狂い出した歯車は簡単には直らない
「…やぁ、河内…だったか。どうだ、惨めだろ?」
「…んなこと言ってる場合じゃないっす、三笠先輩」
「…ふ…君が私を先輩と呼ぶか…滑稽だな」
部室に入ると、目の前の椅子に三笠先輩(もう然程憎くは思ってないから、一応礼儀で先輩をつけた)が座っていた。ただ顔や腕にはアザがあり、桜先輩の父親が差し向けた黒服に大分やられたことがうかがえる
「葵、本当にごめん…」
「何度も言うが桜、貴女の責任は何一つ無いさ。元はと言えば私の口の悪さが招いた事故だからね」
桜先輩が申し訳なさそうに頭を下げる中、三笠先輩は笑顔で答える。…う~ん、この二人、なんでこんなに仲いいんだ?
「とにかく…三笠先輩、何があったか説明してくださいよ」
「説明も何も…大体理解してるんじゃないのか?その証拠に、あの黒服、そして私の容姿を見れば、ね」
確かに三笠先輩の言う通りだ。…だが、俺が気にしてるのはそこじゃない
「違います。俺が気になるのは、桜先輩の父親がどうしてその話を聞いてるのか…」
「…桜、貴女じゃないんだろう?」
「うん…」
そうだ。桜先輩が直接父親にこの話をしていたら今ここに桜先輩が居る理由が分からなくなる。第一桜先輩は人がいいから、誰かにいじめられても絶対に言わないだろう。…だとすると…
「俺が作ったあくまで仮説っすけど…多分、三笠先輩の失脚が狙いなのかなと…」
「失脚?…河内、これでも私は3年だ。失脚したところで意味はあるのか?」
「…あぁ、確かにそれもそうっすね」
「…あの…いいかなぁ?」
そこで桜先輩が加わる。口調はもういつも通りのまったり口調だ
「私は…むしろ狙われてるのはショー部だと思うんだよねぇ…?」
「…ショー部が、っすか?」
…桜先輩の言うことはいまいちよく分からなかった。…なんでショー部が狙われる?うちを潰すことに何のメリットが…
『多分うちの部の活動に危機感を抱いていて、いずれその人の邪魔になるだろうから…ですかね?』
阿見津先輩も会話に加わる。声は既に使えず、いつも通り携帯の画面に打ち込んで見せてくる
「阿見津先輩、うちの部でそんな人の邪魔になるような事しましたっけ?」
『してない…と思う』
「私が言いたい事はそ~いうことじゃないよぉ!…多分、生徒会とショー部を争わせたいだけだと思う…」
「…楽しみたいだけっすか」
「ふむ…言ってることは分からなくもないな、桜。私の代の生徒会は全体的に厳しいイメージが生徒に染み付いてる。それが基本自由なショー部に振り回されるのを見てみたいのではないかな?」
…だとすると、これを仕組んだのは…
「…教師か」
「…教師?河内、君は気は確かか?教師に何のメリットが…」
「多分…生徒会とその他組織の掌握かなぁ…」
…地味にスケールが大きくなってきたな…
「カオル!それに会長!ここに居たか!」
そして時雨先輩が息を切らせやってきた。そのしぐさから随分慌てていることが分かる
「どうしたのぉ、ひとみん?」
「お前達が居ないもんだから、仕方ないから学校祭開始を遅らせてんだよ!だけどそろそろ会長の合図が無いと、生徒も痺れをきらしちまって…」
「…まだ、始まってなかったのか?」
三笠先輩が時雨先輩に聞いている。そりゃあそうだ、俺も学校祭の始まりの合図には立ち合っていたはずだが…
「かいちょさん、他の役員に感謝しなよ?かいちょさんが居なきゃ、会が締まらないって言っててさ、どうしても居て欲しいんだと」
「…ふっ、違いないな」
時雨先輩と三笠先輩は共に苦笑いだ。…あれ、この二人は知り合いじゃ無いのか…?
「まぁそんな訳だ。…カオル、コイツとの用事は済んだか?」
「え?あ…うん…」
桜先輩は力なく首を縦にふる。時雨先輩はその姿に疑問を感じたのだろうが、すぐに三笠先輩に向き直り
「じゃ、急いで行くぞ!」
「え!?ちょ、私はまだ歩け…ひゃぁぁあっ!?」
時雨先輩は三笠先輩をひょいとお姫さまだっこし、会場へ連れ去っていった。この場には俺に桜先輩、阿見津先輩が残る
「…行けますか、桜先輩?」
「…大丈夫、だよ?」
桜先輩は少し元気がないまま部室を後にする。…これが学祭に響く事が無いといいけど…
『河内君、桜先輩と一緒に先に言ってくれるかな?』
すると阿見津先輩が俺にこんな画面を見せてきた
「何言ってんすか、阿見津先輩も…」
『少しでいいから、休ませてほしいな?』
どうやら阿見津先輩はさっき声を発したことで大分疲れているようだ、顔色が悪い。…やむなしか
「分かりました。でもうちの部の出し物は全員揃わないと部活にならないんで、頼みますよ?」
『うん!』
そして俺は部室に阿見津先輩を残し、会場に急いだ…
「…う、うぅ…」
部室に残され、座り込んだ阿見津先輩は、大粒の涙を流していた…
この時、気付いてあげれば良かったんだ
阿見津先輩の、涙に気付いていれば
さっき桜先輩に言った、阿見津先輩の言葉の意味を気付いていたら
今ごろ阿見津先輩は、苦しまなかったかも知れなかったんだ…