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ルフレとセレスの出会い①

ルフレとセレスの出会い

序章と一章の間の話。


一度も触れられていない

ルフレの学生時代のお話。

「二十点……」

 短いさらりとした金髪の少女は、掲示板に張り出された、成績を見て、絶句した。

「ルフレ・ルミエハ……」

 その名をつぶやく。

 自分の名前より上にある、ライバルの名。

 ツンベルギア養成学校一年、セレス・アンバーは、震えるこぶしをぎゅっと握りしめた。


 

 黒く長い艶やかな髪を高い位置で一つに結っている少女は、カバンを持って、教室から出た。

 昼時なので、食堂へ向かう。

「ル、ルフレさん……一緒にご飯食べませんか?」

 颯爽と歩いている途中で、男子生徒に声をかけられる。

「ごめんなさい。私、友達と約束があるの」

 ルフレはにっこりと笑って、適当に男子生徒をあしらった。

 どうにもルミエハに群がりたい連中が多くて困る。

 そんなにルミエハの名がありがたいだろうか。

 

 ルフレは気づいていなかった。

 彼女が男子生徒に声をかけられているのは、単に、とても美人であるからだということ

を。


「ルフレ!」

 食堂に入ってすぐに声をかけられた。

「アサレア、席、とってくれてありがとう」

 長い金髪を三つ編みにして横に流している少女が、食堂の四人席をとってくれていた。

 ルフレはその席に座り、自分のカバンを置く。

「食べ物もらってくるわ」

 アサレアに言い置いて、ルフレはカウンタ―まで歩いていく。

 ―――ん? 何か、違う。

 ルフレは見られることには慣れていたが、この視線は何かが違う。

 ふと周りを見渡すが、ルフレのことを見ている人間自体は、それなりにいて、どこからの視線かが分からない。

 首をかしげながらも、ルフレは食べ物を注文し、それを受け取って席に戻る。

「どうしたの?」

「いや、なんか視線っていうか……敵意を感じて……」

 ルフレがそういうと、アサレアはコロコロと笑って、首を振った。

「ないない。ルフレに敵意なんて、理由がないよー」

「でも……私、ルミエハだし」

「そんなこといったら、私の家はオブスキィト派だよ。でも気にしてないもん。あなたがルミエハの長女だなんて、もう、誰も気にしてないって」

 アサレアに明るく笑い飛ばされ、ルフレはそんなものかと、気を落ち着ける。

 それでもまだ、視線は感じるのだが、とりあえず無視することにした。

「いやーでも、ルフレと友達になれて良かった!」

「本当に? ありがとう」

 ルフレは彼女の笑顔に、こちらも笑みを返す。

 それでも、心の中に細波が広がった。

 彼女の言葉に嘘はなくても、彼女の笑顔に、嘘を感じたからだ。

 アサレアは、この二か月で、一緒にご飯を食べるほどまで仲良くなった友達だ。

 ルフレは入学時の筆記試験で最優秀だったらしく、寮の部屋は一人部屋で、ルームメイトはいなかった。

 そして入学当初は、ルミエハということで、敬遠されるか、権力目当てで寄ってくる生徒ばかりで、げんなりしていたのだ。

 そんななか、アサレアはルフレに話しかけてくれた。

 ルフレが彼女を信頼したのは、アサレアの家がオブスキィト派だったからだ。オブスキィト派なら、ルミエハのルフレと仲良くすることに、権力は絡まない。

 ただ、ときおり、彼女は嘘をつく。

 嘘に敏感なルフレには、すべて嘘が分かってしまうため、そのたびに心の波が立っていた。

「それにしても、格好いいなあ……ギルバードは」

 アサレアがうっとりと、見とれているその少年は、銀髪に空色の瞳の少年。

 女性受けしそうなその甘い顔で、女子生徒に絶大なる人気を誇っているのだが、彼は誰の告白も受けないらしい。

 それがまたいいのだと、女子生徒の人気をあおっていた。

「ギルバード・ブリュネ、か」

「あれ、ルフレも?」

 無邪気に尋ねながらもその声に少しだけとげが混じる。

「いいえ。興味ないわ……」

「そうなの? じゃあ応援してくれる?」

「もちろん」

 ルフレが興味がないと言った直後に協力を依頼するあたり、アサレアは本気なのだろう。

 アサレアは可愛い。

 それに伯爵家令嬢で、ブリュネ伯爵家ともつり合いがとれる。

 ギルバードを振り返らせることができれば、彼女は祝福されるだろう。

「はあ……」

 思わず自分の思考がルミエハ的になったことにため息をつく。

 こんなとき、いつだって思い出すのは赤銅色の髪の少年。

 オブスキィトとルミエハは、家的に、いつだって平行線だ。

「あ、ギルバードがこっちに来るわ!」

 はしゃいで言うアサレアの言葉に、ふとそちらを見やる。

 空色の瞳が、アサレアではなく、間違いなくルフレに向いているように見えた。

 思わず目をそらして、興味なさげに食事に戻る。

「ここで食べていいかな?」

「ええ、もちろん!」

 アサレアが少し興奮したようにはしゃぐ。

「ルフレさんも、いい?」

「……どうぞ」

 わざわざ聞いていたギルバードに、そっけなく返す。

 そして、ギルバードはアサレアの隣に座った。

 アサレアが奥の席につめたため、ルフレとギルバードが向かい合う形になる。

 ちらりとルフレは自分の食器を見る。

 まだ半分しか食べていない状況では、さすがに席は立てない。

「いつもここで二人で食べてるよね?」

「うん! この席を授業が早く終わった方がとっておくんだあ」

「ほとんどアサレアが席を確保してくれるの。アサレアは行動が早いから」

 ルフレはフォローをしようと、アサレアからするりとギルバードに視線を動かして言う。

 アサレアの口がありがとうと言っているのが見えた。

「仲がいいんだね」

 ギルバードの笑顔がルフレに向く。

 銀髪に良く映える空色の瞳が、何か熱を帯びている。

 ―――まずいな……どうしよう。

 具合が悪いとでも言って席を立とうか。

 ルフレが本格的に困っていた時、ふいに、鋭い視線がつきささる。

 反射的に後ろを向けば、鋭い視線をした、短いさらりとした金髪を持った少女が、こちらを見ていた。

 顔立ちは可愛らしいのだが、どうにも視線が鋭すぎる。

 その子はずんずん近づいてきて、そして、そのかわいらしい顔立ちに見合わない、高圧的な調子で言った。

「あなたがルフレ・ルミエハね?」

「……ええ」

 ルフレはどうして名を知っているのかなどと、バカげたことは問わない。

 今、ツンベルギアに在学中の生徒で、黒髪なのはルフレだけだ。

 ついでにいえば、ルフレはルミエハの人間なので、目立つ。

 ルフレは知らない人に名前を知られていることなど気にしている暇はなかった。

「あなたは……?」

「セレス。セレス・アンバーよ」

 どうにも喧嘩腰な彼女だったが、彼女はなんだかわかりやすい人だ。

 それが少し、ルフレの警戒を緩ませた。

「話があるなら、ちょっと外にでない? 私、もう十分に食べたし」

 実際は、三分の二程度だが、席を離れる絶好のチャンスだ。

「そうね。それがいいわ」

「……ってことだから、悪いけど、二人で食べて」

 アサレアに向かっていえば、彼女は嬉しそうにうなずいた。

 ギルバードの顔が少し曇ったような気がするのは、気にしないことにする。

 ルフレはトレーを持って立ち上がり、返却口に返す。


 そうして、食堂の外に出た。

 二の月の底冷えする外気が、ルフレに容赦なく吹き付けてくる。

「それで、話って?」

 ルフレが問えば、セレスは腰に右手を当て、左手でルフレを指さして宣言した。


「私、明日から、あなたのことずっと観察するから!」

 

 ちらりと銀髪の少年が頭によぎる。

 銀髪の少年か、金髪の少女か、ルフレは珍しく、選択を誤ったかもしれないと思った。


ちなみに読まれて、思いついた方もいらっしゃるかもしれませんが、

ギルバード・ブリュネとは、本編ででてきブリュネ家の少年です。

まあ、要するに、一歩間違えば婚約者ですね。


マリエの暗躍により、阻止されましたが。


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