勝負!!ラスト…バレンタイン・バトル
「…」
とある日の放課後、俺は部室に一人で居る。目の前にあるテーブルには6つ分のチョコレートがあった。…今日は、ショー部の来年度の部長、阿見津先輩と今年度の部長、桜先輩の共同企画だ。…このチョコレートに、うちの部の女子メンバーとのデート権がかかっている。…正直、今回の勝負には気が引けた
「…自分達の気持ちは、ないがしろかよ…全く、今回の無茶は正直納得し難いよな…」
俺は、悩んでいた。…バレンタインのチョコレートというのは、好きな人に渡すもの…今回の提案を鵜呑みにするならば、皆は俺の事が好きだって事になるんだが…そんなハーレム構想が現実であるわけがない。…トラップだな
「…中に、わさびか…?」
以前、ロシアンたこ焼きでは中にわさびを入れたたこ焼きを作ってた経緯がある。もしや今回もそんな感じではないかと、頭によぎる…
「…」
「ご到着の様ですね」
「!!?」
いきなり後ろから声をかけられ振り向くと、そこには奏夢さんがいた。…い、いつの間に…
「淳様、その様子だと戸惑ってる様ですね?」
「そりゃあ…当たり前じゃないっすか。今までロクにチョコレートは貰ったこと無いですし…第一、この勝負で誰が得するんすか」
「…はぁ。やはり淳様は鈍いんですね」
奏夢さんは呆れたようにため息をつき、俺に向かって真顔で答えた
「分かりませんか?彼女たちの本気を。彼女達は貴方のために、そして自分自身のために、このチョコレートを作ったんですよ。…あなたはそれに気付く義務がある。そして…」
さらに言葉を繋げようとしたが、奏夢さんはそこで言葉を止めた
「…そして、なんすか?」
「これ以上は私が言う事じゃ無いです。…では」
そういい、奏夢さんは部屋を出ていってしまった。…奏夢さんが言おうとしてたこと、なんなんだ…?
…ただ、確かに奏夢さんの言う通りだ。彼女達は、間違いなく本気だ。勝負と言うくらいなんだから…
「…よし」
俺は決心して、左側の箱に入ってるチョコレートから取り出す。…星形の、チョコクッキーか。…うん、無難な味だ
「…」
二つ目の箱を開ける。中には…柿の種?をチョコレートが包んでる。…中々のインパクトだな。でも意外とマッチしてる
「…」
続いて三つ目。中身は…ショコラケーキだ。…これは、随分手が込んでるなぁ…、頑張ってるんだな…
「…っ…」
四つ目。…これは、多分市販の奴だ。形がよすぎる。味もなんか知ってる。…ただ、こういうのも味がある
「…」
五つ目。中にはチョコボールが入ってる。ただ、これは市販品の様な形じゃない。…手作りで、この出来か。さすがだ
「…!?」
そして最後、6つ目。その箱の中には…ハート型の手より少し大きめのチョコレートが入っていた。ただ、真ん中から割れてて少し…どころじゃないくらい縁起が悪いが…
「…皆、ズルいっす。こんなに真剣な勝負の勝者を決めるのが、俺なんて…正直、荷が重すぎるっす」
自分の口から出た本音、それは今まで感じたことが無い気持ちから現れる物だった。…正直、誰か一人を選ぶなんて俺には無理だ。俺にとっては、皆が大事…
「…皆が、大事?」
…違う、今回の勝負の意図は、多分そこじゃない。勝負内容の発表の時、皆の目は本気だった。…
「…だとすると、俺も男として答えを出すしか無い、か」
俺は、一つ一つ、特徴があるチョコレートを頬張っていく。甘い奴、苦い奴、ナッツの奴、普通な奴、しょっぱい奴、少し辛い奴…これだけ個性があっても、なんか、俺に感じ取れた物は同じだった
「…はぁ…なんでまた、皆がいっぺんに…。こんなハーレム的なの、現実的じゃ無さすぎて正直困るな…」
…皆の本気、確かに受け取ったっす
そして…俺は規則通り(今回、俺はこの人のがいいと思ったチョコレートの箱に前回夏休みの合宿で貰ったデート券をはさむことになっている)箱の中に入れ、部屋を後にした。…ちょっと、チョコレート食い過ぎたかな…