時雨の直球
…あれから、1ヶ月が経った。カレンダーは12月、もうそろそろ今年は終わり。…ただ、おれは今そんな事を考えてはいなかった
「…」
あの事故が起きてから、おれは学校に行ってなかった。…罪悪感を感じているわけじゃないけど…怖かった
「…昼飯、作るか…」
とりあえず小腹が空いたから、作りおきの炒飯を冷蔵庫から取りだし、食べる。…俺は…何をしたいんだろうな…
そして食事も済ませ、再び部屋に戻ろうとしたとき、不意に家のインターホンがなった。…誰だ、こんな時間に…
「…はーい」
そして玄関のドアを開けると…
「よ!!」
「…時雨先輩…」
やって来たのは時雨先輩だった。…制服って事は、学校帰りか
「今日は3年は早く終わったんだ♪…今暇か?」
「…まぁ、暇っすけど」
「じゃ、これどうだ?」
そういい時雨先輩は箱を差し出してくる。…ケーキ?
「と、いうより、上がるけどな」
「は、はぁ…」
とりあえず断る理由がないから時雨先輩を家にあげる。そのまま時雨先輩はテーブルの上でケーキを取り分けてくれた
「さ、食おうぜ!!ウチの自慢のショートケーキだ!」
「…」
「…河内、何を考えてる?」
時雨先輩が怪訝そうな顔で俺の顔を見る。…やっぱり、隠せないか…
「…」
「学校に来なければ部活にも顔を見せないと思えば…全く、女々しいったら無いな?」
「…面目ない」
「そこで謝るなよぃ!!」
「…」
「はぁ…何が河内をそうさせるかは分かってるさ、アタシもそんな事あったら、塞ぎ込むだろうし」
「…だったら、そっとしておいてくれないっすか、俺は…」
「アンタがカオルに何をした?」
急に時雨先輩の語尾が強まる。表情は固く、泣きそうな気がした。声も、心なしか震えている
「カオルは勝手にひかれて、勝手に怪我した、その過程の中にアンタの責任が発生する場合は無いはずだ」
「…ですけど」
「…あーもーっ!!やっぱりあれをするしかないっ!!」
時雨先輩は何やらしびれをきらしたらしく、鞄の中から野球用のグローブとボールを取りだし、グローブを俺に渡す
「さぁ、外へ出ろ!!河内!言葉じゃ伝わらないからボールに込めてやっからさ!!」
「…は、はぁ」
とりあえず時雨先輩に促されるままに外に出る。そして適度な距離まで時雨先輩が離れ、ボールを投げてきた。…そのボールは胸元に構えていたグローブにビシッと収まる
「アタシは難しいことは苦手だ!だから、こういうほうが解決しやすいんだ!」
「そうっす、かっ」
それを俺は投げ返す。これが何回か繰り返される
「だからな…あんまし難しく考えんなよっ!!」
「別に…難しくなんか考えて…ないっすっ」
「いーや、考えてるな!!河内が責任感が強すぎるんだっ!!」
「買い被りすぎっす。俺はそんなに出来た人間じゃないっすよっ」
そして俺が投げたボールを時雨先輩が受け止めると、動きを止めた
「…いや、アンタは出来た人間だよ。他の皆と比べて、まともだ」
「…だから、ちが…」
「元気を出しな、河内。カオルはもうすぐ帰ってくるからな」
「…は?」
今、何と?
「だから、カオルの怪我はそこまで酷くなかったからな。意識がなかったのは脳震盪だ」
「…そうっすか…」
「河内が悪いんだぞ?あん時勝手に帰るから」
「…も、申し訳ない…」
「少しは元気が出たみたいだな?じゃ、アタシ帰るわ」
「は?へ?」
そして時雨先輩はそのまま勝手に帰ってしまった。…ま、いいか…
「…俺が沈んでも仕方ないか」
…ありがとう、時雨先輩