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GAME OF PROLOGUE 序 『信州公』の始まり  作者: ナッツ・ユキトモ(旧名:TOMO)
第零章 『超チートな武将』vs『日本一の出世頭』
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幕の伍 『終幕の果てに』 猿も策に引っかかる…そして…

 ブレイク知識


 豊臣秀吉は有名な三つの『木下』、『羽柴』、『豊臣』というかばねのほかにも結構、姓を変えています。また、大名として独立以降、呼称はないが名乗った姓もあります。


 一部を紹介(いみなや官位も変わった時も含)


日吉丸→藤吉郎→中村藤吉郎→木下藤吉郎→木下藤吉郎秀吉→木下筑前守秀吉→羽柴筑前守秀吉→羽柴少将秀吉→羽柴大納言秀吉→藤原内大臣秀吉→豊臣関白秀吉→豊臣太閤秀吉


 ちなみに余談だが、信長は秀吉に筑前守という官位を受領させたとき以降、公衆の面前での『猿』という呼称はやめている。

 調べてみると結構ありますよね。

 信濃国川中島妻女山中腹


 信濃守がこちらに向かっていることは露知らず、秀吉はかつての龍虎決戦の地、川中島の妻女山に腰を於いていた。大阪から連れてきた『穴太あのう衆』と呼ばれる人夫を自ら指揮し、この川中島に北条線の折、築いた石垣山一夜城並みの規模の巨城を築城するために自ら、信濃に入国していた。

 この場には、穴太衆の指揮をする棟梁、当時日本一の城大工と評された、『岡部おかべ又右衛門またえもん』と、秀吉のふところがたな、『石田三成』のみである。


 岡部又右衛門という人物は、もともとは尾張国熱田神宮の宮大工であった。しかし、当時美濃国の重臣に上り詰めた戦国三大梟雄の一人、美濃のまむしこと『斉藤さいとう道三どうさん』に才覚を認められ、稲葉山城いなばやまじょうの改築を行う。このころには既に又右衛門は、後に『天守』と呼ばれる大櫓の稲葉山山頂に築いている。またその経験を応用して、後に国宝となる尾張国犬山城に移築される天守閣を築いたのも、又右衛門である。


 のちに織田信長が美濃を奪取した際も、稲葉山城、改名して岐阜城を改築している。この際に山頂の大櫓も改築し、今日に及ぶ天守技術の原型を形成し、三層もしくは四層の天守を造り上げている。また、山麓の屋敷にもこの技術を応用し、信長好みの南蛮風御殿(4階建ての天主)を築いている。

 そして、又右衛門最大の功績というべき建築物はやはり、安土城であろう。もはやこれは言うまでもない。数多くの研究者とファンがさまざまな想像を浮かばせる、まさに天下随一の名城だろう。

 史実であれば、本能寺直後に何者かの手にかかり死亡しているのだが、信濃守の存在の因果なのか、彼もまた生きている。


 「又右衛門、幾日である程度の曲輪くるわは完成する?」


 秀吉は聞いた。本丸となる部分さえ完成すればあとは自分は中から指示していけばいいと考えていたからだ。もちろん、秀吉の考えは長年、信長のそばで馬車馬ばしゃうまの如く働かされてきた又右衛門にとっては簡単にわかり、


 「あと、半日もありゃ空堀は予定地全域を覆いますぜぇ。石垣ゃぁ、まあ本丸あたりは後、一刻で普請完了じゃぁ。へいも大体出来上がってまさぁ。ただぁ櫓や天守は夜中でさぁな。本丸の仮屋敷は…今完成したようでさ。」


 又右衛門はそういって、一人の人夫を指さす。彼は作事頭の一人で本丸内部の建物の担当者であった。


 「岡部様ぁ、本丸の建物は大体完成しやしたぜぃ。あとは、城門周辺の石垣ができ次第、取り掛かりまさぁ。」


 語尾を伸ばした感じのしゃべり方はどっかのなまりだろう。


 「うむ、分かったぞい。お主の組は少々休め。向こうに御武家様たちが用意してくれた握り飯がある。」


 又右衛門はねぎらいの言葉を言って後方においてある、おむすびを指さす。「へい。」と疲れ気味を感じさせる返事と共にその人夫は自分の組の連中を呼びに行った。


 「又右衛門、では参ろうぞ。佐吉(石田三成の通称)、太刀を持て。」


 秀吉は、三成に太刀を握らせ、颯爽と馬にまたがる。その姿は以下に天下人といえど、一人のいくさ人そのものだ。

 紫色の生地に金の刺繍、背中には瓢箪の柄の陣羽織と色こそ派手な色だが、柄というべきものはほかにはなく、内着も浅葱あさぎ色という、派手好きの秀吉にとっては珍しい、地味めな服装だった。やはり、敵に見つかりにくくするための工夫なのだろう。

 馬をカッポラカッポラ進めていくと、先ほどの作事頭とその後ろを歩いてくる人夫達とすれ違う。彼らは秀吉と又右衛門を見ると、端により、頭を下げる、そして過ぎ行くのを確認すると一目散に妻女山の御座所(*)においてある炊き出し場に走って行った。秀吉はそんな彼らを見て、かつての自分を思い出したのだろう、感慨深く見つめていた。

 ふと気づいた。いつの間にやら、太刀をもって着いて来ていたはずの三成がいなくなっている。


 「佐吉、どこじゃ、佐吉…?」


 普段ならばすぐに返ってくる返事も聞こえない。その代わりに聞こえたのは西の方角より砂埃を上げ、突進してくる騎馬の疾駆する音と、唸るように響く怒声であった。その先頭にはほかの騎馬よりも一際大きく気性の荒い、青毛の馬に跨る信濃守の姿がある。


 「なんじゃと!?まさか…うっ!…」


 薄れゆく意識の中秀吉が見たのは、同じように倒れていく又右衛門と近づいてくる信濃守の部隊、その一人にかつがれている石田三成の姿だった。

  


 信濃国 川中島周辺 山口軍精強衆


 …信濃守率いる精強衆は、意識を失った秀吉とあらかじめ気絶させた三成を部隊中央に用意した簀巻すまきくるみ、又右衛門を贅力ぜいりょく(*)に秀でた者に担がせ、建築途中の川中島城に向かうのであった。


 


 ???? 

 

 「…んんっ…」


 秀吉はゆっくりと瞼を開く。どうやら気絶させられたようだ。ここはどっかの和室か何かなのだろう。起き上がってきょろきょろと周りを見る。

 大阪城ではないのは確かだった。そして床に手を置いていくつか気づいた。


 畳が新しい。そして、自身が寝かされていたのは結構な広さを取って作られた広間かなんかである。

 

 秀吉はゆっくり立ち上がり、自分の格好を確かめる。三成に渡してあった太刀こそ無いものの、それ以外は気絶前と何ら変わりはないようだ。広間の襖を開き廊下に出る、しかしそこには誰もおらずただただ時々聞こえる何かの打撃音が、こだましていた。秀吉は緊急時に備え、脇差に手をかけ、廊下をゆっくり進んで行く、そしてここが何所だかようやく気付いた。

 ここは自分が向かっている途中であった、川中島城の本丸だったようだ。


 「まだ信濃にいるか。」


 そういって目の前に広がる光景に安堵のため息をついた。

 信濃守に襲撃された際にたまたま近くにいた北陸あたりの軍勢が山口勢を追い払い、川中島に連れてきたと判断したのだった。そして、おそらく普請場辺りに駐屯しているのだろう、と考え、本丸の出口らしき門から外へ出た。


 しかしながら、残念なことに連れてきたのは北陸軍では無いようである。

 なぜなら、本来ならば、自身の家紋である『五三ごさんきり』の旗の姿はなく、替わりに敵大将である山口家の家紋『まるちがいたか』の旗が立ち並んでいたからである。

 秀吉の前には漆黒の鎧で包まれた数百の騎馬兵と馬上から秀吉を見つめる、山口信濃守の姿が見えた。


 「お目覚めになられたかな、敵総大将、豊臣関白秀吉殿…」


 信濃守は秀吉に開口一番そう言い放った。よくよく見ると騎馬の脇にはいまだ気絶している石田三成、そして、騎乗こそしていないものの、信濃守の軍と同じ甲冑を身に着けた、岡部又右衛門の姿である。


 「又右衛門、なぜ…」


 秀吉は又右衛門をにらむ、しかし負けずに又右衛門、も睨み返し


 「あの事の真相を知っちまった以上、俺は使える義理はないしな。」


 そんな口論が始まると、信濃守は腰に差した短筒を抜き上に向ける。


 ズドンッ!


 轟音が鳴り、お互いに黙る。


 「又右衛門殿、真相は後ほどお話ししますゆえ、…精強衆、岡部殿を長野城へお連れせよ。」


 信濃守の掛け声に、一斉に回れ右をし、精強衆は去っていく。


 「秀吉殿、拙者と本丸に来て戴きますぞ…」


 急に声に凄みをだし、秀吉に聞く。秀吉も無言で頷く。

 そして二人とも、川中島の城に入っていくのだった。



 信濃国 川中島城 本丸 茶湯の間


 そこは本来ならば秀吉が贅を尽くした豪華な茶室になるはずの場所だったが、資材の不足により質素な茶室になってしまった。


 「…どうぞ。」


 信濃守は今そこで主人として、客人である秀吉に茶を持て成している。


 「…結構なお手前で。」


 秀吉も不作法なくこなすあたり、文化人の教養もある程度備えていた。

 秀吉はそれとなく聞いてきた。


 「信濃守、なぜ謀反など…?」


 秀吉本人も疑問であった。

 信濃守はそのことについて、唐入りについて反対した理由、自身の所有する情報、それによって利益が出る連中の思惑などさまざまな話を、秀吉に伝えた。


 「なんじゃと、では九州勢が唐入りを強く進めるのは…」


 「如何にも。」


 「だからお前は…」


 「左様。」


 等の会話は進む。


 そして一通りの説明を終えると、秀吉は自身の考えの甘さに気付いたのか、項垂れていた。


 「そうであったか、儂も結局、井の中のかわず、日本を統一したといっても所詮は同じような連中の御山の大将か。信長様の遺志を継ぐ以前に己の傲慢に気づくべきじゃった。」


 「信長公の御遺志は、秀吉殿なりのやり方で継げばいいのです。天下の采配は貴方なりにしていけばいい。諸外国を武力によって征服することは、信長公が目指した『天下てんか布武ふぶ』にあらず。」


 そういっている信濃守を秀吉は見る。


 そういえば、と、ふと秀吉の脳裏にある記憶が出てくる。

 まだ信長様に仕えるよりも昔のことだ。あの日は今日と打って変わってひどく寒く、雪のひどい日だった。

 東海随一の大名、『今川家いまがわけ』の御膝下、駿府にいた俺は、自身の出自、身分、容姿、他国者という四拍子そろっていた為か、尋常じゃないほど嫌われていた。当時の駿府は、守護大名の地位から脱却し、全盛期を築いた『今川いまがわ義元よしもと』の治世下であり、京都から落ち延びてきた公家や身分高いものにとってはまさに、極楽浄土に近い場所であったが当時の秀吉にとっては、まさに地獄の日々だった。

 そんなある日、秀吉はいつもの如く道の端を歩きながら罵詈雑言ばりぞうごんを浴びていると、今川家の重臣らしきものの一団に絡まれた。そして、「その醜い顔で、この町を歩いた罪だ、おとなしく試し斬りに付き合え。」と言われ殺されかけた。新品と思われた刀を抜いて秀吉めがけ一閃。

 秀吉は思わず目を瞑り、じっと固まった。しかし、斬られた感覚はない。

 目を開けて見えた光景は、通常よりもはるかにでかい馬に跨り、斬ってきた相手の顔面を槍で串刺しにしている男の姿だった。


 そこで記憶が消える、目の前には手酌で茶を入れ作法も何もない状態で茶を啜る信濃守の姿。

 不思議と秀吉は記憶の人物と信濃守の姿が重なったのだ。


 「信濃守、お主かつて俺に会ったことないか。」


 秀吉は思わず訪ねてしまう。信濃守は茶を啜るのを止め、秀吉をじっと見る。


 「…」


 「もうずっと昔だ。30、いや40年、もっと昔に。」


 秀吉は沈黙の信濃守に捲し立てる。


 「…駿府、ですかな?」


 信濃守の言葉に秀吉は思わず「ありがとう御座る!」と叫んでしまった。


 「あの時、お主に助けてもらわなかったら、今生きてはおりませぬ。本当に、本当に。」


 気づくと秀吉はうずくまり、声を上げて泣き始めた。


 「ううぅ、信濃守殿、拙者の今までの数々の非礼、お許し下され!」


 秀吉はいつの間にやら、敬語を使い始める。信濃守は微笑みながら、


 「気にし為さんな。気まぐれですよ。駿府の街にしちゃあ随分、おもしれぇ若造がいたから、遊び半分で斬られるのは勿体無い、そう思っただけさ。それに今は敵同士だ。あの時はあの時、今は今。」


 再び茶を啜り始めた。


 「しかし、何か礼をせねば気がすまん。もとからこういう性質たちなのだ。何か礼を。」


 信濃守は茶を飲みながら考えるそぶりを見せる。


 「じゃあ、頼んますよ。」


 そういって、秀吉に頼みを言う。


 「しかし、それはあの時の…」


 秀吉の方を見て、ニコリ、と笑う。


 「…相分かった。必ずそうしよう。ではさらばじゃ。」


 秀吉はそう言って茶室を出ていく。


 


 しばらくすると、川中島城全域が業火に包まれる。

 信濃守が茶を啜る本丸もすぐさま火の手が上がった。


 「…こんな感じで今回は終幕なのかい。」


 一人の男が、炎の中に笑いながらあらわれる。長野城で、信濃守と一緒に話していた男だ。


 「いいだろう。今回はこれでおしまいだ。次の世界で会おうぜ、今度はお前と一緒に。」


 そう言って信濃守も男を笑い返す。


 「そうかい。じゃあ次が楽しみだ。」


 男はそれだけ言って炎に消える。


 「それにしてもゲームオーバーの度に、業火に包まれるって言うのはどうなんだろう。」


 そんなことを言って信濃守は啜っていた茶碗を天井に投げる。

 刹那、そこを中心に大爆発を起こした。その爆発は、城だけにとどまらず、世界全体にまで広がるのだった。


 そして、世界は一切の色彩を失い、無に包まれた。



 『GAME OVER』



 信濃守が目を開けるとそこは、穏やかな田園が広がる、信濃守には見慣れた空間。


 そこは次の世界に向かう際の設定のための場所

 

 正式名『次の間』  通称『無の空間』


 である。





 

 序章 『超チートな武将vs日本一の出世者』   完

*用語解説


御座所…基本的に高貴な身分の人間が野外での仮の拠点とする場所。


贅力…簡単に言えば力持ち、パワータイプの人。

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