていたが再び放たれた矢の雨にさらされ死んでいく。
もはや逃げるつもりはなかった、しかし最後にあの義清の顔に一閃斬りつけられず無念という気持ちが言葉となって出そうだった。
敵の姿が目の前に見えてくる。
「真田源太左衛門幸隆殿と御見受けいたす。御首、貰い受ける!」
一人の物頭らしき男が槍を向けてくる。
「無念…」
ゴォォン!
ビシャア…!
自分の顔に血が飛び散っていくのを幸隆は感じた。何かを叩いたような轟音が聞こえるも、おそらくこの血は自分の内臓から飛び出たもの。
意識が消えゆくのを目を瞑り静かに待った。
…
……
いくら待っても意識が飛ばない。むしろ痛みがない。
疑問に思い目を開けると、目の前には先ほど槍を向けていた敵兵の亡骸らしきもの。
らしき、というのは顔が破裂したかのようになくなっており、あたりには、肉片のついた目玉や、ちぎれた耳などが散乱しており原形をとどめていなかったからだ。
また胴体の部分も、真ん中にデカい風穴があいており、内臓が散乱していた。
幸隆は思わず呆然とする。こんな死体が出る戦場を今まで言ったことがない。
どんなにむごく殺されるにしてもこんな乱戦の最中に胴体に穴をあけるような攻撃はまず無理である。
ザっ!
足音がする方を垣間見ると、全身を真っ黒な鎧に包まれた、人間かどうかを疑うほどの巨躯の男が現れた。
「…真田幸隆殿で相違ないな?」
巨漢の男らしく野太い声を発し、幸隆に聞いてきた。その声からは、確かに迫力じみた何かを感じるものの、とても自分を殺しに来たようには感じない。「如何にも。」と言って首を取りたいのか?みたいなことを聞くと、
「貴様の首にはまだ、それほどの価値はない。」
鼻で笑いながらそう返答された。一瞬、自尊心から斬って捨てようと思うものの、抜刀する気にならなかった。少なくともさっき感じたようにこの男は敵ではないと第六感が告げていた。
「居合わせた縁だ。助力しよう。」
男は既に壊滅に陥っている我らに対し、援軍となるといった。
たった一人加勢しようと戦況が変わるわけはないと思ったが今は、猫の手も借りたい状態だった。
私はその第六感を信じることにする。
「感謝する。一人でも味方が増えればまだ挽回も…」
そう言って感謝の意を伝えようとすると、その男はその言葉を遮り「勘違いするな。」と言い、
「だれがおれ一人といった…。我が軍勢が味方する。」
それだけ言い捨て、向かい際に名乗る。
「俺は、山口信濃守…覚えとけ。」
名乗りとほぼ同時というべきか、対岸に対峙していた村上勢の側面に何かがぶつかっていった。
「あれは…まさか!?」
幸隆は山口信濃守と名乗った男の方を向く。
しかし、そこにはもう誰もいなかった。
その頃、村上勢の本陣では突然側面から攻撃してきた軍の把握について全力を注いでいた。
今回、北信のほとんどの将を率いてやってきた大将、村上義清は既に戦勝気分で小県郡で最後まで抵抗していた真田幸隆の首級を、今か今かと待ちわびていた。
しかし義清は今、頭に疑問が芽生えていた。
先ほど敵本陣に一番乗りを果たした徒歩武者の使番が来てから、以降全く報告が来ないのだ。
ほぼ一方的な戦だったから、途中で闇に葬られる可能性は少ない。だからこそ怪しく思ったのだ。
疑念を抱き、用心してひとまず甲冑で身を包むそして四半刻もしないうちに案の定、予感が当たり謎の一軍が、500ほどの数で我が軍精鋭の左翼の旗本長柄衆(*)に突っ込んできた。
当初は真田に加勢する土豪たちの伏兵かと思い、すぐさま槍衾を作るよう命じた。
村上の槍衾を破れる者は、少なくとも信濃にはいない。そういった自信もあったから、今回も伏兵の被害は大してないだろうと思ったのだ。
しかし、義清は見誤った。否、知らなかった、知っているわけはないのだ。
その軍勢が、全国各地で数多の槍衾戦術を打ち破ってきた山口軍超精鋭部隊、精強衆であることを…。
時を少し遡る。
信濃国 真田郷付近 村上軍vs真田軍の戦場
「…!?戦が動きましたぞ。殿。」
拳骨を喰らってもなお、遠眼鏡で戦場を観察していた、太郎丸の声に、信濃守は馬上から返答を返した。
ふと、信濃守は思う。…すっかり騎乗にも慣れてしまった。…と。
「分かっている。すでに出撃命令は全軍に発している。お前も早く準備しろ。」
太郎丸は気づく。ほかのみんなはもう全員騎乗している。足が悪い鉄平や弟の次郎丸さえも準備完了の状態だ。
「兄上、もう少しはしゃいでいる姿も見たいですが、事は急を要します。手早く済まして下され。」
ヤンブラな次郎丸の言葉に信濃守は一瞬、引いてしまったが、言っていることの後半は事実なので、次郎丸に手伝わせてさっさと鎧を着せた。
無論、鎧を着せてる間、ヤンブラな次郎丸がやたら嬉しそうにしていたことは、言うまでもない。
「…殿、遅れました。拙者も準備完了です。」
微妙に顔色を悪くした太郎丸がそう言ってきたのを確認し、信濃守は馬を味方の方に向け、話し出す。
「諸君、今はまだ鉄砲が日本には来ていない時代だ。銃火器は危機的状況になるまで使うな!」
息を吸ってさらに言う。
「ここから先は山口家戦術指南書前編一五四三の書(*)に基づいて動け!良いな!?」
信濃守が確認を促すと、各々「御意!」やら「承知!」などと言った。
「太郎丸!、次郎丸!、狙いはあの旗のもとにいる。お主たちは縣衆と共に部隊を率いて敵の横っ腹を食い千切ってこい!」
信濃守の檄に、二人は頷きすぐさま騎馬を走らせる。
「鉄平、海野郷にいる、森次郎、水ノ介、源之助を呼んでまいれ。守りは重兵衛と、援護衆がいれば問題ないだろう。」
鉄平も了解の相槌をうち、共に2騎ほど連れて、一途海野に向かった。
「さて、俺も幸隆殿とご対面とするか。…向こうは俺の記憶…ないだろうなぁ。」
微妙にやる気のない声が林の中に静かに響いた。
時は戻る。
側面を衝かれた村上軍は、すぐさま合図のもと槍衾の陣形に移動する。村上軍にとって幸いだったのは、信濃守軍の精強衆たちは全員騎馬だったため、突撃は流石に自殺行為だ、と思ったのだろう。しかし、精強衆は前方の若武者二人の指揮のもと、すぐさま槍の範囲外で突撃態勢を解き、横に二列ずつ並んで習得が難しいといわれる馬上からの弓矢、騎射をなんと、全員がし始めたのだ。
しかも弓は本来の弓の半分程度の長さ(*)しかないのに、飛んでくる矢は、足軽たちの鎧を軽々と突き破り、遠くで援軍に駆け寄ろうとする騎馬武者すら射抜いている。長弓と同等、もしくはそれ以上の威力、おまけに精密な狙い。近くで呆然と見ていた、ほかの備衆を一気に恐怖させるには十分すぎる威力だった。数十人が倒れると、あっという間に槍衾は乱れてしまった。
精強衆は、槍衾が乱れた瞬間を見逃すほど甘くはない。すぐさま各々持っていた得物で、各自殲滅すべく、長柄衆、周りの備衆に群がる。
それはまるで空腹に飢え、すべてを食いつくそうとする狼の如く。
その血に飢えた獣のように自軍の兵士を甚振る姿は当然ながら大将の村上義清にも見えていた。そしてその正体についての分析を行った。
おそらく伏兵の大将は真っ先に突っ込んできた二人の若武者である。そして、敵の騎馬が巷では見たことがない巨躯であることから他国の兵ではないかと。そして、その正体は小県郡の隣国、上野国の兵であると見たのだ。
…実際は全くの見当はずれであるということは言うまでもないだろう。
義清は自身が鍛え上げた槍衾戦法があっけなく敗れたことにより、勝機を失ったことに気づきすぐさま戦場全域に響き渡るように退却の合図の法螺貝を鳴らさせた。
その合図を聞くや、真田に攻め上がった前線の者は不思議がって本陣を見た。本陣が奇襲されたことにようやく気付いたのだ。
退却の合図、つまりそれは本陣を立て直してからもう一度攻め上がるという意味と判断した者もいるようだ。功名を立てる絶好のチャンスである、と判断したのだろう。
本陣救援の功績は滅多に手にできないからだ。
その中で一際大きな青毛の馬に乗った騎馬武者が本陣に向かってたった一人で疾駆していた。多くの将たちが本陣救援に向かっていたから味方の誰かと思っていたのだろう。
その男こそ奇襲を仕掛けた張本人、山口信濃守であると知らずに…。
一方、法螺貝を聞いた精強衆たちは、我先にと逃げていく敵の兵士たちの姿に、興が冷めたというべきか、追撃も何もせず、ただ遠くから来ている敵の前線部隊に目を向けていた。
「次郎丸、精強衆をまとめておけ、ここからが本番のようだ…。」
信濃守から部隊の統率を任された太郎丸は、弟に部隊の再編を行うように命じた。
当然、ヤンブラ次郎丸は兄からの命令に従順なので、
「了解です!」
と元気よく返事をしてわずか数秒でまとめ上げた。
山口家は次郎丸に対する扱いも前回のループあたりから慣れてきたのだろう。太郎丸の側にさりげなく近寄らせ報告させる。太郎も肩を、ポンポンと叩く。それだけで次郎丸はうれしそうに笑う。
敵の姿が近づいてくるにつれ一同が気づく。ひときわ大きな騎馬武者が猛スピードで突っ込んでくるのを。
追突に注意するように通り道を開けて、その騎馬に乗った主、信濃守を待った。
信濃守は一同を通り過ぎる寸前に手綱を引き、馬を止めさせた。
「太郎丸、首尾は!?」
信濃守の言葉に太郎丸は真剣な顔で頷き返す。
「左様か…では参ろうか。」
信濃守の言葉に、精強衆はそろって、村上軍の本陣に、まるで凱旋するかのように向かったのだった。
用語解説
旗本長柄衆…親衛部隊の中の長柄槍を扱う部隊である。
山口家戦術指南書…信濃守が記憶の限り、戦国時代で応用できる未来の知識や、戦闘マニュアルを詰め込んだバイブル的な物。鉄砲伝来前を前編、伝来後を後編に記している。
ちょっとした豆知識
現代でこそ、武士、特に徒歩武者や騎馬武者がよく使う長柄武器の代表として挙げられる『槍』。
日本における槍などの長柄武器の起源は、遥か昔の弥生時代や古墳時代の『矛』であり、その頃から武器として使用されている。
しかし本格的に槍を使った戦法ができたのは、戦国時代である。
それまでの長柄武器の主役と言えば、長い棒の先に片刃の刃を取り付ける、『長巻』、あるいは『薙刀』などの斬ることに重点を置いた物が多い。しかし、乱戦になるとそういった武器は壊れやすくなることが戦が増えるにつれ目立つようになった。
また前線で戦う兵士は戦に不慣れな徴用兵が多く、斬撃重視の武器は使い物にならないことも発覚した。そのため素人でも多少は戦え、斬る以外の動作ができる槍に再び注目されたと思われる。竹を斜めに切って竹槍とするなどの非戦闘員の護身の武器としても使えるため、槍は戦が頻繁に起こる戦国時代においては重宝されることとなる。
その証拠に、槍は多くの大名家の兵科分類において最大数値を記録している。