お見舞い
「…よいしょっと」
桜先輩と別れ、俺はまっすぐに風の家に向かってきた。…実は、幼馴染みなのだが風の家に来るのは1年振りだったりする。まぁ、お互い思春期でしたしね?
「…」
夕暮れの中風の家にたどり着き、チャイムを押す。少しの間の後、足音と共にドアが開く。…出てきたのは風の父親だ
「はい。…おや、君は…」
風の父親は俺を見るなり目を丸くしていた。それもそうだろ、1年も来てなかったら、さすがに驚くよな
「お久しぶりです、おじさん」
俺はできる限りの笑顔で返す。すると風の父親は少し笑いながら、頭を撫でてきた
「少し見ない間に大きくなったな、淳君。元気にしてたか?」
「はい、お陰さまで…」
「風に用事か?」
相手はすぐに俺の今日来た理由を察知してくれた。…と言うのも、昔はよく風の家に来て風と二人で遊んでたんだ。もう、昔の話だけどな
「上がりなさい。風は二階に居るから」
そういい、敷居を跨ぐ俺。…1年前と全く変わらない家だな、ここ。それに比べれば、俺は…
そのまま促されるように風の部屋にたどり着く。父親が
「淳君が来たぞ」
とドア越しに言うと
「入れて!」
と声が返ってきた
「じゃ、入りなさい」
だが風の父親は俺を置いて階段を降りていってしまった。…え?
とりあえず考えるのもそこまでにし、ドアを開ける。すると白いベッドの上で体育座りする風が部屋の隅に見えた。今日は出歩かなかったのだろう、上下白いジャージで、髪はぼさぼさだった
「…あっつん、何で来たの?」
「これを、先生に頼まれてな。…ここに置いとくぞ」
俺は鞄から出したプリントを机の上に置く。そして再び風に視線を移すと、何やら風の様子がおかしかった。肩が震え、俯く風。…泣いてる?
「お、おい。風?」
「…あっつん、顔、怪我してる…」
「あ、あぁ…これか?別に大したことは…」
「大したことあるっ!!」
「なっ!?」
いきなり泣きながら怒鳴る風。な、なんなんだ一体…?
「…私と実季ちゃんがあそこに居なきゃ、こんな事にはならなかったんだもん…」
「…たらればの話は無駄なだけだ、風」
「でも…!」
「起きたことは変わらないんだ、風」
…俺、何言ってんだろう。なんでこんなに冷めた発言しか出来ないんだろう…
俺の言葉に黙る風。この空間に音が消える。…この沈黙、きついな…
だが、その静寂をすぐに風は吹っ飛ばした
「…でも、元気そうで良かった」
風のこの言葉で、俺は自分の言葉がいかに冷たかったのか、さらに気付かされた。…あれから、俺はかわっちまったんだな
「…風もな。明日は学校に来るのか?」
「明日は土曜だよ、あっつん!」
「あ…そうか、休みか。だとすると次は月曜か?」
「そうだね?その時は部活にも行くから!」
「…またお前らに付き合わなきゃなんねーのかよ?」
「仕方ないでしょ!!だって、あっつんなんだから!」
「理由になってねーからな!?」
そんなこんなで、今日は風の元気な姿が見れた。…後は実季、か。…よくも悪くも同じクラスだ。彼女は元気なんだろうか…?




