声…
「…」
「…」
とある日の部室(毎度毎度このフレーズで悪いな)。今部室には阿見津先輩と俺がそれぞれ本を読んでいた。…が、俺は本を読むことに集中できずにいた
「…」
最近の阿見津先輩はなにかが違う。…具体的な事を言えば、声だ。最近は調子がいいらしく、時々しゃべることがある。…ただ、普段しゃべることが出来ない理由がいまだに分からぬまま…むしろ、謎が深まった。初めは病気で声を失ったのかと思ってたが、そういう事では無いからな…
「…あの、阿見津先輩?」
『どした??』
阿見津先輩は俺の呼び掛けに対し、携帯の画面を見せてきた。…今日はダメなのか?
「…今日はしゃべれないっすか?」
「…喋った方が…いいかな?」
俺が聞いてみると、阿見津先輩は笑顔で口を開いてくれた。…やっぱり阿見津先輩の声は澄んでて、いい声だな
「…阿見津先輩は、どうして…」
「普段しゃべらないか…だよね…?」
俺が聞くより先に阿見津先輩が聞いてきた。…なんでわかった?
「…そうっす。入部当初から気になってたんすよ。…病気ではないんすよね?」
「…そうだね。…私の声は病気で出ない訳じゃないよ…?」
そして阿見津先輩が…謎を話してくれた
「私…小さい時から対人恐怖症で…人と接するのが苦手だったんだ…でも、高校に入って、出会う人が変わって…。私のクラス、少し荒れてるから私、孤立しちゃって…。で、そのクラスで生活して1ヶ月が経った日、ある授業で発表会があって、私が壇上に上がってしゃべろうとしたら、声が…」
「…出なかったんすね」
阿見津先輩はつらそうな顔で話をしている。…嫌な過去なんだな。聞いて失敗したかな…
「病院に行ったら、環境への拒絶反応ってお医者さんに言われて…。それからこんな感じで携帯で会話するようになったんだけど、そんな人…普通、いないでしょ?だから…どんどん孤立しちゃって…」
「…それ、イジメじゃないっすか」
…あるんだな、こんな身近にもいじめが…
「…イジメ、かな?でも私は仕方ないかなと思ってるんだよね。だって…話さないで、いきなり携帯の画面を見せてくるなんて…気味悪いから。…でも、私も学校生活を楽しみたいから…」
「それで見つけたのがショー部っすか。…なんか、阿見津先輩は真面目なんすね」
俺は思ったまんまの言葉を口にすると、阿見津先輩は顔を赤くして慌てだした
「べ、別に真面目じゃないよ…?わわ、私は本当に学校を楽しみたいだけで…」
「ちゃんとした目的があるじゃないっすか。俺なんか風に付き添って、巻き込まれた感じで入っちゃったんすよ?」
「…そうかな?」
そして阿見津先輩は一呼吸置き、再び話し始める。…話すのが好きなのに、話せない…今までどれだけ我慢してたんだろ…
「…この部の、皆のおかげで、今はこんなに話せるようになったんだ…。カオル先輩と瞳先輩、二人しか居なかったけど…二人とも、携帯の画面で話す私を偏見も何もなく、友達として見てくれたから…」
「…」
普段はただまったりグダグダのショー部。普段はポヤンとしてる桜先輩、普段はあまり物を考えようとしない時雨先輩。…でも、そういう空間に、そういう人間がいるからこそ、救える人間もいるんだな…
「…ちょっと…疲れちゃったから…もう、いいかな?」
そこで阿見津先輩が声を出すのを止め、再び携帯の画面に文字を打ち出す
『…淳君、君にも感謝してるんだよ?』
「…俺がっすか?」
その文面は意外なものだった。…俺、なんかしたっけ?
『淳君も、私と初めてあったときから他の人と全く変わらなく接してくれたんだよ?…感謝しなくちゃ♪』
「…そ、そうっすか…」
なんか照れ臭いな…
『…今日は、誰も来ないね?』
そして阿見津先輩はぽつり。…あ、確かに誰も来ないな
「…帰りますか?」
『そうだね?』
そして俺たちはそのまま帰宅した。…今日は、なんか大切な事が知れた気がするな…
「…ありがとう、淳君…」