笑顔に潜んでいた涙
「うーっす」
「あ、おはようあっちゅん♪」
ある日の放課後、部室に足を運んでみると今日は桜先輩だけだった。風は今日はクラスで学校祭の準備をしている。希望高校はもう少しで学校祭だ
「…一人っすか」
「うん、他の子はクラスで準備なんだってぇ♪」
どうやら準備がないのは俺だけらしい。桜先輩は手元に学校祭の書類を持ってる。どうやらショー部も学校祭に出るようだ
「今年はねぇ、うちも創部3年目だからぁ、参加権もやっともらえるんだよぉ♪」
うちの学校では各部には学校祭の参加権があって、三年目にはいって初めて学校祭の参加権が与えられ、予算が配分されるようになる…らしい
「じゃあうちも今年からは出るんすか?」
「うん♪こーいうのに出る側で出てみたかったんだぁ♪」
そういいにこにこしながら書類になにかを書いてる。多分備品の貸し出しとかだろう。…ただ、まだ何をやるのかを知らないのが気がかりだが
「じゃ、今日は部活をやらないんすね?」
「いんや?ちょうどあっちゅんが来てくれたしぃ…ちょっと手伝ってぇ?♪」
そういい、桜先輩は俺にプリントを手渡す。…何々?『学校祭参加団体申請書』か…
「これに書き込めばいいんすか?」
「そぉだねぇ~♪」
そしてとりあえず俺も椅子に座り作業を始める。今日はとりあえずこんな書類をまとめる日…
「あ、時間だぁ♪…あっちゅん、時間あるかい?」
また急に桜先輩は資料にものを書くのをやめ、俺に聞いてくる。…ん?
「なんかあるんすか?」
「これから会議なんだぁ♪そこで今日書いた書類を出して、大体やることを決めるのぉ♪それで代表を二人出さなきゃなんだけど…今、私とあっちゅんしかいないしぃ…」
「あぁ…了解っす。俺でよければ」
「じゃあ、しゅっぱあつ♪」
そして俺と桜先輩は会議室に向かった…
「…えー…、じゃ、学校祭の会議を行います」
会議室とは言え、中は普通の教室と作りは同じだった。壇上にいる希望高校の生徒会長、三笠 葵が会を仕切る。…三笠さんは女性、輪とした顔立ちで右目の下に泣きボクロ。世間で言う美人だ。ただ美人と言っても桜先輩とは違うタイプの美人だ
「では、今日の議題は団体の学校祭の参加申請の可否です。…今年度の参加申請団体はひとつ、ショー部。…代表、前へ」
そこで桜先輩が立ち上がる。俺もとりあえず桜先輩の後に続き立ち、桜先輩と共に壇上に立った。…だが、いつものようなほんわかな雰囲気が今の桜先輩には無かった
「ショー部、部長の桜です。今年、我が部は三年目を迎え、部員も六名になりました。これを踏まえ、私たちの部も学校祭の出店の許可をいただきたく思います」
今の桜先輩は「ショー部の部長」として壇上で訴えた。だけど俺は何故か心にモヤモヤとしたものがあった
…こんなの、桜先輩じゃない…
そして、会議の結果、無事にショー部は今年度から学校祭への出店は許可された。ただ…俺と桜先輩は会長に呼び出しをくらい、今、会議室に残っている。机をはさみ俺の隣に桜先輩、前に三笠さんが居る。…なんで残された?
「…桜、知らぬ間に部員を集めたのか。中々諦めの悪い…」
「悪かったわね、葵。私だってやりたいことがあるの」
桜先輩はさっきのまんまでいつもの雰囲気が微塵もない。…原因はこの人か?
すると三笠さんは少し俺に視線をずらし、鼻で笑う
「はっ、ただ、代表に一年をつれてくるとはね…それもこんな男と来た。…桜、お前は人を見る目がないな」
…普通に罵倒されてるな、俺…
「…お前…」
「待って、淳君」
思わず立ち上がりそうな所を、桜先輩に宥められる。…なんで冷静なんだよ…
「…血が昇った後輩を諭すのが先輩の役目か。大変だなぁ、先輩さん?」
「そうね、だって私の可愛い後輩だからこれくらい当たり前よ」
「そんな腐れた部に先輩も後輩もあるのか?どうせ名はお前が部長だが、実際は何も出来ない駄目人間なんだろ?その駄目人間につくやつらも駄目人間だろうな!いっそ駄目部に名前変えたらどうだ!?貴様らの様な奴等にぴったりの部じゃないか!」
それだけいい、高笑いする三笠。…こいつ…何を言い出すかと思えばっ…!!
「貴様っ…!!」
「淳くんっ!!」
また立ち上がるのを止められる。ただ、もう黙ってられない。相手はにやにやしてるが、知ったことか!
「なんで止めるんすか!!こんだけ言われて…!」
「仕方ないの、去年までうちの部、実績も無かったんだから」
「だけど!!会長風情にこんなに言われる道理も無いでしょう!?」
「…私たちの部の紹介、覚えてる?」
「…はい?」
「『何事にも挑戦しませんか?』…私は、これが宣戦布告だと思ってるの」
桜先輩の目には覚悟が見えた。とても強く、でも…
「葵、私は見せつけてあげます。私たちが作ってきた絆を」
「…絆!?友情ごっこの間違いだろう!?貴様らの友情ごっこなんか見せられても吐き気がするだけだわ!」
三笠は桜先輩の言葉を罵る。…会議の時とは、全くイメージが違う。こいつは最悪な人間だ
「ふん、結局馬鹿の脳みそは腐れたままのようね。そのまま部を潰される様を黙って迎えなさい!」
そういい、三笠は会議室を後にする。部屋に残ったのは俺と桜先輩だけになった
「…変わらないなぁ、葵…」
「桜先輩、部が潰されるって…何の話っすか」
「ん?いやぁね、アタシ達の部、毎年実績という実績がないからぁ、今年何か目に見えるものを作らなきゃ廃部にされちゃうんだぁ」
「なんでそれを皆に言わないんすか」
「それ言っちゃったら、皆楽しく遊べなくなっちゃうじゃない?私、そういうのはいやだなぁ…?」
「…気持ちは分からなくもないっすけど」
すると桜先輩が俯いてしまった。…肩が、震えてる?
「…桜先輩?」
「…私たちには…絆…あるよねぇ…?」
桜先輩は耐えて、いつもの笑顔を作っていた。ただ、それはあまりにも悲しすぎる笑顔だ。桜先輩は、無理をしてる
「…皆の…輪を馬鹿にされても…私が我慢して…皆が笑えたらそれで幸せ…」
「桜先輩、それは絆じゃないっす」
俺は決めた。…今の桜先輩はショー部の仮面を被って、悔しさから目をそらしてる。でもそれじゃあいつまでもうちの部は表だけの部になる。…俺は、そんな部にいたつもりはない
「桜先輩、無理しないで下さい。部には桜先輩が好きな時雨先輩、阿見津先輩、風、憐香、そして俺も居ます。…悔しかったら悔しいって言うんです。隠すのは必ずしも優しさじゃないんす。…先輩がさっき言った絆は、そんなに薄いものじゃないはずっす」
俺は桜先輩になんとか伝えた。すると桜先輩の目に、涙が溢れ、嗚咽をしだした。…多分、今までにもあったんだ、こういう感じで言われることが。でもその度に桜先輩は我慢して、俺らを守ってくれてたんだ。…でも、もう終わりだ。今度からは皆で頑張るんだ
「…ごめん…淳…君…みんな…私…私……」
「桜先輩、先輩は悪くないんす。ただ、今までは皆さんにうちの部を理解するまでには至らなかっただけっす。だったら今回の学祭で見せてやりましょう、ショー部を!」
「…うん…うん…」
「…先輩、胸…貸しますか?」
「……うん…ごめんね…」
そして桜先輩が座っていた椅子を俺に近づけ、俺に身体を預けてきた。はたから見たらとんでもないんだろうが、やましい気持ちなんかない。桜先輩はそのまま俺の胸で泣いていた。今まで耐えてたものが溢れだしていた。俺はそれをただただ、包む事しか出来なかった…
今日分かったことは、桜先輩は、俺が思っていた以上に友達想いで、でも、脆くて、脆いからマイペースを演じてて…つらい人だと言うことだ
こうなったら…学祭を成功させて、あの三笠って奴を黙らせてやる…!
こっから『ショー部式学祭編』!!