朝練
午前4時、和人は既に起床しており、ジャージに着替えていた。
部屋に置いてあるカバンを持って、まだ寝ているであろう真奈を起こさないよう、
慎重に1階へと下りた。
一階には母さんが朝ごはんを準備してくれていた。
「おはよう、和人」
「おはよう」
オレはあくびをしながら席に着いた。
「寝不足?」
「いや、そうじゃないんだけど」
なぜか昨日はかなり眠りが浅かった。
そんなこともあり、すごく眠い。
そこに母さんが目玉焼きとトーストを持ってきた。
「はい、早く食べないと遅刻するわよ?」
「わかってるって」
和人はいただきますと言って、朝食を食べた。
5分ほどで食べ終わり、和人はカバンを持って出かける準備をした。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」
母さんに挨拶し、和人は誰もいない道を走った。
和人が出て行った5分後、真奈が目をこすりながら下りてきた。
「あら、真奈じゃない」
「お母さん、おはよう」
「朝ごはん食べる?」
「うん」
私は大きく伸びをし、お母さんに質問した。
「そう言えば和人は?
もう起きてるの?」
「ええ、とっくに出かけたわよ」
「?」
「そうね・・・」
と、お母さんはにやっと笑い、私にこう話を持ちかけてきた。
「和人のところに行ってみる?」
「?どこなの」
「まあそれは行ってからのお楽しみ」
お母さんはそう言うと私に荷物と地図を渡した。
「地図に書かれた場所へ行ってみなさい。
和人のある一面が見られるわよ」
私は言われたとおり、地図の場所へ向かっていた。
目的地の近くまで来てみると、何かを叩いている音がした。
さらに近づくと、私は何の音かがわかった。
(竹刀の音ね。でもなんで?)
目的地に着き、こっそり覗いてみると、そこに道着を着た老人と和人がいた。
二人は竹刀で打ち合ったいた。
それもかなりの速さで。
(すごい・・・和人にこんな力が)
はっきり言って、真奈は和人をなめていた。
これじゃ私のほうが弱いかもしれない。
一瞬、和人を守る必要がないと思ってしまった。
(そんなことは無いわ)
そう、まだ彼は実戦経験が無いはず。
(和人は必ず私が守る)
改めて心に誓った真奈であった。
「はあーー」
和人は下段に構えた竹刀を振り上げた。
それを老人は軽くあしらい、和人の懐に飛び込んだ。
和人は跳躍し、老人の頭上を超えた。
そこで二人は間合いを取った。
「ふむ、そろそろ時間じゃな」
「了解」
ふー、と和人は竹刀をおいて縁側に座った。
ここは、和人の師匠の家の庭である。
毎週火曜日に朝練をしている。
「にしても強くなったの」
「まだまだですよ」
「そう謙遜するな。
もう手加減は出来んくなってきた」
「げっ、それはやめてください」
この人は冗談がきつすぎる。
縁側でくつろいでいると、インターホンが鳴った。
「今すぐでる」
師匠はそう言うと玄関の方に走っていった。
誰だろう?と思っていると師匠の声が聞こえた。
「おお、これは可愛いお嬢ちゃんだね
え、和人?いるが・・・」
オレに用?
誰だろうと思いながら玄関に行くとそこには
「おはよう、和人」
真奈がいた。
「なんで・・・?」
「お母さんに行ってみたらと言われて」
母さん・・・。
まあ別に隠すようなことでもないかもしれないが、知ってほしくはなかった。
「それで、朝早くに何してるの?」
「と言ってもお嬢ちゃんは見ておったのではないのか?」
「え・・・?」
「そうなのか?」
真奈は少しうつむき、
「ごめんなさい」
と謝った。
「いや、別に謝らなくてもいいけど」
「そう?」
和人は時間を見た。
時刻は5時半を指していた。
「師匠、そろそろ家に帰ります」
「そうか、なら少し待て」
師匠はそう言うと家の奥に行った。
少ししてから師匠は何やら袋に包まれた長いものを持ってきた。
「師匠、それはなんですか?」
「真剣じゃ」
「え・・・?」
師匠は袋から本当に真剣を出した。
「もういつ悪魔憑きなどが現れるかわからんからな」
「悪魔憑き?」
「和人、それは私が説明するわ」
真奈はそう言うと懇切丁寧に教えてくれた。
「悪魔憑きっていうのは文字通り、人間や動物に悪魔が憑依したものなの。
この前の誘拐犯がそうね。
イフリートはまた違うのだけど、それはまた今度説明するわ。
悪魔憑きの強さはその人間の強さ+悪魔の強さに比例するわ。
他にも魔王憑きや魔神憑きなども確認されてるわ。
でも確実に言えるのが全部、人外の強さを持っているってっこと。」
これでわかったかしら?と和人に聞くと首を縦に振った。
「そんなのがこの世界にいるんだな」
「ええ」
和人は決心したように師匠から剣を受け取った。
「師匠、真剣を拝借いたします」
「うむ。皆を守るためだけに使うのじゃぞ」
「心得ています」
剣を腰に装着し、和人は
「では、また」
「おう、待っておるぞ」
家へ帰った。
その途中、横にいた真奈にも聞こえないような声でこう言った。
「龍平の二の舞にはさせねえさ」
その目はすべてを背負う者の目だった。