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GAME OF PROLOGUE 序 『信州公』の始まり  作者: ナッツ・ユキトモ(旧名:TOMO)
第1章 『超チートな武将、ひとまず西へ向かう』
13/14

幕の十弐 『永久の呪縛』 縛られし騎馬との腐れ縁

 ブレイク知識


 戦国時代の戦場食について

 

 前幕に続き戦国時代の食事情を自分の知る、調べた限り説明したいと思います。

 今回は戦場などで食された食事について説明します。

 戦場ではやはり比較的保存がきく発酵食品、『味噌』がよく使われていた。

 朝鮮出兵時の伊達政宗考案の仙台味噌をはじめ全国各地で味噌のつくりも違い、武田信玄が愛した信州味噌、上杉謙信が好む越後味噌、毛利元就が開発した短期間で作成できる府中味噌と言った味噌が比較的有名である。

 しかし一番有名な戦国味噌はやはり戦国三傑が愛した豆味噌だろう。


 味噌をとある芋の茎と共に煮詰め、その茎を縄にしたものを戦時中、特に足軽たちは常備し、非常時には兜や陣笠を鍋代わりにして即席の味噌汁を作った。

 湯に戻すだけでできたこの味噌汁がインスタントみそ汁のルーツともいえるだろう。

 ちなみに煮詰めた茎も食べれます。意外とおいしいそうです。

 (おそらく里芋の茎だと思います。)

 相模国 玉縄城付近の街道


 武蔵国を南に進み、相模湾から吹く潮風と磯の匂いをかぎながら、信濃守は先に向かわせた家臣一同の後を追い、約一名の供を連れ、鎌倉の防波堤として築城され、また早雲以来、東相模地域支配の要衝、玉縄城の近くを西に向かっていた。


 「この玉縄城はかつては三浦半島の豪族、三浦氏との長き戦いに備えて築かれ、代々北条家の直系の一門衆が城主を務めているそうですよ、一昨年までは早雲公の二男、現当主の弟君である北条氏時公が城主でしたが、今は現当主、氏綱公の御三男、為昌殿が城主とのこと。まだ12歳だそうですが、大変ですね。」


 先日武蔵国で拾った、伊豆新九郎という若武者が、信濃守と共に馬を進める間、ずっとそう言った感じで、観光ガイド顔負けのトークで話していた。

 

 途中、新九郎はきょろきょろと風景を眺めながら馬を進める信濃守に配慮して「せっかくですし、鎌倉にでも寄って行きますか?」と聞いてきたが、先に向かわせた家臣たちをまっすぐ小田原に向かわせたにもかかわらず、自分ひとりゆったり鎌倉観光は違うと思い、丁重に断った。


 確かに、鎌倉は当時ある程度の士分であれば行ってみたい場所らしいが、1533年当時は、大永二年(1526年)に起きた北条家と房総半島の大名『里見家』との戦いで、その代名詞ともいえる鶴岡八幡宮も戦火に見舞われ、社殿が焼け落ちるなど、観光してお参りしようにもする場所すらないからである。


 「それにしても新九郎殿は相模の情勢に詳しいですな。」


 信濃守の言葉に、新九郎は一瞬顔をヒクつかせたものの、すぐに話題を振り替えてきた。


 「…ところで山口殿、今まであえて聞かないようにと思っていたのですが…」


 「…なんだ?」


 新九郎は何か言いづらそうにしていたのを見て信濃守は聞き返した。


 「山口殿の騎乗されている馬、もしや大陸馬ですか?」


 新九郎はそう言って信濃守の乗る馬を見る。


 「…なぜそう思うのだ?」


 信濃守は表情を変えず質問する。


 「拙者もまだ若輩者とはいえ関東に生きる武士です。馬と共に生きる東国の武士です。鳴き声や休憩の際の仕草などで馬のことならばわかります。」


 新九郎は自信を持って堂々と応えた。


 「少なくとも、関東の馬ではないですね?」


 新九郎は信濃守にそう聞いた。


 「…ほぅ。やはり新九郎殿は関東の生まれか。ならば見抜くのも当然であろう。左様、この馬は以前とある宿場にてな。そのあまりの威容に思わず買ってしまったのじゃ。」


 実際はそんなのは根も葉もない大嘘話である。しかし本当のことを言って混乱させるのもよくない。ゆえにあえて嘘をついていた。

 

 「なるほど、しかしこの馬は随分と…」


 「デカい…か?」


 だいたい聞かれうることを悟ったので信濃守は新九郎が言い切る前に聞き返した。


 「はい。関東に生まれてこの方、これほどまでの巨馬は見たことありませぬ。」


 そう、この時代、馬の大きさは大体、*5尺前後(140~150㎝)程度であるのに対し、信濃守の騎乗する馬は明らかに6尺(約180㎝)はいくであろう大きさである。

 日本在来種の馬ではまずありえない大きさである。


 「ははっ。新九郎殿が見たことないのも無理はない。俺も自分の体重でつぶれない馬を見つけたのは初めてだったからな。そう考えるといい買い物だった…ともいえるな。」


 信濃守は新九郎に笑いながらそう言う。


 「まさに水魚の交わりの如くであった…というわけですね。」


 新九郎が言った水魚の交わりの意味はよくわからないがとりあえず頷いた。


 「あぁ、ただ全力疾走はきついようだな。」


 信濃守がそう言って鬣をなでてやると、馬も言ってる意味が伝わったのか、尻尾を勢いよく振り上げた。


 「信濃守殿だけではなく甲冑やら槍などの重みも背負いますからね、相当な重さでしょう。」


 そこまで言うと新九郎も信濃守もお互いに、黙る。

 やがてこらえきれなくなったのは新九郎である。しかし、そこで事件が起こった。



 「…信濃守殿、よろしければ拙者の…!?おわっ‼」


 …ヴューッ‼


 新九郎がそこまで言いかけたとき、突如信濃守は新九郎の袖を勢いよく引っ張る。そして体制が崩れたとき、ちょうど胸があった場所に矢が飛んできた。


 「ッ…‼」


 新九郎はあまりに急なことで声が出ない。

 新九郎の体制が崩れたことでコントロールを失った愛馬はいつの間にか信濃守の馬がたずなを咥えていた。


 「…。」


 新九郎がふと不安になって信濃守を見てみると、ものすごい勢いで棒らしきものを振り回し、飛来する矢を叩き落としていた。地面に落ちている矢を見るにかなりの数を射ち込まれているようだ。


 「…新九郎殿。」


 信濃守は静かに声を発する。あれだけ動いたはずだが、息は乱れてない。


 「信濃守殿!…お怪我は…」


 「先にこれを片してからだ。ほら、出てきたぞ‼」


 新九郎が信濃守の安否を確認するのを止められ、気づくと矢の雨はなくなり、怪しさ満点の連中に囲まれていた。数だけで百人に近い。


 「こやつらは…」


 新九郎はなんとなくこいつらの正体に気付いたみたいである。


 「んっ!?なんだ、新九郎殿の知り合いかい?」


 顔色を変えた新九郎を見て、信濃守が聞いた。


 「いえ…、ただ心当たりなら…。」


 新九郎が言いづらそうにしているのを感じ取り、ただ一言聞いた。


 「こやつら、敵か否か?」


 そう聞くと、


 「敵です。」


 新九郎が返答した瞬間に、信濃守の近辺にいた者たちが吹き飛ぶ。中心地を見ると、


 「おいおい…久しぶりにしては…張り切りすぎだろうよ。こま富嶽ふがく。」


 そう、信濃守が吹き飛ばしたわけではなくその相方、いや愛馬、『駒富嶽』であった。


「…よしよし。わかったわかった。」


 駒富嶽の鬣を撫でながら、信濃守はぶつぶつ言っている。


 「あの~…信濃守殿…?」


 新九郎は信濃守が馬に気をやる中、一人抜刀して襲撃者に相向う。


 向こうも思わぬ反撃だったのだろう、信濃守側にいる敵はほとんどいない。


 そんな中、今まで話そうとしなかった襲撃したものの一人が叫んできた。


 「き、貴様‼そ、その若造をこちらによこせ‼」

 

 どうやら彼らの狙いは新九郎のようだ。


 「構わんぞ。」


 信濃守がそう返すと驚いた顔をしていた。


 「い、いいのか?」

 

 言ってきた方も断られると思っていったのだが予想に反した答えだったので思わず聞き返した。


 「信濃守殿…!?」


 新九郎も若干動揺したのか、声に懐疑感が漂う。


 「無論構わぬ…。但しだ…」


 そこまで言って信濃守はふと愛馬をの毛を撫でる。


 それに反応してか、駒富嶽の尻尾が激しく揺れた。


 「こいつは俺と真っ向から反対意見だそうだ…。」


 そういうや否や、駒富嶽は、大きく嘶く。


 元々巨躯な体長に加え、嘶き、さらには前足を高く振りかざす。その時点で襲撃者たちは、一歩後ずさった。


 信濃守は、見逃さなかった。


 明らかに襲撃者たちの瞳が恐怖で揺れ動いたのを。


 「正解だ。」


 そういって、襲撃者たちに笑みを出す。


 そして、彼らの一人が落したであろう槍を拾い、穂先で駒富嶽を中心に円を描いた。


 「この線に一歩でも踏み入れれば、間違いなく首が胴と離れていた。…どうやらただの破落戸ごろつきなどではないようだな。」


 そう、先ほどの駒富嶽の動きはいわばカモフラージュ。


 信濃守はあの時、一瞬ではあったが信濃守は殺気を放ったのだった。


 忘れがちではあるが、信濃守はもともとプレイヤーの一人。つまり現実では殺気なんてものを浴びたことなどない。


 故に当初こそ、意識して殺気を放つといったことはできなかった。


 だが、この世界で生きていく中で、駒富嶽と出会い、数多もの戦場を越え、名だたる人たちと渡りあい、更には幾度もの繰り返すこの世界を生き抜くことで自然と身に着いていったのだ。


 実際、意識して殺気を放つことができるようになったのは比較的最近のことである。


 だが、人の数倍、いや数千倍以上もの長い時を生きた信濃守の殺気はまさに常人の沙汰ではないというべきかもしれない…。


 今も、僅かしか発していないにも拘らず、信濃守の殺気を浴びた者たちは、もはや一歩下がるだけでも困難なようだ。


 とにかく身体を動かそうと時折、手や足をピクッ…ピクッ…としているが、思うように動けないようだ。


 先ほどまで一緒にいながら、旅をしていた新九郎でさえ、あまりの事に無言で立ち尽くすほどだ。


 「如何した、新九郎殿?」

 

 「えっ…あっ…」


 信濃守に尋ねられてようやく声が発せたものの、言葉が続かなかった。


 「…お前たち…。」


 新九郎が正気に戻りかけたのを見て信濃守は襲撃者たちを再度見やる。


 「去ね。今はお主たちに構う暇はないのだ‼」


 信濃守が怒気を込めて叫ぶと、さっきまで全く動けなかったのに、一挙に立ち上がり、蜘蛛の子を蹴散らさんばかりに猛スピードで去って行った。


 ちょっとしたアクシデントに見舞われはしたものの、あれからも足を進め、気づけば、海を横目にもうすぐ小田原、というあたりまで来ていた。


 「…北条領は庶民にも地侍衆にも環境が良いと聞いておったが…まだまだ課題が多そうじゃな、新九郎殿。」


 襲撃後、無言の威圧を僅かに放ちながら馬を進めていた信濃守は、圧すのをやめ、新九郎に言葉をかけたのだが、先ほどまでは何かしらの返事をしていた新九郎も「そうですね…。」としか言わなかった。


 「…如何致したのか?」


 新九郎の様子の変化に気付く信濃守。


 明らかに自身に対し、若干動揺を感じたからである。


 「…。」


 新九郎は無言となる。


 顔を見ると、何とも悔やまれんと言わんばかりに厳しい顔をしていた。


 「新九郎殿‼」


 信濃守の大声に反応したのか、ビクッという反応をしながら向いた新九郎。


 「いっ…如何された!?」


 自身に対し大声など発しなかった信濃守の声に、思わず叫び返した。


 「あの灯りのともる場所が小田原城か?」


 指さす方向を見ると、多くの灯りが山にそびえる建物を照らしている。


 「はい。あの八幡山こそが小田原城です。城下はこの街道に沿って進めばいいかと。」


 この時期の小田原城は、あの有名な惣構はまだ形成されてないと言われている。


 実際、信濃守の目線に広がるは城郭の外側にたくさんの町屋が並ぶ、他の大名たちと同様な城下町だった。


 「さて、ではあやつらのいる宿屋を探すかな。」


 信濃守の言葉を聞いた新九郎も、


 「宿町ならば城下の西側にありますから、街道に進めばよろしいかと。」


 新九郎の言葉に、信濃守は感謝の意を敬す。


 「如何かな、新九郎殿。拙者の供たちと一杯?」


 酒類が苦手でありながら宴会ごとが大好きな信濃守。


 言葉からするに宿屋で宴会するつもりなのだろう。


 「折角のお誘いではありますが…拙者はこの後、城下の寺町に用がありまして…。まことに申し訳ありません。」


 新九郎は申し訳なさそうに断った。


 信濃守も無理強いはせず、伊豆新九郎と名乗った、若武者と城下の入り口で別れたのだった。



 信濃守と新九郎が分かれた後



 小田原城下 とある宿屋



 「てめぇらぁ‼」


 その晩は夜中にも拘らず、大声で叫び怒る大男と大鼾おおいびきをかきながら、グースカと眠りこけている一行が「見物みものであった。」とのことである。

 用語解説


 5尺…本作において、尺貫法はいろいろある中で、尺=30㎝とさせていただきます。


 ちょっとした豆知識


 小田原城が、惣構によって城下町ごと要塞化しだしたのは北条氏康の時代になってから、時期的には1546年の川越夜戦のころにはじまり、1561年の上杉謙信との戦いの後、本格化したといわれている。


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